中心市街地の活性化につながる「茨木みちクル」プロジェクト

大阪府茨木市は、中心市街地の再編成を行っている真っ最中だ。2023年(令和5年)秋には、JR茨木駅と阪急茨木市駅のちょうど中心にあたる場所に、「茨木市文化・子育て複合施設 おにクル」(以降、おにクル)」が完成予定。おにクルは、子ども支援センター、多目的ホール、図書館、プラネタリウム、市民活動センターなどが集まった複合施設で、建物の目の前には芝生広場が広がり、市民の憩いの場となり得る場所だ。JR茨木駅・阪急茨木市駅周辺においても拠点整備の検討が進んでおり、茨木市の中心市街地は転機を迎えている。

拠点整備が進み、人の流れが変化するなか、魅力的なメインストリートづくりに向けての取組みである「茨木みちクルプロジェクト(以降、茨木みちクル)」が進められている。茨木みちクルは、メインストリートとしての「みち」に人がたくさん「くる」ことで人の流れを促し、中心市街地の活性化につなげようとするものだ。

「茨木みちクルは、拠点整備の効果を面的に広げるものです。茨木市民の主な利用駅は、JR茨木駅前と阪急茨木市駅であり、その間の距離は約1,300mあります。おにクルなど各拠点の賑わいを、沿道へとつなげていくための役割を担っています」と茨木市 都市整備部 都市政策課 まちづくり係 係長 中島 航氏は話す。

茨木みちクルの社会実験・街路灯バナー(写真提供:茨木市)茨木みちクルの社会実験・街路灯バナー(写真提供:茨木市)

茨木みちクルの舞台は、JR茨木駅と阪急茨木市駅間をつなぐ、東西のラインである中央通りと東西通りだ。北側に伸びる中央通りは、商店街が並ぶ昔ながらの風景が残っており、一方南側の東西通りは、平成初期につながった道で比較的近代的なデザインと周辺の住宅の多さが特徴だ。雰囲気の異なる、各通りの個性を生かしながら、どのように賑わいを生み出していくかが課題となっている。

茨木みちクルの社会実験・街路灯バナー(写真提供:茨木市)お話を伺った、茨木市 都市整備部 都市政策課 まちづくり係 係長 中島 航氏
茨木みちクルの社会実験・街路灯バナー(写真提供:茨木市)茨木みちクルの舞台となる中央通りと東西通り。左側にあるのがJR茨木駅、右側にあるのが阪急茨木市駅。(資料出典:「茨木みちクル」社会実験の実施概要報告書・2023年1月より)

道幅が狭い、滞在しにくい...、道路の課題

中央通りと東西通りは、交通面でのハード面とソフト面での課題がある。ハード面では、道幅が狭いにもかかわらず、自転車や車の交通量が多いことが挙げられる。歩道上で歩行者・自転車の錯綜が見られて危険な場面があるだけでなく、ベンチなど通行中に座って休憩できるツールも少なく、高齢者にとっては歩きにくい環境ともいえるだろう。

またソフト面に関しては、シャッターが閉まったままのお店もあり、通りそのものの賑わいが欠けはじめていることも課題に挙げられる。茨木市ではこれらを解決し、道路空間と沿道建物が一体となって、歩きやすく、楽しく滞在したり、活動したくなるような魅力的な景観デザインの形成を目指している。そこで2020年から、市民、行政、沿道事業者などが一緒になって、3回のワークショップや2回の勉強会の開催、2022年には空間のあり方を実際に検証する社会実験を実施した。

中央通りの将来イメージ図。デザインコンセプトは「賑わいと交流を育む親しみやすいみちへ」。オープンな店先に気軽に立ち寄り、賑わい・交流や人の動きが染み出すような通りのデザインを目指す(写真提供:茨木市)中央通りの将来イメージ図。デザインコンセプトは「賑わいと交流を育む親しみやすいみちへ」。オープンな店先に気軽に立ち寄り、賑わい・交流や人の動きが染み出すような通りのデザインを目指す(写真提供:茨木市)
中央通りの将来イメージ図。デザインコンセプトは「賑わいと交流を育む親しみやすいみちへ」。オープンな店先に気軽に立ち寄り、賑わい・交流や人の動きが染み出すような通りのデザインを目指す(写真提供:茨木市)東西通りの将来イメージ図。デザインコンセプトは「身近に潤いを感じる良質で落ち着きのあるみちへ」。自然による癒やしを感じながら、ゆっくりと歩けて自由に過ごせる落ち着いた通りを目指す(写真提供:茨木市)

公共空間活用の社会実験を実施

2022年11月3〜30日の約1ヶ月間、中央通りと東西通りで行われた社会実験は、茨木市と沿道事業者が主催した。JR駅前商店街では、椅子やテーブルを置くことで、沿道飲食店の賑わいが屋外へ滲みだす仕掛けを施した。一方、おにクルの北側や阪急茨木市駅の南側ではウッドデッキや植栽を設置したり、通り沿いにベンチを置いたりなど、休憩空間を用意した。82店舗と多くの事業者とともに実施し、スマホを利用したデジタルスタンプラリーなども実施することで、来訪者の回遊を促した。

社会実験の調査の一環として、滞在状況やアクティビティの定点観測調査と歩行者通行、歩行者と自転車の状況を把握するための交通量調査も同時に実施。合わせて来訪者・沿道事業者へのWEBアンケートも行い、リアルなデータも収集した。

