リノベーション済み中古マンションを選ぶときのポイントは?
リノベーション済み中古マンションにはメリットが多い半面、住んでみたらこんなはずではなかった、見た目は良いが住み心地が悪いといった後悔の声を聞くこともある。
今回は建築士の視点から、リノベ済みマンションを購入する際に見落としがちなポイントや注意点、物件を見極める目安となる「インスペクション」や「適合リノベーション住宅」についてご紹介しよう。
リノベ済み物件とは、販売時にリノベーションを行った中古住宅のことで、その多くは事業者が専有部分を買い取り、さまざまな改装を施して再販売しているものである。
自分で中古住宅を購入後にリノベやリフォームをするとなると、予算立てやプランの検討、工事業者の選定、工事期間中の対応、ローンの手続きなどに手間と時間が掛かる。そもそも希望の改装ができるかを購入前に判断すること自体、一般的にはなかなか難しい。
リノベ済み物件のメリットは? 時には後悔の声を聞くことも
リノベ済み物件のメリットは、これらの手間や不安が無いところにあり、気に入った物件があれば、そこですぐに暮らし始めることができる。
コスト面でのメリットも見逃せない。リノベ済みなら工事費用を含んだ価格で販売されているので資金計画が立てやすく、業者価格で工事をするので、自分でやるより安く済むケースも多い。また自分でリノベをすると打ち合わせから完成まで3ヶ月以上掛かることもあるが、リノベ済みならその間の賃料が節約できる。
知人の編集者も最近、中古マンションを購入したのだが、物件選びの際に自分でリノベをするとなると費用感がつかめず、予算オーバーするケースも多いと聞いて不安になったとのこと。そんなときにちょうど希望していたエリアに、予算内のリノベ済み物件を見つけて購入したとのことだった。
しかしその編集者にも不安があるという。購入の際には、立地、価格、長期修繕計画や修繕履歴なども確認したそうだが、断熱に不安があり、先々に改めてリノベが必要になるかもしれないとのことだった。
リノベーションの定義はあいまい、工事内容は自分で確認が必要
リノベ済み物件を選ぶ大事なポイントは、どんなリノベーションが行われたかを知ることにある。
ひとくちにリノベ済みといっても、工事内容は物件によって異なり、工事範囲や品質によって快適性や利便性が大きく変わる。
そもそもリノベーションの定義はあいまいである。以前は、リノベーションというと全面改装をイメージすることが多かったが、最近はプチリノベといったワードも登場している。
リノベーションとは価値を向上させるもの、リフォームとは現状復帰といった定義付けをしている団体や会社もあるが、共に具体的な工事内容を示す言葉ではない。
実際には表面をキレイにしただけのリノベもあれば、価値や性能を向上させているリフォームもあり、言葉からだけでは工事内容は分からない。
どちらにしても大事なことは中身を知ることにある。家の住み心地は見えない部分が支えている。言葉や見た目に惑わされることなく、必要な工事がきちんと行われているかを見極めることが、リノベ済みマンションを選ぶ際の大事なポイントとなる。
築古マンションは冬に寒い。リノベ済み物件選びでは断熱の確認を忘れずに
それではリノベ済みマンションを購入する際にぜひ確認しておきたいこと、見落としがちなポイントをご紹介していこう。
まずは断熱について確認をしておこう。築年数が古いマンションは断熱性能が低く、冬に寒い。特に北向きの部屋は暖房をつけても寒く、結露に悩まされているという声が少なくない。
マンションは断熱性能が高くて暖かいと思われがちだが、コンクリートは木よりも熱を伝えやすく、また蓄熱しやすいため、冷えたコンクリートの壁に囲まれた部屋は冷蔵庫の中にいるような底冷えを感じる。その中で暖房をつければ、窓だけでなく壁面にも結露が発生し、カビの原因となる。
実際に、コンクリートの打ちっぱなしをイメージしたモダンデザインで、ひとめで気に入って購入したが、住んでみたら冬のあまりの寒さに驚いたというケースがあった。マンションは暖かいので安心という誤解が生んだ悲劇である。
もちろん断熱性能が高いマンションなら、冬でも暖かく快適で、暖房費も安い。そこでまずは、その建物の断熱性能を確認し、必要に応じて断熱工事が行われているかを確認しよう。
2000年に始まった住宅性能表示制度による「住宅性能評価書付き物件」であれば、性能の見極めがしやすい。それ以前の建物や、評価書が無い場合は性能が低いことを念頭に置いて、各戸で必要に応じた断熱工事を行っておくことが欠かせない。
各戸でできる断熱工事には、外壁に面した壁、最上階は天井、最下階は床に、それぞれ室内側から断熱施工をする、熱の出入りが大きな窓は内窓の取り付け、場合によっては断熱サッシに交換するなどがある。
リノベーションの内容に、これらの工事が含まれていれば快適に暮らせることだろう。外廊下式のマンションでは玄関ドアからも冷気が侵入するので、そちらも対策されているか見ておこう。
中には大規模修繕で、既に窓や玄関が断熱化されている物件もある。また今後の修繕計画に入っている場合もあるので、その辺りもチェックしておこう。
築古マンションで多い水まわりのトラブル。異音や逆流、漏水、水がまずいケースも
