駅から徒歩20分、6部屋中4部屋が空室のアパートが「おうちカフェ」に
愛知県豊川市・JR豊川駅から徒歩20分。バスも通っていない、幹線道路からも離れた築18年のアパート。
6部屋中4部屋が空室=空室率66%というこのアパートが、カフェスタイルのおしゃれな部屋に変身したと聞き、竣工内覧会に訪れてみた。
部屋は元々あったリビングとダイニングの壁を取り壊し、20畳の広々としたリビングダイニングにリノベーション。キッチンの横にはカウンターがあり、白を基調にしたシンプルな空間に、赤を効かせたスタイリッシュなデザインだ。外観の経年感は否めないものの、昼間は明るい陽射しが差し込む静かな環境は、なかなかいい物件だと思うのだが、空室率66%の理由はやはり立地だろう。
豊川市は、トヨタ自動車関連など製造業の多い豊橋市のベッドタウンとして多くの賃貸物件が建てられてきたが、リーマンショック以降、退去者が増え今や供給過多に。それでも入居率は84%(※)と、全国的にみればまだマシなほうなのだが、駅近物件とそうでない物件の格差は開き、今回のように空室率60%を超える物件も少なくないのが現状だ。
長期の空室に悩んだオーナーから相談を受けたのが、賃貸物件のマネジメントを手掛けるH.P.M株式会社代表取締役八木裕児氏。ちょうど、同社がデザイナーズリノベーション賃貸「リノッタ」へフランチャイズ加盟をした矢先のことだった。
「条件の悪い物件に付加価値を付けるリノベーション賃貸なら、必ず入居率は上がると確信していたので、オーナー様にご提案をして、今回の『おうちカフェ』が実現しました」(八木氏)
※平成20年度総務省「住宅土地統計調査」より算出
新築志向からコストパフォーマンス重視へ
空室4室のうち、2室を「おうちカフェ」としてリノベーション工事を開始、入居者を募集したところ、1部屋は1週間で借り手が決まったという。
「改修工事が終わる前に、CGパースのイメージだけで決めていただきました。当社のリノベーション事業としては初めての取り組みだったのですが、お客さんの反応の良さと決断のスピードに驚きました」と八木氏。
今回の入居者は入籍を控えた30代カップル。担当した同社のルームアドバイザー寺部圭一氏に伺うと
「今回のカップルもそうですが、だんだんお客様の志向が変わってきたように思います。以前は、新築志向が強く、築5年でも古いと言われてしまう風潮でしたが、4年ほど前からお客様もコストパフォーマンスを優先し、同じ価格で広くて個性的な部屋に住めることのほうが重要視されていると実感しています」
とのこと。
「新築も住んだ瞬間すぐ中古」。
「新しさ」は、借り手側にとって魅力ではあるものの、最優先事項ではなくなってきているのかもしれない。
リノベ物件は反応が早いだけでなく、集客効果もあった
ここで少しオーナー目線での話をしてみよう。
2LDKのこの物件、一か月の家賃は3万9000円。
リノベーションして、家賃は5万3000円に値上げ。賃貸価値としては1万4000円のアップだ。
もちろん、初期投資、管理費等、差し引かねばならない分もあるが、オーナーにとっては空室を放置しておくよりは、ずいぶんと気持ち的に余裕ができるだろう。
賃貸経営は30年を1サイクルとして考えることが多いが、築18年の同物件、残り10年あまりをどう経営していくのかが、オーナーの悩みの種だったようだ。
このまま放置して3万9000円の家賃を10年後2万9000円に値下げしようとも、老朽化など見た目の劣化もあり入居者は見込めない。あと10年戦いきるには、ここで工事費用として投資をして、賃貸価値を再生しようという八木氏の提案に賛同してのリノベーションだったそう。
また、「おうちカフェ」以外の残る2室の空室も、クロスの張り替え、エアコン、照明の新調など約20万円かけて原状回復プラスアルファのリフォームを行った。
前述したカップルのように、リノベーション物件はユーザーの反応が早い。だがそれだけでなく、もう一つの効果があったという。
“集客効果”だ。
「今回の『おうちカフェ』が気になっていたお客様に、比較のため同じ間取りのリフォームのみのお部屋をお見せしたところ、価格とのバランスでそちらを気に入っていただいて商談が進んでいます」と八木氏。
リフォームのみの部屋でも十分満足でき、何より家賃が安いというのが魅力、と好感触なのだそう。
立地が悪いと、それだけで候補から外されてしまうアパートでも、「デザインで目を引くリノベーション物件があることで、ほかの空室も見てもらえるチャンスが増えるのは、オーナーにとって嬉しいこと」と八木氏は話していた。
住みたい部屋をリクエストできる新しい賃貸のカタチ
さて、冒頭で同社が「リノッタ」とフランチャイズ契約をしたことに触れたが、空室率対策で最大の武器となるのがこの「リノッタ」だと八木氏。
「リノッタ」とは、石川県にある株式会社クラスコが手掛けるリノベーション賃貸ブランドのこと。
同システムの間取り別リノベーション事例集「CASE STUDY」を元に、オーナーへの訴求をし、セミオーダー形式で短期施工。一刻も早く空室をなくしたいオーナーや管理会社にとって、この短期施工は大きなメリットだ。
オーナーだけでなく、借り手側にもメリットはある。
「モダンヴィンテージ生活」「森ガール部屋」「コレクションボックスルーム」など、キャッチコピーだけ見ても個性的なこの事例集。200以上のデザインの中から気に入ったものがあれば、こんな部屋にリノベーションしてほしいと希望すれば、同社がマネジメントする空室物件をオーナーと交渉しリノベーションするという逆の展開も可能だという。自分が住みたい部屋をリクエストできる、そんな賃貸が今後増えていけば、空室率の改善にとって新しい光となるかもしれない。
新築を超えるデザイン性で多様化したニーズに応える
「これまでは大手ハウスメーカーさんや工務店などが、敷地面積や立地などからターゲットを決めて新築賃貸を建てるのが主流でしたが、これからは入居者目線で、どんな賃貸に住みたいかを重視した部屋作りをしていくことが必要だと思っています」と八木氏。
「今後は、『原状回復不要のDIYし放題の部屋』というような、入居者のアイデア次第で住まいを作れる、そんな物件をご用意してお客様のニーズに応えていけたら」と続ける。
通り一遍のいわゆる「賃貸仕様」の部屋よりも、自分が気に入ったデザインの部屋ならば、愛着がわき長く住み続けたいと思うだろう。1か所に長く住み続ければ、引っ越し費用やら敷金礼金といった出費も少なくて済む。
そして、それが空室率の改善にもつながるという、貸し手側・借り手側、双方にとって“オイシイ話”なのではないだろうか。
築古物件がデザイン性という新たな武器を手に戦闘力を回復―。
今回の物件のようなリノベーション賃貸が注目されるようになれば、供給過剰の新築賃貸市場へのテコ入れになるかもしれない。
家賃に見合った暮らしの質。
賃貸でも手に入れられる高い満足度。
借り手側も、「新築」以外の新しい価値観を見出そうとしているのを感じた。
取材協力:H.P.M株式会社
http://www.h-p-m.jp
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