機能性椅子の効用
住まいはすべての生活の中心となった。パンデミックにより、家は食事や休息に加え、外で行っていた仕事や学習、娯楽の場としても使用する場となった。住まいの在り方が急速に変わる中、ニューノーマルの暮らしを快適にする機能性椅子についてお伝えする。
家で仕事を行う時間が各段に増え、これまで気づかなかったオフィスの椅子の性能を感じた方もいるのではないだろうか。家庭用の椅子は主に食事や談笑のためのもので、作業性を視野にいれたものではない。タスクチェアと呼ばれる仕事をするための椅子には、体形に応じた高さの調節はもちろん、座面の傾斜やアームの位置や高さ、座が前後するなど、座って仕事を行ううえでサポートとなる機能が組み込まれている。
近年長時間座ること自体が健康を損なうリスクになるともいわれる。家で働く時間が増えた今、タスクチェアは健やかに働くことにもつながる。家庭でのサイズ感はオフィスとは異なる。また、機能も欲しいが家庭に置くものは周囲になじむタイプが良いという方もいるだろう。
見た目だけでは分かりづらい機能性椅子。比較的手ごろでコンパクト、程よく機能も備えるホームオフィスにおすすめの、タスクチェアの特徴についてご紹介しよう。
機能に加え、色やデザインも工夫
仕事用の椅子-と聞くと、無機質なイメージを持つかもしれないが、人間工学に基づき、デザイン性もあり、色も豊富なものが出ている。家庭で使用するには硬さや重さを感じさせない、明るく軽い色のものもよいだろう。省力化やメッシュによりボリュームを抑えたものや白をアクセントにしたデザインは、モダンで軽快なデザインとなり、家庭でも取り入れやすい。
機能のポイント
アーロンチェア:ハーマンミラージャパン株式会社
大きさが3種類あり身長に合わせて選ぶことができる。色はモノトーンのバリエーションからなっていて作業内容に応じて座面を5度前傾させることができ、背と座面は異なる張力のゾーンが組み合わされ疲れにくい構造になっている◆自然なS字カーブ
椅子で重要なポイントの一つに、座ったとき「背骨が自然なS字を描けること」がある。S字を描きながら座ることができる椅子は、疲れを軽減することができる。多くのタスクチェアは体を支えながら動きを妨げず、自然にS字カーブを描いて座ることができる構造になっている。
◆腰をサポート
タスクチェアには、背の下部に、腰をサポートする機構がついているものも多い。背の後ろから腰椎をサポートするものや、特に別のパーツで腰を安定させる機構がついているものもある。ランバーサポートという腰椎をサポートする機能や骨盤をサポートする機能など、タスクチェアは体の負荷を軽減する機能を備えるものが多い。
PC作業を行うことが増えた現在、長時間座っていても疲れにくい椅子の要望に応え、さらに改善され操作もシンプルに取り入れやすくリ・デザインされつつある。最新の人間工学で導き出した前傾姿勢の角度を取り入れ、背中から腰までをサポートして座面の硬さも部分により組み合わせるなど、長時間の着座でも疲れにくい工夫がなされている。
◆通気性のある素材と軽快な快適性
仕事用の椅子は、長時間の着座でも、蒸れない、通気性のある、テンションが適度にかかった張地のものが良い。オフィス椅子というと重厚な張地のイメージだが、ハンモックのように軽快に体を支える人間工学の発想より、メッシュ素材が採用されるようになった。人間工学により考案されたテンションの異なる張地によるフィット感の向上や、通気性をよくして熱をこもらせない工夫で皮膚の温度を一定に保つなど、快適な座り心地も考慮されているものがある。
メッシュ素材の張地や網目機構の椅子は見た目にも軽快なイメージとなり、直線的デザインが多い日本のモダンなインテリアにもなじみやすいだろう。
便利なキャスター、床との相性をチェック
XT4201モデル パールホワイト ピュアビーチ:カリモク家具株式会社
家庭にもなじみやすい木を使用。背は「積層曲木」に弾性があり蒸れにくい布バネを使用していて、背中にやさしくフィットする。キャスターはウレタン製で、脚は家庭でも場所を取らないよう内側にカーブしている。座はお尻が前に滑らないよう窪みが設けられ、張地は35色、木部は5色から選べる。カリモク家具は採取後処分されるゴムの木の再利用や小径木の利用など「木とつくる幸せな暮らし」の考えをもとに共生型・循環型の製品づくりに取り組んでいるタスクチェアには、プリンターを使用したり書類を取ったりと、いちいち立たなくても小さな移動を可能にして回転しやすくするキャスター付きの物が向いている。
タスクチェアが多く使われるオフィスでは、タイルカーペットやフロアタイル敷きの床が多く、それらでの使用を前提としているものが多い。キャスターには主にナイロン製やウレタン製、ゴム製の3種類がある。日本の住宅で多いフローリングの床には、傷をつけにくいウレタン製のキャスターがよい。また、床にマットを敷いたり椅子が稼働する範囲に保護シートやタイルカーペットを敷くなど、必要に応じ床が凹んだり傷がつかないよう対応をするとよいだろう。
