機能と並んで省エネ化が進んでいる冷蔵庫の世界
共通の燃費表示がなく最低基準もない日本の住宅の世界

家電のような冷蔵庫でも共通の年間消費電力消費量が表示されている。ところが日本の住宅は共通の燃費表示がない家電のような冷蔵庫でも共通の年間消費電力消費量が表示されている。ところが日本の住宅は共通の燃費表示がない

つい先日、自宅の冷蔵庫の調子が悪くなった。さて、新しい冷蔵庫を買おうかとネットで冷蔵庫を調べてみて改めて驚いた。
10年くらい前から採用が始まっていた真空断熱材がもはや一般化しており、その結果、昔と同じ外形寸法のまま内容積はかなり大きくなっている。また省エネ化も非常に進んでおり、10年前の冷蔵庫に比べると消費電力は約半分となっている。まあ、この辺りまでは調べる前から知ってはいた。

しかし、詳しく知らなかったのはここからだった。
ラップをかけなくても鮮度を保つ「真空チルド」や、二酸化炭素濃度を調整する機能がついた機種が普通にあるからだ。ここ10数年で家電各社は、機能と省エネを兼ね備えた機種を開発し展開しているという現状だ。

前々から言っているが、自動車ならJC08(国の燃費評価基準)、家電のような冷蔵庫でも共通の年間消費電力消費量が表示されている。なので、消費者は単純な商品の価格差だけではなく、燃費も加味した商品選択が可能になっている。ところが日本の住宅の世界となると共通の燃費表示がない。

ヨーロッパではエネルギーパスと呼ばれる共通の燃費表示が義務付けられており、新築時はもちろんのこと、中古住宅の売買、賃貸時には改めて有資格者が共通の基準に則った計算をし、提示することが義務付けられている。その結果、消費者は賢い選択が可能になっているのだ。

燃費の悪い住宅のツケは、住まい手にかかってくる

こういった適切な表示がない業界は未成熟業界であると私は考えている。ましてや住宅は生涯で一番高価な買い物である。そして、実は購入後も一番光熱費を消費するものでもあるのに、だ。
一般的な住宅が年間に消費する1次エネルギー量は約75GJだ。それに対して、平均的な自家用車の燃費と走行距離はそれぞれ13km/L、1万km/年である。この状況で自動車が消費する年間の一次エネルギーは約27GJだ。ということは、平均を見ると住宅は自動車の3倍のエネルギーを消費することになる。

自動車の世界では2009年以降売れ筋のトップ3はプリウス、アクア、フィットハイブリッドが独占といってもいいくらい強くなっている。しかし、いくら自動車を低燃費化したところで、1/3でしかないわけである。しかも、自動車の平均利用年数は11年、住宅の平均利用年数は最近の住宅なら40年を超えるであろう。

最初に燃費が悪い住宅を買ってしまったツケは40年以上に渡る期間「暑い」「寒い」「高い冷暖房費」というツケとして住まい手にかかってくる。国民に優しい国ではこれが分かっているから適正な燃費表示があり、また断熱に関する最低基準が厳しく設定されている。しかし日本では表示の義務もなければ、最低基準もない。

その結果、日本の消費者は適切な住宅選定ができず、結果として生涯にわたり、「暑い」「寒い」「高い冷暖房費」を追い続けることになるのだ。

我が国の住宅の省エネに関する方向性は、
"横軸(一次エネルギー)良ければ全て良し"という考え方

断熱がほどほどでも太陽光発電等がたっぷりのっていればいい、という日本の住宅に対する考え方断熱がほどほどでも太陽光発電等がたっぷりのっていればいい、という日本の住宅に対する考え方

今世界中の先進国、及び自治体においては、室温に対する最低基準があることが多い。
その大半が最低室温を18℃~20℃と規定している。理想的には21℃以上というのが世界の通例である。それどころか、特にヨーロッパにおいてはこのレベルは「人権」として捉えられている。
ところが日本では室温10℃以下も古い住宅では当たり前のことだ。10℃以下というのは高齢者が低体温症を発症する領域でもあり、また脳血管疾患、心疾患、高血圧といった項目に対しても膨大なリスクを伴う温度領域でもある。

本題に戻るが、今回調べた冷蔵庫に関して言えば、微細なる温度調節はもちろんのこと、圧力調整、CO2濃度管理までなされている。人間も同じことで冬は21℃以上相対湿度は45%以上がインフルエンザ等のウイルス、脳血管疾患、心疾患その他多数の健康被害が発生しにくくかつ快適な領域、夏は27~28℃、60%以下というのがカビやダニが発生しにくくかつ快適な領域というのは熱環境工学の世界では常識である。

