世界の公募作から藤本壮介が選出した7名の出展者の展覧会U-35 2025(大阪駅北口前うめきたシップホール)
JR大阪駅前のうめきたシップホールで「Under 35 Architects exhibition 2025 35歳以下の若手建築家による建築の展覧会」(以下、U-35)が週明10/13に閉幕した万博の週末、10/17に開幕した。2025年の開催日は、10月17日から27日の11日間となる。
U-35はこれからの活躍が期待される 35歳以下の出展候補者を全国から募り、今年は万博の大屋根リングでも知られるひと世代上の建築家 藤本壮介の厳正な審査を経て選出された7作品の展覧会である。また、その出展作品の中から優秀な作品を選出し、Under 35 Architects exhibition 2025 Gold Medal賞と歴代のGoldMedal受賞者の中から新設されたSilver Medal賞が授与される。まさに、若手建築家の登竜門としての展覧会だ。
本展は世界で活動し日本を代表する7人の建築家(芦澤竜一 五十嵐淳 永山祐子 藤本壮介 平沼孝啓 平田晃久 吉村靖孝)と2人の建築史家(五十嵐太郎 倉方俊輔)が総合ディレクションし、建築をめざす有力な後進の活動に発表する機会を展覧会方式で与え、議論する場を設ける16年目の取組み。隣接する美術界をはじめ、食文化を世界へ伝えようとシェフをめざす料理会、音楽界、ファッション界等、日本文化を世界へ導こうとするクリエーション分野が建築界に注目し、日本の後進を育む文化に根づき、若者へ希望や期待を与える大きな存在となる取組みである。
毎回、ひとりの建築家の審査員が選出を行うが、今回、藤本壮介は2日間という期間をかけ、悩みながら出展者を選出したという。今年のテーマは「既知より、未知。」象徴的なテーマの中、選出された7作品と出展者は以下の通り。
・《想像の手ざわり》石田雄琉+房川修英
・《大阪の街に開かれた建築をつくる》上田満盛+大坪良樹
・《階段のとなり》上野辰太朗
・《浜辺のような建築》工藤希久枝+工藤浩平
・《シロクマハウス》下田直彦
・《人間的な家》田代夢々
・《引越しと改修》成定由香沙
開催期間中は、ギャラリーイベントや出展者によるギャラリートーク、そしてゲスト審査員が自身の建築のルーツを語るイブニングレクチャーが行われている。今回は、各作品の概要と、10月18日に行われたシンポジウムの様子、そしてGold Medal受賞者を紹介する。
「既知より、未知。」が象徴的。展示作品の紹介-前半
シンポジウムでは、出展者たちがそれぞれの展示のプレゼンテーションを行った。プレゼンテーション順に紹介する。
《想像の手ざわり》石田雄琉+房川修英
舞鶴湾にある2つのホテルを設計。敷地周辺の大きな風景に対し、設計した小さな2棟のホテルの建物を「望遠鏡」のように見立て、舞鶴の風景の見方を提示できないかと考えた。既存の出入り口を中心に据えつつ、アプローチの途中で風景と建築が絡みつくような体験を意図し設計。アプローチの途中に外に開かれた庭があり、そこを通って部屋に入ることで、建築と風景が一体となる感覚を得られるという。展示自体に建物の姿はなく、あえて、建物からその場を体験するような風景写真が重ねられる「思い切った展示」との評価がでた。
《大阪の街に開かれた建築をつくる》上田満盛+大坪良樹
大阪の岸和田を拠点に、街に「明るいグレーゾーン」を作り、人間が主体的に都市空間を取り戻し、街を更新していくことを重視。和菓子屋の改修とドラッグストアの2つの設計を紹介。和菓子屋には、3面に長さ10メートルのベンチを配置。ベンチは、街のものか和菓子屋のものか曖昧な部分(グレーゾーン)を作り出している。ドラッグストアは 敷地いっぱいに軒を伸ばしたデザインで、軒の高さはバス停の高さに合わせ、街全体のスケール感に調和させた。機能的な合理性を確保しつつ、「遊べる」空間を考えている姿勢が評価された。
《階段のとなり》上野辰太朗
元々、舞台照明と建築照明を手がけており、そこから建築に関心を広げた。展示はアスファルトの亀裂からみえる土や植物。インスタレーションを通して「つくる事やコントロールすること」と「手放すこと」の関係性、都市が無機質なモデルとして捉えられるようになり、そのような都市のあり方に対し、管理の外部、「偶然性」や「曖昧な自然な情報量」をどのように取り戻せるかを考えたという。展示物だけではなかなかわかりづらいが、その哲学的な考え方とアプローチが評価の対象となった。
《浜辺のような建築》工藤希久枝+工藤浩平
「浜辺のような建築」というコンセプトのもと、傾斜地に建つ住宅「斜めの家」を紹介し、地球との繋がりを感じる開放的で多様な生活の実現を目指す建築。「人が立つための水平」と「建物が立つための斜面」の調和が図られている。床の段差は、忙しい朝の支度の中でゆきかう親と子の目線を何度も合わせる役割を果たし、一人になりたい場所、一緒にいたい場所をもつくりだしている。展示では、実際の画家の家の様子をリアルに感じてほしいと1/4模型がつくられた。
