300年余の歴史ある旅館を継承、新しい空間が誕生

国道50号沿いに建つ白井屋ホテル(SHIROIYA HOTEL)。コンクリートに白い塗装で目立つ建物。写真/木暮伸也国道50号沿いに建つ白井屋ホテル(SHIROIYA HOTEL)。コンクリートに白い塗装で目立つ建物。写真/木暮伸也

群馬県の県庁所在地である前橋市は、明治時代に製糸業で栄えた都市のひとつ。百名山のひとつである赤城山があり、詩人・萩原朔太郎の出身地である。このことから自然、アートに恵まれた街と言われるが、率直なところ、出身者などゆかりのある人でなければ前橋と聞いてもすぐに具体的なイメージが浮かばなかったのがこれまでではないだろうか。お城や寺社仏閣のようなシンボリックな観光名所があるわけではなく、中心市街地も1990年代以降、元気がない。

だが、そんな前橋に2020年12月にこれまでの前橋では全く考えられないような、いや、前橋以外の多くの街でも考えられないような斬新な場が生まれた。白井屋ホテル(SHIROIYA HOTEL)である。立地するのは金融機関が並ぶ前橋市の中心部。国道50号沿いで、北側には飲食店街、商店街が広がっている。

国道50号沿いに建つ白井屋ホテル(SHIROIYA HOTEL)。コンクリートに白い塗装で目立つ建物。写真/木暮伸也既存建物内部は大胆に減築、リノベーションされている

新しく生まれた場でありながら、白井屋というレトロな名称を冠しているのは、建物のうちの半分が江戸時代に創業、旧宮内庁や森鴎外、乃木希典といった多くの芸術家や要人に愛された「白井屋旅館」を受け継いでいるため。白井屋旅館は1975年にホテルに建て直されたが、2008年に廃業。しばらく放置されていたが、取り壊してマンションになりそうというタイミングの2014年に継承され、ホテルとして再生されることになった。

買い取ったのは前橋市出身で眼鏡の製造販売を手掛けるJINS(ジンズホールディングス)の代表取締役CEOの田中仁氏である。街づくりなどには全く興味が無かったという田中氏だが、2010年に起業家を表彰するプロブラム「EYアントレプレナー・オブ・ザ・イヤー・ジャパン」で大賞を受賞、翌年に海外の起業家たちとの交流を経験したことで意識が変わった。彼らはビジネスだけでなく、社会貢献活動にも熱心に取組んでおり、そのエネルギーに衝撃を受けたのだ。

「ちょうど50歳を迎える頃でもあり、会社と個人以外にエネルギーを使うほうが人生が豊かになるのではないかと考え、群馬イノベーションアワードや群馬イノベーションスクールを立ち上げ、群馬県で起業家を生み出す活動を始めることにしました」

そんな折、すでに地元で活動していた若い人たちに白井屋をなんとかしてくださいと懇願され、つい購入してしまったというのが経緯である。

国道50号沿いに建つ白井屋ホテル(SHIROIYA HOTEL)。コンクリートに白い塗装で目立つ建物。写真/木暮伸也既存建物の壁にはかつてのホテル名が残されている
国道50号沿いに建つ白井屋ホテル(SHIROIYA HOTEL)。コンクリートに白い塗装で目立つ建物。写真/木暮伸也グリーンタワーに設置された新しいホテルロゴ。シンプルながら洗練されたデザイン

建築家、アーティストが次々に参画

購入当初は運営会社に依頼、運営してもらおうと思っていたそうだが、相談すると「ホテルは人の集まるところに作るもの。今の前橋ではビジネスホテルならまだしも、それ以外のホテルは難しい」という答えが返ってきた。その時、「そもそも前橋はどんな街?」と聞かれて答えられなかったことがショックだったと田中氏。その2ヶ月後、前橋市長の訪問を受けたが、市長もまた、さまざまな分野における構想を持ってはいたものの、ビジョンを一言で表現することができなかった。だが、ビジョンが無ければ価値は作れない。

そこで田中氏は、2014年に田中仁財団を設立。前橋市のビジョンの設定、前橋まちなかエージェンシーの開設など前橋市を中心に群馬県内でさまざまな活動を始める。白井屋ホテルはそのうちのひとつとして田中氏が個人で取組んだものである。

運営事業者に断られた後、田中氏はこのプロジェクトをさまざまな人たちに話し、建築家やアーティストを巻き込んでいく。最初に参画したのが建物の設計に当たった建築家の藤本壮介氏だ。現在では日本を代表する建築家と評されているが、田中氏は有名になる前の藤本氏と繋がりがあった。その縁で建物を見てもらったところ、面白がって参画することに。

こちらは以前記事で取り上げた藤本壮介氏の東京アパートメント。2010年に板橋区の住宅街に建てられたこちらは以前記事で取り上げた藤本壮介氏の東京アパートメント。2010年に板橋区の住宅街に建てられた

さらにその繋がりからロンドン出身のプロダクトデザイナー、ジャスパー・モリソン氏が前橋を訪れ、「何もない、だから面白い」と仕事としては受けないとしながらもボランティアとして参加してくれることになった。同様に金沢21世紀美術館のスイミングプールで知られるアーティストのレアンドロ・エルリッヒ氏も躯体だけになった建物、寂れた街を面白がって加わった。

「価値がないものを価値あるものにする、それがアーティストにとっては醍醐味。その意味で白井屋ホテル、前橋は彼らにとって魅力的な素材だったのです」

こちらは以前記事で取り上げた藤本壮介氏の東京アパートメント。2010年に板橋区の住宅街に建てられたジャスパー・モリソン氏が手掛けたスペシャルな部屋。この部屋限定で泊まりたい人が集まっているそうだ。写真/木暮伸也
こちらは以前記事で取り上げた藤本壮介氏の東京アパートメント。2010年に板橋区の住宅街に建てられたこちらもスペシャルルーム。どことなくニューヨークのビル街をイメージさせるレアンドロ・エルリッヒ氏のデザイン。写真/木暮伸也

6年半がかりで改修、新棟も建設してスタート

地元で活動する白川昌生氏の円環ー世界 「生成するもの Ⅰ」。1992年の作品である地元で活動する白川昌生氏の円環ー世界 「生成するもの Ⅰ」。1992年の作品である

建築好きではあったものの、アートに関心があったわけではなかった田中氏が最終的にアートホテルを作ることになったのは、面白がってくれるアーティストたちに応えた結果というわけである。

また、彼らの参加は田中氏のリミットを外しもした。本物の作品が置かれた空間をいい加減に作るわけにはいかない。だったら、徹底的にこだわって作ろうと採算度外視で取組むことになったのである。

それがまた、参画する人たちの創造力に火を点けたであろうことは間違いない。普通なら、採算や収益から考えて作られるものが、そのリミットがなく、良い空間を作ることだけを考えて作ってもよいとなったら、モノを作る人たちがどれだけ興奮するか。オーナーとアーティストの創作欲の相乗効果がこのホテルを生み出したのだ。

地元で活動する白川昌生氏の円環ー世界 「生成するもの Ⅰ」。1992年の作品であるフロント近くに飾られているコンセプチュアル・アートの旗手、ライアン・ガンダーの作品《By physical or cognitive means (Broken Window Theory 02 August)》。割れ窓理論にインスパイアされたものとか
館内で使われているものはすべて本物。これはジャスパー・モリソンルームの浴槽。木に真鍮である。写真/木暮伸也館内で使われているものはすべて本物。これはジャスパー・モリソンルームの浴槽。木に真鍮である。写真/木暮伸也

全体像を考えてからのスタートではなかったということもあり、建物取得からホテルオープンまでは6年半かかった。収益を考えたらあり得ない長期の計画で、田中氏も本業の会社としての仕事だったらできなかっただろうと笑う。だが、この時間がプラスに働いた。多くのアーティストが参加してくれたことはもちろんだが、隣接地の取得が可能になったのだ。

もともとの白井屋ホテルが立っているのは背後を流れる馬場川の河岸段丘上。隣接地はその段丘崖に当たる傾斜地で、それを利用して新棟を建設することが可能になった。最終的に白井屋ホテルは既存建物を利用したヘリテージ棟、段丘崖に立つ緑に覆われた小山のような、グリーンタワーの2棟からなる、表と裏に2つの顔を持つホテルとして誕生することになったのである。

地元で活動する白川昌生氏の円環ー世界 「生成するもの Ⅰ」。1992年の作品である手前がグリーンタワー。2棟があることで世界が成り立っている。写真/木暮伸也

随所に本物のアートが点在、目を奪う

駅からは見事なケヤキ並木の道が続き、その下を歩いてくれば自然に到着する。徒歩十数分といったところ駅からは見事なケヤキ並木の道が続き、その下を歩いてくれば自然に到着する。徒歩十数分といったところ

実際のホテルを見て行こう。前橋駅からケヤキ並木を歩くこと十数分。国道50号沿いにホテルが見えてくる。そこまでの高い建物とは違う4階建てのコンパクトな建物で、白く塗られた外壁にはホテル名と英文が書かれた4枚のタグが掲出されているが、これは1960年代に台頭したコンセプチュアル・アートを牽引してきたアーティストのひとり、ローレンス・ウィナー氏の作品。言葉を主要なメディアとして制作活動を続けてきているそうで、書かれた言葉は前橋の歴史や風土、地勢的な特徴や街のビジョンなどを踏まえたうえで選ばれ、制作されているそうだ。

ホテルへは建物右手の通路から向かう。この通路は裏手にあるグリーンタワーへの入口でもあり、コンクリートが現しになった柱、梁がダイナミックな空間である。国道50号沿いの建物前面、通路ともにふんだんに緑が配されており、これはヘリテージ棟1階も同様。まるで温室の中でもあるかのような、非日常的な雰囲気なのである。

この通路は隣接する建物内のオールデイダイニング「the LOUNGE」のアウトドア部分でもあり、ランチやカフェが楽しめるようにテーブル、椅子が用意されている。ちょっとお茶でもというときに気軽に使える場なのだ。

駅からは見事なケヤキ並木の道が続き、その下を歩いてくれば自然に到着する。徒歩十数分といったところ国道50号側からグリーンタワー方面を見たところ。豊富な植栽のある開放的な空間
玄関脇で印象的なのがリアム・ギリック氏のInverted Discussion(左。2020年)とUnity Channelled(2019年)玄関脇で印象的なのがリアム・ギリック氏のInverted Discussion(左。2020年)とUnity Channelled(2019年)

玄関を入る手前の壁にあるのはイギリス生まれで現在はニューヨークで活動しているリアム・ギリック氏の上下がさかさまになった馬に乗った人々の絵、カラフルなボックスという2作品。中世を思わす絵といかにも現代の作品が並んでいることにどういう意味があるのか。それについてはぜひ、宿泊時に聞いてみてほしい。

玄関を入ると正面にフロントがある。黒を基調とした落ち着いた空間で、そこにさらに静寂な空気を加えているのが日本はもちろん海外での評価も高い杉本博司氏の写真作品「海景」のうちの1点、「ガリラヤ湖、ゴラン」。

ご存じのように「海景」は同じタイトルの下にさまざまな海の風景が撮影されているが、ここに掲げられているのはイエス・キリストが幾多の奇跡を行ったとされるイスラエルの湖。「海景」作品のうちでは唯一の淡水湖である。

