住民にもう一度夢を持ってもらいたい。開発事業者の「つくった責任」

1955年ごろから高度経済成長期を迎えた日本は、都市部への急激な人口増加が発生し、さらに地価も大きく上昇するなど、都市近郊では住宅用地が確保しにくい状況となっていた。そこで自治体や民間企業は、都市の郊外にニュータウンと呼ばれる大規模な住宅団地を造成。増え続ける人口の受け皿として機能したほか、日本の住宅の課題が量から質へと移り変わるなかで、良好な都市基盤の整備や良質な住宅の供給によって、人々の住環境の向上につながった。

しかし、その多くで核家族のファミリー世帯が一斉に入居したことから居住世代が均質化しており、子ども世代の転出と親世代の高齢化によって、住民の高齢化率が一気に上昇。現在では、独居世帯の増加や人口の減少といった問題に直面しているのだ。さらに、住宅や施設の老朽化、商業施設の遊休化や廃校による地域の活力低下、高齢化に対応したバリアフリー化がなされていないといった課題も生じている。

大和ハウス工業株式会社が1962年から「ネオポリス」の名称で全国に造成した郊外型戸建住宅団地も、同様の課題を抱えるニュータウンだ。同社の大曲一輔さんは「郊外型戸建住宅団地は、鉄道駅や利便施設から距離があることも多く、運転免許証を返納した高齢者などは、不便な生活を強いられています」と、これらの街の現状を説明する。

一般的に、郊外型戸建住宅団地の開発事業者は分譲後の街の管理に関わることはなく、大和ハウス工業も開発後は長年、街に関与してこなかった。しかし、「つくった責任」として、2015年からこれらの課題解決を目指した取組みを開始。2018年からは「リブネスタウンプロジェクト」と名付けてさらに発展的に展開している。このプロジェクトでは、街を“再耕”することで、「住み続けられ、新たに住みたくなり、持続・発展する街」を目指すという。一体どのような取組みなのだろうか。
リブネスタウンプロジェクトが展開される住宅団地のひとつ、兵庫県三木市の「緑が丘ネオポリス」を訪ねた。

緑が丘ネオポリスの玄関口となる神戸電鉄「緑が丘」駅からは、神戸市の「新開地」行きの電車が日中30分間隔で走る。所要時間は最短34分緑が丘ネオポリスの玄関口となる神戸電鉄「緑が丘」駅からは、神戸市の「新開地」行きの電車が日中30分間隔で走る。所要時間は最短34分

団地内での住み継ぎと若年層の流入で、“循環”するまちへ

神戸市中心部から北西へ約17km。「緑が丘ネオポリス」は、1971年から順次入居が始まった郊外型戸建住宅団地だ。開発から半世紀を経て人口は減少傾向にあり、総人口1万4,587人のうち、初期に分譲した緑が丘地区では約40%が65歳以上の高齢者、1985年以降に入居を開始した青山地区でも約29%が高齢者となっている(2022年12月末現在)。

「高齢者は、体力の低下などから郊外の一戸建てでの暮らしに不便を感じることもあり、住み慣れた地域を離れ地域外への転居を余儀なくされることがあります。その結果、緑が丘ネオポリスでも空き地・空き家の問題が顕在化しています。一方、高齢者はこの地域に住み続けたいとも思っており、希望と現実の間にギャップがあることも分かりました。そこで当社は、高齢者が団地内に住み続けることができるまちづくりと、若者世代が新たに住みたくなるまちづくりを行うことにしたのです」(大曲さん)

緑が丘ネオポリス緑が丘ネオポリス

リブネスタウンプロジェクトでは、1つ目の施策として、高齢者の住み継ぎと、若年世代向け住宅の確保を挙げる。
一人暮らしとなった高齢者が一戸建てに住み続けることは、体力的にも厳しく、住まいのミスマッチが起きているといえる。そこで、団地内に一人暮らし高齢者向けの「住み継ぎ住宅」を整備し、高齢者の住み替えを促進することを検討している。そこに健康管理や見守りのサービスを付けることで、従来は介護が必要となったときに地域外へ転居せざるを得なかった人でも、知人や友人のいる団地内にとどまることができると考えている。
一方、高齢者の住み替えによって生じた空き家は、団地外から流入してくる若年世代に引き継ぐ。こうして新たな住民を呼び込むことで、偏重する居住世代の是正を図るのである。

なお、緑が丘ネオポリスでは住み継ぎ住宅はまだ整備されておらず構想段階にあるが、大和ハウス工業が住民27人にヒアリングを実施したところ、半数が「興味がある」と回答。同社では「地域内での住み継ぎ住宅のニーズはあると考えている」とのことだ。この仕組みが実現すれば、昨今新築住宅の価格が高騰し、居住面積も縮小傾向にあるなかで、若年の一次取得層に、広い家を比較的安価で提供することが可能になるかもしれない。

