2024年の干支「甲辰」は、「春の日差しが、あまねく成長を助く年」
2024年の干支は「甲辰(きのえ・たつ)」である。干支にはそれぞれ意味がある。古来より、効率的な農業の指針や災害予測、人生に迷ったときの羅針盤としてなど、物質・精神を問わずさまざまな用途で使われてきた。
それによると「甲辰」は、「春の日差しが、あまねく成長を助く年」になるようだ。春の暖かい日差しが大地すべてのものに平等に降り注ぎ、急速な成長と変化を誘う年になりそうなのである。
すべてのものに平等に降り注ぐということは、これまで陰になっていた部分にも日が当たり、報われ、大きな成長を遂げるといったことが期待できる。逆に、自分にとって隠しておきたい部分にも日が当たり、大きな変化が起きる可能性もある。
干支で何が分かるのかと疑問を感じる人も多いと思うが、干支は、中国の古い思想である「陰陽五行思想」を礎にした、60年周期で循環する「暦」の一種である。
「暦」とは、長い時間の流れの中での天体の動き、四季の移り変わり、自然現象、農耕、行事、植物の萌枯、人や動物の生死などを記録し体系化したものである。現代風に言えばビッグデータを活用した、世の中のあらゆる事象を表したスケジュール表といったところだろうか。
無慈悲なようだが、「暦」はすべからく人間に都合のいいものばかりを指し示してくれるとは限らない。都合が悪い部分は上手に避け、うまく自分の力に変えていくようにするのが、古来よりの人間の英知というわけである。
それでは、2024年の干支「甲辰」が何を指し示しているのか、どういった行動をすれば干支を味方につけることができるのかを探っていこう。
十干×十二支で干支は60年で1周、還暦の所以でもある
中国の龍の起源は仰韶(ぎょうしょう)文化(紀元前5000年)まで遡る。その姿は体は大蛇に似て一面に鱗(うろこ)があり、四足には5本の爪を持ち、頭には鹿のような角があり、顔が長く大きな耳がついている。口元には立派な髭があり、喉元には逆さ鱗もついている。水に潜み雲を呼び雨を降らす権能を持っているとされる。一説ではワニがその原型ではないかと言われているまずは干支の基本の仕組みと、その考え方のベースになっている「陰陽五行思想」について簡単にご紹介しよう。
干支は、十干(じっかん)と十二支の組み合わせでできていて、全部で60種類あり、「天干地支(てんかんちし)」ともいう。
十干は、「甲・乙・丙・丁・戊・己・庚・辛・壬・癸」の10種類で、「天干」の名の通り、昼の空に輝く太陽を象徴とした生命の循環を表している。
一方、十二支は「子・丑・寅・卯・辰・巳・午・未・申・酉・戌・亥」の12種類あり、「地支」の名の通り、大地の恵みの生命循環を表していて、夜の空に浮かぶ月を象徴とし、30の月齢を1組とした12循環で1年を表すものである。
干支は、この十干と十二支の2つを組み合わせた最小公倍数の60種類あり、60年で1周する「循環暦」である。60年経つとまた1に戻って繰り返す、還暦の所以である。
「陰陽五行思想」とは、世の中のすべては、それぞれ異なる特性を持つ5種類の元素「木・火・土・金・水(もっかどごんすい)」からできていて、それぞれが「陰」と「陽」に分かれるという中国の古代思想である。
この思想は、世の中のすべて、宇宙や自然、人の身体や心、社会、家族など、この世のありとあらゆる現象をこの原理に基づいて解明しようとしたもので、干支をはじめ風水や易などの礎となっている。
干支は世の中の循環の理を知り、未来に備えるための「暦」
干支の本質は循環にある。先人たちは大自然の営みは循環にあり、それを知ることで将来に起こるであろうことを予見できると考えた。
歴史や流行は繰り返すとよく言われるが、人の営みはもとより、自然現象もほんの一瞬から、気が遠くなるほど長い期間まで、さまざまなスパンで繰り返されている。
太陽や月、星は一定の規則に沿って巡り、気候風土は1年という単位の中で春夏秋冬を循環し、昼と夜も毎日規則的に繰り返される。
草花は春になると芽吹き、花が咲き、秋に実り、冬に種を落として枯れ、そして土に還る。渡り鳥は季節が変わるごとに移動をし、巣ごもりをし、繁殖をする。そして生まれた雛はまた成鳥となって飛び立っていく。
動物も人も然り、こういった循環の中で、人は春に種を植え、秋に刈り取り、冬ごもりの準備のためにその実りを備蓄。夏には嵐を避けるために高台へと移動する。
