入居者が参加して作る住宅、コーポラティブハウスを見に関西へ
入居者が計画段階から関与して作るコーポラティブハウスという住宅がある。日本に登場した初期には主に建築家などが自分たちで土地を買い、建物を建てればより原価に近く集合住宅を手に入れることができるだろうという発想から始まったそうだが、バブル期以降は企画者が参加者を募集する形が増えてきている。
今回、お邪魔した関西の2物件も、そうした企画者が参加者を募って完成したもの。違いは土地の所有形態で、最初にお邪魔したマインズ新芦屋は土地も購入して使われなくなった独身寮を改装したもの。その次にお邪魔したネイキッドスクエアは、土地は大阪府住宅供給公社が所有、それを60年間の一般定期借地権で借りている。その違いがどういう意味を持つかは追って説明したい。
まずはマインズ新芦屋。物件名からすると兵庫県の高台の住宅地を想像するが、立地するのは大阪府吹田市。最寄り駅からは坂を上った高台にある鉄筋コンクリート造の3階建ての元独身寮である。かつては1階に集会所、食堂や浴室などの共用部が配され、2階、3階には約17~20m2の個室が各フロア12戸並んでいた。
それが売却された。だが、買おうとする人はいなかったと設計を担当したVANSの伴年晶氏。独身寮をコンバージョンするとしたら、普通に思いつくのは賃貸住宅だろうが、単身者向けと考えると坂を上る立地はそれほど喜ばれない。福祉的な転用もありうるが、エントランスには階段があり、バリアフリー化は難しそうだ。
だが、伴氏も、一緒にコーポラティブ住宅やコンバージョンを手がける都市・建築設計共同組合(愛称:いえしえん)の面々もこの建物に可能性を見た。300坪(約990m2)の土地に立っているのはほぼ同じサイズの建物で、容積率には余りがある。もっと建てられる土地なのである。いざとなればそれを利用する手がある。
そこで、この建物をコーポラティブハウスにしようと伴氏は考えた。躯体、廊下や居室をできるだけ無駄なく生かせば効率的に自由度の高い住まいができると考えたのである。
独身寮をみんなで購入、改装してわが家に
そこで土地を1億円、建物を数千万円で取得、その後に改修することを計画、8人の入居者を募集することにした。土地、建物だけを8人で等分に割ると1,875万円になるが、そこに改修費その他がかかるし、そもそも、最初の段階ではどの部分が自分の住居になるのかが分かっておらず、土地、建物を共同で買う形になるため、住宅ローンが使えない。そこで入居者は一般のローンを利用し、住宅が完成してから住宅ローンに借り換えており、最初のローン借り入れ、その後の借り換えと通常なら不要な費用を負担することになった。ある程度資金に余裕がないと難しい仕組みだったといえる。
また、あと1人、2人の入居者を探す作業は難航した。途中で敷地を半分に縮小する案なども出たそうだ。だが、すでに決まっていた入居者から壊さずに使うのが本来の趣旨ではないかとの声が出て、最終的には建物はそのままに、容積率に余裕のある土地の一部を分筆してそこに一戸建てを新築。土地代の負担を軽くすることで完成を見た。もっと建てられる土地という最初の見立てがぎりぎりになって功を奏したのである。
完成した建物は1階に3戸、2階に2戸、3階に3戸、分筆した土地に新築一戸建て1戸。特に2階はL字形の建物を角部分にある共用部を境にして半分ずつ使った贅沢な作りで、151m2、114m2の広さがある。その広さ以上に驚くのは建物を減築、バルコニーとして使っている住戸があるという点。
外から見ると建物自体は以前の独身寮時代とそれほど大きく変わっていないように見えるのだが、よくよく見るとバルコニーの手すりの向こう、かつて建物の外壁があった部分が減築されて広いバルコニーになっているのが見えるのである。
これには驚いた。改装でも新築でも、できるだけ大きな空間を作ろうとするのが一般的である。ところが、ここでは工事をして、つまりお金をかけて居住空間を減らしているのである。減築した住戸は見せていただけなかったのだが、中庭のある集合住宅をイメージすればいいのではないかと思う。あるいはアウトドアリビングがある家だろうか。使い方次第では楽しい空間なのではないかと思う。
部屋の自由度と仲の良い人間関係に満足
1階の2住戸を見せていただいた。中央のお宅は84m2の2LDKで広いウッドデッキに面したリビングと和室にお邪魔した。リビングには細長い土間から入るのだが、この空間がなんともセンスが良く、うっとり。
住戸は1階だが、ウッドデッキに出ると日当たりが良く、気持ちがいい。ウッドフェンスで囲われているので、開放的でありながらプライバシーが守られる空間でもある。入居者によると、この住宅に関心を持ったのは自由度が高いという点だったとか。
「妻が情報を入手し、それで説明を聞きに行って自分たちの好きな間取りにできるという点に魅力を感じて参加することにしました。実際、自分たちが好きな間取り、仕様にできました。入居して10年ほどになりますが、満足度は今も高いですね。完成するまでには1年以上かかりましたが」
仕様で驚くのはサッシも各戸で違うという点。それぞれがショールームに見に行って好きなもの選んだという。また、満足度が高いもうひとつの要因は入居者同士の人間関係だ。
「入居時期はバラバラでしたが、入居前はもちろん、入居後も付き合いがあり、仲良くやっています。家庭菜園をしているお隣からは壁越しに野菜をもらうのが日常です。よその子がまるでわが家のように遊びに来ることもあります」
住宅の完成前からの付き合いが家族ぐるみの仲のよさにつながっているのである。入居するまでお隣がどんな人かが分からないことが多い一般の集合住宅からすると安心感のある住まいといえよう。
