「経営の神様」と称される創業者 松下幸之助の系譜を継ぐ

住宅・不動産のリーディングカンパニートップにお話を伺う【NEXT 日本の住まい】。
「日本の未来の住まいはどのように変化をし、住まいに携わる企業の使命はどういったものなのか」を業界トップの経営者にインタビューを行い、考えていくという連載企画である。

今回が第五弾となる企業として紹介するのは、パナソニック ホームズ株式会社(※以下、パナソニック ホームズ)。
1963年に「ナショナル住宅建材株式会社」として設⽴され、社名を、1982年に「ナショナル住宅産業株式会社へ、2002年に「パナホーム株式会社」とし、2018年に「パナソニ ック ホームズ株式会社」に変更した。さらに2020年1⽉、パナソニックとトヨタ自動車で設⽴された未来志向のまちづくりを⽬指す会社プライム ライフ テクノロジーズ株式会社(※以下、プライム ライフ テクノロジーズ)の事業会社となった。

トップへのインタビュアーを務めるのは、「あらゆるLIFEを、FULLに。」をコーポレートメッセージとし、不動産ポータルサイトLIFULL HOME'Sを運営する株式会社 LIFULL 井上 高志 代表取締役社長である。

パナソニック ホームズは、その名でわかるようにパナソニックの創業者であり「経営の神様」と称される松下幸之助の系譜を継ぐ企業である。⽇本を代表する実業家である松下幸之助の想いが、商品ブランド名の「パナホーム」に込められて⻑く顧客に親しまれ、現在は「パナソニック ホームズ」として受け継がれている。同社の代表取締役社⻑ 井上 ⼆郎⽒にお話を伺った。

(※双⽅が同姓のため、この記事では、パナソニック ホームズ 代表取締役社⻑ 井上 ⼆郎⽒を「P 井上⽒」、LIFULL株式会社 代表取締役社⻑ 井上 ⾼志⽒は「L 井上⽒」と表記する)

写真右)パナソニック ホームズ株式会社 代表取締役社長 井上 二郎氏</br>写真左)株式会社 LIFULL 代表取締役社長 井上 高志氏写真右)パナソニック ホームズ株式会社 代表取締役社長 井上 二郎氏
写真左)株式会社 LIFULL 代表取締役社長 井上 高志氏

松下幸之助の言葉を原点とする、パナソニック ホームズの理念

<b>井上 二郎:</b>パナソニック ホームズ 株式会社 代表取締役社長。1981年松下電器産業株式会社(現パナソニック株式会社)入社。2014年パナソニック エコシステムズ株式会社 執行役員。2018年パナソニック ホームズ株式会社 常務執行役員を経て、2019年現職井上 二郎:パナソニック ホームズ 株式会社 代表取締役社長。1981年松下電器産業株式会社(現パナソニック株式会社)入社。2014年パナソニック エコシステムズ株式会社 執行役員。2018年パナソニック ホームズ株式会社 常務執行役員を経て、2019年現職

L 井上氏:本日は、井上社長にお話を伺えるということを大変楽しみにしておりました。よろしくお願いいたします。さっそくですが、最初にパナソニック ホームズの紹介として、御社の理念からお聞きできればと思います。

P 井上氏:当社は、ご存じの通り創業者 松下幸之助の理念を継ぐ企業のひとつです。松下幸之助は、⾃筆の書で「良家」という⾔葉を残していますが、当社はまさしくその⾔葉に尽きる会社といっても過言ではないと思っています。その言葉そのものが、当社の理念を表しているといえます。

L 井上氏:私も⼗数年ほど前でしたか……御社に伺った際に実物の「良家」の書を拝見して感銘を受けた想い出があります。

P 井上氏:そうでしたか。創業者は、経営者や生産者の使命として「貧をなくすために、貴重なる生活物資を水道の水のごとく無尽蔵たらしめることである」とし、のちの人々がそれを水道哲学と呼びましたが、そのために何百という事業を起ち上げました。
その中でも家づくりについては、「今うちには何百という事業がある。そやけど、そのなかで、たったひとつだけ自分自身がやってみたいという事業がある。それが家づくりなんや。」という言葉を残しています。「住まいというものは心身の置きどころであり、また、人格の成長をはかる場所でもあり、人間が生活していくうえで最も大切なもの。それにふさわしい良い家をつくりたい。」ということです。そのくらい住まいが与える人々の暮らしや幸せの大きな影響を知っていたのだと思います。

創業者 松下 幸之助が残した「良家」の書創業者 松下 幸之助が残した「良家」の書

L 井上氏:井上社長は、2019年に現職に就任されましたが、どういったところを大切にして経営をされていらっしゃるのでしょうか?

