被害想定が公表された背景
2022年5月25日、東京都は「首都直下地震等による東京の被害想定」(以下、被害想定と略)を公表した。被害想定は、2011年に発生した東日本大震災を踏まえ、翌年の2012年に公表されている。今回公表された被害想定は10年ぶりの見直しが行われた。
東京都 首都直下地震等による東京の被害想定(令和4年5月25日公表)
https://www.bousai.metro.tokyo.lg.jp/taisaku/torikumi/1000902/1021571.html
被害想定が見直された背景としては、ここ10年の間に東京都の状況が前回想定時とは変わってきたためである。東京都としては、10年の間に全く手を打ってこなかったわけではなく、補助金制度等の制度を設けて建物の耐震化や不燃化などの事業を進めてきた。その結果、想定される被害については10年前よりも改善されている状況にある。
一方で、過去10年の間に、高齢化の進行や、単身世帯またはタワーマンションの増加等の新たな変化が生じている。前提条件が10年前とずれ始めてきたことから、今回の見直しに至ったということだ。
東京における被害想定
被害想定では、以下の5つの地震を想定している。
・都心南部直下地震(マグニチュード7.3、発生確率70%)
・多摩東部直下地震(マグニチュード7.3、発生確率70%)
・立川断層帯地震(マグニチュード7.4、発生確率0.5~2%)
・大正関東地震(マグニチュード8、発生確率0~6%)
・南海トラフ巨大地震(マグニチュード9、発生確率70~80%)
上記の想定地震は、マグニチュードや発生確率が異なるが、それだけで被害が決まるわけではない。被害想定では、東京都を「区部」と「多摩」、「島しょ」の3つにエリア分けしている。
区部では、高層ビルが立ち並び、木造住宅が密集している。湾岸部には高層マンションが乱立し、江東区には海抜ゼロメートル地帯(江東デルタ地帯)も存在する。そのため、人口や建物の多い区部を直撃する地震が、自ずと最も被害の大きな地震となる。
東京における被害想定(都心南部直下地震)
被害想定では、上記の5つの地震のうち、「都心南部直下地震」が最も大きな被害を受ける結果となっている。都心南部直下地震は区部を直撃する地震と仮定されており、死者数は6,148人、建物被害は194,431棟と想定されている。
東京における被害想定(多摩東部直下地震)
多摩東部直下地震は、都心南部直下地震と同じマグニチュードと発生確率で仮定されているが、多摩東部直下地震の被害数は都心南部直下地震よりも少ない。多摩東部直下地震では、死者数は4,986人、建物被害は161,516棟と想定されている。
東京における被害想定(南海トラフ巨大地震)
一方で、南海トラフ巨大地震はマグニチュードが9となっているが、震源地が東京都から離れていることから想定される被害は少ない。南海トラフ巨大地震では、都内で震度6以上の地震は発生しないと想定されており、揺れによる被害はほぼ発生しないものとされている。ただし、南海トラフ巨大地震は島しょ部に津波被害を及ぼす想定がなされている。海溝型地震である大正関東地震と南海トラフ巨大地震の2つの地震では、最大津波高は区部で約 2.6m、島しょ地域では約 28mが想定されている。海溝型地震が発生したときの島しょ部の津波被害は、死者数が952人、建物被害は1,258棟となっている。
防災・減災対策による 被害軽減効果
被害想定では各地震に対する被害状況を数値で公表しているが、決して悪い情報だけを載せているわけではない。10年前の想定数値とも比較しており、状況は改善しつつある。例えば、都心南部直下地震では死者数が6,148人、建物被害が194,431棟としているが、前回想定※では死者数が9,641人、建物被害は304,300棟としている。
※前回想定の比較対象の地震は「東京湾北部地震」。被害想定では地震動が異なるため、単純な比較は困難であることに留意すべきとしている。
同様類似の地震と比較すると、死者数は約3,500人、建物被害は約110,000棟も減少しており、状況は改善されつつあるのだ。被害数が改善された理由としては、東京都が政策として建物の耐震化や不燃化を進めてきた成果による。
具体的には各区で建物の耐震化や不燃化に対する補助金制度を設けており、以前よりも建物の耐震化や建て替えが行いやすくなっている。東京都の耐震化率は92%であり、全国平均の約87%よりも高い。また、木造住宅密集地域も2012年度末は1万6,000haであったのに対し、2020年度末には8,600haとなっており、面積が大幅に減少している。
