遊休不動産はどれくらいあるのか

総務省がまとめた「平成25年住宅・土地統計調査(速報集計)」によれば、2013年10月時点の空き家数は約820万戸に達し、住宅総数の約6,063万戸に対する「空き家率」は13.5%で過去最高を記録した。さまざまな媒体でも取り上げられているため、この結果を目にした人も多いだろう。しかし、これは住宅を対象にした集計でしかない。もちろん空き家が大きな問題であることに変わりはないが、それと同時に空き店舗、空きビル、廃工場、空き倉庫、空き地などの「遊休不動産」も数多く存在しているのだ。

国内における遊休不動産の総数がいったいどれくらいになるのか、総合的な調査は実施されていないため、その実態は明らかにされていない。国土交通省が2014年10月に公表した「平成25年法人土地・建物基本調査(速報集計)」によれば、法人が所有している「低・未利用地」は全国で47,560件に達し、このうち青空駐車場や資材置場など暫定的に使用されているものを除いた「空き地等」だけでも24,150件にのぼる。ただし、これは資本金1億円以上の会社法人(約3万法人)を対象とした調査であり、国内の「低・未利用地」のすべてではない。

その一方で、農林水産省が2014年12月に公表した「平成25年の荒廃農地の面積について」(福島県の町村等12市町村を除いた1,708市町村の推計値)によれば、全国における荒廃農地の面積は約27.3万ヘクタール(推計値)に達し、そのおよそ半分の約13.5万ヘクタールが「再生利用が困難と見込まれる荒廃農地」とされている。よくありがちな表現をすれば、東京ドームの敷地の約2万9千倍だ。

また、遊休不動産は民間の問題だけにとどまらない。自治体の合併などにより使われなくなった庁舎や、利用者の減少・老朽化などによって閉鎖された公共施設、廃校となった小中学校などもある。母校がなくなってしまった人も少なからずいるはずだ。文部科学省が2014年11月に公表した「廃校施設活用状況実態調査」の結果によれば、2002年度から2013年度の間に廃校された公立学校が5,801校にのぼり、このうち1,513校は施設が現存するものの活用されていない。

これから本格化する人口減少社会においては、遊休不動産がさらに増加していくことも見込まれるため、空き家問題と同様にしっかりと取り組んでいくことが必要だろう。

子どもの頃の心象風景として「空き地」も大切な存在だったが……子どもの頃の心象風景として「空き地」も大切な存在だったが……

遊休不動産が生じる理由とは?

個人が所有する空き家や耕作放棄地、国や自治体の施設を除いた遊休不動産は、そのほとんどが企業の所有するものであり、当初は何らかの事業目的を持って取得したはずである。しかし、少子高齢化や人口減少に伴うニーズの変化、経済環境やライフスタイルの変化、さらに近年はインターネットによるEC(電子商取引)の普及なども企業活動における不動産のあり方を大きく変えているようだ。新たな投資をして老朽化したビルを再生したり、有効利用の方策を探ったりしても、投下資金の回収が見込めなければ企業や商店はなかなか行動に移すことができない。そのまま放置しておくことが「最も無難な選択肢」とならざるを得ないケースも多いのだ。

中心市街地から離れたバイパス沿いに飲食や物販の店舗が乱立した時代もあったが、人口減少や大型商業施設との競合によって衰退が進んでいるケースも少なくない。旧街道沿いなどの古い商店街も同様だ。空き店舗が大半を占める「シャッター商店街」は地方都市だけでなく、東京や大阪など大都市の中でも生まれ始めている。日本の高度成長期を支えてきた工業エリアも、施設の老朽化や製造業の空洞化によって廃工場が増える。その従業者がいなくなることにより、社宅や寮が廃止されたり福利厚生施設としてのグラウンドなどが空地化したりする例もあるだろう。

個人の住宅では、人口減少、少子高齢化の進行、親の家を継がないライフスタイルの増加、まちの衰退、それでも止まらない新築住宅の供給など、空き家が増加する要因はいくつもある。都市の中心部から離れたエリアで無秩序に開発された住宅地などでは、売ろうとしても売れず、住民が亡くなったときから空き家として放置される例も多い。

遊休不動産の増加によってどのような問題が生じるのか

遊休不動産が増えることによって都市の活力を奪い、衰退を進行させる要因にもなるだろうが、それと同時に安全性の問題は深刻である。空き家や空きビルなどは適切な手入れがされないことも多く、朽廃化がどんどんと進む。古くなれば倒壊の危険性が増すほか、目が行き届かないために不審者が出入りしてもなかなか周囲が気付かない。放火などによる火災の危険性は高まり、何らかの犯罪に使われることもあるだろう。

雑草が生い茂ることで害虫が繁殖したり、野獣が住みついたり、あるいは空き缶や生活ゴミが投げ込まれるなど、衛生面の問題が生じることもある。建物がなく放置された空き地の場合も同様だ。郊外の空き地や耕作放棄地などでは、粗大ゴミや産業廃棄物が不法投棄されることもある。これらは所有者だけの問題にとどまらず、地域住民の犯罪や事故への不安感を高めたり、周囲に迷惑をかけたりするなど、コミュニティ全体へさまざまな影響を及ぼすことになる。

