空き家の増加はまちづくりの歴史と密接に関連
2018年の住宅土地統計調査によれば、神戸市の空き家率は13.3%と、全国平均の13.6%とほぼ同様だ。しかし神戸市は、かつて短期間で集中的に開発された地域が今後一気に老朽化し、大量の空き家が生まれる宿命を背負っており、予断を許さないのだという。
「戦後、急速に復興が進み、六甲山麓部をはじめ、次々に住宅地として開発されてきました。都市計画の線引きもなく、建築ルールも不十分な中で、無秩序な開発が進められてきたまちづくりの歴史があります。地域によってはすでに70年近い年月が経過し、家屋の老朽化と人口流出により空き家が目立ちます」と、同市建築住宅局政策課の空家空地活用担当課長、和淵大さんは話す。
人口減少により、老朽空き家の増加が地域の荒廃をまねき、人口流出につながる。空き家・空き地を有効活用し、その中から老朽危険家屋という負の遺産が生まれないようなサイクルを作っていくことが、人口減少時代のまちづくりに重要だ、と考えている。今後は郊外のニュータウンにも空き家が増えていく可能性があるそうだ。
「使える空き家は活用する。危険なものは撤去するという方針のもと、全市全力で対策を進めなければならない、という認識です」(和淵さん)
地域活性化の拠点としての空き家改修を支援
神戸市は「使える空き家・空き地は売却や賃貸、地域利用などの活用を促し、使えない空き家は解体し、土地の活用を促進する」という方針を打ち出している。和淵さんの所属する建築住宅局政策課は、空き家・空き地の活用を促進する役目を担っている。関連する補助事業もこちらの管轄だ。
特徴的なのは、地域のために空き家を活用する場合の神戸市空き家地域利用応援制度だ。
「空き家をすべて地域利用する専用型と、居住や店舗として使用しながら、一室だけ、週1日だけなど一部を地域利用する併用型があります。補助額最大100万円ですが、トイレなどの水まわりの改修費用でいっぱいですね。残りはDIYで補修・改修などで賄うケースもあるようです」(和淵さん)
そのほか、仲介手数料や登記費用、家財の片付け・処分費、無償で貸し出した場合の固定資産税などの補助、改修計画などについてのアドバイザー派遣も用意している。
所有者と活用希望者は「空き家・空き地地域利用バンク」でマッチング
ただし、地域利用に対して空き家・空き地を貸したい・売りたい所有者、また、地域利用のために借りたい・買いたい団体は、基本的に市が設置している「神戸市すまいの安心支援センター すまいるネット」が運営する「空き家・空き地地域利用バンク」に登録が必要だ。ここを通じて、空き家の活用相談のほか情報登録、情報発信、マッチングなどをおこなっている。活用や売買の交渉、契約は基本的に空き家の所有者と利活用の希望団体の間で行うが、必要であればバンクがアドバイスもしてくれる。
「所有者の方がもう使わない、あるいはなかなか売却できないから地域のために誰か使ってくれるなら、と登録している空き家も少なくありません。つまり、立地や建物の状態が良好なものばかりではありません。一方、登録している地域利用団体の方は安く借りられ、なるべく補修せずに済むものを希望し、立地のよさも求めます。要件が相反するのでマッチングに時間が掛かるものの、2021年度は22件が成約に至りました」(和淵さん)
建築家の提案力に期待。地域課題の解決に資する案に500万円支援
2022年度には、新たに「建築家との協働による空き家活用促進事業」が登場し注目を集めている。これは、空き家の所有者などが、建築家との協働により空き家を魅力的に再生して、地域課題や社会課題の解決に取り組む場合に、その改修に要する費用の一部を補助する、というものだ。
対象者は空き家の所有者または借主(予定を含む)で、対象物件は神戸市内にある空き家(一棟の建築物または長屋の一住戸)。市街化区域、市街化調整区域を問わず全域を対象とする。補助金額は補助対象経費の合計の2分の1、上限500万円となっている。”地域の抱える課題”や”withコロナ時代における社会課題”などのさまざまな課題の解決に取り組む事業が募集されている。先に述べたバンクへの登録は不要だ。
「ポイントは3つ。1つめは地域課題や社会課題の解決に資する提案であること、2つめは建築家が改修計画に関わること、3つめは外装も含めてまちの景観が向上するような計画にしてほしい、ということです。空き家は外観が傷んでいるケースが多いので、補助金の500万円を生かして計画していただきたいと考えています」と和淵さん。
記者資料にもあるとおり、市はライフスタイルや地域コミュニティまでデザインできる建築家が空き家の活用に関わり、空き家がより魅力的に生まれ変わることを期待している。
「昨今、建築家の方の中には単に建物の設計をするだけなく、並行して、人々の集まる場所をコーディネートするなどソフト的な取組みをしている人が増えていますね。建築家の領域が広がっているのではないでしょうか。そのようなクリエイティビティを持つ方に、空き家を使って活躍する機会を増やていただきたい、という意図もあります。市にそういう方々をもっと増やしていきたい。これまでの補助事業でまちの景観、コミュニティ形成の双方に資するような質のいい事例にも、建築家の関わっているケースが見られました」(和淵さん)
同市は都市型創造産業の振興や集積にも力を入れており、建築家もその範疇と捉えている、という背景もある。
建物の規模や構造に応じて、設計などを行うことができる一級建築士、二級建築士、木造建築士の資格を持つ建築家が該当する。建物を大きく変更する可能性があるので、安全性を担保するため、資格の保有を重視した。
「空き家活用の機運を高め、まちの景観にもっと魅力を」
当事業で採択される予定の提案は20件だ。応募された提案は、活用方法に関する「課題解決力」「社会貢献度」「継続性」、物件・デザインに関する「再生の必要性」「デザイン性」「波及効果」で採点され、点数の上位20件が採択される。
「魅力的な事例をなるべく多く採択したい。そして、当事業を単年度ではなく、継続的に行っていきたいですね。そうすれば、5年、10年と月日がたったときに、市内の各所にランドマークになるような魅力的なスポットが増えるのではないか。そうすれば、(空き家の多かった)まちの雰囲気も変わってくるのでは、と思います」(和淵さん)
すべての空き家に補助金を適用するわけにはいかないが、ひとつのモデルケースがどこかの地域に生まれることで、周辺の空き家活用やコミュニティ活動などに波及効果が望めるのではないかと、和淵さんは期待している。
当事業の選定審査会は2022年5月18日に行われ、選定結果は申請者に5月下旬に通知される。どのような事例が採択されるのか、楽しみだ。
■神戸市 令和4年度「建築家との協働による空き家活用促進事業」
https://www.city.kobe.lg.jp/a01110/594556477340.html
■神戸市住まいの総合窓口 すまいるネット
https://www.smilenet.kobe-sumai-machi.or.jp/vacant/
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