「ザ・パークハウス」ブランドを中心に展開する、業界のトップ企業。三菱地所レジデンス 株式会社
【NEXT 日本の住まい】企画は、今回が第6弾となる。
「日本の未来の住まいはどのように変化をし、住まいに携わる企業の使命はどういったものなのか」を住宅業界のリーディングカンパニートップにインタビューを行い、考えていくというこの企画。過去5回にわたり、お届けしているが、今回は初のマンションディベロッパーへのトップインタビューとなった。
東京都千代田区に本社を置く、三菱地所レジデンス 株式会社(※以降、三菱地所レジデンス)である。
ご存じのように三菱地所レジデンスは、日本の中心街の再開発やまちづくりを含め、大規模な事業を行う三菱地所の住宅事業を担い、三菱地所グループの中核を担う企業である 。分譲マンションブランド「ザ・パークハウス(The Parkhouse)」を展開し、マンションの発売戸数では常に上位に名が挙がる。
三菱地所レジデンスは、2011年に三菱地所・三菱地所リアルエステートサービスの住宅事業部門と藤和不動産を統合し誕生した。分譲マンション「ザ・パークハウス」のブランドコンセプトは「一生ものに、住む。」。経営ビジョンは「暮らしに、いつも新しいよろこびを。」である。
今回もこの企画のインタビュアーを務めるのは、「あらゆるLIFEを、FULLに。」をコーポレートメッセージとし、不動産ポータルサイトLIFULL HOME'Sを運営する株式会社 LIFULL 井上 高志 代表取締役社長。
コロナ禍で住まいやまちの役割が大きく変化し見直される中、2020年4月同社の代表取締役 社長執行役員に就任された宮島 正治 氏に、同社の理念・住まいづくりをお聞きするとともに、「これからの住まい・街づくり」についてお話を伺った。
「この住まいを買ってよかった」が継続し、ベネフィットを生み出す「一生もの」の住まい
宮島 正治:三菱地所レジデンス株式会社 代表取締役 社長執行役員。東京都出身。慶応義塾大学法学部卒業後、1987年4月三菱地所株式会社入社。グループ執行役員 兼 三菱地所レジデンス株式会社 取締役 専務執行役員などを経て、2017年4月グループ執行役員 兼 三菱地所レジデンス株式会社 代表取締役 専務執行役員。2020年4月に社長就任、現在に至る井上氏:コロナ禍の影響で社会に様々な変化が起きる中、経営者としては、かなり難しい舵取りが迫られる時代になってきたと感じています。今回、三菱地所レジデンスの宮島社長にお話を伺えるということを大変楽しみにしておりました。本日は、御社の理念とともにこういった時代にどう対応していくかも含めてお話を伺えればと思っております。よろしくお願いいたします。
宮島氏:三菱地所レジデンスは2011年、三菱地所・三菱地所リアルエステートサービスの住宅事業部門と藤和不動産を統合し生まれました。ちょうど東日本大震災の3.11の年です。都心の高額系マンションを主に扱っていた三菱地所、その販売をしていた三菱地所リアルエステートサービス、ファミリー層を中心に提供していた藤和不動産、個社がそれまで対象としていた層よりも、もう少し幅広い層にアプローチをしていこうというのが目的です。その統合時に我々が考えた経営ビジョンが「暮らしに、いつも新しいよろこびを。」でした。
我々が住宅を提供するときにお客様に何を思っていただきたいのかというと、「この住まいを買ってよかった」と、しばらく経ってもやはり「この住まいでよかった」と、そう思っていただくことが大切であり、それを共通の理念として掲げたのです。
買った後もずっと長く続く、住まいから、暮らしから感じる充足感・満足感を感じて欲しいという思いが我々の基本使命だと考えています。それがブランドの「一生もの」にもつながる想いですかね。
井上氏:「一生もの」とはどういったお考えなのか、もう少し教えていただいてよいでしょうか?
