特定危険指定暴力団・工藤会の本部跡地を、福祉と共生の拠点に変える
NPO法人抱樸(ほうぼく)は、1988年から福岡県北九州市を拠点に生活困窮者の支援に取り組んできた。35年を超す活動によってホームレス状態を脱し、自立を遂げた人は3700人を超える。現在は、子どもから大人まで様々な人々を対象に、29の事業を手掛けている。弊媒体でもこれまで、生活支援付きの家賃保証・住宅賃貸の取り組み、コロナ禍における緊急支援を紹介してきた。
その抱樸が今、全力を挙げて取り組んでいるプロジェクトが、地域の交流拠点と救護施設を兼ねた「希望のまち」の実現だ。
多目的の大ホールを内包する建築に、人生のあらゆる局面における出会いと支え合いを育む多彩な機能を持たせる。キャッチフレーズは「わたしがいる あなたがいる なんとかなる」。抱樸の地元・北九州でモデルを確立し、全国に波及させたい考えだ。
用地はかつて、全国唯一の特定危険指定暴力団・工藤会が本部事務所を構えていた場所だ。抱樸は2020年4月に民間企業経由で土地を買い受け、周辺の自治会・町内会の賛同を得て企画・設計を進めてきた。しかし2020年4月といえば、コロナ禍による初めての緊急事態宣言が発出されたタイミング。以後、急激な円安や資材価格の高騰に見舞われ、計画は難航している。現在は来春の着工を目指し、2度目のクラウドファンディング(2024年12月2日まで募集)をはじめとした資金調達に取り組んでいるところだ。
ここでは、2024年9月3日に抱樸が厚生労働省で行った記者会見をもとに、「希望のまち」プロジェクトに込められた意義とこれまでの経緯を紹介したい。
“怖いまち”と言われてきた北九州を“希望のまち”に。目的は3つ。
抱樸は、刑務所出所者の社会復帰も支援している。工藤会本部事務所撤去の報に接して、抱樸理事長の奥田知志氏は「そもそも、“復帰したい社会”をつくる必要があるのではないか」と考えた。「暴力団の跡地を引き受けることで、これまで“怖いまち”と言われてきた北九州市を“希望のまち”に変えたい。そんな想いが出発点になりました」(奥田氏)。
抱樸が目指すのは、単なる施設建設ではなく“まちづくり”だ。奥田氏は「“新しい社会のあり方”を示すプロジェクト」と語る。
その目的は3つある。
1つめは「助けてと言える」こと。
2022年、子ども(小中高生)の自殺者は過去最多の514人を記録した(2023年は513人)。文部科学省によれば、自殺した子どもたちが置かれた状況には「家庭不和10.5%」「進路問題9.0%」「父母等の叱責8.3%」などが挙げられる一方で、実に62.0%が「不明」のままだ(令和4年度 児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査)。
奥田氏は「自己責任が強調される大人社会を見ている子どもたちが『助けて』と言えなくなっているのではないか」と危惧する。「だから、希望のまちは、助けてと言えるし、助けてあげられもするまちにしたい」。
2つめは「家族機能の社会化」。
2020年国勢調査によれば、一般世帯における単独世帯の割合は38.1%に達した。これは、夫婦と子どもから成る世帯(25.1%)、夫婦のみの世帯(20.1%)を大きく上回る。「政府の予測をはるかに超える速さで、世帯の単身化が進んでいる。これまで社会保障制度の前提とされていた“家族と住まい”が崩れ始めています」と奥田氏。
抱樸は地域で互助会を運営しており、日常の助け合いやボランティア活動に加え、誕生日会や葬儀、追悼まで行ってきた。互助会があることで、家族の保証が得られない単身高齢者も、賃貸住宅への入居を拒まれなくなったという。「希望のまち」には、生活保護法上の救護施設やシェルターを設け、地域互助会の事務局や社会福祉協議会と連携したよろず相談所などを置く。大ホールでは葬儀を執り行うこともできる。