お隣の住戸は独身寮の食堂や浴室だった部分を利用、浴室の壁を抜いて庭に面した広い玄関スペースが作られている。その前には専用庭を利用した菜園があり、それがご近所付き合いのツールになっている。
そのほかの住戸を見ると、かつての独身寮の居室をそのまま部屋として使ったり、廊下を廊下として使っていたりと無駄のない作りが特徴。そうした設計のアイディアが評価され、この建物は2013年度の大阪住まい活性化フォーラム「第1回リフォーム・リノベーションコンクール」マンション部門で最優秀賞を、「第30回住まいのリフォームコンクール」でも国土交通大臣賞(最高位)を受賞している。
見た目は集合住宅、実は一戸建て
続いて訪れたのは寝屋川市萱島南町に1999年に建てられたネイキッドスクエア。この地域では1980年代から密集市街地整備促進事業が推進されており、道路整備、住環境整備が主な課題だった。そのなかでもネイキッドスクエアが立地するのは、住宅建設と同時に農業用水路の改修、親水公園や緑道の整備を行う拠点的開発地区で、大阪府住宅供給公社用地を定期借地で借りて居住者がコーポラティブ方式で集合住宅を建設した。同物件は親水公園、緑道に接するという気持ちのよい場所に立っている。
密集市街地の整備と聞くと耐火建築の集合住宅を企画するのが一般的だが、この物件は耐火構造で、集合住宅なのだが、実は一戸建てとして登記できる二重壁の連続住宅なのだという。市街地の景観の連続性を意図するとともに街区の防災を重視した計画なのだが、庭付き一戸建てへの願望が強い地域であることを考慮してマンションでもない、一戸建てでもない、全戸が接地し、庭もあって自由に改装できる住宅形式をと考えた結果なのである。
設計にあたった設計事務所ヘキサの安原秀氏は大阪市の中心部、谷町筋を中心に都市住宅を自分たちの手で創る会(都住創)として20棟以上のコーポラティブ住宅を建ててきた建築家。地元の人たちへの企画趣旨の説明から始まり、参加者を募集、設計、工事に約3年半を費やして完成を見ている。
出来上がったのは白い外壁の3階建て、モダンな雰囲気の住宅。外壁はコンクリートブロックの空洞部内に鉄筋を配筋し、コンクリートを充填する型枠コンクリートブロック造で、これによって耐久性の向上、工事の省資源化、合理化を図った。
建物だけを見て説明を聞かなければ低層のマンションと思う人もいるだろう。だが、基礎は一体だが、住戸は二重壁で隣家とは独立した一戸建てだ。高さ、面積その他は法令の許す範囲で増改築は自由。もちろん、建築時には各戸の住宅計画も自由とされた。
定期借地権が切れる日が不安
ここでは住戸内の見学はできなかったのだが、過去に建築雑誌等に掲載されたものを見るとリビングに吹き抜けを設けてあったり、玄関に駐輪スペースを作ったりと、屋上に菜園を作ったりを各戸それぞれ。特に吹き抜けのある家は多いようだ。
戸数は37戸あり、各戸の専有面積は84.76~256.11m2で、100m2以上が24戸あり、全体的に広め。専用庭に加えて、共用空間の中庭部分を利用した駐車場兼コモンスペースも設けられており、面する緑道や親水公園も考えると、子どもたちには遊び場の多い家といえそうだ。
住戸の取得価格は約3,000万円~5,000万円で、そのうち定期借地権の権利金は平均で約1,300万円。土地を購入せず、60年間の地上権方式の定期借地権を使うことで入居時の価格を抑えて契約をしたが、完成から20年以上がたち、定借への不安が生まれ始めている。
視察に応じてくださった管理組合の方によると定期借地権が切れる60年後に杭を含めて更地にして返還するとなると解体費用は総額で3億円くらいかかることが4年前に試算されており、リアルな課題として意識するようになったという。
「思っていたよりも高額なのです。1軒当たり平均900万円は用意しなくてはいけない計算で、これを定期借地権が切れるまでの36年目から25年間でためると考えると毎月2~4万円は積み立てていかなくてはいけません。ローンを払い終わったと思ったら、解体のための積み立てが必要ということになります」
住宅ローン借り換えが難しい
また、37軒中、これまでに8軒が転居、売却しているが、購入時にかけた費用に比して売却額が低いという。
「住み続けている人がローンを借り換えようと思っても、借地だから土地代はゼロで価値がない、不動産業界の理解が進まず、正しく評価できないため、銀行も借り換えを受け付けてくれません。このままだと、解体費用を積み立てるのが嫌だと転居していく人が出たり、どうせ壊すなら手を入れる必要がないとスラム化するなどといった悪い事態も想定できます。そのため、所有者である大阪府住宅供給公社に土地譲渡や定借期間の延長などを含めた契約変更を打診していますが、今のところは動きはありません」
定期借地権を利用すると購入時には大きなメリットがあるが、期間満了後に更地にして返還となるとネイキッドスクエアのような問題を抱えることになる。自分の代だけ使えればよい、相続で空き家が発生するよりはましという考え方もあるが、自分が居住する時間と定期借地権の契約期間が一致するとは限らない。と考えると、定期借地権で更地にして返還という契約では将来、不安を抱える可能性もあるというわけだ。
SDGsが言われる昨今にまだ使えるであろう建物を取り壊すのはどうなのかという観点は重要であり、契約が行われたのは20年以上前。社会がこのように変化するとは誰も思ってもいなかったはず。今後のネイキッドスクエアがどうなるか、気になるところである。
公開日:
