「既知より、未知。」が象徴的。展示作品の紹介-後半
《シロクマハウス》下田直彦
人がいきいきと暮らすことへの主体性がテーマ。人の主体は意識と無意識が半々であり、言葉・像(イメージ)・ものが重なり合っているという考え方だ。現代社会では像の領域が肥大化し、無意識の領域が小さくなる傾向があり、主体が保てなくなる状況にあると認識した。北海道札幌にある「シロクマハウス」では、文章、手仕事、設計の3本柱ですすめられ、部屋の名前をつけない8つのキューブから構成された。建物が完成し住人が住み始めてからは、よくわからない場所に自分なりの意味を見つけたり、名前をつけたりすることで、主体的な生活を送ることができているという。
《人間的な家》田代夢々
自分の分身のような建築に挑戦。「人間的な家」とは、人間と家、暮らしの要素が不可分に渾然一体となり、「建築という器からあふれ出してくる状態」をイメージしている。昨年、RC造の実家の一部にあるバーを「建物の内部にある外部」として捉え、開口部に自律した居場所をつくる「小屋のような建具」を設計した。家の未来像として、開口部に居場所をつくる可能性を建物全体に展開し、内側に外部空間を残して「建具のような小屋」を差し込んでいくことを提案。暮らしの変化に応じて小屋が動的な居場所をつくり、潜在的な個性が建築から少しずつあふれ出すことをめざした。
《引越しと改修》成定由香沙
大学卒業後、実家に戻った際、母親によって家の中が奇妙なほどに片付けられていた。母親は「いつでも引っ越せるように片付けている」と説明したというが、母親個人の部屋(空間)は存在しないことに気がつく。母親を中心として、実家の改修と引越しという2つの選択肢を構想し、家族の小さな物語であると同時に、社会に広がる大きな建築の話になり得ると捉えた。状況の背景にある空間的な性質を、設計を考える上で大事にしていくことが提示された。一見、建築物がないことと概念的なアプローチをどう評価するか、審査する建築家も難しいとコメントした。
「部屋」の概念と「型」についての議論-ゲスト建築家とU-35 出展者のディスカッション
出展者のプレゼンテーションのあとに、ゲスト建築家と出展者のディスカッションが約50分行われた。
まず、今回の展示を手掛けた若手建築家たちが、伝統的な建築の概念、特に「部屋」のあり方に対して、根本的な問いを投げかけ、多様なアプローチを試みていることがあげられた。審査する建築家の方々からは、これらの展示がそれぞれ方向性が全く異なり、同じベクトルで測ることができないほど革新的であると同時に、その評価の難しさを認めている。
議論の核となった「部屋」の概念では、多くの出展者が「部屋に囚われない」志向がみえた。この背景には、部屋という閉じた独立した空間が、現代社会において個人のアイデンティティを特に規定するものではなくなっているのではないか、という認識があるようだ。若手建築家たちが代わりに求めているのは、「領域」(テリトリー)ではないかという意見。これは、家の中だけでなく都市全体に広がる概念であり、場所を「使いこなす」ことや、「自分の場所を見つける」ことを重視する傾向がみられるという。
様々な展示が、この伝統的な「部屋」の完結性を破壊、または変容させる試みをみせた。
一部を紹介すると、《想像の手ざわり》は、ホテルを「観測するための場所=気象台のような場所」として捉えた。《浜辺のような建築》での「斜めの家」では、最も独立性が高く専門的な部屋であるアトリエをあえて家の真ん中に置くことで、それが部屋ではなくなり、通り道や多目的な場所へと変容する面白さを生み出した。
もうひとつの議論は建築がもつ「型」について。
議論では、この出展者たちの新しいアプローチが、従来の建築が持つべき「型」(理念や目的、具体的な形式)を欠いているのではないか、という議論がされた。従来の建築家のプロセスとは一線を画しているように感じるとの議論だった。
特に興味深い事例として、成定さんの《引越しと改修》があげられた。この作品は、母の部屋がない、という気づきを「家族の物語」として解き、アプローチとして、小さな棚を作る、ドアを外すといった小さな改修の運動を通して家が育まれていく、ということを構想。これは、家族の自発的な話や、物の移動といった「フィジカルな側面」が、建築的な解決(例えば、母親の部屋を作ること)よりも大きく作用するという捉え方。それによって社会構造への大きな解放が生まれる可能性を探ろうとしていると分析された。
なかなか濃いディスカッションですべてを伝えられないのが残念だが、象徴的だったのは五十嵐淳氏の「野球場で陸上競技をみているようだ」という発言。「個人技で能力はすごいのだが、野球とは違うフィールド。アプローチの仕方もそれぞれ」というコメント。
また永山祐子氏は「建築を形にしていく際に、最後は切り捨てられてしまう部分、例えば“ニュアンス”やその場で起こっていたことを、削ぎ落とさずに残したいという強い思いを彼らが持っていると感じて共感する。ただ、最終的には流動的なものにストップをかけ、形にしていかなければならない建築の矛盾がある」とコメントした。
