「地方こそリノベーションによる活性化が求められている」
政府は、地方創生への貢献も視野に、観光を日本の基幹産業の一つとして育てるべく、「観光立国実現に向けたアクション・プログラム」を策定し、推進している。2011年には622万人だった訪日外国人旅行者数は、2015年には1974万人となり、1621万人の日本人の出国者数をはじめて上回る結果となった。政府が目指す「2000万人時代の早期実現」については、ほぼ目標に近づきつつある。2016年3月30日に開催された「明日の日本を支える観光ビジョン構想会議」では、訪日外国人目標は上方修正され2020年に4000万人、2030年に6000万人とすることが決められたばかりだ。
また一方で、観光庁による宿泊旅行統計調査の2015年年間速報値によれば、延べ宿泊者数(全体)は5億545万人泊(前年比+6.7%)と、2007年の調査開始以来最高となり初めて5億人泊を超えている。また、宿泊施設の客室稼働率は全体で60.5%であり、シティホテル(79.9%)、ビジネスホテル(75.1%) 、リゾートホテル(57.3%)は、こちらも2010年の調査開始以来、最高値となっている。
そんな中、数々のリノベーション物件や不動産コンサルティングを手がけている株式会社リビタが、各地の老朽化したオフィスビル等の遊休不動産を用途変更を伴うリノベーションを施し、店舗や飲食店・シェアスペースなどで構成するシェア型複合ホテルへ再生する「THE SHARE HOTELS(ザ シェア ホテルズ)」という新規事業ブランドを立ち上げた。2016年3月18日、その「THE SHARE HOTELS」の第一号となる「HATCHi 金沢(ハッチ カナザワ)」がオープンした。
オープンに先駆けて、3月15日にプレス向けの内覧会とオープニングパーティが行われた。株式会社リビタ常務取締役の内山博文氏の冒頭の挨拶で「地方にこそリノベーションによる活性化が求められている」と課題提示され、コンセプトとして「日本の未来が宿る場。をつくる」と発表された「THE SHARE HOTELS」。その第一号となる「HATCHi 金沢(ハッチ カナザワ)」についてお伝えしたい。
「THE SHARE HOTELS」が目指す、シェアのカタチ
地方には宿泊・滞在の快適性にフォーカスしたビジネスホテルなどが多く存在し、売店などでは地方の名産品をお土産として購入できるようになっている。が、地域ならではの魅力を「体験する」ことにフォーカスした宿は、現在はまだ稀であるのが現状だ。
一方で旅行者は、より地方や地域の魅力を体験し、そこに暮らす人と関わり、コミュニティを求める傾向が高まっている。近頃では、桜の季節に花見をしに日本に来ることが中国人の観光客に人気となったり、京都などでレンタル着物を着て散策や茶道体験をしたり…というものもよく見るようになった。
「THE SHARE HOTELS」は、地方資源を日本の未来にとって必要不可欠な大切な要素として位置づけている。シェアをするのは、宿泊施設に設けられたシェアスペースやモノだけではない。地域内外の多様な人々のアイディアや知識、ライフスタイルや価値観をシェアしていき、体験してもらおうというコンセプトである。
実際に「HATCHi 金沢」にもさまざまな"仕掛け"がされている。
1)ローカルコミュニティと出会えるグランドフロア
2)ローカリストの活動の舞台となる多様なシェアスペース
3)ローカリストと仕掛ける北陸ならではのコンテンツ
4)北陸各地の伝統技術を空間の各所に採用
そのひとつひとつの仕掛けを見ていきたい。
「HATCHi 金沢」の数々の仕掛け
「HATCHi 金沢」は、金沢の観光地、東山ひがし茶屋街にほど近い場所に建つ、地上4階建て地下1階の築50年のテナントビルで、もとは1階に仏具店が入居していた。リビタはこのビルを、貸しビルからホテルへの用途変更を伴うコンバージョンを行っている。宿泊定員は94名。シェアードルームとよばれるドミトリータイプの部屋が5室、プライベートルームが9室用意されていた。
仕掛けの、「ローカルコミュニティと出会えるグランドフロア」としては、1階に金沢で高い評価を受けるカフェ(HUM&Go#:ハムアンドゴー)と、ここ「HATCHi 金沢」で復活した和食のa.k.a.(アトリエキッチン アーカ)が入っている。どちらも地元民に愛される店であるため、宿泊客だけでなく、多くの地元民が交流する場として期待できそうだ。また、ホテルのレセプションカウンターには北陸のセレクトギフトが置いてあり、感度の高さを伺わせる。
「ローカリスト活動の舞台となる多様なシェアスペース」は、地域の方々も使用できる地下1階のシェアキッチン&ラウンジや1階にある展示スペースである「ショーケース」にはアーティストの作品を展示したり、ポップアップショップも出店できるようになっている。また、アプローチ部分には屋台カートがあり、外に開かれ、人を呼び込む仕掛けが用意されている。
この宿が特殊なのは、次の「ローカリストと仕掛ける北陸ならではのコンテンツ」だ。「地方を満喫したい」という旅行者と「北陸を盛り上げるローカリスト(まちづくりプレイヤー、伝統工芸継承者、ワークショップ講師など)」が様々なイベントで交流する仕掛けとなっている。例としては、文化や産業をテーマに北陸ローカリストをゲストにお酒を飲み交わす「ツーリストBAR」やホテルまるごとを活用したアート展、「アートツーリズムへの発地」(2016年5月29日まで開催)でも展示作品の作者や工房を訪ねるツアーを企画した。また、日本橋でたくさんの人を集めて、朝ご飯を食べながら伝統とワーカーの新しい出会いの場を作りだすというコンセプトの「アサゲ・ニホンバシ」の金沢版「アサゲ・カナザワ」を伝統とツーリストの新たな出会いの場として開催している。
「北陸各地の伝統技術を空間の各所に採用」は、福井・富山・石川の伝統技術をホテルの各所に配置している。例えば、越前和紙をガラスの中に閉じ込め扉の一部に使用したり、九谷焼の照明シェードを洗面スペースに利用したり、ルームキーホルダーを真鍮に銅器着色を施したものを採用するなど、自然と伝統技術が旅行者の目に留まったり触れたりする機会を仕掛けているのだ。
地域の魅力を伝える仕掛けが、次の旅をいざなう。だからこそ、出発地としたいという思いを込めた「HATCHi=発地」の名前
「HATCHi金沢」の名前は、「発地」からきているという。
「HATCHi金沢」の様々な仕掛けを見ると、地域のエネルギーを見つめ、旅人がその魅力に触れる機会をつくり、そこからはじわるワクワク感をつくりだしていきたい意図を感じる。
今までの宿が、滞在だけを目的としているのに対し、この宿は「この宿からどう行動するか」をクリエイトしていこうという試みを始めたのだ。滞在という「点」ではなく旅人という、点から放たれる放射線(=旅人)を強く意識し、「線」を創りだしていく宿なのである。
旅は、人々の交流を促し、交通を生み出す。
今は、飛行機や新幹線などで点から点への単なる「移動」となってしまったが、「THE SHARE HOTELS」が生み出していくスタイルは、かつての江戸時代の東海道五十三次の宿場町のにぎわい方に似ているのかもしれない。そこに文化が生まれ、名物が生まれ、風景が名勝として語られ、宿で人々が情報を交換し、戻って旅の楽しさを人々に伝える。
今後、リビタはこの「THE SHARE HOTELS」を2016年内に金沢にもうひとつ、また東京と京都、2017年には北海道にも展開予定である。
「THE SHARE HOTELS」から始まる新しいツーリズムのスタイルが、旅を通して日本の地域を魅力的にしていく原動力の一つになることを期待したい。
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