しかしながら、大手住宅メーカーでも大半が「そこまでは必要ない」とのごとく、こういった欧米では最低限としている領域が無視されている。圧力調整、CO2濃度管理以前の問題だと思う。

現時点で日本の住宅メーカーで、理想的な温度を常識的な冷暖房費の範囲内で年中保とうという意志が感じられる大手メーカーは2社(一条工務店とスウェーデンハウス)くらいしかない。他メーカーの住宅の断熱・気密水準では、常識的な冷暖房費と夏の涼しさ・冬の暖かさを両立させることはできないのだ。

住宅の燃費性能を見える化して比較する

日本にエネルギーパスがないのを嘆いていても仕方がない。
ということで、私が理事をしているパッシブハウス・ジャパンにて「建もの省エネ×健康マップ」というサイトをウェブ上に開設した(2013年1月:http://tatemono-nenpi.com/map/)。この表の横軸は一次エネルギー(省エネレベル、光熱費に直結する値)縦軸は暖房負荷(暖房しない時点での暖かさ・温度ムラ、健康、快適性、暖房費に直結する値)を示している。

この表を作成するにあたり、同じプラン、同じ場所に建てるという条件を揃える必要があった。そこで、国がベースにしている標準プランに各社の断熱仕様を入れ込むことで計算した。
ところがこの各社の断熱仕様を集めるのも一苦労だった。車で言えば排気量にあたる「壁の断熱材は何で、それが何ミリ入っているのか」という基本事項すら、各社表立っては公表していないからである。
そこで、集められる限り集めて作ったのがこのサイトだ。公表直後は「削除してほしい」というメーカーからの抗議のようなものが数社からあった。その際、「計算根拠も下の表に掲載しており、間違いがあれば再計算します。ですので詳しい資料を下さい」と返答すると全てのメーカーからその時点で連絡が途絶えた。我々のやろうとしたことは、住宅の燃費性能に関する価格ドットコムのようなものであると考えている。

今の我が国の住宅の省エネに関する方向性は横軸(一次エネルギー)良ければ全て良しという考え方にいきつつある。これは「断熱がほどほどでも太陽光発電等がたっぷりのっていればいいよ」という考え方になる。しかし、これは電気メーカーの力が非常に強い日本ならではの考え方で、欧米、とくにヨーロッパではまず断熱性能をきちんと確保することが最優先課題として、実行されてきた。
私は日本のこの状況を「裸にカイロを貼るようなもの」としていつも説明している(※前回、記事でも紹介:「まずは日本の住宅業界のおかしさを知っておこう」)。
これは「断熱はそこそこにしておいて、大量の暖房設備とそれを補うための太陽光発電があれば良い」という考え方を揶揄したものである。

出典:パッシブハウス・ジャパン「建もの省エネ×健康マップ」出典:パッシブハウス・ジャパン「建もの省エネ×健康マップ」

野菜に対する接し方の方がはるかに優しい?

冷蔵庫内の野菜の鮮度に関してはものすごくこだわるのに、冷蔵庫でいえば、一番の基本である温度・湿度の時点で、いい加減になっているのが住宅業界である。

冷蔵庫の世界では圧力、CO2濃度にまで調整領域が発達している。人間の領域でもCO2濃度の調整は空気質という観点から非常に重要だが、これも実はほとんどの住宅でないがしろにされている。要するに理想的な空気質が維持できていないということになる。

これらのことを全て総合すると私には電気メーカーの野菜に対する接し方は、住宅メーカーの人間に対する接し方よりもはるかに優しく、愛情にあふれたものだと感じざるを得ない(というより絶対的事実)。しかも、冷蔵庫はせいぜい20万円前後と住宅の1/100の価格帯の商品である。

ヨーロッパを見ていると冷蔵庫の性能は日本よりはるかに質素だ。逆に住宅の性能は日本よりはるかに上なのである。別に私はヨーロッパ崇拝者ではないが、野菜と人間…どちらに重きを置くかということを考えれば、ヨーロッパの考え方に一理あると、私は考えている。

冷蔵庫内の野菜の鮮度に関してはものすごくこだわるのに、</br>冷蔵庫でいえば、一番の基本である温度・湿度の時点で、いい加減になっているのが住宅業界である冷蔵庫内の野菜の鮮度に関してはものすごくこだわるのに、
冷蔵庫でいえば、一番の基本である温度・湿度の時点で、いい加減になっているのが住宅業界である

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