P 井上氏:私が就任した時、現場では顧客第一の観点が少し薄れていたように思われました。もちろん企業ですから、ビジネスを売上や収益で考えることは非常に大切なのですが、自分たちのビジネスの範囲を、極端にいえば、家を建てて引き渡しをして終わりというか。私としては、やはり「創業者ならどうするかな」と原点に立ち返って考え抜き、特に社員には明確に「売上・利益は後でよい。お客様にとって完全な家を届けよう。顧客満足度がまずは第一だ」とメッセージを送り続けました。
その後、まずは社内で「自分の知り合いにパナソニック ホームズを勧めたい」という社員が増えてきて、お客様の受注の質が変わってきました。実際に、お客様の総合満足度が高まっています。

「良家」の基本となる「強さ」と「暮らしやすさ」のNo.1の家づくり

<b>井上 高志:</b>株式会社 LIFULL 代表取締役社長。1997年株式会社ネクスト(現LIFULL)を設立。インターネットを活用した不動産情報インフラの構築を目指して、不動産・住宅情報サイト「HOME'S(現:LIFULL HOME'S)」を立ち上げ、日本最大級のサイトに育て上げる。現在は、国内外あわせて約20社のグループ会社、世界63ヶ国にサービス展開している井上 高志:株式会社 LIFULL 代表取締役社長。1997年株式会社ネクスト(現LIFULL)を設立。インターネットを活用した不動産情報インフラの構築を目指して、不動産・住宅情報サイト「HOME'S(現:LIFULL HOME'S)」を立ち上げ、日本最大級のサイトに育て上げる。現在は、国内外あわせて約20社のグループ会社、世界63ヶ国にサービス展開している

L 井上氏:創業者の「良家」が浸透していくことで、御社の企業として大切な理念やビジョンを通じたビジネスが見えてくるということですね。具体的には、その「良家」というのはどういった家づくりを指すのでしょうか?

P 井上氏:1961年に発表された松下1号型住宅の原型となった第一次試作住宅で3つのコンセプトを掲げました。「強くなければならない」「時計のように精密でなければならない」「多くの人が生涯の負担も少なく建てられるものでなければならない」というものですが、住まいづくりで私たちが目指しているのは、今も昔も「強さ」と「暮らしやすさ」のNo.1であることです。「強さ」は安全に通じ、安心して暮らせる家であるために必要なことだと思います。

L 井上氏:災害の多い日本では住まいには、命を守るという、非常に重要な使命があると思います。住まいは基本的人権ですよね。

P 井上氏:⽇本は⼤きな地震がたびたび起こる国です。今までも残念なことに、阪神淡路⼤震災や東⽇本⼤震災などをはじめとする⼤地震が数多く起こりました。しかし、パナソニック ホームズの家は、過去の地震で⼀棟も倒壊していない実績があります。常にお客様の生命を守ることが第⼀と考えている当社が⾃負できる強い家なんです。
加えて、住まいはお客様の資産ですから、それを守るということも必要です。これからも「⾸都直下地震」や「南海トラフ地震」など、いつどこで⼤きな地震が起きてもおかしくないといわれています。そのため、万一地震で住まいの全壊・半壊があった場合に当社が建物を原状復帰する独自の制度「地震あんしん保証」も展開しています。

独自の「地震あんしん保証」と
省エネ⼤賞にも選ばれた全館空調「エアロハス」

L 井上氏:「地震あんしん保証」とはどのような制度なのでしょうか?

P 井上氏:万⼀の地震による住まいの全壊時の建替えや半壊時に、当社の負担で原状回復することができる制度です。保証限度額(5,000万円まで)はありますが、保険のような掛け⾦も不要です。
実は、地震で建物が全壊してしまった場合、地震保険では半額分までしか補償されません。最⼤でも⽕災保険⾦額(建物価格)の50%となり、建て替えを⾏う場合、費⽤の半額は⾃⼰負担となります。
当社の住まいを購⼊していただいたお客様には、建物の損害時の不安をなくしていただくため、ほぼ保証限度額内で建て替えや補修が受けられるという制度を住まいに付帯することで、「住まいを失う」というもっとも⼤きな精神的な不安が解消できます。
これも住まいの「強さ」に裏付けられた⾃信があるからこその、当社独自の制度です。