このまま東京都の政策が継続されれば、10年後はさらに被害数が減少していくことが期待される。
身の回りで起こり得る災害シナリオ
被害想定では、地震時の発生時間帯でどのような被害が生じるかも想定してる。具体的には「早朝5時」と「昼12時」、「夕方18時」の3つで発生する被害を分けている。
早朝5時は阪神・淡路大震災と同じ時間帯であるが、「多くの人々が自宅で就寝中に被災するため、家屋倒壊による死者が発生する危険性が高い」または「オフィスや繁華街の屋内外滞留者や、鉄道・道路利用者は少ない」と想定している。
昼12時は東日本大震災と近い時間帯であるが、「オフィス等に多数の滞留者が集中しており、店舗等の倒壊、看板等の落下物等による被害の危険性が高い」、「外出者が多い時間帯であり、帰宅困難者数も最多となる」、「住宅内滞留者数は1日の中で最も少なく、老朽木造家屋の倒壊による死者数は朝夕と比較して少ない」と想定している。
そして、気になるのは夕方18時の時間帯である。夕方18時の時間帯は阪神・淡路大震災や東日本大震災以外の時間帯であるため、被災経験者は少ないのではないだろうか。
夕方18時では、「火気器具利用が最も多いと考えられる時間帯で、これらを原因とする出火数が最も多くなる」、「オフィスや繁華街周辺、ターミナル駅では、帰宅や飲食のため滞留者が多数存在する」、「ビル倒壊や看板等の落下物等により被災する危険性が高い」、「鉄道、道路はほぼラッシュ時に近い状況で人的被害や交通機能支障による影響が大きい」等が想定されている。
夕方の地震は早朝や昼に比べると、火災のリスクが高く、帰宅困難者の発生も加わるため、被害としては最も深刻な状況となる見込みだ。
地震時のライフライン被害の様相
被害想定ではインフラや避難所の生活、帰宅困難等でどのような被害が生じ、復旧がどの程度時間がかかるかを示している。ここでは最も重要なライフラインの被害状況と復旧時間を紹介したい。
電力
電気に関しては、配電線の被害による停電率は都心南部直下地震(冬・夕方、風速8m/s)の発生時に最大になると予想されている。都内の停電率は平均で 11.9%の想定とされている。配電設備被害による停電は、延焼による停電を除き約4日後に復旧完了し、1週間後には解消される見込みだ。
上水道
上水道に関しては、区部で約3割、多摩地域で約1割が断水するとされている。3日後になっても状況は変わらず、1週間たっても区部では約2割が断水している可能性がある。復旧するのは1ヶ月後であり、上水道が完全復旧するのは時間がかかる。
下水道
下水道に関しては、管路被害が都全体で数%とされており、上水道に比べるとかなり被害が少ない。ただし、被害を受けてしまうと復旧するまでに時間かかり、復旧が完了するのは、多摩東部直下地震で約 21 日後になるとと見込まれる。
ガス
ガスに関しては、安全装置が作動することで広域に供給が停止されることが想定されている。供給停止率は都心南部直下地震で最大と予想され、都内の供給停止率は平均で 24.3%。安全点検を行うのに時間を要し、1週間たっても一部の利用者へ供給できない状況が続く。復旧がおおむね完了するのは、都心南部直下地震で約6週間後なっている。
インフラの復旧は、電気が早く上水道が遅いというのは阪神・淡路大震災でも見られた現象である。昨今のタワーマンションでは、非常用電源装置を設けている物件も多いが、少なくとも2~3日分の電源が供給されるようになっていることが望ましい。
非常用電源装置があれば停電でエレベーターが数日動かないといったことは回避できるため、非常用発電機の有無と容量は確認しておきたいポイントである。
防災・減災対策による被害軽減効果
被害想定では、今後さらに対策を進めていくと被害がどれくらい減少していくかも示している。東京都の住宅の耐震化率は92%であるが、仮に100%になると死者は約3,200人から約1,200人、全壊棟数は約8.1万棟から約3.2万棟に減少するとされている。
また、住人が家具転倒防止策をすることも非常に軽減効果が大きい。被害想定では家具転倒防止策の実施率が57.3%を前提に死者は約240人と想定している。仮に家具転倒防止策の実施率が75%になると死者数は約140人、100%になると死者数は約40人まで減るとしている。
防災対策は、建物の耐震化といった大掛かりなものだけでなく、家具転倒防止策といった手軽にできる対策でも効果が大きいことがわかる。被害想定は東京都以外の人が見ても参考となる情報が多いため、興味のある人は一度参照してほしい。
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