「関東の奥座敷」として隆盛を極めた町が廃墟同然に。オープンハウスが再生に名乗り

みなかみ町の中央を利根川が流れ、周辺には18の温泉地が点在。 雄大な自然に抱かれ、2017年にはユネスコエコパークに認定された。みなかみ町へは上越新幹線を利用して、東京駅〜上毛高原駅まで最速62分。上毛高原駅から水上駅までバスで約20分。都内から関越自動車道を利用した場合、東京練馬IC〜月夜野ICまで約1時間30分、東京練馬IC〜水上ICまで約1時間40分。みなかみ町の中央を利根川が流れ、周辺には18の温泉地が点在。 雄大な自然に抱かれ、2017年にはユネスコエコパークに認定された。みなかみ町へは上越新幹線を利用して、東京駅〜上毛高原駅まで最速62分。上毛高原駅から水上駅までバスで約20分。都内から関越自動車道を利用した場合、東京練馬IC〜月夜野ICまで約1時間30分、東京練馬IC〜水上ICまで約1時間40分。

関東の北部、谷川岳・三国山の麓、利根川の源流域であり「関東の水瓶」と称される自然と温泉が豊かで風光明媚なみなかみ町。群馬県最北、新潟県との県境に位置する人口17,760人(2022年9月1日現在)が暮らす町だ。

かつては首都圏からも近く「関東の奥座敷」として栄えた温泉地であり、また良質の雪を求めて訪れるスキー客など多くの観光客で賑わいを見せたみなかみ町。しかし近年は少子高齢化に加え、バブル崩壊や個人旅行ニーズの高まりなどにより客足が遠のき、多くの宿泊施設などが廃業に追い込まれて廃墟のような街並みが広がるなど、町の再生が急務となっている。

そのみなかみ町の再生に手を挙げ、取り組んでいるのが、都心部での一戸建て住宅の販売を中心に、マンション開発、金融事業など幅広い事業を展開するオープンハウスグループだ。
今回、温泉街の再生やスキー場の事業承継を進める株式会社オープンハウスグループ 事業開発部長の横瀬寛隆さんに、なぜみなかみ町だったのか、どのような取り組みを行っているのかなどを取材した。

都心から2時間圏内。インフラも整備されポテンシャルの高いみなかみ町に着目

戦後隆盛を極めたものの衰退する温泉街が全国に数ある中、なぜ群馬県・みなかみ町に着目したのかを横瀬さんにお聞きした。
「私たちは都心をメインに活動している会社ですが、近年時代の流れとして余暇が増えてきたこともあり、人の流れが見込まれる地方でも何かビジネスができないかということを5~6年前から模索していました。
その中で着目したのが、みなかみ町です。理由としては、新幹線や高速道路などインフラが整備され都心からのアクセスが良いこと、地盤が強固なため地震による災害が少ないことなどです。町にダムが7つあるのもその理由でしょう。都心から2時間圏内で調べてみたところ、箱根、熱海、河口湖、軽井沢、那須などの観光地がありますが、似たような地理条件の割にみなかみ町はほかの町と比べて認知度が低く、かつ地価もかなりリーズナブルなんです」

そこでオープンハウスグループは2021年春、群馬銀行を通じ、みなかみ町から状況をヒアリングし、廃墟再生の検討を開始。9月には、みなかみ町、東京大学大学院工学系研究科、群馬銀行と「産官学金包括連携協定」を締結。「水上温泉街再生プロジェクト」がスタート。2022年11月には「企業版ふるさと納税」としてみなかみ町に1億7千万円を寄附、2023年には2億1,000万の合計3億8,000万円の寄付を行うなど、かつて全国屈指の賑わいをみせながらも、近年は不況にあえぐ水上温泉街の再興に取り組んでいる。

「2021年の春に、群馬銀行さんのご紹介でみなかみ町様とご挨拶する機会がありました。町を訪問しさまざまなお話をさせていただく中で、町としてなかなか手が出せないのがホテルなどの大型の廃墟であること。同時にスキー場の経営もかなり厳しいとの話をお聞きし、現在その再生に取り組んでいます」

「関東の奥座敷」として栄えた水上温泉街も、時代の流れにより廃業する宿泊施設が続出。再生の真っ只中にある「関東の奥座敷」として栄えた水上温泉街も、時代の流れにより廃業する宿泊施設が続出。再生の真っ只中にある