パナソニック ホームズ独自の「地震あんしん保証」パナソニック ホームズ独自の「地震あんしん保証」

L 井上氏:なるほど。それはすごいですね。地震や大雨被害なども大変ですが、昨年からのコロナ禍も世の中に大きな影響を与えています。

P 井上氏:コロナ禍で注⽬されている「換気」ですが、当社では住まいの全館空調システムとして「エアロハス」を提案しています。これにはパナソニックの換気・空調の技術⼒が⽣かされているのですが、エアロハスはいったん各部屋に吹き出した空気が空調ユニットに戻り、外からの換気空気をミキシングして専⽤エアコンによる空調とHEPAフィルターによる浄化を⾏い、再度、各部屋にきれいな空気を届けるというシステムです。真夏・真冬も、24時間365⽇、家じゅうを安定した温度に保つので、きれいな空気の中で快適に過ごせます。特に今の時世では在宅時間が長くなりますから、その中で本当に健康で安全・快適に⽣活ができるというのが「暮らしやすさ」につながると感じています。
時代がどんどん変化する中、本当の意味のお客さまの困りごと、また場合によっては社会の困りごとに対して、技術⼒を駆使して住宅と組み合わせて提供する。今の時代には、この両⽅が必要だということです。

パナソニック ホームズ独自の「地震あんしん保証」全館空調システム「エアロハス」の仕組み

設計事例の社内表彰制度『アーキテクト・オブ・ザ・イヤー』。
お客様のさまざまなこだわり・ご要望にお応えするため、 設計⼒・デザイン⼒を磨く

L 井上氏:御社では、住まいの設計・デザインにも力を入れていらっしゃるとお聞きしています。

P 井上氏:お客様は、家づくりに大きな夢をお持ちですから、お客様がお持ちの住まいのイメージを具現化する設計⼒は⾮常に⼤切だと感じています。
当社では、毎年、建物設計における優秀事例を選出して表彰する社内制度『アーキテクト・オブ・ザ・イヤー』を⾏っています。より⾼い提案⼒とデザインクオリティで応えることができるよう⾏っている制度です。お客様が希望として話されることを実際に図⾯にして、具現化し、お客様が思い描いていた以上のプレゼンテーションができると、お客様に⼤きな感動をしていただけるので、こういった専⾨的な能⼒を磨いていくことは⾮常に⼤切だと感じています。

L 井上氏:『アーキテクト・オブ・ザ・イヤー』には、どんな事例が出てくるのでしょうか?またどういった視点で表彰作品を選んでいるのでしょうか?

P 井上氏:風の通る家だったり、猫のための住まいだったりと、自由にいろいろですね。リノベーションの事例もありますよ。毎年、半日くらいかけてプレゼンテーションを聞くのですが、非常に面白いです。評価の視点でいくと、お客様の思い描くものをきちんと形にして、それもけっして高額にせず、いろいろなアイディアを駆使して提供している家づくりとかですかね。お客様の想いが見える家づくりができているか、またそれが具現化した時に設計・デザインとして生きているか、です。

L 井上氏:テクノロジーの進化に加えて、設計・デザイン性をあげていくと住まいのクオリティの幅が広がりますよね。

強い構造や美しいデザインが生かされた「カサート プレミアム」強い構造や美しいデザインが生かされた「カサート プレミアム」

空き家の課題を解決するストック事業の取組み

「空き家の課題を解決するためのストックへの取組みは、ハウスメーカーの責務だと思っています」「空き家の課題を解決するためのストックへの取組みは、ハウスメーカーの責務だと思っています」

L 井上氏:御社は2021年4⽉に⼦会社であるパナソニック ホームズ不動産 株式会社に買取再販事業の専任部署を新設されました。

P 井上氏:正式名称は「住宅流通推進センター」といいます。当⾯はこの部署で、東名阪のパナソニック ホームズ施⼯の既存住宅や⼀般のマンション住⼾を対象に物件を買い取り、子会社のパナソニック リフォーム株式会社によるリフォームやリノベーションを施し、販売までをワンストップで対応するという「買取再販」のスキームですすめます。
買取再販に際しては、独⾃の基準と併せて「スムストック」(一般社団法人 優良ストック住宅推進協議会)の基準や査定などを活⽤することにしています。
当社が建築した⼾建て住宅のストックは、全国に約44万棟あるのですが、これらを空き家にさせないことは、ハウスメーカーとしての責務だとも考え、これからも増え続ける空き家について、何らかの受け⽫になれるという思いで始めました。買取再販事業は、2030年に売上高350億円のビジネスにすることが⽬標ではありますが、まずは、⾦額よりも何⼾空き家になりそうな家をそうせずに済んだのか、を⼤切にしたいと思っています。

