建物への被害が甚大であった能登半島地震

1月1日に発生した能登半島地震は、多くの人々に甚大な被害を与えた。建物が受けた被害は、全壊8,536棟(新潟103、富山238、石川8,195)、半壊19,015棟(新潟2,950、富山 711、石川15,342、福井12)と発表されている。(参考:国土交通省「令和6年能登半島地震における被害と対応について(第93報)令和6年4月19日」)

これだけの建物に被害が及んだのは、木造家屋に大きなダメージを与える周期1~2秒の揺れが強かったことが理由の1つとされており、揺れは阪神・淡路大震災に匹敵するのだそうだ。また、珠洲市や穴水町では、2020年頃から続いている地震の影響により、地震に耐えられる力が低下していたことで、建物に大きな被害が出たといわれている。

短い周期の地震動と長周期地震動の違い(出典:気象庁「長周期地震動とは?」)短い周期の地震動と長周期地震動の違い(出典:気象庁「長周期地震動とは?」)

今こそ知っておきたい「耐震」「制震」「免震」の違い

日本に住んでいる限り地震における被害からは逃れられないが、少しでも被害を軽減させるためにも、改めて住宅の地震対応について知っておくことが重要である。

建物の地震への対応構造は大きく「耐震」「制震」「免震」に分かれる。

●耐震
耐震とは、建物の強度と粘りを高めて地震に耐えようとする構造だ。壁に筋交いを入れたり、梁の間につっかえ棒の役割である補強材を入れたりして、強度や粘りを高めていく。耐震構造は最も一般的で、一戸建てやマンション、ビルなど広く採用されている。

耐震の主なメリットは以下が挙げられる。

・費用を抑えて耐震工事を行える
・工期が短い
・比較的自由に設計を行える

耐震の大きなメリットは、制震と免震に比べて低コストで地震対策を行える点である。さらに、工事後のメンテナンスが不要なことも、耐震が日本で広く採用されている理由といえるだろう。

一方、耐震のデメリットは以下のとおりだ。

・上階ほど揺れが大きい
・繰り返しの揺れに弱い

特に繰り返しの揺れに弱い点に注目してほしい。北陸地方では2020年頃から地震活動が活発になり、それまで被害が出ていなかった住宅も能登半島地震で大きく損壊してしまった。普段の生活ではあまり気にならないが、住宅にはダメージが蓄積されることを理解する必要があるだろう。

●制震
制震は、建物内で揺れを制御する構造である。制震工事は、揺れを軽減させるダンパーなどの装置を、柱や梁の間に取り付ける形で行われる。地震による揺れを、ダンパーなどの装置が熱エネルギーに変換させて、空気中に放出する仕組みだ。

制震のメリットには以下が挙げられる。

・繰り返しの揺れに強い
・メンテナンスは比較的楽である
・台風などの揺れにも強い

制震による地震対応を行えば、地震が起きた後もダンパーの取り替えやメンテンスが必要ないため、繰り返しの地震にも備えられる。また、上階の揺れが軽減される点や台風などの強風にも強いことも制震のメリットである。

ただし、制震は以下のデメリットに気をつけなければいけない。

・耐震に比べるとコストが割高である
・装置によっては定期的なメンテンスが必要である

制震装置であるダンパーの中には、定期的にメンテナンスを行わなければいけない種類がある。ゴムダンパーは気温の変化による劣化の点検、オイルダンパーはオイル漏れが起きていないかの点検が必要だ。一方、鋼材ダンパーなど定期メンテナンスが不要なダンパーもある。

 ●免震
免震は、建物と地盤の間に免震装置を設置することで、地震の揺れを建物に伝わりにくくする構造だ。免震装置には、ダンパーやゴム状のアイソレータなどがあり、3つの地震対策の中で最も揺れに強いことが特徴である。

免震の主なメリットは以下のとおりだ。

・地震の揺れを最も軽減できる
・柱や梁などの損傷を抑えられる

免震は地震の衝撃を大幅に軽減し、揺れを極力伝わらせない構造である。そのため、地震対策の中で被害が最も出にくく、家具の転倒や落下などを防ぐことができる。

しかし、免震は以下の点がデメリットといえる。

・コストが最もかかる
・建物敷地の周辺にスペースが必要である。

免震は工事のコストが高く、施工会社も限られている。定期的な点検やメンテナンスも必要なため、ランニングコストがかかることも特徴だ。さらに、施工のために敷地に多少のゆとりが必要な点も覚えておこう。

地震対応構造にはそれぞれに特徴があるため、地域や建物、かけられるコストによって選ぶ必要がある。しかし、制震・免震はコストが高く住宅への導入のハードルはまだまだ高いといえる。地震対策を多くの住宅が導入し、防災対策が進展する社会システムを構築していくことが重要ではないだろうか。

建物の地震への対応構造は大きく「耐震」「制震」「免震」に分かれる。これらの違いと最新の住宅の地震対応、京都市の耐震改修補助事業について紹介をしていく。木造住宅の耐震金物