このような循環の理(ことわり)を知り、備えるために生み出されたのが「暦」であり、その中のひとつが干支なのである。
陰陽五行思想から見る「甲辰」、成長を促す光がまんべんなく降り注ぐ
それでは2024年の干支「甲辰」が何を指し示しているのかを、2つの視点から読み解いていこう。
1つめは、「陰陽五行思想」から見た干支の意味である。
「甲辰」は、十干が「甲(きのえ)」、十二支が「辰(たつ)」である。「甲」は十干の1番目、生命の循環で言えば最初に位置し、生命が誕生した状態を表している。
「甲」は「きのえ」、「陰陽五行思想」では「木の兄」と表記し、これは「木の陽」を意味する。五行の「木」は生長、柔和、曲直、春の象徴である。「陽」は積極的や大きいといった意味である。つまり「甲」は、急成長、寛大、屈曲、発展といったことを表している。
「辰」は十二支の5番目で、草木の成長が一段落し、整った状態を表している。要はすべての新芽が葉を広げ、降り注ぐ日の光を全身で浴びている中春のイメージである。
「辰」は「陰陽五行思想」では「木の陽」に分類される。前述したように五行の「木」は生長、柔和、曲直、春の象徴である。つまり「辰」も、急激に成長することを表している。
これらが十干と十二支のそれぞれが意味するところである。そして「陰陽五行思想」で重要になるのが、その組み合わせである。関係性によっては、お互いに打ち消し合ったり、強め合ったりといったことが起きる。
「甲」と「辰」の関係は、「木の陽」が重なる「比和」と呼ばれる組み合わせで、同じ気が重なると、その気は最も盛んになる。その結果が良い場合にはますます良く、悪い場合にはますます悪くなるという関係性である。
このように2024年の干支「甲辰」を「陰陽五行思想」で読み解くと、「春の日差しが、あまねく成長を助く」となる。成長を助ける春の日差しは、表に出ているものばかりではなく、日ごろ隠されていたものにまで寛大に広く注がれ、成長や変化を促すことを表しているのである。
言葉が表す天意、硬い殻を強く揺さぶって整っていく
2つめは「甲辰」という言葉そのものが指し示している意味である。日本でも言霊という言葉があるように、東洋思想では、古くより言葉には天意が宿ると考えられてきた。
その言葉を形にしたのが「文字」であり、言葉を音にしたのが「音韻」である。干支に当てはめられた「文字」と「音韻」にも、それぞれ意味がある。
まずは言葉の形、「文字」が表しているものから見ていこう。
「甲」という漢字は、亀の甲羅を形取った象形文字である。そこから、甲羅のような硬い殻に覆われた種を意味するものとして、十干の1番目にあてられた。また「甲羅のような硬い殻に覆われた」ということから、鎧兜など護身用具などを表すようになったともされる。
「辰」という漢字は、2枚貝が足を出している様子や、土地を耕す農具を表す象形文字である。これは古代中国ではハマグリの貝殻を加工して農具を作ったことがあったからとされる。
漢書「律暦志(りつれきし)」によると「辰」は「振」、しん、ふるう、ゆれる、ととのうの意味で、蠕動しながら草木の形が整っていく状態を表しているとされる。ちなみに蜃気楼の「蜃」もハマグリを表していて、これもハマグリが景色を揺らして蜃気楼を起こしているという言い伝えがあったためとされる。
次に言葉の音、「音韻」が表すものを見てみる。
口から発する音韻は、「納音(なっちん)」で分類される。納音とは、中国語の音韻理論で干支を整理した占であり、これも「陰陽五行思想」を礎にしている。干支は60種類あるが、納音は30種類、干支2つに納音1つが割り振られている。
「甲辰」の納音は、「覆燈火(ふくとうか)」である。
これは燈篭や提灯のように火の周りを囲って辺りを照らす器具を意味している。ただし、輝く灯りとなって周囲を照らすものの、太陽や月のように遠くまで明るく照らす力はなく、あくまでも自身の身近だけに届く程度である。
このように、「甲辰」という言葉は、硬い殻を強く揺さぶって大きく成長させ、あるべき姿へと整っていく状態を表している。ただし、その成長の及ぶ範囲は自身の甲羅に合ったものであり、身の丈の範囲にとどまるというわけである。
十二支の動物の中で唯一実在しない「辰」、実は龍ではなくハマグリだった?
リュブリャナの竜の由来は、ギリシャ神話に登場する英雄イアソンが退治したドラゴンだとの説がある。ヨーロッパで広く分布するドラゴンは、概ねこのような羽の生えたオオトカゲのような姿をしている。また西洋のドラゴンは神格化された存在というより、宝を守護するガーディアンの意味合いが強いさて2024年は「辰年」、つまり龍、ドラゴンの年である。十二支の中で11種類は実在する動物であるのに対し、辰だけは唯一実在しない空想上の動物である。
日本以外でも、世界のさまざまな国で十二支的な思想は見られ、国によって動物の種類は多少異なるものの、アジアの文化圏においては「辰」はほとんどの国で含まれている。
実は、十干と十二支がいつ頃考え出され、さらにそれがいつ組み合わされ干支になったのか、はっきりした史料は残されてはいない。
現在分かっているのは、紀元前16世紀に興った中国の殷の時代には、既に10日を1旬という括りにして、6旬を周期とする60日間にそれぞれ「干支」を用いていたという記述が残されている。
春秋戦国時代(紀元前403~前221年)以降には、日付を示すのに加え、年月時刻や方位を表すのにも干支が用いられるようになっている。
しかしその頃までの十二支には、「子」や「丑」、「戌」、「酉」などの言葉に、「十二獣」はあてはめられていない。
十二支に動物があてられるようになったのは、秦代(紀元前221~前206年)になってからと考えられている。後漢代(25~220年))に王充が記した「論衡」の物勢編には、現在の「十二獣」との対応が明確に認められる。
つまり、ここまできてようやく「辰」という文字に「龍」という意味が付加されたことになる。なぜ動物があてられるようになったのか、なぜ辰が龍なのか、さまざまな推察がなされてはいるもののその理由は定かではない。しかし少なくともそれまでの長い歴史においては、十二支の「辰」はハマグリを意味することはあっても、「ドラゴン」を意味することはなかったのである。
この「十二獣」について国際的な視点で考察した書物がある。南方熊楠の「十二支考」だ。東洋にとどまらず、西欧や南米の文物にまで言及した非常に興味深いものである。
「十二支考」から「辰」の部分を引用すると、
“長二十丈ばかりなる大蛇、橋の上に横たはつて伏したり、両の眼は輝いて、天に二つの日を掛けたるがごとし、双ならべる角の尖するどにして、冬枯れの森の梢に異ならず、鉄の牙上下に生ひ差ちごふて、紅の舌炎を吐くかと怪しまる”
とある。まさしく伝説の生き物、多くの人が思い浮かべる龍の姿である。
2024年「甲辰」は自身の足元をしっかりと見て、踏み締めることで花開く
龍の伝承が残された地域では、多くの場合、恐竜の化石が発見されている。古代中国では龍骨として恐竜の化石が装飾にも使われた。多くの化石が発見された北米大陸でも、先住民の間にドラゴンの伝承が残されており、巨大な壁画が存在していた記録もある2024年の干支「甲辰」は、あまねく光に照らされ、急速な成長と変化が起きる年になることを指し示している。
目に見える表だった行いも、これまで人目に付かなかった行いも、ありとあらゆるすべてに光が当てられ、大きく変化していく年になりそうである。
人によっては、これまでの努力が認められ更なる成長を遂げる年になるやもしれない。逆に人知れず頑張ってきたこと、自身でも気が付かなかった意外な才能が一気に開花する年になるやもしれない。
陰の部分にも光が当たるので、ずっと人目に付かないように隠してきた秘事が白日の下に晒される暗示もある。そういったことがあるなら、早々に清算しておくのが良さそうである。
ただし光が及ぶのは自身を中心とした身近な範囲に限られる。身の程を超えてしまうと光が届かないため、分不相応な野心を実らせるのは困難を極めそうである。春の日差しの中、自身を見つめなおし、足元をしっかりと踏み締めていくことで道が開き、それこそが後に大望を叶える鍵となることだろう。
また殻を破って変化や成長をするためは、揺れ動きがあるとの暗示もある。しかしこれもわが身の及ぶ範囲に限られるため、きっと乗り越えていけることだろう。
「甲辰」は、「春の日差しが、あまねく成長を助く年」である。将来の大望を叶えるための準備が整う年とも言える。読者諸氏の足元にさす一筋の光明が未来へと続くことを祈念したい。
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