L 井上氏:地域の方々にとっても空き家がなくなることで安心感がありますよね。

P 井上氏:そうです。また、買取再販物件の⾒学会を⾏うことによって、リアルなリフォーム事例の提案の場として活⽤ができ、周辺からのリフォーム受注獲得や新築受注につなげられるのではないかと考えています。
メリットとしては、売主のお客様は仲介⼿数料の支払いが不要となり、手間とコストをかけることなく今住んでいるままの状態で住宅を売却できるほか、当社が住み替え先の⽀援もできますし、買主のお客様には、物件の⻑期保証継続や瑕疵保険、設備あんしん保証などをご提供できます。

街づくり・海外展開・SDGsについて

L 井上氏:御社はプライム ライフ テクノロジーズ(PLT)のグループ会社でもいらっしゃいますが、街づくりの取組みについてもお聞きできるでしょうか?

P 井上氏:我々は、⼾建て分譲事業・マンション事業・複合開発事業という3つの街づくりを⾏っています。戸建て分譲事業の例としては「Fujisawaサスティナブル・スマートタウン」や「スマートシティ潮芦屋」などがあります。
潮芦屋では、PLTとモビリティ実証実験なども⾏っていますが、街づくりはその⼟地⼟地でニーズが違うことを実感しています。特に都市部の街づくりと地⽅の街づくりでは、難しさが全然違う。街づくりは、チャレンジと学びの繰り返しです。これからは、PLTグループの総⼒で取組んでいきたいと思っています。

L 井上氏:グローバル展開についてはいかがでしょうか?

P 井上氏:海外戦略としては、12、3年前から取組んでおり、現在は台湾とマレーシア、そしてこれからインドネシアがビジネスとして成⻑させていくというところですね。こちらもまだまだチャレンジ中です。国によって環境も住まい⽅も違い求められるものも違っていますので、日本国内で培ってきた技術が⽣かされていない。
しかし、これから事業に取組む予定のニュージーランドには期待しています。⽇本と同じように四季があり、地震も多い国なので、快適で強い家のニーズが⾼い。普通は、⽇本から部材を輸出して⼀か⽉も船に乗せて…と考えると物流の費⽤も含め、採算が取れないのではと思われがちですが、実はニュージーランドは⽇本の1.2倍か1.3倍ほど住宅の価格が⾼いんです。今後、成⻑させられればと思い、取組んでいます。

兵庫県芦屋市で展開する大型分譲地「スマートシティ潮芦屋」兵庫県芦屋市で展開する大型分譲地「スマートシティ潮芦屋」

L 井上氏:最後に御社の考えるSDGs、そして住宅の未来について御社がどう取組まれていくかをお聞かせください。

P 井上氏:社員には、「我々の仕事そものもが、SDGsに通じる」と常々伝えています。「良家」という、松下幸之助の考え方や理念が、SDGsの本質そのものだと思うのです。もちろん、その実現のために学び、努力しなくてはならないことはたくさんある。
我々が担っている住宅というビジネスは、たとえ住宅着工数が減ったとしても、絶対につぶれてはいけない業種だと思います。住宅産業は裾野が広い。部材を作り出し、提供してくれる産業がある、その部材を現場に運んくれる運送業者の方々がいる、住まいづくりにかかわる様々な業者さんがいる。我々がつぶれたら影響を受ける会社や人々が多くいる。社会的にも、大変責任が重い業種だと思っています。
住まいは、お客様にとっては命を守るものであり、資産である。そのことを肝に銘じて世の中の環境がいかに変わろうとも、良いものを提供し続けるということが、大切だと思っています。
そのためには、社内も社外の関係者の方々も、お互いが分断された状態では、顧客が満足する家づくりができない。互いに連携し、創業者の考えに立ち返って、技術と知恵を生かして「良家」づくりに邁進する、そのことが住宅の未来を担うことであり、弊社にとって必要な姿勢だと感じています。

L 井上氏:「CS No.1~すべてはお客さまのために」をモットーにされている御社の思いがよくわかりました。本日は貴重なお話をありがとうございました。

兵庫県芦屋市で展開する大型分譲地「スマートシティ潮芦屋」パナソニック ホームズ株式会社 本社(大阪府豊中市) にて(2021年7月27日)

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