住宅工事現場の働き方改革ガイドラインとは
2024年4月2日、住宅生産団体連合会は、「住宅工事現場における技能者の働き方改革ガイドライン」2024(以下、ガイドライン)を公表した。住宅生産団体連合会とは、住宅に関する調査・研究・提言・国際交流・情報提供をしている国土交通省所管の社団法人である。ガイドラインは2020年12月にも一度公表されているが、今回公表されたものは2020年の改訂版となっている。
近年、国は建設業界の労働者不足を背景に、適正な労働環境を確保する目的で様々な法律を整備している。具体的には、「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」の制定や、「建設業法」の改正、「公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律」の一部改正等の動きがある。
これらの法律を遵守していくには、元請・下請間における適正工期の確保等の合意を実現しつつ、技能者の労働時間短縮や適正賃金の確保等を実現していく必要がある。建設業界の人手不足問題を解消するには、技能者確保に向けて魅力ある働きやすい工事現場を構築し、作業効率を高めることによって生産性の向上を達成しなければならない。
事業者は将来の担い手確保のために様々な方策を講じていく必要があり、その指針として定められたのがこのガイドラインである。ガイドラインは、現場で働く技能者が働きやすく、やる気と希望を持って日々就業できることを目的としており、敢えて関係法令の具体的規定、罰則等については記載されていない内容となっている。
ガイドラインが改正された背景
ガイドラインが改正された背景は、2024年4月より建設業にも時間外労働の上限規制が適用されたことが理由となっている。2024年4月以降は、建設業でも時間外労働は原則として月45時間、年360時間以内が適用される。
建設業は、長時間労働が長年の慣行となっていた側面もあることから、時間外労働の上限規制が適用されるのは働き方改革関連法令の施行から5年間の猶予期間があった。2024年4月は、5年間の猶予期間が終了するタイミングであり、いよいよ建設業界でも時間外労働の上限規制が適用されることになる。
改正されたガイドラインでは、2020年の制定時以降の調査データを更新し、新たに「建設キャリアアップシステムの現状」と「元請と下請の共存共栄に向けた考え方」の2つの内容を加えたものとなっている。
若年層人材の確保と育成
建設業界では長年人手不足が問題となっているが、中でも「若年層の人材確保」が課題となっている。ガイドラインでは、若年層人材の確保と育成を行うための指針が示されている。 若年層の人材確保に関しては、アンケート調査を行い、そこから導き出される行動指針が提示されている点が特徴だ。
アンケート調査結果では、若年技能者が定着しない理由に「技能・技術の習得に時間がかかる」「年齢の近い先輩が少ない」等が挙がっている。昔ながらの先輩の技を盗み見て覚えさせる指導や、若年層とベテランの意思疎通が希薄な状態では今の若者はついて来ないということだ。
ガイドラインでは、若年層の育成のためには、事業主を先頭に、企業全体として育て上げる体制や雰囲気を作り出すことが重要であることが示されている。早く一人前、独り立ちさせることで、本人のやる気や達成感、満足感を得させることで、就職後の初期離職を防ぎやすいとしている。
ガイドラインの中では、若年層人材の確保のための具体的なノウハウは示されてはいない。例えば、若年層の育成の中では、「企業に定着してベテランになった時に新人の気持ちをいつまでも持ち続けられるためにも、早い時期で成功体験をさせることが大切である」と述べられているだけであり、特に何をすべきという内容には触れていない。
大きな指針が示されているだけであるため、まずはガイドラインを見て大きな方向性に共感することが若年層の人材確保のために重要といえる。
多様な人材の活躍推進
ガイドラインの中では建設業界で多様な人材の活躍を推進するために、「女性」と「高年齢技術者」、「外国人」の3者を取り上げている。女性に関しては、ここ20年の中で、全産業で見ると女性比率は高まっているが、建設業界では女性比率はほとんど変化がないことが指摘されている。
建設業界で女性進出が進んでいない理由としては、まず建設業界には3K(きつい、きたない、きけん)のイメージがあることと、女性に優しい環境整備が遅れていることが考えられている。女性に優しい環境整備とは、婚姻や出産後の職場復帰についての仕組みや、女性用仮設トイレや更衣室の設置、子育て世帯に配慮したフレキシブルな作業環境の整備等が挙げられる。
女性技能者の活躍推進に関しては、「男女差無く、互いに働く仲間として敬意を持つことを当然とする現場の雰囲気の醸成が重要である」ことが述べられている。高年齢技術者に関しては、その能力と経験を十分に発揮することが企業や業界全体の活力を維持するために非常に大切である。
高年齢技術者を活用するには、加齢に伴う心身機能の低下、 新しい機械・技術への抵抗感の払拭、および現場経験は浅いが IT 機器には詳しい若年労働者とのコミュニケーションのあり方等は考慮しなければならない。
ガイドラインでは、快適な職場環境の形成として、高年齢技能者の身体的な衰えを考慮し、無理な体制での作業を避けるため広い足場板の採用や現場内の整理整頓の徹底、作業負荷軽減策の導入の必要性が示されている。
外国人に関しては、住宅工事現場においても、外国人技能者は増加しており、その受け入れ態勢を整備することは急務となっている。外国人の労働力をうまく活用するためには、安全対策と相互のコミュニケーションの確保が重要である。対策としては、安全教育や複数言語による掲示板の設置、言語に頼らない注意喚起の安全標識、スマートフォン等を用いた簡易翻訳機等の活用により、労働災害防止に努めることが示されている。
今後への期待
建設キャリアアップシステムへの取り組み
建設キャリアアップシステム(CCUS)とは、技能者の資格や現場での就業履歴等を登録・蓄積し、技能・経験が客観的に評価されることで、技能者の適切な処遇につなげるための仕組みのことである。国土交通省が中心となって建設業界の技能者、事業者による登録・利用を推進している制度であり、2019年4月より登録が開始されている。
CCUSは、公共工事に携わる技能者及び事業者を中心にシステムへの登録及び利用が進んでいるが、民間工事関連の技能者においては利用が十分に進んでいないようだ。ただし、外国人の雇用においては CCUS への登録は必須となっており、人材確保のためにもCCUSを活用して施工者や技能者が適正に評価される仕組みが構築されることが期待されている。
生産性の向上
ガイドラインでは、快適な現場環境の整備による生産性向上もうたわれている。建設業界では、生産性の向上と安全性の確保が相反する方向に向かいやすいことから、ガイドラインでは、安全はすべての事に対して最優先であることが強調されている。
考え方としては、安全が確保され作業が行いやすくなれば、結果として品質の確保、生産性の向上につながるというスタンスを取っている。生産性の向上に関しては、安全で清潔な作業環境の確保や作業効率化を図るための対策、ICT の活用といった内容が示されている。
元請と下請の共存共栄に向けた考え方
「元請と下請の共存共栄に向けて」という部分は、2024年のガイドラインの改訂版において新たに追記された部分だ。
働き方改革は、元請企業が下請企業に対して一方的に実施を押し付けることでは達成できないことから、互いに協議しながら実施可能な形にしていくことの重要性が示されている。今後は、下請企業は働き方改革実施に必要な要求を元請企業に忌憚なく伝え、元請企業はそれを真摯に受け止めていくことが必要となってくる。
ガイドラインに示されているように、今後は元請・下請企業間で適正な取引関係を構築し、共存共栄する形を目指すことが重要となっていくだろう。
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