今注目を集める最新の住宅の地震対応とは

地震大国日本では、地震に備えた技術が日々アップデートされている。その中でも、今回は2つの最新地震への対応を紹介しよう。

●超制震住宅
従来の地震対策である制震をさらに強化したのが「超制震住宅」である。超制震住宅は、これまでの制震構造に加えて「制震テープ」を住宅の構造体に挟み込み、地震エネルギーを吸収することで地震に強くなる構造だ。

制震テープは、元々高層ビルの制震装置として用いられていた粘弾性体を、木造住宅用として両面テープ状に加工したもの。高層ビルでは、鋼板の隙間に直接粘弾性体を注入し制震装置として使用したが、住宅用には不向きとされていた。

しかし、両面テープ状に加工した粘弾性体を軸材と面材に挟む形に改良した結果、施工のしやすさが向上し、高い制震性を保ったまま住宅に対応できるようになったのだ。

制震テープで施工した超制震住宅の特徴は、繰り返しの地震に強いという点だ。制震ダンパーのように数カ所に設置する制震装置ではなく、制震テープは建物全体に貼られるため、偏りのない耐力を発揮するのである。さらに、制震テープは構造体の内部に挟み込まれるため、直射日光や大気にさらされることがなく、実験によると110年以上の間粘着強度が安定することが実証されている。

今後想定される大規模地震(出典:内閣府「防災情報のページ 地震災害」)今後想定される大規模地震(出典:内閣府「防災情報のページ 地震災害」)

●エアー断震システム
エアー断震システムは、地震が発生したときに建物を空気の力で浮かせて、建物に伝わる地震の揺れを軽減するシステムである。エアー断震システムを採用することにより、地震の揺れを30分の1に低減できるとされている。

エアー断震システムは、地震を感知すると改良地盤と基礎の間に空気が送り込まれ、住宅が浮上し揺れを伝えさせない原理で作動する。センサーが地震を感知すると0.1〜1秒で浮上開始し、約2cmの空気層ができ建物が浮上するのである。その後、1分半〜3分かけて空気が抜けて建物が元の位置に戻るのだ。

大規模地震が起きると停電が発生する可能性が高まるが、エアー断震システムは停電時でも作動する。地震の感知や空気を送り込む作業は内蔵バッテリーで作動するため停電時でも安心だ。さらに、タンクには複数回の地震に対応するだけの圧縮空気を貯めており、繰り返し起きる余震にも備えられる。

住宅自体を浮かせて地震から守るというエアー断震システムは、多くのメディアでも取り上げられており、今注目の地震への対応策と言えるだろう。

古い木造住宅が多く存在する京都市の耐震改修補助事業「まちの匠・ぷらす」を紹介

古い木造の住宅や町家が多く残る京都市では、令和6年4月18日より「まちの匠・ぷらす」という制度が始まった。この制度は、京都市内にある築年数が古い木造住宅や京町家の耐震改修工事を行う際に、補助金を受けられる制度である。

補助金を受けられる対象と補助額は以下のとおりである。

●対象の住宅
【木造住宅】
・昭和56年(1981年)5月31日以前に着工
・3階建て以下かつ在来工法または枠組壁工法で建てられたもの
 
【京町家】
・昭和25年(1950年)11月22日以前に着工
・2階建て以下かつ伝統構法で建てられたもの
 
●補助額
①補助対象工事費用の5分の4
②補助限度額
※①、②のいずれか少ない方の額が補助金額となる。

【本格耐震改修】
・京町家:最大300万円(従前制度比2.5倍)
・木造住宅:最大200万円(従前制度比2倍)
 
【簡易耐震改修】
・京町家:最大60万円
・木造住宅:最大40万円 

本格改修は、一定以上の耐震基準に適合させるための改修のことで、耐震性能によって補助額が決まる。簡易改修は、屋根の軽量化や基礎の劣化修繕などを組み合わせることで補助金額が変わる改修を指す。

「まちの匠・ぷらす」は細い路地が多く、木造住宅が密集しているエリアが多い京都市において、安全で災害に強い都市を目指すための支援事業だ。京都市では、令和3年まで耐震改修補助事業が行われていたが、令和4・5年は休止されていた。

しかし、令和6年に再開され従前制度より補助額が増加したことで、多くの申し込みが予想されている。予算に達し次第終了するため、検討している方は早めの申し込みをおすすめする。

改修内容によって補助額が変わる(出典:京都市「まちの匠・ぷらすリーフレット」)改修内容によって補助額が変わる(出典:京都市「まちの匠・ぷらすリーフレット」)

さらに京都市では、令和6年4月8日から京都市が登録する耐震診断士を無料で派遣する取り組みを行っている。住宅の診断後は、診断結果に基づき、耐震改修に向けたアドバイスや情報を提供してもらうことができる。

また、補強計画案や工事費の概算見積もりも受け取れるため、耐震改修を検討している人にとってはありがたい制度だ。ただし、この制度を利用できるのは「まちの匠・ぷらす」と同じ条件を満たした住宅で、築年数が浅い住宅には適用されないため注意が必要だ。1月に発生した能登半島地震を受けて申し込みが殺到しているとのことで、京都市民の耐震への関心の高まりがうかがえる。


これから日本で生活していく上で地震対策は必須と言えるだろう。将来起こりうる大規模な地震に備えて、住宅の地震対応策に対する意識を日々アップデートすることが重要だ。

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