インバウンドバブルに沸く白馬村が、10年に一度の村民アンケートを実施
2025年1月1日時点の最新地価公示(2025年3月公示)によると、住宅地の地価上昇率1位となったのは北海道富良野市(北の峰町)でプラス31.3%、次いで2位は長野県白馬村(北城)でプラス29.6%、3位は沖縄県宮古島市(上野)でプラス23.1%と、いずれも国内外の観光客から人気が高いリゾート地が上位を占めた。
その中で“いまインバウンドバブルに沸く村”として注目を集めているのが、長野県白馬村だ。実際に筆者もスノーシーズンの2月に白馬村を訪れてみたが、まちの中を歩くと聞こえてくるのは外国語ばかり。特に白馬はオーストラリア人観光客が多く、「夏季の母国を離れ、母国と時差なく良質な雪質でスノーリゾートを楽しめる」という理由で年々人気が高まっている。
白馬村観光局の統計によると、昨シーズンの観光客数は前年比14%増となり、過去20年間で最多の130万人を突破。そのうち、訪日外国人の割合は46%を占めており、高級リゾートホテルが集まる北城エリアには、外国人が経営する飲食店も増えているという。
「白馬は変わっちゃった。日本人が少なくて、ここだけ外国みたいでしょ(笑)?」これは地元の店主の方から聞かれた言葉だ。インバウンドバブルに沸く一方で、まちが変わっていくことへの不安を感じている村民も少なくない。
時を同じくして、現在白馬村では今後のまちづくり方針を定める「白馬村第6次総合計画・総合戦略」の策定を進めている。今回の総合計画は令和8年度からの10年間を対象としたもので、「村民アンケート」を実施し、その結果をまちづくりの方針を定める基礎資料にするという。
こうしたアンケートを実施している自治体は少なくないが、白馬村がユニークなのは、村内の大人たちだけでなく、地元の中高生、白馬村出身の村外在住者、白馬村のファンなど関係人口にまで調査対象を広げている点だ。
白馬村役場を訪れ、総務課担当者に村民アンケートの結果と今後の展望について話を聞いた。
働きながら遊んで暮らす──多様な人々の流入出と定住者の確保は人気リゾート特有の課題
▲白馬村役場 総務課 企画政策係長 渡邉宏太さん。「今回のアンケートはまず無作為に抽出した村民2000人を対象に実施しました。そのうち138人が外国人居住者でしたので、英語の依頼文や調査票を送付しました。また、抽出から漏れてしまった村民や、村外在住の方もアンケートに回答できる機会を設けました。中高生へのアンケートは設問を変更し、学校に協力してもらい220人から回答いただきました」「白馬村が世界的に注目を集めるようになったいま、もはやまちづくりは村内だけの問題ではなくなりつつあります。村民の皆さんはもちろん、白馬村で育つ青少年や白馬村と関わりを持つ人たちからも広く意見を聞きたいという想いで、今回の村民アンケートを実施しました」と語るのは、白馬村役場の渡邉宏太さんだ。
「白馬村にはこれまで何度もブームの波がありました。私が小学生の頃は、ちょうどスキーブームの後期で今よりも観光客が多い状態でしたが、白馬村役場に入った20年ほど前は、長野オリンピックが終わり、バブルが崩壊して財政的にも厳しい状態でした。
ただ、長野オリンピックでアルペンやクロスカントリー、ジャンプの競技会場になったことで“HAKUBA”の地名を覚えてもらえたことは大きな転機でしたね。ちょうど観光局の海外向けプロモーションがはじまり、インターネットやSNS等の普及も重なって、2000年代後半から外国人観光客が増えはじめ、再び白馬は活気を取り戻しました。その後コロナ禍を乗り越えて、今に至っています」(以下「」内は渡邉さん談)
白馬村は外国人も含めて多くの人で賑わっているように報じられているが、人口を見ると実はスノーシーズンとグリーンシーズンで大きな開きがあるという。
「ワーキングホリデーで白馬を訪れ、スノーシーズンだけスタッフとして働きながら滞在する方が多いので、冬になると一気に1000人ぐらい村の人口が増え、外国人居住者は人口の18%ほどを占めます。しかし、グリーンシーズンは横ばい状態。年間で見ると大きく人口が増えているわけではありません。
