今後も増加すると予測される空き家の問題

住む人のいない空き家は増えるばかり…住む人のいない空き家は増えるばかり…

空き家が社会問題として注目されるようになって何年だろうか。個人や企業、自治体などの取組みを当サイトでもご紹介してきた。そういった活動が着実に進められる一方、空き家率は今後も増加するといわれている。

総務省統計局による「平成30年住宅・土地統計調査」によると、2018年10月1日現在における総住宅数は6,240万7,000戸で、前回の調査が行われた2013年と比べると2.9%の増加に。そのなかで居住世帯のない住宅は約879万戸で、そのうち空き家が848万9,000戸。総住宅数に占める空き家の割合(空き家率)は13.6%で、2013年から0.1ポイント上昇して過去最高になっているというのである。ちなみに、この空き家は4つに分けられ、賃貸用の住宅、売却用の住宅、別荘などの二次的住宅とあり、それら以外の“その他の住宅”に分類される空き家(長期の不在や取り壊し予定、区分の判断が困難な住宅など含む)が348万7,000戸となっている。

この空き家問題の解決の一端になればとの思いで、2021年8月に空き家運用代行サービス「ヤモタス」をスタートさせた愛知県半田市にある和工房(なごみこうぼう)株式会社に話を伺った。

空き家の運用が資金0円でOK!?

和工房が不動産建築事業とともに行っている賃貸経営事業では、自社で購入した空き家をリノベーションしての運用もしている。そこに新たに加わったヤモタスは、空き家を所有する人に向けた事業だ。

「もともと賃貸経営と建築を掛け合わせて事業を行うなかで、空き家問題をなんとかできないかと空き家を活用した賃貸経営を始めました。ただ、売りに出る空き家は全体の3.5%ほどしかなく、正直にいうと、“焼け石に水”のような状態。そこで残りの96.5%を活用できる仕組みをつくれないかなと考えるようになりました」と、同社社長の松久保正義さん。

空き家の原因ともなる、「思い出のある実家だから売りには出したくない」「遠方にあって管理が難しくなってきた」「活用したいがどうしたらいいかわからない」といった所有者の視点に着目。そこで考えだしたのが、空き家所有者にとって費用がかからなくて、リスクもないという仕組みだ。

松久保さんは「96.5%の人にどう動いてもらうか。やってみようと思ってもらえる仕組みを作らないと進んで行かないだろうと思ったんです」と語る。

和工房株式会社 代表取締役の松久保正義さん。ビルやマンションの建設現場の職人からリフォーム業を経て、2012年に起業。「困りごとを解決していく会社でありたい」という思いで日々邁進している(写真提供:和工房株式会社)和工房株式会社 代表取締役の松久保正義さん。ビルやマンションの建設現場の職人からリフォーム業を経て、2012年に起業。「困りごとを解決していく会社でありたい」という思いで日々邁進している(写真提供:和工房株式会社)

空き家を資産化する仕組みとは?

空き家を活用する場合、リフォーム代などは空き家所有者の負担になる。その費用負担がない仕組みとはどういったものなのか。

実は、和工房では賃貸経営を勉強するコミュニティも作っており、そこに参加する人々に呼びかけて“投資家”として参加してもらうことにしたのだ。契約自体は、空き家の所有者と投資家=出資者が結び、和工房はリフォームを担当し、管理者となる。契約期間は13年間。

出資金と家賃の年間収益から、リフォーム費用や火災保険、管理費、入退去時の経費を引いた額を、所有者と投資家が得ることに。所有者は、固定資産税と都市計画税は引き続き自分で支払うことになるが、収益の20~50%(家賃や初期リフォームの額などにより変動)を得ることができる。

そのまま空き家として持っていたら、税金のほかに修繕などで資金は必要になるばかりだが、このシステムであれば、最初の資金も必要ないだけでなく、収入になるというわけだ。

「リスクをすべてなくしたのですが、なぜそれが実現できたのかというと、いままで私たちがやってきた賃貸経営のノウハウと、建築のノウハウがあるからです。自分たちの経験から厳しい目で見立てをするので、家の状態によっては修繕費がかかりすぎたり、市場価値の判断などによってお断りすることもあります。工事などのコストを抑える手法はもちろんとっていますが、健全な賃貸経営をするために最低限の守るべきところはきちんと守っています」と松久保さん。

