交通利便性に恵まれたベッドタウン枚方市

大阪府枚方市は、大阪と京都のほぼ中間にある中核市だ。その市名は関西圏以外ではなかなか正しく読んでもらえず、市はホームページでも「マイカタちゃいます、ひらかたです」とアピールする。自虐的な市のプロモーション戦略がユニークだ。

全国的な知名度は高くないものの、枚方市の人口は大阪府下で堂々の5位。約40万人が暮らす巨大ベッドタウンだ。LIFULL HOME'Sが行った「みんなが探した住みたい行政区ランキング2023近畿圏版」でも、「買って住みたい」街の5位に入る人気のエリアである。

そんな枚方市の中心地、京阪電鉄の枚方市駅(枚方市岡東町)周辺で再開発事業が進んでいる。同駅は京阪本線の特急停車駅で、京都市中心部の三条駅(京都市東山区)へは約30分、大阪市中心部の淀屋橋駅(大阪市中央区)へは約20分で行けるとあって交通利便性が高い。京阪電鉄の駅では一日の乗降客数が京橋駅(大阪市都島区)、淀屋橋駅に次ぐ3位と、沿線の主要駅だ。

公共施設をはじめ、老朽化した建物が多い同駅周辺は、2018年の大阪北部地震で震度6弱を記録。同駅近くで1971年に開館し、長年市民に親しまれてきた枚方市民会館大ホールもその被害を受け、もともと予定されていた建て替え移転より早く閉館してしまった。

自然災害が増えた今、建物の耐震性強化や防災機能に優れたまちづくりが求められているのは当然のこと、枚方市は再開発に際して、若年世代を中心とした社会減や少子高齢化、社会的なつながりの低下といった課題に対応する必要があるとし、社会環境の変化や多様化するライフスタイルに対応したまちづくりを行うとしている。

枚方市駅東口のロータリー枚方市駅東口のロータリー

早期に発展した枚方市駅周辺の、都市機能の見直しも

枚方市駅の付近は、もともとは市の中心地ではなかった。京と大坂を結んだ京街道の真ん中にあり、江戸時代には宿場町としてにぎわった枚方は、京街道と並行するように淀川が流れ、舟運の港もあったことから、水陸の要所として大いに繁栄する。しかしこれは現在の枚方公園駅辺りのことで、当時はこの辺りが中心地であった。そのため京阪電鉄も開業時は、ここを枚方駅としていた。

1949年、枚方駅が枚方公園駅へと改称されると同時に、隣駅の枚方東口駅も改称され、現在の枚方市駅となっている。その後、枚方市および枚方市駅周辺は、高度経済成長期を象徴する進化を続ける。

1958年、日本住宅公団(現在の都市再生機構)が関西で初めて大規模団地を開発したのが、同市南部の、のちに「東洋一のマンモス団地」と呼ばれるようになった香里団地(枚方市香里ケ丘)。1968年には京阪電鉄が市北部に「くずはローズタウン」を開発。大阪府下でも初期の大型ニュータウンだ。こうして人口はみるみる増加する。

この頃の枚方は産業でも活気づく。市の中央を貫く物流の大動脈・国道1号線の沿線では、昭和40年代に既製服団地(現在の大阪紳士服団地)、枚方家具団地など多くの企業団地が誕生している。

そんな枚方の新たな中心地となった枚方市駅周辺では、1965年に枚方駅前デパート、1968年に三越、1969年に長崎屋、1975年には近鉄百貨店(1975年丸物として開店し1977年に改称)などの大型商業施設が次々に開店。人も車もごった返す大変なにぎわいを見せるようになる。

一方で、同駅周辺には問題も生じた。鉄道が通らない市内の東西の移動は車やバス便利用が主となることから、人口増加にともなって道路交通量が増加し、市中心部への乗り入れも急増。乗降客が増えた京阪電車の列車本数も増加したことから、開かずの踏切が問題になった。同駅周辺の交通は見直しを迫られ、1978年に鉄道の高架化へと着手、1993年に竣工している。

こうして昭和に見せた活気もやがて衰退。その分、建物や街の古さが否が応でも目立つようになっていた。

しかし2012年に閉店した近鉄百貨店が、建て替えののち2016年に枚方T-SITEとして生まれ変わる。駅前で目を引くそのスタイリッシュな外観は、辺り一帯の再生を期待させるものとなった。また2018年には枚方市駅の構内もリニューアル。全国で初めて、無印良品とのコラボレーションによってデザインされた駅の空間は注目を集めている。そんな中で現在はじまっているのが、枚方市駅周辺地区第一種市街地再開発事業というわけだ。

現在の京阪枚方市駅周辺。再開発で生まれ変わる市駅に期待が集まる現在の京阪枚方市駅周辺。再開発で生まれ変わる市駅に期待が集まる

枚方市駅周辺地区第一種市街地再開発事業の概要

再開発事業は、枚方市駅周辺を3つの工区に分けて2019年度から進められている。駅前立地を活かし、商業施設、オフィス、住宅、ホテル、駐車場を一体的に整備するとともに、防災性能の向上を目指す。