藤本壮介の総合評価とGold Medal賞
今年の審査員である藤本壮介氏は、出展者の総評として、以下のようにコメントした。
「不思議な議論となり、面白かったのではと思う。展示については、非常に素晴らしく、興味深く、かつ“あまりわからない”という点が特に面白かった。
近代という時代が終焉を迎えつつある。コルビュジエとその同時代の建築家によってつくり上げられた現在私たちの周りにあるビルや建物(近代の建築)の価値観が今、変わろうとしている。近代とは(ものすごく大雑把に捉えると)ある種の構造をあてはめて、人間をそこに押し込めていくような考え方だった。それは 同じユニットを繰り返したり、同じ階高でビルを作ったりする手法に現れている。人間を“ほぼ同じもの”と仮定し、経済発展をもたらしたが、現代になって“人間9割同じ”という仮定が覆りそうになっている、1割のマイノリティだけでなく残りの9割も“まあまあ同じじゃない”。
そうじゃない時代に入っている今、“どうする?”というのが、私たちが抱えている問題だと思う。彼らの世代は、この状況をよりセンシティブに、高解像度で繊細に見ている。彼らが箱を一つつくるにしても、それを表現することも躊躇するのは、近代の崩壊あるいは危機を見ているためだろうと推察できる。この問題に対する出口がどこにあるかはまだ分からない。現状はそれぞれがとにかく走り続けるしかない」
さて、考え方もアプローチも展示物も違う今回のU-35。Gold Medal賞を授賞したのは、《人間的な家》田代夢々さん。授賞理由を藤本壮介氏はこうコメントする。
「現代を大きな変化の時代と捉え、近代の価値観が変わりつつある状況の中で、本人が抱える問題意識と創作のエネルギーを評価した。当初の書類審査では建物のバーの青い扉しかなく、宣言はしているが物の表現が全くない状態だった。しかし、その後の数ヶ月で“謎の天国のような塔”をつくりあげた。最後にものをいうのは、このような意味不明な創作のエネルギーであり、一見感覚的につくられているように見えながらも、大変理知的に考えられている。”自分が90歳になった時にこれが出来上がるかもしれない。“と発言したことを聞き、この人物は本気でクレイジーな、でも信念を持ってやり続ける人だと感じられた」と、評価した。
Gold Medal賞の《人間的な家》田代夢々さんの授賞コメント
シンポジウム後、Gold Medal賞を授賞された田代夢々さんからコメントをいただいた。
「独立後約3年間、建築家としての活動に孤独と厳しさを実感していたとき、芦澤先生による出展推薦は一筋の光のように感じ、迷わずエントリーしました。このUー35は、将来建築家として生きていくために自分とは何かを掘り下げることが重要だと解釈し、等身大の暮らしを見つめ直すことから提案に至りました。
展示の工夫としては、難しいことを考えず建築を専門とされない方やお子さんにも楽しんでいただけるよう、見ているだけで気持ちが明るくなれる空間をつくろうと意識しました。
藤本先生に模型を見ていただき“この模型は思考が物象化されている。それはリアルですよね”とおっしゃっていただけたことと“適当につくっているようで、実は理知的につくっている。同時に、理知に捉われない自由さを持っている”と、私の設計スタイルを非常に有難い言葉で言語化していただきました。
活動で孤独を感じることが多かった私にとって、同世代の建築家の方々と交流できたことが新鮮で、とても刺激的でした。個人個人のバラバラな考えの交点に普遍性が存在するならば、それこそが次の時代の建築をつくる価値観なのだと思います。
ゆくゆくは吉阪隆正先生が実践していた“みなでつくる方法”に挑戦し、個人が個性を失うことのない民主的なクリエイティブの実践を目標に精進していきたいと考えています」
「既知より、未知。」のテーマ通り、なかなか未知数の高い今年のU-35展覧会であった。
会場で展示を見ただけではわかりづらいので、できれば受付にある「U-35 展覧会 オペレーションブック 2025」を手にそれぞれの作品の意図を確認しながら周るとよいだろう。
U-35展の出展者が建築界を牽引し、この展覧会がいずれ“近代建築の転機のひとつの現われだった”といわれる日がくるかもしれない。
若手建築家の新しい思考と熱意を感じに展覧会に訪れてみてほしい。
■Under 35 Architects exhibition 2025 35歳以下の若手建築家による建築の展覧会
・会期:2025年10月17日(金)~27日(月) 12:00~20:00
※期間中無休
※最終入場19:30 (最終日は16:30最終入場、 17:00閉館)
・入館料:1,000円
・会場:グランフロント大阪 うめきたシップ2階(大阪市北区大深町4-1うめきた広場)
・公式サイト:https://u35.aaf.ac/
■取材協力
特定非営利活動法人(NPO法人)アートアンドアーキテクトフェスタ
https://aaf.ac
