賃貸経営をするならば収益が出なければならない。そのため、空き家だったらどこでもいいというわけにはいかない。相談を受け、なんとかできないかと頭を悩ませることもあるが、その見極めは厳しくしているそうだ。それに伴い、物件の調査を非常に重視して行っている。

ヤモタス運用イメージ(ヤモタスパンフレットより)。安全に賃貸経営が13年間できるための独自の計算式を編み出し、物件の立地や今後必要な修繕費なども考慮したうえで、収益が出るかを判断する。契約から10年目に、契約期間終了後に契約更新するか、自主管理にするか、物件を返却してもらうかの選択をするヤモタス運用イメージ(ヤモタスパンフレットより)。安全に賃貸経営が13年間できるための独自の計算式を編み出し、物件の立地や今後必要な修繕費なども考慮したうえで、収益が出るかを判断する。契約から10年目に、契約期間終了後に契約更新するか、自主管理にするか、物件を返却してもらうかの選択をする

コロナ禍の影響も? 一戸建て賃貸の需要増

この事業をはじめたときのことを、松久保さんはこう振り返る。「周囲の人からは慈善事業を始めたのか?と言われましたね。確かに正直、利益は薄いんです。ただ、新型コロナウイルス感染症が蔓延し、暗いニュースばかりになったこともあり、なにか明るいニュースを投げかけたい、もともと起業時に抱いていた社会問題を解決していくようなことをしたいという思いから、勝負をかけてみようかと思いまして」

現在、ヤモタスは愛知、岐阜、三重のなかで、管理面から松久保さんの会社から高速で1時間ほどの距離までを対象にしている。これまで契約したうち、半分ほどは名古屋市内の物件。

部屋数の多さなどもあって一戸建て賃貸の入居者は、ファミリー層がメインだった。ところが、コロナ禍もあってか、カップルや1人での入居希望も増えているそう。テレワークスペースが確保しやすかったり、通勤の必要がないために郊外の住宅を考えたりといった理由だ。

賃貸経営事業に携わるなかで、和工房にくる問合せの2割ほどが一戸建ての賃貸を探しているというもので、松久保さん自身、需要の変化をひしひしと感じているという。

名古屋市内の築45年の物件。リフォーム前の状態(写真提供:和工房株式会社)名古屋市内の築45年の物件。リフォーム前の状態(写真提供:和工房株式会社)
名古屋市内の築45年の物件。リフォーム前の状態(写真提供:和工房株式会社)上記物件のリフォーム後、LDKの様子(写真提供:和工房株式会社)。空き家の相談にくる方は、ご両親が亡くなられるなどして落ち着く2~3年後ぐらいが多いという。10年間空き家だった場合は、老朽化が進んでいるため、再生が難しくなるそうだ

課題は認知度を高めること

一戸建て賃貸の需要があるなか、空き家の活用はぴったりだ一戸建て賃貸の需要があるなか、空き家の活用はぴったりだ

課題は「ヤモタスが認知されること」だと松久保さん。これまでのヤモタスの入居率はほぼ100%で、供給をこれから伸ばしていくことが必要なのだが、空き家所有者に情報が届いていないと感じている。

ちなみに、“ヤモタス”の由来は、昔から家を守ってくれると伝わるヤモリと、空き家所有者は家守(やもり)、そこに新たに同社の存在を家守として足すという意味を込めて名付けたという。

松久保さんの夢は大きく「いつか“まち”を作っていきたい」とのこと。そのために、目の前にある困りごと=空き家問題を解消するために歩み出した。「環境が良くなるとまではなかなか言いづらいですが、空き家の解消で環境負荷を減らせると思っているんですね。住宅の寿命を伸ばすことができれば、資源が守られるというと、おこがましいかもしれませんが、少なくとも使う量を減らすことができます。わが社の取組みで、小石を投げ続けることができたらなと思っています」

本来なら自らが大家となって運営するほうが収益だけでみたら高くなるのだろうが、設備の修繕や入居者の対応などの負担はお任せできるので、気持ちの面ではきっと楽だ。空き家活用・運営の手段として間口が広がるのではないだろうか。


取材協力:和工房株式会社 https://nagomikoubou.co.jp/
ヤモタスホームページ https://yamotas.com/

※「平成30年住宅・土地統計調査結果」(総務省統計局)
https://www.stat.go.jp/data/jyutaku/index.html

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