品川駅は新幹線停車駅・リニアの起点予定駅であり、羽田空港へつながる広域交通結節点
現在、東京都の品川駅周辺では大規模な再開発計画が進行中だ。品川駅は都内屈指のターミナル駅の一つで、1872(明治5)年に開業した歴史ある駅でもある。東海道新幹線の停車駅であり、JR東日本の東海道本線・山手線・京浜東北線・横須賀線、さらに京浜急行(京急)本線と多数の路線が乗り入れている。また京急本線は東京の空の玄関口・羽田空港へ直結する。
加えて品川駅は、開業に向けて工事が進んでいる「リニア中央新幹線」の起点駅となる予定だ。そのため品川駅は陸と空を結ぶ「広域交通結節点」となる。品川駅のある港区では、品川駅周辺地域のポテンシャルを生かし、魅力ある拠点地域となるよう2014年に「まちづくりガイドライン2014」を策定。2020年には同ガイドラインを改訂した「品川駅・田町駅周辺まちづくりガイドライン2020」を発表した。
港区は品川駅周辺を「品川駅街区地区」「品川駅西口地区」「品川駅北周辺地区」の3つの地区に分けて街づくり計画をしている。また前述のように2020年に改訂されたガイドラインでは、品川駅周辺に加えて田町駅周辺も計画に加わった。品川駅から新たに設置された高輪ゲートウェイ駅、さらに泉岳寺駅・三田駅・田町駅におよぶ広大な再開発が進行する。
※参考:
品川駅周辺のまちづくりについて|港区ホームページ
https://www.city.minato.tokyo.jp/shinagawaekimachizukuritan/20220901.html
東京都都市整備局
https://www.toshiseibi.metro.tokyo.lg.jp/seisaku/guideline2020/index.html
ちなみに品川駅があるのは、品川区ではなく港区である。開業当時、かつて東海道の宿場だった品川宿(現 品川区内)の最寄り駅だったことが理由のようだ。現在、品川駅の南側には京浜急行の「北品川駅」がある。こちらは品川区内となるが、品川宿のすぐ北側という意味の駅名だ。しかし歴史的な経緯を知らない人が多いと思うので、品川駅があるのは港区だったり、品川駅の南に北品川駅があったりするのは非常にややこしい。
ターミナル駅らしい利便性と都市機能の集積を目指した「品川駅街区地区」
品川駅街区地区は、品川駅を核としたエリア。港区では品川駅街区地区の街づくりの目標として「世界とつながり新たな価値を創造・発信する『えきまち』を形成する」ことを掲げる。また取り組みの3つの方針も設定。一つめの方針は「都市基盤」として「えきとまちをつなぐ一体的な都市基盤整備」としている。二つめの方針は「導入機能」として、「国際交流拠点にふさわしい都市機能」を掲げる。三つめの方針としては「環境防災」で、「防災機能強化と先導的な環境都市」と設定している。
具体的には、おもに以下のような計画がある。
● 線路上空を有効活用した歩行者通路
● 線路上空を有効活用した広場
● 上記のような都市基盤と建築物の一体的な整備
上記に基づき、新たに9の通路と9の広場・回遊空間が駅構内に新設される。
さらに品川駅街区地区には、新たに3棟の複合ビルが建設される予定だ。「北街区」「南街区 a(南-a)」「南街区 b(南-b)」とそれぞれ仮称されている。
北街区は地上28階・地下3階建てで、高さ約150m。延べ面積は約165,000m2で、事務所・店舗・駅施設・駐車場などに利用される予定。南-aは地上28階・地下2階建てで、高さ約150m。延べ面積は約201,000m2で、事務所・店舗・宿泊施設・集会所・駅施設・駐車場がおもな用途だ。また南-bは少し小さく、地上9階・地下1階で、高さが約47m。延べ面積は約8,300m2で、事務所・店舗・駐車場などに利用される予定となっている。
これらの整備は、周辺地区と連携して品川駅全体の国際競争力の向上を目指すのが目的だ。さらに駅前の店舗や既存商店街との共存・相乗効果を図りつつ、周辺住民や駅利用者等の生活を支援する利便性の向上を目指している。