緑が丘ネオポリス高齢者の住み継ぎによって生まれた空き家を活用し、若年世代の流入を促進する(資料:大和ハウス工業)

かつての茶道教室が、地域住民のサードプレイスに

住み継ぎ住宅に先立って実現しているのが、もう一つの施策であるサテライト拠点の運営だ。緑が丘ネオポリスでは、団地内で空き家となった住宅を活用し「たかはしさんち」と名付けたコミュニティ施設を設置、運営している。

サテライト拠点は現在、主に団地内のコミュニケーションの場となっている。例えば、近隣の子どもたちが宿題をする場所や、地元の団体が主催するイベントの場所として使用されるほか、常駐する職員がいることから、近所に住む住民の困り事の相談窓口にもなっている。

「今後は、クラウドソーシングの拠点として子育て中に働ける仕事や場所を提供することや、健康相談などを受けられる健康ステーションとしての役割を担うことも検討しています。地域住民とのイベントの共催で地域コミュニティの醸成に努めながら、団地の小さな課題を集めるとともに、私たちの提案に対しても意見を集める作業を並行して行っています」(大曲さん)

例えば、普段一人で食事をしている高齢者からは、食事をしながらコミュニケーションを図れる場をつくってほしいというような声が出ているという。

現在、緑が丘ネオポリス内のサテライト拠点は「たかはしさんち」の1ヶ所のみだが、今後は団地のどこからでも歩いていけるよう、複数の拠点を整備することを目指している。そうすることで、スーパーや各サテライト拠点を結ぶ移動手段を提供したり、スーパーから最寄りのサテライト拠点まで荷物を配達したりすることができるという。
このように、サテライト拠点を起点に、住み続けることができるサービスが提供され、住みたくなる魅力づくりが行われていくのだ。

寝に帰る場所ではなく、「まちに住まう機能」を再整備するための拠点としてサテライト拠点を位置づける(資料:大和ハウス工業)寝に帰る場所ではなく、「まちに住まう機能」を再整備するための拠点としてサテライト拠点を位置づける(資料:大和ハウス工業)
寝に帰る場所ではなく、「まちに住まう機能」を再整備するための拠点としてサテライト拠点を位置づける(資料:大和ハウス工業)コロナ禍で制限はあったものの、「寄せ植えイベント」や「こども縁日」などさまざまなイベントを住民と共催してきた(資料:大和ハウス工業)
「たかはしさんち」は1975年に大和ハウス工業が建築した一戸建て住宅をリノベーションして使用している。今後、同様の空き家を若年世代向けの住まいとして再販することができるか、技術的な検証も兼ねているという「たかはしさんち」は1975年に大和ハウス工業が建築した一戸建て住宅をリノベーションして使用している。今後、同様の空き家を若年世代向けの住まいとして再販することができるか、技術的な検証も兼ねているという

ちなみに「たかはしさんち」という名前は、以前この場所に住んでいた住民の名前に由来する。もともと茶道教室として地域の人たちが通い集まる場所だったが、住民の転出をきっかけに空き家となっていた。そんななか、大和ハウス工業がリブネスタウンプロジェクトを実施するにあたり、住民たちに相談したところ、「たかはしさんち」周辺の自治会が手を挙げたのだという。
「周辺住民の皆さんが、『たかはしさんち』を所有する元住民の方を紹介してくださり、用途を説明したうえで当社への売却を後押しする手紙を書いてくださいました。『たかはしさんち』は、地域の協力があって実現したのです」と、住民との交渉を担当した大和ハウス工業の藤岡正さんは明かす。

建物はもともと塀と植栽に囲まれていたが、バリアフリー設計を取り入れ、外から見えやすく気軽に入れる開放的な空間を実現。当日も、団地内の子どもたちが訪れていたほか、団地内にある大学の学生たちが、「まちづくり」を題材としたゼミの活動で使用していた。まさに、当時のにぎわいを再現したいという地域の人々の想いが反映された空間となっている。

寝に帰る場所ではなく、「まちに住まう機能」を再整備するための拠点としてサテライト拠点を位置づける(資料:大和ハウス工業)利用登録者は約270名。イベントの開催による施設の周知や、口コミによる利用促進に取組んでいる

持続可能な、住民だけで自走できる仕組みが理想

一方、大和ハウス工業はこれらの仕組みを持続可能なものにするために、同社が運営を続けるのではなく、住民主体で運営する仕組みをつくることが大切だと考えている。

「産官民学が連携し取組んでいますが、自治会をはじめとした住民が主役であり、大和ハウス工業はあくまで事務局の立場で支援していこうとしています。そして、いずれは事務局の部分も住民の皆さんに担ってもらおうと考えています」と大曲さん。しかし、それはボランティアでは成り立ちにくいと続ける。

「事務局を担う住民組織として、一般社団法人の中間組織をつくりました。この組織は、収益を上げて自走することを目指しています。例えば、サテライト拠点で住民に民間企業のサービスを紹介し、成約したらその取次料をいただくなど、ざまざまな形を考えています」(大曲さん)