枚方市駅北側、第1・2工区の整備内容

第1工区には、地上5階・地下1階建ての、商業施設をメインとした建物を整備する。第2工区には、商業施設と住宅をメインとした、地上14階建ての建物を建設。現在の北口ロータリーを整備・拡張する。なお、第2工区で予定されている住宅は、建設から65年が経過した枚方団地(大阪府住宅供給公社)の建て替え事業である。同駅北側には2021年8月に枚方市総合文化芸術センターが開館しており、今回の第1・2工区の開発により新たな一体感が生まれるだろう。これまで駅南側に向きがちであった人流が、北口にも向かうことが期待できそうだ。

再開発に関する建築計画の概要(枚方市HPより)再開発に関する建築計画の概要(枚方市HPより)

再開発事業の目玉とも言える第3工区

枚方市駅からは、京阪交野線が分岐する。京阪本線と交野線それぞれの路線に挟まれ三角州のようになったエリアが第3工区となる。

第3工区は今回の再開発事業のなかで最も面積が大きく、再開発事業の目玉といえる。この工区に参画する京阪ホールディングス株式会社、京阪電気鉄道株式会社、京阪電鉄不動産株式会社は、まちづくりのコンセプトを「The 20-minute neighborhood」(20 分生活圏)と発表。これは通勤通学に利用する最寄り駅も含めて20分以内に生活圏を完結させるというもの。既存の高架下商業施設を再整備し、現在から面積約2倍、店舗数約3倍の駅一体型商業施設とするほか、駅東口からつながる高層ビルを建設。低層階には商業施設、7~15階にはオフィス、5~29階には約200戸の住居、19~26階にはホテルが入る予定だ。

巨大商業施設が整備され、本格的なホテルもできるとなれば、生活な必要なものだけでなく娯楽もある、楽しく回遊性の高いコンパクトシティが誕生することになる。なお、誕生するホテルは「世界で唯一の4つ星ホテル」をコンセプトとする「カンデオホテルズ」が予定されている。

「新しい」枚方市の玄関口に期待

河内地方のなかでも、枚方は特に京阪間という立地の良さを武器に大きく発展した市だ。しかし、戦中・戦後は国や大阪市の方針に翻弄され、京阪電鉄は関西主要私鉄の中で唯一、大阪の二大繁華街であるキタにもミナミにもターミナルを持つことができなかった。一方、1970年に吹田市で国際的な博覧会が開催されることになると、北摂地域では道路(新御堂筋)や鉄道(北大阪急行)が整備され、大阪市内へスムーズにアクセスできるようになる。キタへもミナミへも電車一本で出られる沿線とあって、マンション開発や宅地開発が進み、その後は枚方などの北河内と比べて北摂の人気が高まっていったといえる。

同じ枚方市内においては、枚方市駅から京都寄りに3駅隣にある樟葉駅でも、宅地開発により利用客が増加。そこで1972年、京阪グループは、当時まだ珍しいオープン形式の複合型商業施設「くずはモール街」(2005年にリニューアルし、現在は「KUZUHA MALL くずはモール」)を同駅に誕生させた。樟葉駅は、隣接する京都府方面からの利用客も多い。これによって、枚方市の中心地や玄関口としての印象を、枚方市駅と樟葉駅で二分してきた感がある。少なくとも商業地域の中心は、樟葉駅にあったのではないだろうか。
ただそれは、言い換えれば京阪による沿線文化の育て方や戦略がうまかったともいえるかもしれない。

淀川と枚方の街並み淀川と枚方の街並み

そんな京阪電鉄は、今回の再開発に際し、現在天満橋駅直結のOMMビルにある本社を、第3工区に建設中のビルへ移転させる予定をしており、枚方を重要な位置づけとしているようだ。

再開発によって枚方市駅周辺は大きく生まれ変わろうとしている。昭和の駅前開発は、勢いはあったものの少々無秩序感が垣間見え、バスや一般車の往来は混みあい、周辺は歩きにくさもあった。令和の再開発では、計算されたレイアウトでこれまでの問題点が解消されることに期待したい。商業施設も、拡大するだけでない一体的な整備によって、利用しやすくなるのだろう。街の活性化には人の流れが必要で、一度ではなく「また行きたい」と感じてもらい、人流を生み続けることが重要だ。歩いて見て回りやすい構造はそれには欠かせない。

高齢社会にあって、なにかと便利な駅近立地が好まれる傾向にある中、駅直結の住宅を心待ちにしている人も多いだろう。また「枚方市」を名乗る市の顔といえる駅がにぎわいをみせれば、市のブランド力向上も見込めるのではないだろうか。

江戸時代に繁栄した枚方宿はもとより、府内では大坂城跡と並んで2つしかない特別史跡・百済寺跡や、七夕伝説のゆかりがあるなど、歴史の深い枚方市。再開発ではホテルもできるとあって、大阪と京都の間にある通過地点の街ではなく、ビジネスやインバウンド需要など、滞在型の流入も期待される。昭和には、いち早くその時代の新しい街の姿や文化を見せてきた枚方市駅周辺。令和の再開発ではどんな新しい顔を見せてくれるのか。市民が「市駅」と呼び慣れ親しんできたエリアの再生を楽しみにしたい。

淀川と枚方の街並み京街道の宿場として栄えた枚方宿 の貴重な資料を展示する市立鍵屋資料館

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