また若い世代の流入者は定住思考が薄く、”短期的に白馬で働きながら遊んで暮らしたい”というライフスタイルの方もいます。住まいや仕事の関係もあり、結婚・出産を機に外へ出ていってしまう傾向も見られるので、定住の意向についても今回の村民アンケートの質問に加えました。多様な人々が白馬村に流入してくるのはとてもありがたいことですが、中長期的な定住者を確保することが村の喫緊の課題と言えます」
村民アンケートの項目は全部で約100問。かなり回答カロリーがかかるアンケートだが、回収率は43.7%と比較的高く、村民の関心度の高さが窺えたという。
「総合計画の策定に合わせて《自治基本条例》という村の憲法のような条例を制定する予定です。この先の10年に向けて“白馬村として何を大切にするのか?村民の意識や行動はどうあるべきなのか?”を考える上で、村民アンケートはとても重要な役割を果たします」
地価や賃料の高騰による「住宅不足」で生産年齢人口を確保しにくい状況に
では、ここからは「村民アンケート(18歳以上対象)」の結果を見てみよう。
まず特徴的な点は村民の居住経歴だ。「白馬村の外で生まれ白馬村へ転入してきた人」が全体の66.5%を占めており、村民の多くが村外からの転入者であることがわかる。
また、前回2015年に実施されたアンケート結果と比較してみると、転入者のうち「居住年数が4年未満」と回答した人は0.2%の微増となったのに対し、「居住年数5年~9年」はマイナス3.4%、「居住年数10年~19年」はマイナス8.1%と減少している。渡邉さんによると「短期居住者が増え、20年未満の中期居住者が減少している」という点に、白馬村の課題が表れているという。
「まず大きな課題は住宅不足です。白馬村は昔から民宿やペンションなどを営む世帯が多く、そもそも”普通の住宅”が少ない土地柄なのですが、既存の中古住宅が売りに出されたとしても民泊施設に転用されたり、外国資本により高値で取引されるケースが多く、住宅を確保するのが容易ではありません。賃貸物件も建設されていますが、家賃が高く”白馬に住みたいけれど住む家が無い”という状態で、子育て世帯を中心とした生産年齢人口の定住者の確保が難しい状況となっています。
また、住民の出入りが激しくなったり定住者が減少することで、地域コミュニティが弱体化している傾向も見られます。白馬村はもともと地域社会の結束が強く、集落のコミュニティでお祭りや環境保全・地域防犯などを担ってきたのですが、近年は自治会に参加しない人が多く“これでは自治会活動が成り立たない”という声も挙がっています」
実際に今回のアンケートでは、22.2%の人が「行政区(自治会)に加入していない」と回答。その理由として「加入を勧められたことがない」と答えた人が45.4%を占めており、この点からも既存住民と新規住民の交流が不足していることが窺える。
「白馬村が好き」と答えた中高生は9割超、しかし公共交通に不満も
▲白馬駅前のタクシー乗り場には乗車待ちの観光客が長蛇の列をつくる。筆者も列に並んでみたが、タクシーの台数が足りず30分待ってようやく1台という印象。タクシー不足をカバーするため、スノーシーズンになると他県のタクシー会社から運転手と車両が派遣されてくるそうだ中高生アンケートは、白馬村内にある白馬中学校、白馬高等学校、白馬インターナショナルスクールに在籍する生徒と、白馬村出身で村外の高校に通っている生徒を対象に実施された。
ちなみに、アンケートに回答した中高生のうち「生まれた時から白馬に住んでいる」と回答した生徒は48.6%を占める。
いかにも白馬村らしいのは「将来就きたい仕事について」。「まだ考えていない」という回答を除くと「スポーツ関係」がトップになっているのだが、実は白馬村の子どもたちは村内のスキー場をほぼ無料で利用できるため、幼少の頃からスノースポーツに慣れ親しんでおり、オリンピック選手を目指すほどの実力を持つ生徒も多いそうだ。また、美容・ファッション・芸術・芸能という人気の高い仕事に次いで「観光業」が上位にランクインしているのは、白馬高等学校に国際観光科が設けられていることが影響したものと考えられる。