補助金などを前提としない、持続可能な組織を目指している。

企業の視点を取り入れ、経済的に成立する仕組みをつくることで、活動を永続させることを目指している(資料:大和ハウス工業)企業の視点を取り入れ、経済的に成立する仕組みをつくることで、活動を永続させることを目指している(資料:大和ハウス工業)

団地内で胡蝶蘭を栽培。「ココランハウス」は地域のつながりの場に

大和ハウス工業 栽培事業開発室 水田朱音さん大和ハウス工業 栽培事業開発室 水田朱音さん

また、緑が丘ネオポリス(青山地区)内には大和ハウス工業 栽培事業開発室が運営する「ココランハウス」がある。ここでは、独自に開発した技術を用いて年間約4万鉢のミニ胡蝶蘭「COCOLAN(ココラン)」を栽培している。大和ハウス工業のオーナーとのリレーションにおいて活用されることが主で、そのほかに「HANAIKU(花生・花育)プロジェクト」として、小学校や特別支援学校などに大和ハウス工業の社員が出向き、児童が胡蝶蘭をアレンジし、メッセージを添えて、大切な人に贈るという活動を行う。特例子会社の大和ハウスブルーム株式会社で採用された特別支援学校を卒業した社員6名のほか、地域の栽培パートナー17名が働いていており、大和ハウス工業 栽培事業開発室の水田朱音さんが「この地域には、リタイアされたもののまだまだ体力のある方が多く住んでいらっしゃいます。ココランハウスは、そういった方が生き生きと働ける場にもなっています」と言うように、地域雇用と地域共生が目的の施設だ。

水田さんは続けて「栽培パートナーの方々には、社内とつながる場として働いていらっしゃる方も多いように思います」と明かす。

ココランハウスもまた、リブネスタウンプロジェクトとともに地域の活性化に貢献している。

大和ハウス工業 栽培事業開発室 水田朱音さん2019年にビニールハウス2棟で始まったココランハウスは、2020年にさらに2棟のビニールハウスを増設。年間10万鉢の栽培が可能な設備を備える

他のニュータウンへの展開と、今後の住宅開発への応用は?

全国に61ヶ所あるネオポリスのうち、リブネスタウンプロジェクトを展開しているのは8ヶ所。なかでも緑が丘ネオポリスは、早くから取り組みを開始していたこともあり、他の団地に先駆けて各施策を実施している。

ニュータウンの歴史や規模、地域資源や行政との関係によって最適な打ち手は異なるというが、現在緑が丘ネオポリスで行っている施策や仕組みは、ほとんどの団地に適用できるのではないかと大曲さんは語る。実際、2021年には大和ハウス工業内でリブネスタウン事業推進部が発足し、今後は積極的な拡大を図るという。

「住まい手との関係構築の仕方、企業との連携など、経験に基づいたノウハウは他のニュータウンに役立つと考えています。これまでニュータウンは、子育てファミリーをターゲットにまちづくりを進めてきましたが、今後は多様性を意識したまちづくりが大切になります。年代や家族構成が多様化し、にぎわうエリアと閑静なエリア、集合住宅と一戸建てなど、さまざまな住まいとサービスが入り交じる街にすることで、ライフスタイルに応じて住まいを選択できるような街にすることが必要でしょう」(大曲さん)

今後、国内ではこれまでのような大規模住宅団地の開発はあまりないとしながらも、海外を含めた今後の同社の住宅地の開発に生かすことができると大曲さんは考えている。
当初はすぐに収益が期待できない地道な事業であることから、社内の理解を得るのも大変だったというリブネスタウンの事業。開発した住宅地の半世紀後の課題を現場で知ることができるこの事業は、きっと住宅地をつくる会社にとって有益な知見をもたらしてくれることだろう。

「当社は『儲かるからではなく、世の中の役に立つからやる』という創業者精神があります。ネオポリスの開発当初も、住宅供給数が足りないという社会課題への対応でした。これからも、地域課題の解決のため、時代に応じた社会インフラにアップグレードし、再生と循環を進めていきたいと思います」

そう語る藤岡さんと大曲さんの目からは、かつて夢を見て自社の住宅地を購入した住民たちへの、確かな約束のような、強い意志を感じた。

大和ハウス工業 リブネスタウン事業推進部 西日本統括グループ長 藤岡正さん(写真左)、同 西日本統括グループ 上席主任 大曲一輔さん(写真中央)、たかはしさんち 常駐スタッフの浦嶋真悟さん(写真右)大和ハウス工業 リブネスタウン事業推進部 西日本統括グループ長 藤岡正さん(写真左)、同 西日本統括グループ 上席主任 大曲一輔さん(写真中央)、たかはしさんち 常駐スタッフの浦嶋真悟さん(写真右)

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