宮島氏:最初の「一生もの」は、それこそ生涯に1度の住まいの意味ですが、その当時の価値は、資産価値だったり安全・安心な住まい…という意味合いのほうが強かったと思います。しかし、今、私が考える住まいの価値は、「ベネフィット」だと思うんです。
例えば、マンションの緑の見える窓から朝の光が入ってきてコーヒーを飲みながら、「気持ちの良い朝だな。今日も頑張ろう」と思う。それは、あえて公園が見える窓を設計して、シーンを想像しながら住まいをつくっているからです。今までは、こういった設備がありますよ、それはこんな利便性があります、というようなメリットを打ち出し、提供してきた。しかし、本質は、その先の10年、20年住んでいても陳腐化せず「この住まいでよかった」と実感できるベネフィットをお客様に提供するのが「一生もの」ですかね。住まわれているお客様自身の充足感や満足感が、結果的にリセールバリューにもつながり、"三菱地所レジデンスのマンションは価値が落ちない"という評判が、お客様の資産価値を守ることになります。
井上氏:メリットだけではなく、その先にベネフィットを生み出す住まいづくりということですね。
技術革新、アフターコロナ…時代が変化しても「常に未来のスタンダードを見据える」商品開発
井上 高志:株式会社 LIFULL 代表取締役社長。1997年株式会社ネクスト(現LIFULL)を設立。インターネットを活用した不動産情報インフラの構築を目指して、不動産・住宅情報サイト「HOME'S(現:LIFULL HOME'S)」を立ち上げ、日本最大級のサイトに育て上げる。現在は、国内外あわせて約20社のグループ会社、世界63ヶ国にサービス展開している井上氏:お客様が住まいから感じるベネフィットの“ずっと続く充足感・満足感”というのは、現場ではどのように住まいづくりに生かされているのでしょうか?
宮島氏:先ほどの「買ってよかった」というお客様の気持ちには、住まいに求める要素が継続的に満足していただけている、ということがあるのだと思います。世の中の変化に対応していかなければ継続性は保てない。もしも少し先の時代で技術が進歩してしまったら使い勝手が悪くなる住まいでは「一生もの」にはならないと思います。
例えば、少し前までは電話のジャックがあることが普通だった。しかし、今や住まいにWi-Fiが設置されていることが普通ですよね。今からはWi-Fiのスピードアップも考えなければならない。10年前とは全く違うんですよ。今、いちばん悩ましいのは電気自動車への対応ですかね。今は電気自動車の普及率は5%程度なんですが、今後拡大が予測される。とすると、分譲マンションの駐車スペースに電気自動車の充電機能を一戸ごとにつくるのか、ただ基本料金が高くなってしまうから、将来的に対応ができるように、これからは共用部に設置しておこうか、配管だけでもしておこう、とかね。先には、そのための充電施設は、住まいに必要なのか、街に必要なのか、そのためにはどういった技術革新が必要なのか、など、なかなか難しいですが、常に未来のスタンダードを考えて住まいづくりをしていくことが大切だと思っています。
設計や販売側は、先の先を見越して未来に予測される暮らしに見合うアグレッシブな提案をする、それを技術や管理側はお客様の住み心地や安全で安心な管理の部分から、また、メンテナンスの部分から現実性を検討する。いつでも、住まいづくりには、内部で葛藤があって、絶えずその未来と現実現場での鬩ぎあいなんですよ。そして、その答えは「これで本当に、お客様に"買ってよかった"といってもらえるか」ということなんだと思います。
井上氏:未来のスタンダードを常に意識して……というお考えは、さすがですね。現在のコロナによる社会変化についてはどのようにお考えでしょうか?
宮島氏:このコロナ禍によって、時代は10年ほどタイムスリップした、と思いますね。テレワークの浸透などにより、今までにない速度で住まいの役割も変わってきている。それをどう考えて商品開発に反映し、住むエリアやターゲットによってニーズの違うお客様の満足につなげるのか。
今までは我々はマーケットインといって過去何が売れていたかを中心に考えていましたが、コロナを機にユーザーインの住まいづくりにシフトしなければいけないと思っています。つまり、この住まいはどんな方々が買うのか、それはどんな暮らしで、どんなニーズを持っているのかを考えて個々の商品のコンセプトに落としていくことが大切です。
井上氏:無人走行の車が実現化されていくなど、人々の暮らしを変える可能性の技術の革新は凄まじいですよね。
宮島氏:これからの10年は、もっと変化の速度が速くなっていくでしょうね。私が会社に入って、30余年になりますけど、いままでは不動産の枠の中で仕事をしてきました。しかし、これからは考えもしなかった業態がライバルになる可能性もあるし、思いもよらなかった業態との協業ができるなど、住宅の枠を超えて、ボーダレスに考えて商品をつくっていかなければならない時代がきている、と思いますね。
「5つのアイズ」に込めた、「一生もの」は「一緒(につくる)もの」でもある
井上氏:先ほどお話しいただいた「一生もの」を実現させるために、御社は住まいの品質を「5つのアイズ」として掲げていらっしゃいます。建物品質の「チェックアイズ」、環境に配慮した「エコアイズ」、こだわりの住空間の「カスタムアイズ」、安心・安全の「ライフアイズ」、暮らしをサポートする「コミュニティアイズ」ですが、とくにその中で防災にかかわる「ライフアイズ」の取組みをお聞きしたいと思います。
地球温暖化が進む中、地震だけでなく、台風被害や大雨被害なども深刻です。タワーマンション等でも停電などの被害で、暮らしに影響が出た事例もありました。三菱地所レジデンスは、マンションの防災にも力をいれていらっしゃるとお聞きしております。
宮島氏:我々グループの防災への取組みは古くて、1923年に起きた関東大震災の際に旧丸ビルやその周辺で飲料水の提供や炊き出し、臨時診療所の開設などを行ったという歴史があります。その思いは、三菱地所レジデンスにも受け継がれていて、もしもの時に実効性の高い防災対策に取り組んでいます。建物の耐震性や安全性に配慮した設計・施工はもちろんなのですが、共用の防災備品を標準装備し、各住戸に防災バッグをお配りしています。防災意識を高めていただくための「そなえるドリル」や「そなえるカルタ」などのツールや、「自ら行動する」に導く実効性にこだわった防災プログラムを組んでいます。また、三菱地所レジデンスの社員有志が立ち上げた「三菱地所グループの防災倶楽部」があるのですが、そこが主となって「ザ・パークハウス」の住民の方々と弊社社員が一緒に防災訓練を行っているんです。
井上氏:管理組合ではなく、マンションディベロッパーである御社の社員の方々が防災訓練を行うというのは、珍しくないですか?
宮島氏:仕入れ・企画・設計・販売のそれぞれの社員が防災訓練に参加して、住民の皆さんとマンホールトイレの組み立て訓練などを行うのですが、実は我々にとっても貴重な機会なんですよ。実際に住まわれているお客様と触れ合えるので、住み心地とか、困っていることはないのか、とかお聞きできる機会です。随分考えて設計したけど、思ったように使っていただいているのか、共用部は保たれているのか、とかいろいろ発見があって勉強になっているようです。つくって売って引き渡して終わり、ではなく「一生もの」はお客様により添いながら「一緒(につくる)もの」という意味もあるな、と思っています。
建物の価値を再考し、街に必要な開発を考えていく、ストックへの取組み
井上氏:新築マンションが中心の御社ですが、ストックについてのお考えをお聞かせいただいてもよいでしょうか?
宮島氏:我々の事業は新築マンションが主なのですが、今は既存のマンションをリノベーションして売っていく、ということも行っています。現在、年間200戸くらいでしょうか。今は、どうしても新築でなくては…という方ばかりではありません。ここしばらくは、新築の価格が高騰していたこともあり、中古マンションを求める方も多い。中古とはいえ、一生に一度か二度の買い物ですから、私たちがリノベーションして、また新たな「一生もの」品質を提供するという形も進めていきたいと思っています。
それには、しっかりとした施工会社の施工であることを確認し、私たちもちゃんと調査した上で、今の暮らし方に合うようにリノベーションする必要があります。住まいを提供するものの責任として、三菱地所レジデンスの"認定中古"となりえるリノベーションの住まいを、今後は増やしていきたいと思っています。
井上氏:御社は中古マンションのリノベーションだけでなく学生賃貸物件や、病院をリノベーションした有料老人ホームなども手掛けていらっしゃいますが…。
