東京都「わが家の水害リスク診断書」を配布開始
東京都は2023年7月末から9月にかけて、墨田区、江東区、葛飾区、足立区、江戸川区(以下、江東5区)における対象世帯に対して「わが家の水害リスク診断書」を送付している。わが家の水害リスク診断書(以下、診断書)とは、住所地ごとに水害のリスクを判定し、その結果と推奨される避難行動について示した東京都と区からのお知らせである。
近年、日本全国では線状降水帯により多くの被害が発生していることを背景に、都内の水害発生リスクが高いエリアに注意喚起が行われている。診断書は、1世帯ごとの浸水がどれぐらいになるか、浸水の継続期間はどれぐらいになるかという情報を伝えている点が特徴である。1世帯ごとに対してきめ細かな情報を送ることで水害リスクを「自分ごと」として捉えることができるようになっており、全国初の画期的な取組みとなっている。診断書が送付される世帯は、江東5区のうち「想定される浸水の深さが5m以上」または「家屋が倒壊する等のおそれ」のある地域の世帯が対象だ。対象となっているのは約48万世帯であるため、江東5区の中でも診断書は送付されない世帯も多く存在する。
診断書では、冒頭に診断結果が記載されている。少しドキッとするかもしれないが、水害リスクがある場合には「ご自宅の地域には水害リスクがあります」と明記されている。
「わが家の水害リスク診断書」の内容は?
診断結果としては、主に以下の3つが記載されている。
【診断結果】
・荒川や江戸川の洪水または高潮が発生したときの浸水の深さ
・浸水継続期間
・堤防の決壊等により家屋倒壊・流出の恐れのある地域に該当するか否か
浸水の深さは、地面から水面までの高さが記載されている。江東5区の中には浸水深さが5m超となる可能性のある個所も存在しており、5m超の浸水が発生すると2階が完全に水没する可能性があることも目安として示されている。診断書では、診断結果を踏まえた推奨される行動も記載されている点が特徴だ。取るべき行動は、3つの判断ポイントで「自宅外」か「自宅」に避難するかを分けている。
第一の判断ポイントは、浸水の深さで自宅に浸水せずに安全を確保できる部屋があるか否かという点である。浸水面よりも高い部屋がない場合は自宅外へ避難し、ある場合は在宅避難という選択肢も出てくる。
第二の判断ポイントは、浸水継続期間の間、食料やトイレ、医療等の面から自宅で通常の生活が可能かどうかという点である。不可能であれば自宅外へ避難し、可能であれば在宅避難という可能性はまだ残っている。
第三の判断ポイントは、堤防の決壊等により家屋倒壊・流出の恐れのある地域に該当するか否かという点である。該当すれば自宅外へ避難し、該当しない場合には在宅避難できるとしている。
なお、東京都では診断書のサンプルも公開しているが、サンプルで表示されている浸水継続期間は28日や21日という日数が記載されており、かなり長い。浸水継続期間は、浸水の深さが50cmを超えて想定されている浸水の深さに達し、再度50cmを下回るまでの日数のことを指す。浸水継続期間を考慮するとマンションの高層階に住んでいる場合であっても、必要な日数分の水や食料を備蓄しておくのは困難であるし、電気やガスなどのライフラインも停止してしまう可能性がある。
そのため、マンションであっても、診断結果によっては自宅外の安全な場所への避難を検討しておくことが望ましいといえる。
江東5区の地域の特徴
墨田区、江東区、葛飾区、足立区、江戸川区の5つの区で構成される江東5区は、東京23区の東側の区となる。23区の東側は、海抜ゼロメートル地帯が広がっており、東京都の西側や千葉県側と比べると低地となっている。
江東5区が低地帯となっている理由は、かつてこの地域には利根川が流れていたためである。現在では利根川は千葉県の銚子方面に向かい太平洋側に流れ出ているが、江戸時代になるまでは江東5区周辺を通過して東京湾に流れ出ていた。江戸幕府が開かれた当時は、江戸は大湿地帯であったとも言われており、その原因は利根川が江東5区を流れ氾濫を繰り返していたからである。当時、江戸幕府は利根川の度重なる洪水を制御することが喫緊の課題であったため、利根川と荒川を分離させ、利根川の流路を太平洋沿岸の銚子沖へと大きく変える事業に着手した。
