老朽化などから新築移転することに
右が小牧市中央図書館で、奥が小牧駅。旧図書館は西へ約1kmのところにあり、駅前への移転でアクセスも便利に。また図書館北側(写真では左)の歩行者専用道路は、市の駅前整備事業により作られ、イベント活用もされる近年、図書館のイメージが変わりつつある。本を読んだり借りたり、あるいは学習の場であるだけでなく、人が集まる場所としてプラスアルファの機能を持つ図書館が全国で増えている。
愛知県小牧市にある小牧市中央図書館もその一つだ。
旧図書館は、老朽化に加え、書架の収蔵能力の限界、閲覧席が少ないなど施設の狭(きょう)あい、そして利用者の減少が問題となっていた。そこで市の課題であった中心市街地の活性化の観点から、玄関口である小牧駅前の市有地に移転することになり、2021年3月27日にオープンした。
実は計画段階で一度白紙になっている。市は、2014(平成26)年に官民パートナーシップの取組みにより、公設民営の新図書館とすることを決定した。基本設計まで進んだが、翌年に実施された住民投票で反対多数となったのだ。
しかし、実施された住民投票が、単に当時の新図書館建設計画に賛成か反対かを問う内容であったため、市民の反対理由が分からない状況であった。そこで、市は、あらためて市民の意向を確認しようと、2016(平成28)年に教育委員会の諮問機関として学識経験者や市民、関係団体の代表などからなる「新小牧市立図書館建設審議会」を設置。約1年にわたって17回におよぶ審議を行った。その答申を尊重し、建設場所を駅前とし、運営を市の直営とするなど、新たな建設方針を策定した。
市民の意見を取り入れ、「居心地の良い滞在型の図書館」へ
「設計にあたり、多くの市民の意見をお聞きし、『市民が求める魅力ある図書館』とは、どのような図書館かという市民ニーズをしっかりつかむことに力を注ぎました」と、今回の取材に応じてくださった担当者は当時を振り返る。
市民アンケート調査を実施するとともに、中学生や高校生を対象としたスクールミーティングや市民ワークショップを開催。特に図書館や読書離れが危惧されている若い世代の意見の取りこぼしがないように注意したという。
そんななかで最も求められていたのは「居心地の良さ」。また、新図書館に求めるスペースとしては「ゆっくりくつろいで閲覧できるスペース」「カフェや飲食スペース」「学習室」、機能面では「多種多様な座席」「Wi-Fi環境の整備」「最新のICT機器の導入」といった意見が挙がった。
そうして、これまでのような貸出中心ではなく、カフェやテラスを含む多種多様な座席を設け、最新の設備も有した「居心地の良い滞在型の図書館」をコンセプトとした。飲食可能で、本を手にお茶を飲みながらゆったり過ごす。さらに、友人との会話を楽しんだり、さまざまなイベント開催ができたりと、賑わいのある場所へと生まれ変わった。
市のシンボルである小牧山をイメージした外観
内部をご紹介する前に、まずは外観に触れておきたい。地下1階、地上4階の建物となるが、真四角ではなく、上部は階段状になっている。これは小牧市のほぼ中央にある小牧山をイメージした。
小牧山は、戦国時代に織田信長が城を築いたという歴史があり、市のシンボルとなっている。市制60周年の2015年に“こまき山”というお相撲さんのマスコットキャラクターも作られたほど、市民にとって親しみのある場所だ。
階段状のデザインを生かし、3・4階にはテラスを設けた。テラスと屋上には植栽がされ、まさに“小さな小牧山”だ。このテラスにも約75の閲覧席が設けられており、利用者にとって居心地の良い空間となっている。
開放的な4層の吹き抜け。階ごとに異なる読書空間を創出
市民の声が生きたコンセプトが実現できるよう、設計はかなり細やかに進められた。コンセプトを表す内装空間のイメージを共有化するため、ミーティングは設計事務所が作成した模型とイメージパースをもとに行い、ミーティングのたびに設計事務所が模型を手直しして検討を進めたそうだ。また、床、壁、天井や家具の色などは、設計事務所が作成した数パターンのCG動画でイメージを共有した上で決定した。
その内観で最も特徴的なのが、4層の吹き抜け空間だ。「吹き抜け空間を通して、それぞれの目的に応じて自由に過ごす利用者の様子が同時多発的に垣間見え、多様性に富んだ居場所を演出しています」
それぞれの階で雰囲気が異なるのも特徴だ。上階にいくほど、明から暗、動から静へと、だんだんと落ち着いた空間となっているのだ。各階の木製本棚も明から暗へとグラデーションが付けられている。
1階は児童図書エリアのほか、カフェやコミュニケーションラウンジ、イベントスペースという開かれたスペースが設けられているため、明るく、人が集まる動きのある場所に。2階は中高生のティーンズ世代向けの図書や雑誌をそろえた専用フロア、3階は小説やエッセイといった一般的な書籍のほか、CDやDVDと多彩にそろえた一般フロア、そして4階は専門図書や郷土資料を集め、調査研究や学習、集中して読書できることを想定した静かな開架閲覧のフロアとした。
賑わいを生む新しい場所であるとともに、図書館本来の機能を望む利用者にもしっかりと対応した作りとなっている。
コンセプトを追求した多種多様な座席と空間
旧図書館の課題であった閲覧席は、館内に約600席、3・4階のテラス席に約75席を設けた。居心地を良くするために、一人掛け席の割合を多くし、座席間隔も広めに設定。イスそのものも、約300脚のサンプルから座り心地やデザインを確認して選定したという。数種類のデザインが採用されているのも面白い。なかにはオリジナルデザインのものもある。
「自分の居心地の良い場所で読書を楽しんでもらえれば」と、本はテラス席やカフェ席への持ち出しも可能。館内も飲食可能だが、本の汚れなどはないのか気になって聞いてみた。「開館前には懸念がありましたが、開館以降1年2ヶ月が経過した現在も、実際に本の汚れや破損を申し出いただくことはほとんどありません。対策としては特に行っておらず、利用者の方のマナーによるところが大きいです。飲食をしているので、より気をつけて利用しようとしていただいている方が大半なのではないかと思っております」とのことだった。
飲食(※食事は食事可能席またはテラス席のみ)、そして友人とおしゃべりしてくつろぐこともOK。一方で読書や勉強に集中したいときには、一人用の個人ブースや研究個室、サイレントルームをそれぞれ予約して利用できる。また、多人数で読書や学習、研究に利用できるグループワークルームもある。幅広いニーズに対応できる座席と空間を工夫し、市民に寄り添う図書館であると感じた。
課題の一つの利用者増を実現、今後はたくさんの魅力あるイベント開催を
新図書館のオープンから2022(令和4)年5月までの来館者数は約82万人を数えた。2021(令和3)年度の1日平均の来館者数は、平日1,634人、土日祝2,648人で、これはコロナウイルス感染症流行前で旧図書館時代の2018(平成30)年度の約4.8倍と約4.7倍にあたるそうだ。
貸出利用者数も1日平均501人で旧図書館の約2.8倍、貸出し点数は1日平均1,819点で約2.3倍に。市民にとって魅力的で、行きたくなる、利用したくなる図書館として成功しているといえるだろう。
そんななかで「来館者が多くなればなるほど、市民ニーズはさらに高度化、多様化していくことになったり、新型コロナウイルス感染症対策の強化が求められたりします。図書館ですべてに対応することは現実的に困難でもありますので、来館者の皆さまにさまざまな点でご理解、ご協力をいただくことで、より良い図書館運営ができると考えています。そうした環境にしていくことが課題の一つです」とも語る。
新図書館で見えた新たな課題に取組みつつ、「図書館はさまざまな事業や団体と連携が可能な施設。1階のイベントスペースでは、市の各部局や市民活動団体と連携した事業を行っており、これからも図書館だけではできない魅力あるイベントを開催していきたいです」という。
市民を支え、新たな居場所となり、また、まちの活性化をになう施設として好スタートをきった小牧市中央図書館。その未来に期待がふくらむ。
取材協力:小牧市
小牧市中央図書館 https://www.library.komaki.aichi.jp/


















