「ペットを飼う」ではなく「ペットと一緒に暮らす」という感覚に

総務省の資料によると、日本の子ども(15歳未満)の数は1,435万人(2023年4月1日現在)。一方で犬の飼育頭数は705万3,000頭、猫の飼育頭数は883万7,000頭で合計1,589万頭(2022年の一般社団法人ペットフード協会の調査)。もはや人間の子どもよりもペットとしての犬・猫の方が多いのだ。このような背景もあり、すでに「ペットを飼う」というより「ペットと一緒に暮らす」という感覚が当たり前になっているのではないだろうか。

ペットの室内飼いが一般的になるきっかけのひとつに、1997年の建設省(現国土交通省)の「マンション標準管理規約」の大幅改正がある。この中で「犬猫等のペット飼育に関する規定は、規約で定める事項である」とされ、これにより「ペット可」の新築分譲マンションの数が急激に増加していった。1998年時点のペット可物件の割合は1%程度だったが、2007年には約86%となり、現在では都心部のほとんどの新築分譲マンションがペット可となっている。

とはいえ、集合住宅だろうが一戸建てだろうが、ペット可だからといって人間もペットも快適に暮らせるとは限らない。飼い主だけでなく、家族の一員となったペットも安心・安全に生活できる住まいとは具体的にどのようなものなのか。自身も大型犬を家族とし、ペット共生住宅管理士(公益社団法人 日本愛玩動物協会)でもある筆者が解説しよう。

ペットの安全・健康や本能に配慮する

筆者宅の合板フローリングのキズ。体重8kgの子犬を迎えて1カ月後には、こういったキズが床中に広がっていた筆者宅の合板フローリングのキズ。体重8kgの子犬を迎えて1カ月後には、こういったキズが床中に広がっていた

筆者は、ペットと一緒に快適に暮らせる住宅の基本的な条件を次のように考えている。

・ペットの安全・健康に配慮している

・ペットの本能に配慮している

・掃除やメンテナンスが楽

・使いたい物が使う場所の近くにある

・デザイン性も優れている

以上を踏まえて具体的な対策を説明する。

滑らない床材

犬・猫を迎える際、まず検討したいのが床材だ。特に大型犬の場合は、骨盤と後肢の骨が正常に噛み合わなくなる股関節形成不全という遺伝性疾患を持っている場合が多く、仮に若いときは軽い症状であっても滑りやすい床で暮らすことによって、歩けなくなるケースもある。また、小型犬や猫であっても、滑りやすい床を駆け回ることで骨折などのケガをすることも珍しくはない。床材としてもっとも普及しているのは、合板フローリングだ。しかし、ペットを飼うなら滑りやすいうえにキズも付きやすいので、ペット専用の商品以外はおすすめできない。

それ以外の滑りにくい床材としては、次のようなものがある。

無垢材フローリング

天然素材ならではの風合いと滑りにくさが魅力。染みが付きやすいといったデメリットもあるが、薄く削ることで生まれ変わらせることもできる。

コルク

滑りにくさはトップクラス。ただし、こちらも汚れが落ちにくいといったデメリットもある。つなぎ合わせて床に敷き詰めるタイルタイプなら汚れたり傷んだりした部分だけ交換できるのでメンテナンスが楽になる。

カーペット

コルクと並んで滑りにくさはトップクラス。しかし、汚れやすさもコルクと同等。これもタイルタイプにすれば交換が容易になる。

タイル

一般的なタイルは、滑りやすくておすすめできない。だが、実はタイルの表面のツルツル具合は、商品によって大きく異なる。中には、触るとザラザラと感じるほど滑りにくいものもある。しかもタイルは、汚れが染み込むこともキズが付くこともほとんどないので、メンテナンスが非常に楽。犬用の滑りにくい商品を展開しているメーカーもある。

筆者宅の合板フローリングのキズ。体重8kgの子犬を迎えて1カ月後には、こういったキズが床中に広がっていた大型犬対応のタイル床の実例。滑りにくい、汚れにくいというメリットがある一方で、比較的高額、同時に床暖房を導入しないと冬は寒い、といったデメリットもある

管理組合や管理会社への確認が必要になることも

汚れにくく、キズが付きにくい壁材

壁はペットが身体を擦りつけたり、ひっかいたりする。そのため防汚性と耐久性が高い商品を選びたい。比較的手軽に採用できるのは、このような機能を持たせたビニルクロスだ。また、ペットの手が届く高さの部分だけキズ付きにくい板材やタイルを貼る腰壁にするという手もある。さらに壁については、コンセントの位置などにも気をつけたい。ペットにかじられないように高い位置に設置するか、カバーを取り付けるといった対策が考えられる。

