太陽を神聖なものとする神話や宗教は世界中に

お正月には「初日の出を拝む」という人も多いだろう。新年の幸せを祈る元旦に朝日が昇るすがすがしい様子を拝むのは、まさに一年のはじまりにふさわしい。

ところで、太陽を神聖なものとする神話や宗教は世界中にある。
ギリシャ神話のアポロン、ケルト神話のルー、シュメール神話のウトゥ、そして日本神話のアマテラスと、世界各地で語られる太陽神は、貴く力の強い神々だ。太陽を信仰の対象や神聖なものとしない汎神教は、少ないだろう。
アステカの太陽信仰は一風変わっている。これまでに世界は5回創造されているというのだ。そのたびに新しい太陽が出現しているから、世界に太陽は必要不可欠と考えられていたのだろう。世界と太陽の滅亡は同時だが、1つ目の世界と太陽はジャガーにより、2つ目は嵐により、3つ目は火の雨により、4つ目は洪水により滅んでいる。現在は5つ目の世界・太陽だが、地震によって滅びる運命なのだそうだ。

太陽は光と熱のエネルギーを大地に降り注いでくれる大切な存在であり、当たり前のように世界中で信仰されてきた。

茨城県大洗磯前神社からの初日の出茨城県大洗磯前神社からの初日の出

日本の太陽神アマテラスやギリシャ神話のアポロン

日本の太陽神はアマテラスで、イザナギとイザナミによる国生みの際、イザナギが斎戒沐浴した際に、ツクヨミやスサノオと同時に生まれたとされる女神だ。ツクヨミは月の神で、スサノオは風の神とされることもあるが、諸説あって定まらない。

一方、ギリシャ神話のアポロンは月の女神のアルテミスと兄妹。シュメール神話のウトゥは金星の女神ナンナと兄妹とされる。昼に現れる太陽と夜を照らす月、あるいは金星が、姉と弟、あるいは兄と妹であるとの考えが、時代や地域を通じて共通するのも興味深い。しかしギリシャ神話のアポロンも、ケルト神話のルーも、シュメール神話のウトゥも男神だ。太陽神を女神とする日本神話は、ユニークといえるかもしれない。

宮崎県高千穂町の天岩戸神社 天安河原の鳥居宮崎県高千穂町の天岩戸神社 天安河原の鳥居

春分や秋分、夏至や冬至と深い関係がある太陽信仰

日本神話が記録されたもっとも古い書物は日本書紀で、編纂されたのは奈良時代とされる。しかしそれ以前にも太陽信仰はあった。
日本においては旧石器時代から人々が生活しており、土器の使用が始まる縄文時代、稲作が始まる弥生時代、前方後円墳が造られるようになる古墳時代を通じて、さまざまな形で太陽が信仰されてきた痕跡がある。
記録の残っていない有史以前、どのように太陽が信仰されてきたかは祭祀跡の発掘調査や現代までに伝わっている神話から推測研究するしかない。

有名な事例としては、縄文時代前期の大規模な拠点集落跡とされ、世界遺産にも登録されている三内丸山遺跡である。遺跡では大型の六本柱が建てられ、太陽信仰となんらかの関係があると考えられている。柱は正確に4.2m間隔で2×3に配列され、柱を立てるための穴は直径2m、土壌にかかっている圧力から高さが15mもあったとされる大型の建造物だが、夏至の朝にこの建造物の西から東を見ると柱の真ん中から太陽が昇り、冬至の夕方に東から西を見れば、真ん中に太陽が沈むのだ。

三内丸山遺跡三内丸山遺跡

また北緯34度32分近辺に、古い歴史を持つ大社や寺院が集まっていることも注目される。
東は伊勢湾に浮かぶ神島で、島に鎮座する八代神社には多数の神宝が奉納されている。さらに伊勢の斎宮跡、室生寺や長谷寺、元伊勢とされる檜原神社、日本最古の前方後円墳である箸墓古墳、そして日本神話きっての英雄・ヤマトタケルを祀る大鳥神社などがほぼ一列に並んでいる。春分・秋分の日に、たとえば長谷寺から東をまっすぐに見ると、室生寺の方角から太陽が昇ってくるように見えるから、北緯34度32分線を「太陽の道」と呼ぶ。