宮島氏:街にのこるストックの建物は、ケースバイケースでその土地と立地のニーズを考えてリノベーションしていきたいな、と思っています。例えば、お話にあった元病院だった建物を取得してリノベーションし、有料老人ホームにコンバージョンした「京都市中京区西ノ京塚本町計画」ですが、これは、最初は建て替えてマンションにする計画だったんです。ただ、現地視察をしてみたら、建物が新しい。「これを壊していいものか? なんとか活用する方法はないのか?」と検討して、病院だった施設の設計を生かせる有料老人ホームとしたわけです。初の取組みではありますが、これからは“壊して建てる”だけではない、残る建物の価値を再考し、機会があれば生かせるものは生かし、地域に還元できる建物にしていくことにもチャレンジしていきたいと思っています。
その街に住む人たちが、街の成長を一緒に感じられるように
井上氏:御社の手掛ける街づくりへのお考えも、ぜひお聞きしたいと思います。
宮島氏:弊社が行っている街づくりは再開発事業が主になりますが、その場所に暮らしている人々の生活や暮らしにポジティブに影響していくものをつくりたいと思っています。
マンションをつくるにしても住居部分だけに焦点をあてるのではなく、その土地に暮らす人たちにとってどんな施設が一緒にあったらよいのだろうと考え、病院や商業施設、保育園などをつくることもしていきます。
例えば、厚木や北千住の再開発の実例を紹介すると、今まで駅の反対側は人通りも少なく、不便な場所だったものが開発により、様変わりしています。住まいの「一生もの」の考え方もそうですが、街づくりも開発によって壊れてしまうのではなく、次の街の成長を住民の方々とともに感じていただける開発をしていきたいと思っています。
「三菱地所が手掛けると街がかわる」……それは、寂しい変化のある開発ではなく、ポジティブな未来のある街づくりでありたい。住民の方と開発をする我々のお互いの夢が重なってくれば、豊かな暮らしがおくれる街になると思います。我々は、2021年4月着工している、川越駅前の再開発でタワーマンションを建設していますが、そういった街づくりをしていきたいですね。
SDGsの取組みとこれからの住まい
井上氏:多様性と包摂性のある持続可能な社会の実現をめざすSDGsへの取組みは、今や企業としての社会的責任でもありますが、御社のSDGsの取組みについて、教えていただけますでしょうか。
宮島氏:我々のコア業務は住まいづくりですので、まずは我々のできることとして、コンクリート型枠について、調達基準に合った木材を使い、トレーサビリティをしっかり確保するという取組みを行っています。違法伐採は問題になっていますが、二酸化炭素の吸収源である森林を破壊し、環境破壊や先住民の人権侵害を起こしています。そういった違法な木材を使用しないよう、協力事業者へ働きかけています。
社内の取組みとしては、お客様に出すお茶のペットボトルを紙の容器のものに替えたり、FSC認証紙のペーパーナプキンを使用したりしています。
ザ・パークハウスの住民の方々との取組みとしては、マンションの暮らしに使うエネルギーの見える化を「マンション家計簿」として提供しています。現在は、住戸ごとのマンションの水道光熱費・冷暖房費のランニングコストを可視化していますが、これに加えて、各住戸ごとのCO2排出量を見える化し、環境への意識向上に寄与していきます。
こういった取組みを通じて「三菱地所レジデンスの住まいは、地球環境のことも考えているんだな」というベネフィットにもつなげていきたいです。
井上氏:最後に、これからの住まいについて、宮島社長のお考えをお聞かせいただけるでしょうか。
宮島氏:この2年、コロナ禍で住まいの役割が変化してきました。弊社もリモートワークを進めていますが、ある社員は都心のマンションは人に貸して、教育もよい学校があるということで、緑の多い地方で家を購入して暮らしています。こういった例があるように、今までとは住まい選びも変化してきたように感じます。
これまでは、モデルルームを見学してくださるお客様は、どちらかというと資産価値を気にして選んでおられる方が多い印象でしたが、今は「これ、暮らしていたら便利だね」とか「窓からの眺めがいいね」とか、暮らしを楽しむシーンを思い浮かべながら選んでいる方が多くなったように感じます。それを見ていると、その住まいの質が伝わっているようで、こちらも楽しい気持ちになります。住まいの役割は、もっと多様化し重要になってきますね。
私個人の想いとしては、住まいや街は「ああ、帰ってきた」とほっと気持ちがほどけて、安心できる場所でありたいと考えます。人の居場所をつくる者として、毎日の暮らしの中でベネフィットを感じていただける、そういった住まいや街づくりをこれからも手掛けていくことが使命だと思っています。
井上氏:お話を伺い、商品開発、まちづくり、すべてのものに御社の理念が一貫され、実行されているのだと感じました。本日は、本当にありがとうございました。
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