また、空き店舗が増えた「シャッター商店街」は客足が遠のき、残った店舗の経営を圧迫することもある。遊休不動産の存在が新たな遊休不動産を生み、加速度的に衰退が進むことも考えなければならない。

シャッター商店街は地方都市だけでなく、大都市圏でも表れ始めているシャッター商店街は地方都市だけでなく、大都市圏でも表れ始めている

遊休不動産の活用に向けた国や自治体の取り組みは遅れがち

もちろん国や自治体は何もせずに傍観しているわけではない。空き家バンクの運用や「空き家住宅情報サイト」による情報提供、空き家・空き店舗等の再生事業、改修費の補助支援制度や利子補給制度などの取り組みが全国で実施されている。だが、地域によって温度差が大きいのも実情だろう。国土交通省が2010年に実施を求めた、空き家・空き店舗等の実態調査に応じた市町村は全国で約6分の1(16.5%)にとどまり、大半の市町村では基礎資料となるべき実態の把握すら行われていないのだ。

その一方で、急速な広がりを見せているのがいわゆる「空き家条例」である。最初に制定されたのは「所沢市空き家等の適正管理に関する条例」(2010年10月1日施行)だが、その後は同様の条例が相次いで制定され、2014年4月時点で211の自治体、2015年4月時点で355の自治体が取り入れている。しかし、その多くは空き家などの適正管理、および老朽化が進んで危険性が増した住宅の強制的な解体・撤去などが主な目的である。空き家を除却しても、そこに残るのは空き地であり、遊休不動産の根本的な解決には結びつかない。そのため、たとえば「松江市空き家を生かした魅力あるまちづくり及びまちなか居住促進の推進に関する条例」(2011年10月1日施行)では一歩踏み込んで、空き家を有効活用した居住の促進、まちなかの賑わいを創出する支援などが盛り込まれた。また、東京都豊島区の「建物等の適正な維持管理を促進する条例」(2014年7月1日施行)では、竣工時に完了検査済証を取得していなかった住宅の救済策を取り入れ、空き家の売却や賃貸を促進する「老朽化抑制策」が図られている。

さらに、2014年11月19日には「空き家対策法」(空家等対策の推進に関する特別措置法)が可決・成立した。同11月27日に公布され、6ケ月以内に施行される。危険性の高い空き家に対する指導、勧告、命令、強制撤去などを定めたものである。また、空き家の解体・撤去を阻害する一つの要因とされている固定資産税の軽減措置も見直される予定だ。

ただし、これらは主に個人が所有する空き家を対象としたものであり、空きビル、空き店舗、空き倉庫、空き地、耕作放棄地などを含めた遊休不動産全体への取り組みはなかなか進んでいないのが現状だろう。政府は廃校や空きビルなどの再利用を促すため、用途変更などの障害となっている法律の規制を緩和する方向で検討しているようだが、まだ具体的にはなっていない。

遊休不動産の活用に必要なのは人材

遊休不動産が多く生まれる背景には、ニーズの低下、まちの衰退などといった問題があるため、一つの不動産を再生、活用しただけではすぐに行き詰まることが懸念される。自治体主導で単体の事業を推し進め、「まちなか再生の起爆剤」などと謳っている例もあるが、それがかえって地域の崩壊に向けた起爆装置にもなりかねない。

大事なのは地域全体の方向性を定め、価値を高めるためのエリアマネジメントであり、地域住民や自治体を含めたさまざまな関係者、関係機関との連携だろう。その役割を果たす者として各地の民間事業者による「家守(やもり)事業」があるほか、その担い手の育成策として「リノベーションスクール」が注目されているようだ。リノベーションスクールは2011年に北九州市で始まったが、次第に全国へ広がりつつある。実在する遊休不動産を活用して地域を再生するための実践的な手法が議論され、オーナーへの提案としてまとめられるようだが、建物単体の再生にとどまらず、まちづくりや新しいビジネスの創出による「まちの再生」に主眼を置くことが特長だろう。

だが、それですべての遊休不動産を有効活用できるようになるわけではない。このまま国内の人口減少が進めば、必要とされない不動産も次第に増えていくはずである。どこかのまちで再生に成功すれば、そのぶんどこかのまちの衰退が早まることも考えなくてはならない。

山裾を切り開いて宅地開発したようなところや、再生が難しい耕作放棄地などでは何が何でも有効活用を目指すのではなく、「森へ還す」動きがあっても良いように思うがどうだろうか。市街地でも、まとまった空き地を公園や緑地、公開空地にすることが考えられる。小さな空き地が分散していれば、土地の交換手法などによってそれを集積するために法律や税制で後押しをすれば良い。いずれにしても、遊休不動産をただ所有しているだけなら問題は何も解決しないのだ。

2015年 02月23日 11時08分