巨大な建物を解体、減築することで、山が見え、川のせせらぎが聞こえるように

「水上温泉街再生プロジェクト」のメインとなっているのが、ホテル旧一葉亭(旧ひがきホテル)の廃墟の再生だ。旧一葉亭は旧ひがきホテルとして1948年に創業し、増改築を経て2016年に閉業。前所有者が買い取り旧一葉亭として営業を再開したものの、2019年に閉業した。
建物は本館、別館、新館、遊技場、エネルギーセンター、従業員寮があり、延床面積は約1万8,000m2(約5,400坪)。2022年3月に遊技場は解体され、同年11月に新館は1階のみに減築された。
「跡地が大きく、利根川と町の商店街に長く面しているので、この場所が変わることで町の雰囲気が変わると考えました。前所有者に譲渡の交渉に行ったところ、『有効に使ってくれるのなら』ということで譲渡してくださいました。

ホテルの高い建物があるせいで、越後山脈や谷川岳などの眺望が遮られていたのですが、建物を解体、減築したことにより景色の抜けがよくなったほか、利根川の川の流れの音が商店街まで聞こえるようになりました。

建物は前所有者から町に寄付していただき、また解体費は国からの補助金と我々からの企業版ふるさと納税で賄うことで、極力みなかみ町の負担が発生しないように工夫しています」

解体、減築と同時に、今後どのように再生していくのかについて、再生に強い設計事務所などと一緒に単純なリノベーションではなく、耐震補強などを加え、建物の寿命を延ばしながらの効果的な再生方法を検討しているところだという。

ホテル旧一葉亭の建物を解体、減築。事業者を募り、町を活性化していく予定ホテル旧一葉亭の建物を解体、減築。事業者を募り、町を活性化していく予定

2022、2023年と旧従業員寮の中庭などで2日間行われた「廃墟再生マルシェ」が大盛況

2022年、23年と2日間にわたり、旧一葉邸従業員寮が立つエリアでマルシェを開催(2023年は旧一葉亭敷地も含めエリアを拡大して開催)。学生の提案により、雑草を刈るなどしてこの場所も使って開催された。写真下はマルシェ開催前の様子2022年、23年と2日間にわたり、旧一葉邸従業員寮が立つエリアでマルシェを開催(2023年は旧一葉亭敷地も含めエリアを拡大して開催)。学生の提案により、雑草を刈るなどしてこの場所も使って開催された。写真下はマルシェ開催前の様子

ハード面の取り組みだけでなく、ソフト面の取り組みも進行中だ。定期的な地元説明を行っているほか、2022年、23年と秋に2日間「廃墟再生マルシェ」を開催。2022年には約1300人、2023年には3000人以上の来場者で賑い、大いに盛り上がったという。

「東京大学の都市デザイン研究室が主体となり、地元住民と協働作業で手入れを行いました。飛び地にある従業員寮があった場所で開催したのですが、雑草が生え放題になっていた場所をきれいにして、1階にお店を出せばマルシェができるのではと学生が発案し開催したんです。
以前はホテルの従業員寮でしたので、『昔ここに住んでいたわ』と話す年配の女性が来場してくださるなど、中庭部分に多くの人が集い、大きな賑わいを見せました」

マルシェの盛況は、今後さらに進んでいく水上温泉街再生の、ひとつの象徴的な出来事と言っても過言ではないだろう。

新築ではなく再生のため、かかる事業費が読みにくい=適正な利益を確保できるのかが今回のプロジェクトの難しさ

廃墟と化した温泉街を再生中の横瀬さんに、今回のプロジェクトで一番難しいと感じていることをお聞きした。

「現在進行形でさまざまな難題があるのですが、やはり一番難しいのは事業性評価だと思います。そもそも廃墟になるということは、経済的に成り立っていないということですから、それを再生させるというのは容易ではないということです。

知恵を絞って補助金制度を調べたり、銀行さんや民間都市開発推進機構さんと話を進めながら数字面を詰めたりしているのですが、工事費が非常に読みにくいんです。これから耐震調査をするのですが、実際に工事をしてみないとどこまで使えるかわからないとか、不確定要素が続々と出てきます。新築だと工事費も読みやすいのですが、今回再生という手法をとったがゆえに、変数が非常に多く、それをひとつひとつ紐解いてくのが非常に難しいと感じています」

事業性評価はこれからとして、町は明らかに変わってきていると話す横瀬さん。
「建物の解体や減築に関しては地元の方も非常に好意的です。廃墟の時は建物が壁のようになっていて、昼はもちろん、特に夜は明かりがついていないので怖いんです。そういった建物がこの2年で一部ですがなくなったことで、光が届き風が抜け、川の音が聞こえるようになったと喜ばれています。まだ始まったばかりですが、飲食店を開店した方がいるなど、少しずつ再生に向けた動きが出ていることに手応えを感じています」

オープンハウスグループが目指す「地域共創」とは

お話をおうかがいした、株式会社オープンハウスグループ 事業開発部長の横瀬寛隆さん。「興味のある方は、ぜひみなかみ町での事業に参画していただきたいですね。みなかみ町は日本海側からひとつ山を挟んでいるため、雪質も良好で、世界有数のパウダースノーと自負しています。自然豊かな町に、ぜひスキーにもいらしてください」お話をおうかがいした、株式会社オープンハウスグループ 事業開発部長の横瀬寛隆さん。「興味のある方は、ぜひみなかみ町での事業に参画していただきたいですね。みなかみ町は日本海側からひとつ山を挟んでいるため、雪質も良好で、世界有数のパウダースノーと自負しています。自然豊かな町に、ぜひスキーにもいらしてください」

次世代に豊かな日本を残すため、日本の抱える社会課題、「人口減少・少子高齢化」「都市への人口集中・地方の衰退」「社会資本の老朽化」「長期的な経済の低迷」「低い労働生産性」等の解決策の一つとして、「地域共創」を掲げるオープンハウスグループ。地域共創、そして、みなかみ町再生にかける想いを横瀬さんにお聞きした。

「都心はまち・ひと・しごとの循環があり、資金が集まり、家もたくさん売れます。一方地方はまち・ひと・しごとの循環が弱まっています。オープンハウスグループは、地域課題を解決し、循環を取り戻すことが日本のさまざまな問題解決に必要だと考えています。
地方でも、やる気のある地方自治体で、しかもみなかみ町のようにポテンシャルのある場所であれば、仮にこのような循環が途切れたとしても取り戻せると考えており、最終的に我々の本業である家づくりに結び付けばよいと期待しています」

現在進行中の「水上温泉街再生プロジェクト」。多くの事業者に興味を持ってもらい、参入してほしいと事業者公募を行っており、現地見学会なども行っているという。
「私たちでできることは限られています。空き家もたくさんありますし、リノベーションをして住みたい、スモールビジネスを始めたい移住希望者の方、出店を考えている企業の方など、町の再生にどんどんご応募していただきたいですね」

オープンハウスグループでは、横瀬さんが「ワールドクラスのパウダースノー」と評する「群馬みなかみほうだいぎスキー場」の運営、「世界中にあなたの家を」をビジョンに、世界的な建築家やクリエイターが手がけるデザイン性とIoT などのテクノロジーによる快適性を両立したハイエンドな別荘、NOT A HOTEL MINAKAMI 「TOJI」をNOT A HOTEL社と共同開発を行い、販売を開始。多方面からみなかみ町の再生に取り組んでいる。

今回のプロジェクトの完成は2026年以降。廃墟と化した水上温泉街がどのような変貌を遂げるのか、楽しみに待ちたいと思う。

■オープンハウスグループ 「地域共創」プロジェクト
https://kyoso.openhouse-group.co.jp/

■群馬みなかみほうだいぎスキー場
https://hodaigi.jp/

■NOT A HOTEL MINAKAMI 「TOJI」
https://notahotel.com/lp/toji

お話をおうかがいした、株式会社オープンハウスグループ 事業開発部長の横瀬寛隆さん。「興味のある方は、ぜひみなかみ町での事業に参画していただきたいですね。みなかみ町は日本海側からひとつ山を挟んでいるため、雪質も良好で、世界有数のパウダースノーと自負しています。自然豊かな町に、ぜひスキーにもいらしてください」オープンハウスグループが手がける「群馬みなかみほうだいぎスキー場」。
みなかみ町の中でも標高が高いスキー場であるため、積雪量が豊富で、ワールドクラスのパウダースノーが自慢

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