昭和の旅館をリノベーションし保護猫カフェへ
東京都千代田区秋葉原。近年大規模な再開発が進むエリアに譲渡型保護猫カフェ「ちよだニャンとなるcafé」ができたのは2018年10月。昭和27(1952)年に建てられた旅館をリノベーションして営業しているここは、「秋葉原の歴史を語る古民家で保護猫との新しい出会いをつくる」ことを目的につくられた場所だ。
古民家をリノベーションして活用する、という例は最近では珍しくない。カフェ、シェアオフィス、ゲストハウス、賃貸物件へといろいろな活用法がある。「ちよだニャンとなるcafé」もその一例として紹介するとともに、千代田区と地域の協働で8年連続猫の殺処分ゼロの成果をあげた“千代田モデル”についてもふれてみたいと思う。
耐震補強、想定外の工事で費用がかさむも…
秋葉原、中央通りから一本入ると静かな住宅街が広がっている。その一角にあるのが「ちよだニャンとなるcafé」だ。上野駅に到着する商売人や観光客向けに営業していたという旅館「東館(あずまかん)」の一部を改装して利用している。
「レトロな外観が古い建物が好きな方たちの間では有名だったようで、工事が始まるとそういった方々がたくさん声をかけてくださって。旅館を再開するのか?ゲストハウスになるのか?と聞いてくる方もいました。みなさんここが何になるのか気がかりだったみたいです」と話すのは、カフェの運営をする一般財団法人ちよだニャンとなる会・事務局の相﨑裕子さん。
2018年の5月に耐震補強と改装工事がスタート。玄関のレトロなガラス戸や階段の装飾など、当時のおもかげはなるべく残しつつリノベーションを施すことになったが、築70年近くたった建物だけに想定外の出来事も。
「建物自体の傾きの問題もありましたが、何よりも耐震補強を徹底するための工事費用がかさんで、予算をオーバーしてしまったんです」 (相﨑さん)
「東館」の活用にあたり、千代田区の外郭団である"まちみらい千代田"の支援事業「千代田まちづくりサポート」の普請部門にエントリー。約1年半のプレゼンテーションを継続し、500万円の助成を受けることが決まったものの耐震補強に想定外のコストがかかり、費用を捻出するためにクラウドファンディングをスタートさせた。
その結果700万円以上の寄付が集まり、2018年10⽉無事にオープンを迎えることとなった。
保護猫とふれあう機会を増やしたい
「ちよだニャンとなるcafé」は、カフェと名が付くものの、飲食はできない。ふれあいを目的とする一般的な猫カフェに対して、ここは猫のいる古民家空間を楽しむための譲渡型保護猫カフェだ。なぜこのような場所をつくることになったのか…。
店舗の運営は、2001年から千代田区とともに「飼い主のいない猫の去勢・不妊手術費助成事業」のボランティアとして活動してきた一般財団法人ちよだニャンとなる会が行っている。
「日本では、全国的に行政も完全室内飼育を推奨しています。外に猫がいる風景はのんびりして良いと思われる方も多いのですが、先進国のなかで猫が外で暮らしている国はないんです。ですから、私たちの団体では、⾞にひかれたり、川で溺れた飼い主のいない猫を保護して譲渡する活動を、千代⽥区と協働でずっと続けてきました」(相﨑さん)
活動のかいあって、千代⽥区では猫の殺処分ゼロを8年継続しているが、人に慣れていない成猫もいるため、譲渡といってもそんなに簡単な話ではない 。少しでも人とふれあう機会を増やし、成猫の譲渡につなげられるようにと始まったのが「ちよだニャンとなるcafé」だ。
まちづくりの拠点として空き家や歴史的建造物、空き地などを改修し活用する市民の活動支援を行っている千代田区。古民家の活用方法を探っていた行政と、うまくマッチングした形で、カフェの運営がスタートした。
行政とボランティアの協働“千代田モデル”を広げたい
相﨑さんとともに筆者の質問に耳を傾けてくれるはなちゃん。資料が見えない…。「はなちゃんは、ビニールなどの異物を飲み込んでしまって、保護したときは腸閉塞になっていました。外で食べ物を探しているうちに飲み込んでしまったのでしょう。同じ月齢の猫よりも体が小さかったのですが、今ではなかなかの重量級に育ちました。ほかにも、工事現場など危険な場所に入り込んでケガをしてしまう猫ちゃんもいて、よくレスキューに行くんですよ」と相﨑さん。
それぞれのストーリーをもった成猫たちが保護されている「ちよだニャンとなるcafé」。通常の猫カフェとは勝手が違う面もあるので、HPをチェックしてから出かけてみてほしい
「ちよだニャンとなる会」は、カフェの運営だけでなく2016年から毎年2月に千代田区と共催で「ちよだ猫まつり」を開催してきた。獣医師や動物愛護の専門家が登壇する講演会や、愛猫家のミュージシャンによるライブ、猫グッズや猫をモチーフにしたスイーツが並ぶ「ニャンだフルマーケット」などが盛大に行われ、猫の譲渡会も同時に開催している。
「毎年大勢の方が参加してくださって、啓発としてはうまく機能していると思います。ただ、譲渡会をやってもその場で1回ふれあっただけでは、受け入れが決まらないことが多いです。今は『ニャンとなるcafé』という拠点ができたことで、一度見て気になった猫ちゃんに何度も会いに来てもらうことができますし、より多くの人に保護猫の存在を知ってもらえるのではと期待しています」
と、相﨑さんは話す。
行政とボランティアが協働で猫の問題に取組み、殺処分ゼロの成果をあげた“千代田モデル”。「この活動を全国の地域に発信していきたい」と相﨑さん。地域の古き良き建物を再生利用し、命を守り繋ぐ。こうしたモデルがほかの地域でも広がっていくことに期待したい。
【取材協力】
「ちよだニャンとなるcafé」
http://www.chiyoda-nyancafe.jp/
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