白井屋ホテルを訪れた杉本氏は、海の無い群馬県の、奇跡のホテルには奇跡の湖がふさわしいとこの作品を選んだのだとか。付け加えると会計する場に海景という親父ギャグ的な裏テーマもあるそうで、近寄り難く思っていたアートの巨人、杉本氏が急に身近に思えたことをナイショでお伝えしたい。

駅からは見事なケヤキ並木の道が続き、その下を歩いてくれば自然に到着する。徒歩十数分といったところフロントに飾られているのは杉本博司氏の「海景」シリーズの1点。写真ではぼんやり見えてしまうので、ぜひ、これは現地で見ていただきたい

4層吹き抜け、躯体を彩るパイプアートに注目

このアーティステックな一皿がすいとんに発想を得たものと聞いて驚くのは私だけではないと思う。写真/木暮伸也このアーティステックな一皿がすいとんに発想を得たものと聞いて驚くのは私だけではないと思う。写真/木暮伸也

フロントの裏にはメインダイニングである「the RESTAURANT」が配されている。キッチンは客席に囲まれ、シェフの一挙一動がすべて見え、対話もできるオープンなものとなっており、地元群馬の食材を現代風にアレンジした食事が供される。前橋市の観光案内をみると、豚肉料理や焼きまんじゅうが名物とあり、おっきりこみ(幅の広いうどん)やすいとんなども知られた存在。そうした素朴な素材がどのようにアレンジされているのか。キッチンの美しい空間からはたぶん、誰も知らなかった味が生み出されているのだろうと思う。

このアーティステックな一皿がすいとんに発想を得たものと聞いて驚くのは私だけではないと思う。写真/木暮伸也客席から舞台を楽しむように調理風景を楽しめるような設え。シェフとの会話も楽しめる
ランチ、ティータイムとずっと多くの人で賑わっていた。おしゃれをして行ける場所ができたと喜ぶ声もあったそうだランチ、ティータイムとずっと多くの人で賑わっていた。おしゃれをして行ける場所ができたと喜ぶ声もあったそうだ

1階にはもうひとつ、オールデイダイニング「the LOUNGE」があるのだが、これが圧巻。4階まで吹き抜けになっており、そこに以前あったはずの水道管をイメージしたパイプが縦横に走っているのだ。これは前述のアルゼルチン出身の作家レアンドロ・エルリッヒ氏の作品「Lighting Pipes」。取材に訪れた日はグリーンタワーの馬場川通り沿いにブルーボトルコーヒーがオープンした日だったため、パイプはブルーだったが、通常は電球色に近い色となっており、夜10時以降はいろいろな色に変わるという。

ダイニングには日本に十数台ほどしかないというスタインウェイの自動演奏機能のあるグランドピアノも置かれている。もちろん、壁にはアート作品が掲げられ、置かれている家具は名品揃い。植栽も豊富。オープン以来、建築、アート、デザインと幅広い関心を持った人が訪れているそうだが、この場に立てば理由は分かる。見に来たくなる空間なのである。

この空間は宿泊すれば上から眺めることもできる。2階以上は宿泊者しか入れないのだが、吹き抜けを囲むように廊下が配され、吹き抜けの中を下りる階段が作られているのだ。特に4階の吹き抜けに面したジュニアスイートとデラックスルームの2室にはバルコニーがあり、眼下にパイプ、柱、梁に緑が望める。夜、闇に光るパイプを想像すると、ちょっとわくわくするではないか。きっと映画「ブレードランナー」の、空を飛ぶ乗物から眺める下界のような風景が広がるのではなかろうか、妄想は果てしなく広がるのであった。

このアーティステックな一皿がすいとんに発想を得たものと聞いて驚くのは私だけではないと思う。写真/木暮伸也どこから見ても絵になる吹き抜け部分。減築して吹き抜けを作ったのは部屋数、収益よりも空間の豊かさを優先したため