※参考
品川駅周辺地区の街づくりについて(品川駅街区地区)|港区ホームページ(PDF)
https://www.city.minato.tokyo.jp/shinagawaekimachizukuritan/documents/ekigaikugaiyou.pdf
交通基盤上の問題の解消を目指す「品川駅西口地区」
「品川駅西口地区」は文字どおり品川駅の西側一帯をエリアとする。国道15号線(放射第9号線)・環状第4号線・補助線街路14号線に囲まれた範囲で、面積は約14.7ha。交通利便性の高い場所だ。
品川駅西口ではバス乗降場の利便性の低さや、都市計画道路の未整備、歩行者ネットワークが脆弱だといった交通基盤上の問題を抱えていた。また近くには「区立高輪の森公園」などの自然豊かな場所があるにもかかわらず、視認性が悪いうえ、周辺との回遊性が低くアクセスしにくいという課題もある。さらに現在、西口周辺には旧耐震の建造物が多く、防災上の問題も抱える。
そのため西口地区の再開発では、都市機能の強化や環境への配慮・防災性の向上を目的としている。
品川駅西口地区は長方形の区画であり、区画内をA・B・C-1・C-2・Dの5地区に区分。A地区とC-1・C-2地区には複合ビルを建設する予定だ。A地区のビルは地上29階・地下4階建てで、高さ約155m。延べ面積が約313,100m2あり、事務所・店舗・宿泊施設・MICE(カンファレンス・多目的ホール)などに利用される。C-1地区は地上30階・地下3階建てで、高さは約155mになる。延べ面積は約194,000m2で、事務所・店舗・住居・産業支援施設が入る。C-2地区では地上1階の約10mのビルが建ち、延べ面積約170m2、集会場に利用される予定だ。
なお現在B地区には区立高輪の森公園がある。同公園は西口地区のほぼ中央にあたる。ほかにB地区には税務署や大型ホテルなどが立地する。さらにD地区には食品企業の施設がある。
また品川駅西口からA地区のあいだには国道15号線が走る。そこで西口からA地区まで国道上空をデッキでつなぎ、品川駅からの人の流れをダイレクトに西口地区内に引きこむ。また西口地区の区画内には、歩行者専用通路も設置され、回遊性の向上を図る。
※参考
品川駅西口地区の街づくりについて|港区ホームページ(PDF)
https://www.city.minato.tokyo.jp/shinagawaekimachizukuritan/documents/shinagawaekinishiguchi.pdf
広大な土地を活用した都市基盤整備が進む「品川駅北周辺地区」
「品川駅北周辺地区」は品川駅の北側の線路沿い・国道15号線沿いを、南北に細長く広がるエリアだ。高輪ゲートウェイ駅や都営浅草線、京急の泉岳寺駅も範囲に含まれている。もともとここにはJR東日本の車両基地があり、その跡地を活用して再開発が行われている。面積は約18ha。
高輪ゲートウェイ駅は、品川駅北周辺地区の再開発によって設置された新駅。まだ同地区の再開発は工事中の段階であるが、2020年に工事の竣工に先行して開業した。
品川駅北周辺地区は、北側から1・2・3・4-1・4-2・4-3・5・6の8街区に分けて再開発を実施。このうち4-2街区は広場、4-3街区は高輪ゲートウェイ駅を東西に結ぶ連絡通路となる予定だ。また5街区・6街区は「将来整備」とされている(2024年6月時点)。
1・2・3・4-1街区にはそれぞれ複合ビルが建設され、それぞれ隣接するビルとデッキで連絡される予定だ。1街区に建つビルは高さ約173mで、住居や教育施設等に利用される。2街区では高さ45mのビルが建ち、文化創造施設などになるという。3街区は泉岳寺駅の最寄りとなり、高さが約167mになる予定。事務所や店舗・生活支援施設・熱源機械室などが設置される見込みだ。4-1街区は高輪ゲートウェイ駅の西口の目の前。西口を挟んで左右に南棟・北棟の2棟が並び立つツインタワーを予定している。用途は事務所・店舗・宿泊施設・コンベンション・カンファレンス・ビジネス支援施設などだ。すべてのビルを合わせた延べ面積は、約851,000m2におよぶ。