「通りの将来像や目指す方向性については、来訪者の8割、沿道事業者の7割から共感を得ることができました。しかしベンチやウッドデッキなどの滞在空間については、利活用がスムーズに進まない現状が浮き彫りに...。滞留空間を設けるには楽しめるコンテンツとの組み合わせが重要だと改めて感じました」

JR駅前商店街で行われた社会実験の様子。歩道が広がった状況をイメージでき、かつ滞在もしやすい空間を一時的に演出した。(写真提供:茨木市)JR駅前商店街で行われた社会実験の様子。歩道が広がった状況をイメージでき、かつ滞在もしやすい空間を一時的に演出した。(写真提供:茨木市)
JR駅前商店街で行われた社会実験の様子。歩道が広がった状況をイメージでき、かつ滞在もしやすい空間を一時的に演出した。(写真提供:茨木市)おにクルの北側で行った社会実験の様子。ウッドデッキや植栽を設置し、歩道幅拡張後の将来形を演出した。(写真提供:茨木市)

自分ごとになる。自分の活動がまちの景色になる

ワークショップなどで多くの方と考えた通りのコンセプトは「人が主役になり、まちの魅力を“次ぐ”2つのメインストリート」だ。このコンセプトは、社会実験などさまざまな場所で市民や沿道関係者等と認識を深めながら、検討を重ねてきた。このコンセプトを磨きあげていくために、ワークショップや勉強会などを実施して、通りの将来像について市民や沿道関係者等と認識を深めながら、検討を重ねてきた。

「社会実験を1回きりで終わらせずに、そこでの結果を計画にしっかりフィードバックすることを心がけています。賛否両論の意見をいただきますが、前向きに受け止めて、人が中心の風景をいかにつくっていけるか、通行の安全面とのバランスを取りながら進めていきたいです」と中島氏。

阪急茨木市駅の南側で行われた社会実験の様子。パークレットのようなイメージで、歩道上で滞在できるような空間を演出した。(写真提供:茨木市)阪急茨木市駅の南側で行われた社会実験の様子。パークレットのようなイメージで、歩道上で滞在できるような空間を演出した。(写真提供:茨木市)

2023年1月15日には、社会実験の検証結果を報告する、市民参加型のイベント「みちから、まちを、動かそう!」が開催された。参加者は約30名。当日は、JR吹田駅周辺で進められているまちづくりの具体的事例も紹介された。実際に暮らすまちで飲食店を経営しながらまちづくりを行っているゲストスピーカーの話に、参加者も聞き入っていた。グループに分かれたクロストークの場面では、市民と行政が混じり合って沿道の活性化やまちづくりへの積極的な意見交換がなされていた。記念撮影をしたくなるような茨木市のシンボルマークの設置提案や歩行者天国の要望など、市民からさまざまなアイデアが生まれていた。丁寧な対話の場が繰り返されることで、市民が自分ごととしてとらえるようになり、提案がどんどん具体化している様子がうかがえた。

「このような話合いの場を重ねることで、メインストリートを良くしたい、ともに行動する人を増やしていきたい」と中島氏。

阪急茨木市駅の南側で行われた社会実験の様子。パークレットのようなイメージで、歩道上で滞在できるような空間を演出した。(写真提供:茨木市)2023年1月15日に行われた、「みちから、まちを、動かそう!」の様子。グループに分かれて、まちに対する積極的な会話が飛び交っていた
阪急茨木市駅の南側で行われた社会実験の様子。パークレットのようなイメージで、歩道上で滞在できるような空間を演出した。(写真提供:茨木市)2023年1月15日に行われた、「みちから、まちを、動かそう!」の様子。グループ発表でも具体的な案が出ていた

社会実験の結果を活かして、まちが整備されていく

茨木市は、ワークショップや社会実験を通して、多様な主体が出会って活動が生まれる場づくりに注力している。イベント「みちから、まちを、動かそう!」のようにつながりを生み出すプラットフォームを「イバラキクラウド」と呼び、それをさらに深く発展させて、まちの将来像=次なる茨木につなげることをまちのグランドデザインに据えている。

社会実験が行われているのは、道路だけではない。おにクル建設予定地の向かいにある「IBALAB@広場」でも積極的に社会実験が行われている。社会実験中にはマルシェやフリーマーケットなど市民自身の持ち込み企画も多く生まれた。ストリートピアノの設置や朝ヨガなど、市民の活動がそれぞれ呼び水となり、新しい活動が生まれるという連鎖的な広がりも見せた。道路や広場という公共空間を市民が「自分たちの場所」として感じ、愛着が醸成されている様子がうかがえる。

IBALAB@広場で行われた、茨木みちクルのキックオフミーティングの様子。(写真提供:茨木市)IBALAB@広場で行われた、茨木みちクルのキックオフミーティングの様子。(写真提供:茨木市)
IBALAB@広場で行われた、茨木みちクルのキックオフミーティングの様子。(写真提供:茨木市)ワークショップの様子。(写真提供:茨木市)

「これまでの取組みを踏まえて、道路空間と沿道空間のデザイン・マネジメントをまとめたガイドラインを作成していきます。市民の皆さんとともに取組むことで、今よりももっと魅力的で多くの人にとって居心地の良いまちにしていきたい」と中島氏。

2023年にはガイドラインの策定と景観計画の改定を行い、2024年以降は、ガイドラインに沿った環境整備が具体的に行われていく。人と人、活動と活動をつないでいく、次なる茨木市のまちづくりに期待したい。

公開日:

ホームズ君

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