25室それぞれに違う間取り、設え、アートが楽しめる

4階のジュニアスイート。窓の外も楽しめる。この右奥に寝室、バスルームがある。撮影/木暮伸也4階のジュニアスイート。窓の外も楽しめる。この右奥に寝室、バスルームがある。撮影/木暮伸也

ホテル内ではいくつかの部屋を見せていただいた。最初の部屋は4階、吹き抜けに臨むバルコニーのある57m2と最も広いジュニアスイートルームだ。藤本壮介建築設計事務所がデザインを手がけ、村田峰紀、鈴木ヒラク両氏の作品が設置されている。前述した眼下に吹き抜けを見下ろすバルコニーのある部屋で、入ったところにバルコニーのあるリビング、その奥にベッドルームとバスルームがあるのだが、おそらく誰もが驚きの声を挙げるのが空間を贅沢に使ったバスルーム。

優雅な楕円形のバスタブがタイル張りの空間の中央に置かれ、バスタブの脇、壁にはヴィンテージ感のある真鍮製のシャワーヘッド、水栓が。館内ではバスルームに限らず、洗面所の水栓その他であちこちに真鍮が使われているのだが、ご存じのように真鍮は美しさを保つためには手間がかかる。それをあえて使っているのは空間の美しさへのこだわり。絵になるバスルームなのである。

こだわりは他にもある。ひとつはアメニティ類。普通はビニールに包まれた使い捨ての品が用意されているものだが、白井屋ホテルでは環境に配慮し、木のボックスの中に紙箱で用意。竹の歯ブラシなど持ち帰ってその後も使えるようになっており、無駄なゴミを発生させない。シャンプーやボディソープなどは地元生まれのオーガニックスキンケアブランド「OSAJI」を利用しているそうだ。普通はビニール製が用意されるランドリーバッグも木綿製となっており、持ち帰りが可能だ。

4階のジュニアスイート。窓の外も楽しめる。この右奥に寝室、バスルームがある。撮影/木暮伸也贅沢なバスルーム。個人的にはぬるい湯に漬かりながら本を片手にワインを飲みたい。写真/木暮伸也
上毛かるた。お土産に買って帰るのも一興。フロント脇では正面の作品をあしらったつなぎなどホテルオリジナルグッズが販売されている上毛かるた。お土産に買って帰るのも一興。フロント脇では正面の作品をあしらったつなぎなどホテルオリジナルグッズが販売されている

もうひとつ、この土地らしいこだわりが各部屋に用意された上毛かるた。上毛とは群馬県の古称で、上毛かるたはその名の通り、県内の名所旧跡や群馬県出身の有名人などを札とした郷土かるた。1947(昭和22)年に発行され、毎年開催される上毛かるた競技県大会は70回を超すという全国でも有数の歴史を誇る郷土かるたで、群馬県人なら誰もが知っていると言われるほど。県民なら懐かしく、それ以外の人には群馬を知るためのツールとして役立つはずで、宿泊したらぜひ遊んでみたい。

ヘリテージ棟でもう一部屋見せていただいたのが藤本壮介氏が前橋市のビジョン「めぶく。」をテーマにデザインした部屋。室内の家具から管が伸びており、そこにベンジャミンが生けられているという、世界に一室しかないなんとも不思議な部屋である。

4階のジュニアスイート。窓の外も楽しめる。この右奥に寝室、バスルームがある。撮影/木暮伸也「めぶく」がテーマの藤本壮介ルーム。カーペットは現しのコンクリートを表現したもの

グリーンタワーにはサウナ、前橋初出店の店舗も

カラフルな鬼頭健吾氏の作品に圧倒される。2021年12月のホテル開業1周年に向けて、彼の作品でホテルのパサージュを彩るイルミネーションのためのクラウドファンディングが行われているカラフルな鬼頭健吾氏の作品に圧倒される。2021年12月のホテル開業1周年に向けて、彼の作品でホテルのパサージュを彩るイルミネーションのためのクラウドファンディングが行われている