ゴム製のものは、摩擦でゴムが黒く床に付く場合もある。住宅の床の仕上げは事務所とは異なるので注意が必要である。キャスターの選択が可能な場合は床材に合わせ対応するとよいだろう。
アームやヘッドレスト
◆アーム
両腕の重さは体重の10%以上、60kgの体重なら約7㎏といわれる。机の天板はU型やL型もあるが、多くは長方形である。アーム付きの椅子で、90度くらいの肘を曲げた高さに合わせ、肩にかかる腕の重さを軽減するとよいだろう。多くのアームパーツは高さだけでなく左右にも調整が可能で、アームの角度が開くものもある。体や肘の幅に合わせてアームを調整し、キーボードを挟んで体の位置が均等に、窮屈にならないよう調節するとよい。アームの取り付けが選択できるものもあるので、場合によっては片アームにして、机や場所の形状に合わせてもよいだろう。
PCや物を書くとき、肘を机に置いて作業をするという方も多くなっている。また、創作や演奏などの特殊な作業では、必要や好みに応じ可動域を増やし作業をしやすくするとよいだろう。そんなに座らないのでインテリアを優先したいという方もいるだろう。そのような場合には、テーブルと一体型のラウンジ風の椅子でおしゃれにしてもよいだろう。
◆ヘッドレスト
ヘッドレストは、首や肩の負担を軽減するが、住宅のホームオフィスでは時として存在を目立たせてしまうこともある。機能も装備したいが、存在が増し違和感が生じるのを避けたいときは、背もたれが高いハイバックのものや、小柄な方はローバックを検討してもよいだろう。スーツや上着を掛けるハンガー付きのものもあるが、後ろが出っ張るのでスペースの確保が気になる家庭では特になくてよいだろう。
前傾姿勢とリクライニング機能の重要性
エルゴヒューマン:株式会社関家具
独立式ランバーサポートが背骨のラインを自然なS字カーブに導きサポート。体格に合わせ各部が細かく調整でき、男女問わず快適に使用できる。座面の高さや奥行き、リクライニングの3つの機能調整が1本のレバーに集約され、直観的な操作が可能。張地は3種類、計14色から(機種による)、座面も2タイプと、好みや用途に合わせ選択できるタスクチェアには座面が傾き前傾姿勢の保持をサポートするタイプのものがある。前傾姿勢にすると、PCや物を書く動作で生じる前かがみによる腹部の圧迫や腰痛を軽減することができ、背筋が伸びて姿勢を適正に保ちやすくなる。背を傾斜させるリクライニング機能もポイントである。前傾姿勢で適度に背にもたれることにより、背骨が自然なS字カーブを描いて適正な姿勢を保ち、長時間の作業でも疲労しにくくなる。
オフィスと異なり、自宅では作業に没頭して時間を忘れてしまうこともある。リクライニング姿勢を取ってリラックスするなど、上手くコントロールする工夫をするとよい。リクライニングの傾斜が調節できるものもあるので、好みの角度に調節し適度にリフレッシュするとよいだろう。
座面の高さはかかと全体が床に着くようガス圧またはレバーやダイヤルで調整し、座面が前後に動いて奥行きが調整できる場合は、座と脚の間に指が2本入る程度の隙間を持たせ、太ももを圧迫しないようにするとよい。
良い椅子は、働くストレスを軽減し、より良い思考に役立つ
良い椅子とは、座り心地が良い、疲れにくい、など人間工学的評価を思い浮かべるが、快適な椅子が人のストレスを軽減するのか、思考にどの程度違いを生じさせるかの研究もされている。
ハーマンミラーがTexas A&M Ergonomic Centerと行った生産性と認知能力に使われる認知神経評価を用いた研究では、一人で自動調節可能なハイバックのチェアに座り仕事をしていたとき、座っている被験者の心拍変動率が、9回の実験のうち7回と、統計的に低くなることが分かった。心拍変動率が低いということは、座っている間被験者があまりストレスを感じなくリラックスをしていたことを示している。
実験では、調節ができない椅子、高度な調節機能付きの椅子、自動調節可能な椅子の3種類での比較が行われ、心拍数の測定と、意思決定をつかさどる前頭葉の血流の測定がされた。
タスク(仕事)をするために研究と改良が行われ、作業性の向上に加え座ること自体も快適になるよう改良が加えられ、また環境負荷の少ない素材が採用されてきている。快適な椅子は、仕事の切り替えをリラックスして自然に行うサポートとなり、意思決定の速度が速くなることが示されている。機能は多い方が体に合わせられるが、価格も上がる。機能が増えれば操作のストレスも生じかねず、高機能が過ぎても快適とは一概にいえないのである。
機能性椅子のデザインも多彩になり、効率のよい省力化も行われている。色のついたメッシュ素材やカラフルな張地のもの、蒸れにくいものや脚部がスチールやアルミ色ではなくオフホワイトの物もある。ステイホームの状況となり、これまで試すことが難しかった機能性椅子を試せるショールームもオープンし、ワークプレイスに関する世界最大規模の展示会「オルガテック」も来年東京で開催される。機能性椅子の価格は高めであるが長く使用できる。長い目で見て、健康と発想やストレス軽減の観点からもお気に入りの良い機能性椅子を検討し、快適な家での働きの場を実現するとよいだろう。
公開日:










