地域エコノミスト藻谷さんと行くバス講演ツアーに参加

ツアー参加者の皆さんツアー参加者の皆さん

2022年10月9・10日、「藻谷浩介と行くバス講演ツアー福岡編」(NPO法人Compus地域経営支援ネットワーク主催)が開催された。東日本大震災を機に、地域の実情を知るため東北で行われてきた同ツアー。9回目の今回は、Compus理事で法政大学の教授として地域づくりを志す若者の育成に尽力した保井美樹さん(2021年8月他界)の故郷である福岡を舞台に、全国から20~80代の28人が集まった。参加者のバックグラウンドは、都市計画コンサルタントをはじめファンド経営者や大学の先生、行政職員、マスコミ関係者、学生までさまざま。福岡への関心の高さがうかがえる。

ガイドを務めたのは、Compus理事長の藻谷浩介さんと、同理事で福岡在住の後藤太一さん。藻谷さんは日本総合研究所主席研究員で地域エコノミスト。平成大合併前の約3,200市町村すべて、海外95ヶ国を訪問し、地域振興や人口問題に関する研究・執筆・講演などを行っている。後藤さんは一級建築士で、現在は福岡市を拠点に国内外のプロジェクトのデザインを実践。ふたりのガイドのもと、福岡県福津市、古賀市、北九州市、八女市で地域に根差して活動するキーパーソンを訪ね、まち歩きをして、取組みや考えを聞いた。

福岡市の東にある福津市、人口増減率が全国8位

9日朝にまず向かったのは、福岡市から東へ車で1時間ほどの「福津市」。福間町と津屋崎町が2002年に合併して誕生し、約53km2に6万8,475人が暮らす(2022年10月末現在)。福岡市と北九州市の両方に通勤可能で、近年大規模な団地の開発も進み、ファミリー層が増えている。

藻谷さんは福津市を「移住者が増えているエリア」と説明する。自治体別の「人口増減率ランキング2017-22」(総務省のデータに基づき日経BP集計)によると、福津市は8位にランクイン。5年間の増減率は9.97%で、直近5年は単年でもすべてトップ50に入っており、安定的に人口が増加しているといえる。後藤さんも「全国的には福岡の西側の糸島市がオシャレだと話題になっていますが、同じ海辺でも静かに暮らしたい人は東の福津市や古賀市を選んでいる」と話す。

地元の人はなかなか気づかない幸せがある

福間海岸で波の音をバックに山口さんの話を聞く福間海岸で波の音をバックに山口さんの話を聞く

福津市といえば、宮地嶽神社から海に向かって伸びる参道の先に夕陽が沈む、ドラマチックな「光の道」が全国的に知られている。アイドルグループが出演したJALのCMで一躍有名になった。

その夕陽が沈む海岸で待っていた福津市のキーパーソンは、津屋崎ブランチLLP代表の山口覚さん。山口さんの案内で津屋崎のまちなみを散策し、話を聞いた。

北九州市出身の山口さんは、鹿島建設に勤務後、NPOに転職して全国各地の地域づくりに従事。2009年福津市津屋崎へ移住し、まちおこしプロジェクトの拠点「津屋崎ブランチ」を開設した。「移住当時、鉄道路線の廃止やレジャー施設の閉園などで、地元は暗い雰囲気に。しかし僕から見ると、美しい夕陽が海に沈み、新鮮な魚や野菜もあって、幸せな場所なのにと感じました」と山口さんは振り返る。

福間海岸で波の音をバックに山口さんの話を聞く築100年を超える旧玉乃井旅館。寄付などによって大切に保存され、1階はクラフトビール醸造所、2階はイベントや集会に利用されている
福間海岸で波の音をバックに山口さんの話を聞く海のすぐそばにある旧玉乃井旅館

人びとが交流して、まちの未来をつくる

「ゲストハウス旧河野邸」は寄付方式で再生。7年間の定期借家権を設定し、簡易宿泊所として再生。家主は金銭的負担が一切なく、7年後には改築された家が戻る「ゲストハウス旧河野邸」は寄付方式で再生。7年間の定期借家権を設定し、簡易宿泊所として再生。家主は金銭的負担が一切なく、7年後には改築された家が戻る

山口さんの取組みのコンセプトは「本当の暮らし方・働き方・つながりを実現する」こと。まちに集う場や対話の場をたくさん作ってきた。

例えば、30年空き家だった古民家を「ゲストハウス旧河野邸」に再生し、交流と対話の場「意味の学校」を開催。「旧糀屋」で毎週日曜朝に開催する「朝ごはん会」には、子どもからお年寄りまでたくさんの人が参加する。

また、山口さんが始めたプチ起業塾の卒業生が、築100年を超える建築で「カフェ&ギャラリー古小路」という名の日替わりのカフェを開き、「みんなの縁側 王丸屋」というゲストハウス兼レンタルスペースも登場した。まちのあちこちで対話が生まれ、地元の人も移住者もなじみやすい。

「ゲストハウス旧河野邸」は寄付方式で再生。7年間の定期借家権を設定し、簡易宿泊所として再生。家主は金銭的負担が一切なく、7年後には改築された家が戻る「みんなの縁側 王丸屋」はオープンなつくりで入りやすい

さらに、地元の中学校では12年前から学生と地域の人がぐるりと輪になって1対1で話すトークフォークダンスを毎年実施。大人が子どもの話を聞き、子どもが大人に本音を話す土壌ができた。

「このまちには年下を尊敬する文化がある。移住者がまつりを手伝うと、『キミたちが来てくれたから続けられる、ありがとう』と言ってもらえて、もっと頑張ろうと思えるんです。これからも分野を区切らず人をごちゃ混ぜにして、まちを家族のように捉え、福祉的につないでいきたい」と山口さんは語る。

「津屋崎ブランチ」の山口覚さんが語る、地方を元気にするまちづくりの哲学と実践
https://www.homes.co.jp/cont/press/buy/buy_00735/

「ゲストハウス旧河野邸」は寄付方式で再生。7年間の定期借家権を設定し、簡易宿泊所として再生。家主は金銭的負担が一切なく、7年後には改築された家が戻るこの日はまちの各所で音楽イベントを開催。楽しそうに準備を進めていた

歴史ある温泉宿をワークとイベントスペースに改修

国の補助金等を利用してリノベーションした快生館国の補助金等を利用してリノベーションした快生館

続いて向かったのは、福津市の南に隣接し、藻谷さんが「暮らしやすい注目の自治体」という「古賀市」。人口が増え続けて1997年に糟屋郡古賀町から古賀市となり、総面積約42km2、現在は5万9,298人が生活している(2022年10月末現在)。

山々と美しい海岸に囲まれた自然豊かな地域でありながら、交通アクセスの良さは抜群。九州自動車道古賀ICが整備され、JR古賀駅から博多駅へ約20分、小倉駅へは約50分と通勤通学に便利なので、ベッドタウンとして開発が進む。また企業進出が盛んで、現在100社を超える製造会社が操業し、食品製造品出荷額は県内で福岡市に次いで2位となっている。

国の補助金等を利用してリノベーションした快生館「快生館」のフリースペースを案内する田辺市長
快生館のコワーキングスペースはドロップインも可能快生館のコワーキングスペースはドロップインも可能

古賀市のキーパーソンとして登場したのは、市長の田辺一城さん。古賀市出身で、毎日新聞記者、福岡県議会議員を経て、2018年から市長を務めている。

田辺さんの案内で山間部を進むと、1918年発祥という歴史ある薬王寺温泉に到着。新型コロナウイルスの影響で休業していた温泉宿「快生館」をリノベーションし、2021年10月ワーク&イベントスペースが誕生した。3階建ての建物は、広々としたコワーキングスペースや個室のスモールオフィス10室、キッチン付きのフリースペース、テラスなどを備え、宿泊も可能。天然温泉やテントサウナを利用できるのが魅力だ。

国の補助金等を利用してリノベーションした快生館天然温泉の女性浴場。快生館の利用者のみ利用可能で、月額会員は無料

JR古賀駅西口エリアの活性化プロジェクトを進行中

山手の快生館から海方面へ車で15分ほどで、JR古賀駅に到着。JR古賀駅西口エリアの活性化プロジェクトを担当する木藤亮太さんと橋口敏一さんと合流し、説明を聞いてまちを歩いた。

JR古賀駅西口にある商店街。かつては活気があふれていたが、今は閑散としているJR古賀駅西口にある商店街。かつては活気があふれていたが、今は閑散としている
JR古賀駅西口にある商店街。かつては活気があふれていたが、今は閑散としているこの3年間の「まちの変化」を説明する木藤さん

木藤さんは、宮崎県日南市の油津商店街を見事に再生した仕掛人として知られており、現在は福岡県在住。2020年度からこのプロジェクトに携わり、同エリアで株式会社ヨンダブルディーという会社を設立した。木藤さんらは2032年までのロードマップを描いており、行政や住民、学生、団体などと連携して西口エリアの活性化を図り、ひいては古賀市全体のブランディングへの波及を目指す。

日曜昼過ぎの商店街はあまり人通りがなかったが、「このまちには面白い人がたくさんいて、人が財産。ありがたいことに応援団が増えているので、交流や新たなチャレンジが生まれ、暮らして楽しいまちを作っていきます」と木藤さんは意気込んでいる。

JR古賀駅西口にある商店街。かつては活気があふれていたが、今は閑散としているヨンダブルディーの本社。まちの人たちがふらっと立ち寄るという
JR古賀駅西口にある商店街。かつては活気があふれていたが、今は閑散としているまちの活性化を持続するためにオープンした「まちの社交場」の前で。左から後藤さん、田辺さん、橋口さん、藻谷さん、木藤さん

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