3つめは「まち全体で子どもを育てる」。
最新の調査における子どもの貧困率(17歳以下)は11.5%と、全体の1割を超えている(厚生労働省「2022年国民生活基礎調査」)。子どもの貧困は家庭の貧困であり、子育てを家族の枠組みに押し込めていては厳しいのが現実だ。
抱樸は2013年度から「家族まるごとプロジェクト」と呼ぶ集合型・訪問型の学習支援を行っている。子どもたちに勉強を教えるだけでなく、悩みや進路の相談に応じたり、一緒に釣りや海水浴に出掛けたりして、家族以外の年長者や大人と交流する機会を提供する。
奥田氏はいう。「誰かに勉強を教えてもらったり、遊んでもらったりした思い出を持つ子どもたちが大きくなって、今度は次の世代に、その経験を引き継いでいく。そんな“相続”ができるまちにしていきたい」。
10億円の予算が物価高騰で15億円に。緊急融資を受けて着工を目指す
「希望のまち」予定地はJR小倉駅から2キロほどの位置にあり、周辺3キロ圏内には抱樸が運営する賃貸をベースとした生活支援付き住宅や自立支援センターなどが点在する。土地購入に要した約1.3億円の借り入れは全国からの寄附などにより2022年に完済した。建築設計を手掛けるのは、手塚貴晴氏・手塚由比氏が主宰する手塚建築研究所。世界環境建築賞など数々の賞に輝いた「ふじようちえん」をはじめ、子どもたちのための建築の実績が多い事務所だ。
当初、4階建て10億円の予算でスタートした計画は、人件費や資材価格高騰のあおりを受け、3階建てへの設計変更を余儀なくされた。それでも予算は13億円に跳ね上がる。
抱樸は寄附やクラウドファンディングで約3億円を集め、日本財団の「みらいの福祉施設建設プロジェクト」に採択されて5億円の助成を得た。さらに、趣旨に賛同した地元金融機関も5億円の融資を決めてくれた。こうして13億円を調達し、2024年4月に建設工事の入札に臨む。しかし、一度は手を挙げてくれた2社のうち、1社は開札前に辞退、もう1社の入札金額も予定価格を上回り、不成立に終わった。設計変更から資金集めの間にも物価高が進み、13億円でも足りなくなってしまったのだ。
奥田氏は言う。「これまで5000人を超える方に寄附をいただいているにもかかわらず、本当に申し訳なく思っています。その後、さらに設計を変更して、削れるところは極力削りました。それでも、どうしてもあと2億円以上必要です」。
なおかつ、これから2億円を集めている間にも、さらに物価高が進む可能性がある。多くの人からアドバイスを受け、2024年度中の着工を決断した。足りない2億円は、一時的な緊急融資で賄う。「すでに5億円の融資を受けているため、追加の2億円を事業収入から返済するのは非常に厳しい。うち1億円は、なんとかクラウドファンディングで調達できればと思っています」(奥田氏)。
コロナ禍を経て、抱樸が月2日(冬期は週1回)のペースで行っている炊き出しには、コロナ前の倍近い人数が集まるようになったという。彼らにアンケートを行ったところ、回答者のうちホームレス状態にある人は2割程度に留まり、家があり、仕事や年金があっても、9割近くが「物価高騰で生活苦に陥っている」と答えたそうだ。
「自助、自己責任では乗り越えられない現実が目の前にある。高齢化・少子化・単身化で孤立・孤独が広がる日本の将来のために、ありうべき共生社会の姿を少しでも早く実現して見せたい」と奥田氏。
クラウドファンディングで1億円を集めるのは簡単なことではない。しかし抱樸には、コロナ禍の緊急支援で約1億1600万円を集めた実績がある。新しい社会、これからの共生社会の具現化にはあと一歩なのだ。その実現に、わずかなりとも参画してみたくはないだろうか。
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