ペットフェンス

犬や猫はいつでも好奇心旺盛。気になるものがあればすぐに近づいていく。特に食べ物に対しては異常に興味を示すケースも多いだろう。そこでキッチンなど入ってほしくないスペースの出入口にはペットフェンスを設置したい。これにより盗み食いだけでなく、火傷や刃物によるケガも防ぐことになる。ペットフェンスは置くだけの既製品から部屋のイメージや使い勝手に合わせて作成するオーダー品まである。オーダー品を希望するなら、建物を建てたハウスメーカーなどに相談すればいいだろう。どちらにしても犬や猫は想像以上に高くジャンプできるので高さはしっかり検討した方がいい。

オーダーのペットフェンスの実例。同じ部屋で使用する建具と同デザインのものを加工した。そのため、空間の統一感も演出できているオーダーのペットフェンスの実例。同じ部屋で使用する建具と同デザインのものを加工した。そのため、空間の統一感も演出できている

転落防止ネット

バルコニーにある程度の大きさの隙間があると、小型犬や猫は転落してしまう危険性がある。このような事故を未然に防ぐためにネットを設置したい。その際、マンションなどの集合住宅の場合は、管理組合や管理会社への確認が必要になることを忘れずに。

寝床・居場所を設けるメリットは大きい

ペットの寝床・居場所

犬、猫問わず、ペットの寝床・居場所はぜひ設置したい。かわいくて仕方がないので一緒に寝ている、という飼い主も多いはず。しかし、それは人間にとってもペットにとってもあまりいいことはない。たとえば、寝ている間に顔を舐められたりすることでペットの病原体を吸い込んでしまい、感染することもあり得るのだ。動物愛護管理法では、動物から人への感染と同様、人から動物へ感染する共通感染症にも注意を払うべきとしている。また、いつも常に一緒にいることで、飼い主が出かけると吠え続けたり、物を壊したりする分離不安につながることもある。
寝床・居場所は市販のサークルやベッドでも構わないし、新築なら建築依頼先にオーダーするという方法もある。犬の場合は、これによって留守中に家の中をめちゃくちゃにされるといった被害も防げるはずだ。猫の場合は、以前は外にも自由に出られる放し飼いが当たり前だった。しかし、最近は近所に対するマナーや安全面などの問題から完全屋内飼いが推奨されている。「そんなのかわいそう」と思う人もいるかもしれないが、猫にとっては外に出られなくても快適に暮らせれば十分に満足できる。快適に暮らすには、寝床だけでなく、上下運動ができるキャットタワーや爪とぎ器などが必須になる。なお、居場所の近くにペットシーツやフードなどを収納できるスペースを設けておくと使い勝手がいい。

オーダーのサークルの実例。床と壁をタイルにすることで清掃性を確保。出入口の横にドッグフードやペットシーツなどを入れる収納スペースを設けたので利便性も高いオーダーのサークルの実例。床と壁をタイルにすることで清掃性を確保。出入口の横にドッグフードやペットシーツなどを入れる収納スペースを設けたので利便性も高い

観葉植物

ポインセチアやユリなど、ペットが噛んでしまうと中毒を起こす植物は意外に多い。そのため、観葉植物はペットがいるスペースには置かない、または届かない場所に置くようにしたい。

足洗い場

犬を飼うなら庭先や玄関先に足洗い場があると便利だ。室内が汚れるのを防ぐだけでなく、雑菌や寄生虫を室内へ持ち込むことも防ぐ。ただし、足を洗った後は、ドライヤーなどでしっかり乾かさないと皮膚炎の原因になることもある。また、大型犬を飼う場合は、お湯が出るシャワーもあると重宝する。一般的には浴室で洗うケースが多いはずだが、その場合、乾かす部屋に行くまでの通路がびちょびちょになるという話をよく聞く。そして、犬は泥んこ遊びが大好き。汚れて帰ってきたときに外で洗えれば、室内が泥だらけになることもない。外で洗う話をすると、冬は寒いのではないか、と不安がられることもある。しかし、お湯が出ればほとんどの犬は平気だし、飼い主もレインウェアを着て洗えば濡れることはない。

オーダーのサークルの実例。床と壁をタイルにすることで清掃性を確保。出入口の横にドッグフードやペットシーツなどを入れる収納スペースを設けたので利便性も高い庭に設けたシャワー設備の実例。リビングの掃き出し窓の脇にあり、シャンプーの後はすぐにリビングで乾かすことができる。お湯が出るので冬でも手がかじかむことなく利用できる

大事なのは「もっとお互いに快適にできるかも」という好奇心

上記以外にも、人とペットが快適に暮らすための工夫は、無数にある。その方法は、ペットの種類・性格・年齢、飼い主との関係性などによって千差万別。大事なのは「もっとお互いに快適にできるかも」という好奇心だ。先入観を持たずに一緒に暮らしている間は常に改善する気持ちを持ち続けたい。

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