この事業は「利根川の東遷」と呼ばれる大事業であり、約60年かけて利根川の流れを太平洋側に変えることに成功している。また、同時期に荒川も流れを変える工事を行っており、こちらの事業は「荒川の西遷」と呼ばれている。
利根川や荒川の流れを変えたことで、江東5区は徐々に土砂が留まるようになり、人が住める土地が形成されていった。特に江戸時代前に利根川の河口付近にあった江戸川区や江東区は、海抜が低くなっており、広い範囲で海抜ゼロメートル地帯が広範囲に広がっている。このように江東5区は、かつて利根川が流れていた下流域であった歴史があることから、23区の西側の区や千葉県と比べると海抜が低いという特徴を有している。
また、江東区は工業用の地下水が大量に組み上げられた結果、地盤沈下がみられるようになった。現在は、地下水の採取が減少し、一時的に地盤沈下は停止している。
https://www.city.koto.lg.jp/380303/machizukuri/sekatsu/dojoosen/7332.html
対象となる災害
診断書の対象となっている災害は、洪水と高潮の2種類である。洪水とは、河川の堤防が決壊することで生じる氾濫のことを指す。洪水による反乱は外水氾濫とも呼ばれている。
また、高潮とは発達した低気圧により海面が上昇し、風によって海水が吹き寄せられる氾濫のことである。
なお、東京都では江戸時代から水害と戦ってきた歴史があり、堤防の整備が進んでいる。
近年の東京都の水害は、洪水の外水氾濫よりも下水道の内水氾濫の方が被害は多くなっている。内水氾濫とは、集中豪雨により下水道の処理能力が追い付かなくなり、雨水が地表に溜まってしまう水害のことである。
診断書では内水氾濫については触れられていないが、近年の傾向からすると内水氾濫についても生じる可能性があることを意識しておきたいところである。
広域避難
診断書では、自宅外の避難先として広域避難を推奨している。広域避難とは、江東5区以外へ避難することを指し、東京都西部や千葉県、神奈川県、埼玉県、茨城県へ避難することを想定している。東京都内に関しては、JR総武線の御茶ノ水駅以西であれば台地であることから、浸水リスクは低く、広域避難先として適している。
ただし、対象となる避難民は250万人にもなると予想されているため、広域避難といっても特に避難先が用意されているわけではない。そのため、まずは親戚や知人宅、宿泊施設、勤め先等の避難先を各自で確保することを呼び掛けている。
事前の準備と補助制度
広域避難に関しては、普段からの準備が重要となる。日ごろから行っておくべき準備は、以下の4つである。
・広域避難先の確保(親戚や知人宅、宿泊施設等)
・避難時の携行品の準備
・水や食料の備蓄
・移動手段の確保の検討
広域避難は、台風の場合には約3日前から段階的に情報が発信される見込みとなっている。
ただし、近年増加している線状降水帯は予報が難しいことから、行政から避難情報が出されたとしても避難が間に合わない恐れがある。
線状降水帯のような予測困難な豪雨に備えるには、普段からの準備が重要となってくる。
また、東京都では車による避難は渋滞が発生する恐れがあることから推奨していない。避難経路を検討する際は、公共交通機関を利用する前提で避難ルートを計画しておくことが望ましい。
なお、江戸川区では広域避難について、区外の宿泊施設を利用した区民の方に対して1人あたり最大9,000円(1泊一律3,000円、3泊までを限度)の補助金制度を設けている。対象となるのは、江東5区による避難情報を発令した場合であり、主に大型台風が来るときが想定されている。
大規模水害時の自主的広域避難(分散避難)について
https://www.city.edogawa.tokyo.jp/e007/bosaianzen/bosai/jijo/kouikihinan.html
補助金制度に関しては、今後は他の区でも創設される可能性があるため、時期を見て自分の区も補助金制度があるかを確認するといいだろう。
公開日:








