1万人超の観客を集めるモータースポーツイベント「TGRラリーチャレンジ渋川伊香保大会」
2022年7月3日、群馬県渋川市の渋川スカイランドパークには、色とりどりのラリーカーが集結した。ビギナークラスのラリー大会である「TGRラリーチャレンジ渋川伊香保大会」である。
スポーツツーリズムによる町おこしというと、東京五輪に代表されるメガイベントや、国体に代表される全国大会を思い浮かべがちだが、このラリーチャレンジは、その真逆の初心者・初級者向けの大会である。
年間で12レースが毎年開催され、全国を何度も転戦する参加者も多い。
TGRラリーチャレンジは、国内格式のラリー競技大会であり、正式名称「TOYOTA GAZOO Racing ラリーチャレンジ」。トヨタ自動車が主催するラリー大会シリーズのことである。2001年の大会創設時はトヨタ・ヴィッツのための大会であったが、2012年に他の車種も参加できるようになり、2016年に現在の開催方式となった。
中でも今年で7回目を数える渋川伊香保大会は、東京から最も近い大会ということで、毎年1万人を超える参加者や観客を集めてきた。ビギナー向けの大会とはいえ、山本一太群馬県知事や、髙木勉渋川市長らが顔を揃え、地域の熱意が伝わってくる。
開会式では知事が檄を飛ばす。「前回は無観客だったが、ようやくこうして皆さんとともに開会式を迎えることができた」。多忙にもかかわらず知事はこの後、2時間近く滞在して参加者や観客と交流した。
ラリー大会には専用施設不要、誘致のハードルは高くない
モータースポーツというと、F1やF3000を思い浮かべる人が多いだろう。
フォーミュラレースの場合、当然のことながら開催のためにはサーキットが必要である。また、ラリーというと、いわゆるパリ・ダカールに代表されるような超長距離かつ過酷な環境の中を走り抜くモータースポーツというイメージで捉えられがちである。
だが、この大会の場合、走るのは数キロの林道とそれをつなぐ市街地にすぎない。一般的な国内ラリー大会の場合、地域の有名なスポットをスタートし、林道などに設置される競争的な走行を行う区間に入るまでは一般車と混じって交通規制を守って走る。設備投資は基本的に不要とあって、地域にとって誘致のハードルは高くない。ただ、公道を走ることもあり地元自治体の協力は不可欠である。
参加選手は、風情ある街並みを、温泉街をそぞろ歩く観光客に応援され、手を振りながら、カラフルなラッピングを行ったラリーカーで一般車に混じって賑やかに駆け抜けるのである。
スタートのフラッグを振るのは、知事、市長をはじめとした地元の重鎮たち、そして伊香保温泉の女将さん会の有志、さらには、このラリーを楽しむパッケージツアーで参加した人々もフラッグを振って会場を盛り上げる。
この日は、渋川の街がラリーの盛り上がりに包まれるのである。
今大会には、前回に引き続き、哀川翔さん、清水宏保さんも参加し、多くの参加者の記念写真に収まるなど会場は盛り上がった。
大ヒットマンガ『頭文字(イニシャル)D』も町おこしを応援
さて、この渋川、走り屋の青春を描くマンガとアニメが大ヒットした「頭文字(イニシャル)D」の舞台としても知られている。ラリーの選手たちが一通りスタートすると、頭文字Dラッピングのタクシーの出発式が始まった。地元のタクシー会社3社が1台ずつ頭文字D仕様のラッピングタクシーを走らせる、その初日ということで、ラリーチャレンジのスタート地点に再度人々が集まり、市長が笑顔でフラッグを振る。
アニメの聖地であるということは、伊香保温泉にとっては個人客を集めるための追い風である。このため、渋川市は頭文字Dマンホールの設置やデジタルスタンプラリーなどのコラボ企画をこれまでも展開してきた。
自らも頭文字D世代である池田副議長は言う。
「伊香保温泉は、従来型の社員旅行などを中心とした団体の集客が大幅に減り現在の伊香保は個人客に支えられています。ラリーチャレンジだけでなく、様々なイベントを機に、新たな個人客の開拓をしていく必要があります。」
頭文字Dの象徴である藤原とうふ店のAE86仕様の塗装をしたタクシーがスタート地点に来た。よく見ると天井には「ぐんま」と書いてある。群馬県は富士重工業のお膝元であり、自動車産業が地域の経済を支えている。渋川においても法人市民税のうち、温泉などの観光関係が占める割合は昨今、低下しているという。
トヨタのイベント・ラリーチャレンジにスバルが参戦する理由
ラリーチャレンジ自体は、トヨタ自動車が全面的にバックアップするイベントであるが、そこは群馬県、この大会には富士重工業のブースも用意され、往年のWRCで何度も活躍したインプレッサWRXが、トヨタのラリーカーや水素自動車、さらにはトヨタを代表するGTカーであるスープラなどとともに仲良く展示されている。
トヨタがスバルに呼びかけて、ともに自動車イベントを盛り上げよう、という趣旨でこのコラボが実現したという。
昨今の若者の車離れにより、自動車関連のイベントの注目度が盛り上がりを欠いている。
モータースポーツ、なかでもラリーへの関心は、1990年代のラリーにおける日本車黄金時代等と比較すると低下していると言わざるを得ない。ラリーイベントでコンスタントに多数の参加者・観客を集めるイベントはそうそう多くはない。
伊香保温泉女将さん会の有志として積極的に応援にも協力している塚越佐知子さんは「ラリーチャレンジ、頭文字D以外にも、クラシックカーの走行イベントが年に二回、また、JRのSLも人気です。それぞれお客さんの一部はリピーターになってくださいます。伊香保温泉にお越しになる一つのきっかけになっていると思います」と非常に前向きにとらえている。
移住支援に注力している渋川市
渋川市は移住支援に注力している。
ピーク時の1995年、91,162人だった人口は2022年には74,448人と人口減は約18%にもなる。群馬県全般として、失業率は全国的には中位であり、仕事がないわけではない。ただ、当日の地元からの来客の声を聞くと、「若い人がやりたがる仕事がなかなかなくて」という声があるのは確かだ。そのような中、追い風となっているのはコロナ禍によるテレワークの普及である。
テレワークを機に移住、という事例がある一方で、温泉地である渋川はワーケーション需要にも期待が高まる。温泉地×東京から2時間以内、という組み合わせがワーケーション好適地といわれるが、東京外環道の延伸などにより渋川へのアクセスは向上している。
ラリーチャレンジのパッケージツアーでスタートのフラッグを振った人々の笑顔が非常に印象的だった。ラリーや頭文字Dで渋川の街と出合った人々を交流人口につなげるカギはここにあるように感じた。
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