水辺の活用が見直される中、清澄白河・隅田川沿いに新たなホテルが誕生
都市の成り立ちの歴史を遡ると「河川」は重要な存在だった。物資を船で運ぶ輸送ルートとしての役割や、京都の川床に代表される涼を得る場所としての活用など、人々の生活と大きな関わり合いがあったのだ。
高度経済成長期以降は陸上交通の発展などにより河川の役割は衰退したものの、このところは水辺のかつての賑わいを取り戻そうとする取り組みも各地で始まっている。代表的な事例としては、大阪の堂島川と土佐堀川に囲まれた中之島公園一帯をアートを中心に盛り上げる「水都大阪」プロジェクトや、福岡の天神地区にある水上公園の再開発などが挙げられる。
こうした動きは東京も例外ではない。東京都は、隅田川と日本橋川において、水辺の更なる魅力向上と地域の活性化を目的に河川敷地の使用規定を期間限定で緩和、飲食店の営業を行う社会実験「かわてらす」を開始している。
2017年4月14日、この「かわてらす」の4事例目として、元事務所ビルをリノベーションしたホテル「LYURO 東京清澄 -THE SHARE HOTELS-」(以下、LYURO 東京清澄)がオープンした。
リノベーションを手掛けたのは、多くの不動産の再生を手がけている株式会社リビタだ。
「シェア型複合ホテル」に適していた清澄白河の魅力とは
1995年(平成7年)に開館した地域のランドマーク的な存在である東京都現代美術館。収蔵作品数は約5,000点にのぼり、延床面積は33,515m2と国内最大の美術館建築のひとつだ※現在は大規模改修中のため閉館中LYURO 東京清澄は、宿泊施設を単に空間としてシェアするだけでない。そこに集まるアイデアや知識、ライフスタイルや価値観もシェアする場として提供し、旅行者と地域に根ざした人がつながる場と宿泊機能を併せ持つホテルである。
元々は清洲橋の袂に建つ築30年弱の事務所ビルだったLYURO 東京清澄。昨今、遊休不動産の活用事例としてシェアオフィスやシェアハウスなどが登場している中、今回リビタがこの物件の用途をシェア型複合ホテル(宿泊施設)にした理由はどのような点にあるのだろうか。
その理由について、株式会社リビタ代表取締役 都村智史氏は、
「旅行のツアーなどでは巡り会えない"地域ならでの魅力"を発信していく場にする上で、その地域にどのような資産があるか、地域ならではのどのような方々が活躍しているか、そうした人々とネットワークの構築ができるかどうか、という点が重要です。この清澄白河には、本当の意味でのローカル感が残っており、新しいムーブメントも起こっている。そして、鉄道やバスのアクセス拠点として広域に行ける立地という要素の組み合わせが、"宿泊施設"として適していた」と語る。
今でこそ「清澄白河」駅は、「大手町」駅まで約7分、「渋谷」駅までも約23分で行くことができる利便性の高い駅であるが、2000年の鉄道開通以前までは、都心にありながらもあまり知られていない地域の一つだった。
江戸時代初期に水運の物流拠点として形成された市街地である。川沿いには多くの倉庫が建てられ、当時作られた掘割や開館から100年以上が経つ深川図書館、昭和3年に完成した国の重要文化財にも指定されている清洲橋など、東京都内でも下町の風情が多く残された地域の一つである。ちなみに、「清澄白河」という地名は、2000年に都営大江戸線、2003年に東京メトロ半蔵門線が開通した際に、近隣の「清澄」と「白河」を組み合わせて誕生した駅名に由来する。
近年は、このエリアに点在する空き倉庫を活用した新しいカルチャーも登場している。柱が少なく天井が高い倉庫の特性を活かし、海外発のコーヒー豆の焙煎所やカフェが相次いで出店。「東京都現代美術館」をはじめ、アートギャラリーも多く点在し、今や清澄白河は、「アートとカフェのまち」として遠方からも多くの人が足を運ぶエリアになった。
川沿いの立地を最大限に活かしたリノベーション
今回のリノベーションでは、"川沿い"という立地を最大限に活かした工夫が施されている。
その一つが、2階部分から川沿いに向かって設置された全長44m、284m2の広さがある川床(かわゆか)だ。ここは"誰もが水辺での時間を楽しめるオープンな多目的スペース"として、宿泊者以外も利用することができる。また、この川床につながる2階には、バーベキューレストラン「PITMANS」、ビールのブルワリー「清洲橋醸造場」が併設されており、川床で食事やクラフトビールを楽しむこともできる。
地上6階建ての施設内には、30のベッドがあるドミトリータイプと4種類の個室タイプ23室があり、収容人数は102名だ。3階以上の全客室の窓からは隅田川を臨むことができ、4階以上にある個室の客室については浴室がリバービューになっている。湯船に浸かりながら、隅田川を行き交う水上バスや東京スカイツリーを眺めるといった非日常体験を味わうこともできる。
館内は隅田川をイメージした青を基調としており、ロゴのフォントや各アイコンなどの一つひとつが「川」をモチーフにした並状の3本線から構成されている。その他、個室タイプの壁に描かれている江戸小紋の柄に至っては、塗料を溶く際に隅田川の水が使用されるなど、とにかく「川」にこだわっている。この建物が建てられた1980年当時のポスト・モダンの空気を取り入れたというクリエイティブディレクションを担当した佐藤利樹氏。こうした"遊び心"によって、この場所でしか体験することができないユニークな空間に仕上がっている。
地域(ローカル)にこそ宿る、日本の未来
一般的にホテルのニーズは、サービスや立地に左右される場合が多い。しかしLYURO 東京清澄は、単に立地や経済合理性だけではなく、ここに来ると何かが起こる特別な場所として、一般的な宿泊施設にはない、新しい旅のあり方やライフスタイルがシェアされる場を目指している。
都村氏曰く、日本の未来は地域(ローカル)にこそ宿っているのだという。
「日本の未来を観光の視点に立って考えた場合、これまで以上に地域特有の体験機会が求められています。地域ならではの体験やコンテンツが、旅行者と地域の人々が出会いによって、持続的に地域の魅力が拡散していけばと考えています。その結果、新しいまちの文化や新たな日常が生まれ、地域の価値が向上するための原動力になれば」と語る。
まちに開かれた川床というシェアスペースによって、世界の文化と下町文化が混ざり合うLYURO 東京清澄。一滴の水が他の河川と合流を繰り返し大河となるように、LYURO(流路)東京清澄での出会いが後に大きな出来事を生み出すきっかけの一つになるのかもしれない。
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