続いてはグリーンタワー棟。全25室のうち、8室がグリーンタワー棟にあり、全室、山を穿ったような形のバルコニーがあるのが特徴。室内もそれぞれ別のデザインとなっており、見せていただいたのは高崎を拠点に活躍する若手アーティスト・鬼頭健吾氏による、壁に色とりどりのLED照明と管が這う部屋。原始の生命体のようでもあり、未知の宇宙のようでもある不思議な作品で、ここに泊まると元気になりそうである。

グリーンタワーは山の中に部屋があるだけではなく、外にも小屋が点在している。そのうちのひとつがサウナ。手前にある着替え小屋を利用し、続いて山を少し上ったサウナ小屋で暖まったら、さらに山を登ってベンチで外気浴というのがここでのサウナの楽しみ方なのだとか。ベンチの先には宿泊者限定で見ることができる宮島達男氏のアート部屋もあり、特別感たっぷりである。1日4組限定で宿泊者のみ利用できる。1階にはミストサウナもある。

カラフルな鬼頭健吾氏の作品に圧倒される。2021年12月のホテル開業1周年に向けて、彼の作品でホテルのパサージュを彩るイルミネーションのためのクラウドファンディングが行われているサウナ小屋から上ったところにある外気浴スペース。奥にあるのは宿泊者だけが見られる宮島達男氏のアート空間。外壁には時間で変わる数字が表示されており、一部の客室からは移り変わりが楽しめる

グリーンタワーを下りると馬場川沿いには店舗が並ぶ。建物に向かって右にはフレッシュなフルーツを使ったタルトの店「the PÂTISSERIE」があり、左側には2021年9月17日にオープンした「ブルーボトルコーヒー白井屋カフェ」。いずれも前橋初の店だ。真ん中には2021年11月にベーカリーがオープンする予定だ。

ちなみに馬場川沿いは今後整備の予定があるそうで、現在はいささか乱雑さもあるが、雰囲気は金沢市の中心部を流れる鞍月用水に似ており、整備された日には散歩の楽しい名所になりそうだ。また、馬場川沿いを東に向かうと現代美術が楽しめるアーツ前橋があり、西に向かうとアーケードのある中央通り商店街があり、最近はしゃれた新店も登場しているとか。田中氏の活動や白井屋ホテルに刺激を受け、街が動き始めているというのである。

最後に宿泊したい人のための情報を。ご紹介したのはわずか3室だが、全25室は間取り、広さやインテリアがそれぞれに異なり、吹き抜け同様にパイプが配された部屋があったり、檜風呂のある木の箱のような部屋があったりとどれもがオンリーワン。予約時に部屋を指定できるスペシャルルームもあるが、どの部屋になるかをどきどきしながら予約するほうが逆に楽しい気もする。

また、季節によってはカヌー体験、ハイキングなどのアクティビティを手配してもらうこともでき、県内の美術館のチケットとセットになった宿泊プランも用意されるとか。ホテル滞在を目的としても良し、こうしたアクティビティも含めて楽しんでも良し、どうやらこれまで知られていなかったものの、前橋は、群馬は意外に面白そうである。


白井屋ホテル
https://www.shiroiya.com/

カラフルな鬼頭健吾氏の作品に圧倒される。2021年12月のホテル開業1周年に向けて、彼の作品でホテルのパサージュを彩るイルミネーションのためのクラウドファンディングが行われている馬場川沿いの様子。左奥が取材当日にオープンしたブルーボトルコーヒー白井屋カフェ。右手がフルーツタルトの店で、中央にはベーカリーが予定されている
カラフルな鬼頭健吾氏の作品に圧倒される。2021年12月のホテル開業1周年に向けて、彼の作品でホテルのパサージュを彩るイルミネーションのためのクラウドファンディングが行われている商店街に誕生し、話題になっている和菓子店・なか又の店頭。ブルーボトルコーヒー白井屋カフェでも味わうことができる

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