なお再開発工事にあたり、区画内より明治初期に造られた日本初の鉄道の遺構である「高輪築堤」跡が発掘された。そのため港区では、再開発計画を変更。歴史遺産の保存と、史跡を生かした国際交流拠点・街づくりを進めることとなった。ちなみに高輪築堤跡は「旧新橋停車場跡及び高輪築堤跡」として国の史跡に指定されている。
※参考
品川駅周辺地区(区域1~4)の街づくりについて|港区ホームページ(PDF)
https://www.city.minato.tokyo.jp/shinagawaekimachizukuritan/documents/shinagawaekikitasyuhen.pdf
高輪築堤跡 | 港区立郷土歴史館
https://www.minato-rekishi.com/muse/tikutei.html
さらなる利便性向上を目指す「田町駅周辺地区」
港区の品川駅周辺再開発計画は、品川駅のおよそ2km北にある田町駅前にもおよぶ。再開発計画により「高輪ゲートウェイ駅」が設置されるまでは、田町駅は品川駅の一つ隣の駅だった。現在は高輪ゲートウェイ駅を挟んで、二つ隣の駅になっている。また田町駅は、都営浅草線・三田線 三田駅とも隣接する。
田町駅の東口側では、2007年に「田町駅東口北地区街づくりビジョン」を制定し、一足早く再開発計画が進む。2024年現在、田町駅東口北地区に「田町ステーションタワー S」「田町ステーションタワー N」「プルマン東京田町」「みなとパーク芝浦」といった複合ビルが立ち並んでいる。さらにこのエリアには、芝浦公園や利用施設、区立小学校・区立保育園なども立地する。
田町駅の西口地区でも再開発計画が進行中だ。西口の北側には2023年に複合ビル「田町タワー」が開業。さらに現在「森永プラザビル」を解体工事中で、跡地へ新たに複合ビルが建設される。新しいビルは地上23階・地下2階建てで、高さ約125m。延べ面積は約98,600m2で、事務所・店舗・産業支援施設・駐車場などの用途を見込む。ビルの完成は2028年、全体の竣工は2033年になる予定だ。
このほかにも田町駅では、交通広場の整備、交差点改良等による交通結節機能の強化、駅構内の東西自由通路の拡幅、駅前デッキ広場の整備、地下鉄バリアフリー動線の確保といった計画がある。
※参考
田町駅東口北地区の街づくりに関わる計画等|港区ホームページ
https://www.city.minato.tokyo.jp/tokuteijigyou/kankyo-machi/t-machizukuri/kekaku.html
都市再生特別地区(田町駅西口駅前地区) 都市計画(素案)|地方創生推進事務局(PDF)
https://www.chisou.go.jp/tiiki/kokusentoc/tokyoken/tokyotoshisaisei/dai26/siryou4.pdf
京急品川駅の地平化の計画も
これまで紹介したもの以外にも、JR品川駅に併設されている京急品川駅の地平化の計画もある。これは東京都が事業主体となり港区・品川区・京浜急行電鉄株式会社が連携して取り組む、京急本線 泉岳寺駅から新馬場駅までの約1.7kmの区間における、道路と鉄道の連続的立体交差化事業の一部だ。
※参考
京浜急行本線(泉岳寺駅~新馬場駅間)連続立体交差事業 | 京浜急行電鉄
https://www.keikyu.co.jp/shinagawarittaikousa/index.html
リニア中央新幹線は国の交通体系を変えるかもしれない一大事業である。そのため品川駅周辺で進行している再開発計画は大規模なものになっており、その期待の大きさを感じる。日本屈指の歴史ある駅であり、屈指のターミナル駅のひとつである品川駅。品川駅の新しい姿や、交通結節点としての在り方を楽しみに待ちたい。
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