むろん偶然に並んだ可能性もあるが、春分や秋分、夏至や冬至の朝、あるいは夕方に、特定のポイントから太陽が昇ってくるように見える、あるいは沈んでいくように見える場所に、寺社が建立されている例は少なくない。たとえば伊勢の二見興玉神社では、夏至の朝に、夫婦岩の間から太陽が昇るように見える。

また日本書紀にも記述される大阪の美具久留御魂神社では、春分と秋分に近い朝に二上山を見ると、雄岳と雌岳の間から太陽が昇るように見える。蘇我氏と物部氏の戦いで、聖徳太子が勝利祈願した四天王を祀る四天王寺では、朝日ではなく夕日が拝まれていたらしい。春分の日と秋分の日に大鳥居から西を見ると、真ん中に太陽が沈んでいくのだ。これは、西に弥勒菩薩の西方浄土があると信じられたからだろう。

「初日の出」を拝む風習が広がったのは明治時代から

日の出を拝む信仰は古代からあったと考えられるが、元日の日の出を拝む「初日の出」の風習が全国に広がったのは、明治時代になってからとされる。それまでは、それぞれの場所で日の出をまち、四方参拝で東西南北を拝んでいたようだ。

明治政府は国家神道政策を敷き、天皇は現人神であるとして、皇室の祖神であるアマテラスを祀る伊勢神宮を神社の本宗とした。太平洋戦争が始まると、日本は万世一系の天皇を頂きにした神の国であるとし、天下を一つにするという意味の「八紘一宇」が、スローガンになった。元日の太陽を拝むことに大きな意味を持たせたのも、「日本は太陽神の子孫が統べる国である」と意識づける意図があったのかもしれない。

伊勢神宮内宮の宇治橋伊勢神宮内宮の宇治橋

初日の出の拝み方と有名スポット

初日の出の拝み方は、細かい作法は特に決まっていないが、地平線あるいは水平線から顔を出す太陽を拝む。
明治以降のいくつかの戦争が、日本神話に影を落とすのは悲しいことだが、日の出を拝む風習は、古来の素朴な信仰心からのものだから、純粋な気持で手を合わせたい。

初日の出はそれぞれのご利益のある神社から拝むのでもよいだろうが、初日の出の名所としては、まず富士山があげられるだろう。
富士山と初日の出を同時に拝むだけならば富士山が見える、富士山より西側の地点で待機すればよいが、本栖湖リゾートの竜神池からなら、富士山の頂上から太陽が昇るように見える。さらに竜神池に映る逆さ富士も拝めるので、人気のスポットだ。

東に海が見える場所ならば、海から昇る太陽が拝める。たとえば茨城県の大洗磯前神社は東に海が広がる朝日の名所だ。突き出した岩礁に立てられた神鳥居も神々しい。
琵琶湖中に立つ鳥居と朝日を拝める神社として、滋賀県の白鬚神社も人気だ。しかし最近、神社前の道路を無理に横断する参拝客が絶えず、琵琶湖に降りられないように柵が設置された。

東京ならスカイツリー、大阪ならハルカス展望台、横浜ならランドマークタワーなど、高層ビルや、御岳山や筑波山の頂上から一足早い初日の出を拝むのもよいだろう。初日の出を拝む際、マナーは必ず守ろう。

2023年の日の出は、経度によって時間が違うが、東京都心で6時50分ごろ、名古屋なら7時前後、大阪市は7時5分ごろ、那覇市なら7時16分ごろだ。インターネットで正確な時間が検索できるので、天気予報が晴れならば、早起きして朝日を拝んでみてはいかがだろうか。

富士山は富士信仰とともに初日の出も人気富士山は富士信仰とともに初日の出も人気

■参考
講談社『日本書紀 上下』宇治谷孟訳 2001年2月発行
文芸社『伊勢神宮とトコヨの古代史』佐藤忍著 2002年10月発行
大和書房『神と人の古代学ー太陽信仰論』大和岩雄著 2012年4月発行

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