渡邉さんが“個人的に気になってアンケートに加えた”と話す「白馬村のことが好きですか?」という質問については、「好き・まぁまぁ好き」と回答した生徒が94%。その理由としては「自然環境が豊かだから」「雪が多いから」「地域の人たちが優しいから」が上位を占め、安堵できる結果となった。一方で「白馬村に住み続けたい」と回答した生徒はわずか10%。理由には「村内に就きたい仕事がない」「寒い」「公共交通が充実していない」などが挙げられた。
「中高生が白馬村で生活する上での最大の課題は“移動”です。スクールバスは保護者の要望に応じて期間限定で運行していますが、公共交通が充実しているとは言えませんし、冬は雪で自転車に乗れないので、放課後や休日の移動は保護者が車で送迎しないと行動範囲が限られてしまいます。また、まちづくり活動についても”参加してみたいが移動手段がない”という回答が多く、中高生が地域に出て多くの人と交流し、この村をもっと好きになってもらうためにも、公共交通の充実は重要な課題だと考えています」
白馬村では、従来の「白馬デマンドタクシー」に加え、2024年のグリーンシーズンからアプリや電話予約(村民のみ)で利用できる新交通システム「白馬デマンドタクシーふれAI号」を導入。村内93箇所の停留所で乗降車ができるようになった。ただし、このタクシーも観光客の予約で埋まってしまうことがあり、中高生に限らず村民からさらなる改善を求める声が挙がっている。
「外国資本による土地購入と開発の規制」は白馬のまちづくりにおける最大の課題
もうひとつ、今回のアンケートで村民の多くから懸念の声が挙がっていたのが「外国人の増加に伴う開発」だ。前述の中高生アンケートの中では「外国人を巻き込んだイベントを開催したい」「もっと英語の標識を増やしたい」といった意見があった半面、「このままでは白馬村が外国人まみれになってしまうのが心配」「外国人と日本人の料金を変えてほしい。ご飯を食べにいきたくても高すぎて外に全く出ない人もいる」といった意見も挙がっていた。
「村内外から”外国人が土地を買うことを規制してほしい”という声は多く寄せられていますが、日本の法律では不動産売買は基本的に自由であり、土地に関する規制をかけるとしたら農地法や都市計画法くらいしかありません。村独自で設定できる規制には限界があるため、難しい課題です。
また、外国人も一括りにすることはできず、既に地域コミュニティに貢献しながらまちづくり活動にも積極的に参加してくださっている外国人居住者もいます。
いずれにしても『住宅不足』『公共交通の整備』『開発の規制』については、喫緊の課題として総合計画策定に向けて方針を定めていくことになると思います」
消費されるだけの観光地ではなく、経済も社会も地域内で回る仕組みをつくる
今回のアンケート結果で何より望みが持てるのは「進学や就職で白馬村を離れても将来白馬村へ戻りたい・白馬村で就職したい」と回答した中高生が66%を占めていた点だ。
「先日、白馬中学校の213名の全校生徒にアンケート結果の報告を兼ねて、白馬村の歴史や課題について話をしたり、考えたりしてもらう授業を行ったのですが、中高生の皆さんにもっと白馬を好きになってもらうためにも、大人が楽しみながら次世代へ向けたまちづくりをしている姿を見せていくことが大切だと改めて思いました。
時代の流行り廃りに影響を受けるような“消費されるだけの観光地”にはなりたくない。白馬村役場としては、経済も社会もできるだけ地域の中で回せるような仕組みをつくることを最優先に考え、今後のまちづくりに取り組んでいきたいと考えています」
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消費されるだけの観光地にはなりたくない──これは白馬村の村民も白馬村のファンも皆が一様に願っていることだろう。インバウンドバブルという大きなうねりの中で、地域成長を続ける白馬村の「10年後の姿」を楽しみにしたい。
■取材協力/白馬村役場 ※村民アンケート結果詳細は下記サイトから閲覧可能
https://www.vill.hakuba.lg.jp/index.html
■白馬村公式観光サイト
https://www.vill.hakuba.nagano.jp/
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