築古マンションで既存の洗濯機パンを撤去した様子。床に排水管が埋め込まれているため、新たに洗濯機パンを取り付けるためには床のかさ上げが必要になる。築古の場合、洗濯機置き場をかさ上げしているケースを見ることが多いが、使う人の身長や洗濯機の機種によっては中が見えにくくなることがあるので注意が必要だ水まわりの配管についても確認をしておこう。
リノベで新しいシステムキッチンやシステムバスが設置されていても、見えないところにある配管が古いままでは詰まりや漏水の不安がある。
配管に使用されている素材は時代と共に変化をしていて、古い時代のものは劣化をしやすく、錆や詰まりの問題がおきやすい。
築20年を過ぎている場合は、先々を考え専有部分の配管はすべて刷新されていることが望ましい。
実は、飲み水がまずいというのも築古マンションならではの問題だ。配管の劣化で錆などが水に溶けだし、浄水器を付けてもまずいという声もある。築古の場合は、実際に水を出してにおいや濁り、味を確認しておくといいだろう。
水まわりに関しては、工事技術も大事なポイントとなる。例えば、キッチンを無理に移動させ、排水こう配がとりきれずに詰まりを起こしたり、浴室の排水経路の設計が悪く浴槽のお湯を流すと逆流や異音が発生したりといったケースもある。これも見た目では判断が難しいので、実際に水を流して確認をしておけば安心だ。
ただしこれらは専有部分だけの工事では解決できず、共用部分に問題があることも少なくない。共用部分の修繕履歴やメンテナンス方法、今後の長期修繕計画なども併せて確認をしておこう。
給湯器も忘れずに見ておこう。給湯器の寿命の目安は10年ほど、交換されて新しくなっていれば安心だ。その際、省エネ性能に優れたタイプが取り付けられていれば、この先の光熱費の削減が期待できる。
ちなみに築古マンションでは室内型の給湯器を、リノベで屋外に移動させているケースもある。給湯器の位置が遠くなればお湯を出したり、お風呂を沸かしたりするのに時間が掛かり、その分若干ではあるが水道光熱費もかさむことは知っておこう。
マンションだからこそ、電気容量とインターネット回線の確認も忘れずに
リノベ済みマンションを選ぶ際に見逃しがちなのが、電気容量とインターネット回線だ。
マンションは各戸で使える電気容量に上限があり、築古マンションでは最大30Aの場合もある。そうなると希望の家電が使えない、すぐにブレーカーが落ちるといったことが起きる可能性がある。
見ておきたいポイントは、まずは分電盤の容量、それから各部屋のエアコン用コンセントが専用回線で確保されているか、子ブレーカーの数に余裕があるか、また必要な箇所にコンセントが設置されているかなども見ておくといいだろう。
インターネット回線に関しては、築古の場合は回線が古く、速度が遅い、光回線が使えないといったケースがある。インターネットが使えるといわれても、高速で快適に使えることとイコールではない。テレワークやインターネットを頻繁に使う場合は、忘れずに確認をしておきたい。
リノベ済みマンションを安心して選べる仕組み、インスペクションや適合リノベーション住宅
ここまでリノベ済みマンション選びで見逃しがちなポイントや注意点をご紹介してきたが、そうはいっても自分で見極めるのはなかなか難しい面もある。
そんなときは専門家の力を借りる、優良と認定された物件を選ぶといった手がある。それが「インスペクション」と「適合リノベーション住宅」だ。
インスペクションとは、専門家による建物状況調査、住宅診断を行うことをいい、中古住宅を購入する際にはぜひ利用したい仕組みである。構造部を調査するイメージがあるため一戸建てで利用するものと考えている人もいるが、リノベ済み中古マンション購入の際にも大いに役立つ。
インスペクションの項目はさまざまで、内容によって費用が異なり、目安は5万円ほどからである。マンションの管理状況を調べてくれるオプションコースなどを用意している会社もあるので、知りたいことや、今後知っておくと役立つことなどを聞きつつ、相談しながら依頼をするといいだろう。
適合リノベーション住宅とは、リノベーション住宅推進協議会が定めた「優良なリノベーション」が施された既存住宅を認定するもので、リノベーションに一定の基準を定めている。その中の「R1住宅」がマンションの専有部分を対象としたものである。
消費者が見えにくい重要なインフラ部分、給水管・排水管・給湯管・ガス配管・電気配線・分電盤・火報設備・下地組(床・壁・天井)・浴室防水などの13項目で基準を設定、検査を行った上で、品質確保と情報開示が行われる。
具体的には、給水管や給湯管の水圧試験、吐水や排水が正常に行われるか、ガス漏れの確認、通電・漏電の確認、分電盤の不備の確認、テレビ、電話、LANについて、断線等の不良が無いかの確認、下地の強度確認、浴室防水確認などが行われ、これらの13項目に関してはアフターサービス保証もついているので安心だ。
リノベ済み中古マンションは、物件によって工事範囲やレベルが大きく異なり、キレイにお化粧がされているからこそ、見逃してしまうこともある。
大事なことはデザインだけでなく、その中身をしっかりと確認、吟味することにある。せっかくメリットが多いリノベ済みマンションなのだから、気になることはどんどん質問しつつ、さまざまな仕組みや制度を上手に生かして、理想の住まいに巡り合っていただければと思う。
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