変化し始めたまち、西小山に不思議な空間
東急目黒線で目黒から3駅目。アーケードのある商店街で有名な武蔵小山の隣に西小山という駅がある。駅は品川区にあるものの、駅の北側はすぐ目黒区という区境に立地するまちで、コンパクトながら周辺には複数の商店街が広がる。
レトロな雰囲気のある商店街、住宅街なのだが、細街路や、古い木造住宅が残されており、防災面では懸念もある。そのため、再開発計画が噂されており、実際、駅と道を挟んだ向かいでは建設計画の表示が出ている。今後、変化しそうな街というわけである。
そんな西小山の、駅から見えるほどの場所に不思議な一画が誕生した。コンテナを一部道路を挟むなどで変形のロの字型に配し、中央に広場を設けたクラフトビレッジ西小山(Craft Village NISHIKOYAMA)である。1階に入っているのは大半が飲食店で、2階はオープンテラス。開業したのは2020年11月6日だが、その後1年近く休業を余儀なくされ、2021年10月にようやく再スタート。賑わいが生まれつつある。
まちの起爆剤を目指すクラフトビレッジ西小山
「土地はUR都市機構が所有、そこに地域に根付いた賑わい作りをということでプロポーザルが行われ、京都、新潟などでまちづくり、賑わいづくりに関わってきた私たち株式会社ピーエイが、クラフト、サスティナブル、コミュニティをキーワードに運営を行うことになりました」と同社の篠部大五郎氏。
ここ数年で新しい店も出てきた商店街だが、全体としては高齢化が進んでおり、閉まっている店もいくつか。どう継続していくか、悩んでいる人たちも多いはずで、そこに新たにマンションが生まれ、これまでと違う、主に若い人たちが入って来る。その間を繋ぎ、新旧が混じり合う賑やかな場を作ることで、古くからいる人たちには将来へのヒントを、新しく入ってくる人たちには居心地の良さをというわけである。「目指すものはまちの起爆剤です」(篠部氏)
人の集まる仕掛け、商店街との協働も模索
そのため、ようやくリスタートした2021年秋以降は地域とのコミュニケーションを図っていきたいとあの手この手を考えている。ひとつは中庭に用意されたステージをさまざまな人たちに使ってもらうこと。取材前日にはフラダンス教室の発表会の会場として使われていたそうで、地域で活動している人たちが気軽に使えるようにしていきたいと篠部氏。10月1日からの再開ですでに多くの問合せがあり、年末までの土日はほぼ埋まっているというから、こうした場への期待が大きいことが分かる。
コロナ禍でも定期的に手作り作家たちのマルシェを開いていたそうだが、会場としていた建物隣接の空き地が駅前の再開発で使えなくなってしまったため、今後は1階のテーブルの一部を要望に応じて貸し出すようにするほか、2階を利用しての開催を考えていくとか。また、11月にはフリーマーケットも開催された。
人を集める仕掛けのほか、商店街との協働も考えている。
「イベントを商店街に告知するのはもちろん、一緒にやりませんかという声掛けもしていきたいと思っています。昨年の正月にある店舗が餅つきをしたのですが、それがとても好評だったと聞いています。ですから、今年は商店街の方々と一緒にできればいいなと考えています」(篠部氏)
目黒区とURが行っている地域に関するアンケート調査の回収箱を敷地内に置いたのもその一環。足を運んでもらう理由を作り、そこで知っている顔と会う、会話が始まる場になればというのである。
店舗はコンテナを再利用
実際の場所を見ていこう。コンテナを利用した1階の店舗スペースは全部で13。うち、2ヶ所は工事中でまもなく新店が登場する予定となっている。また、2店舗は地元で営業している店が2店目としてオープンしたものとか。和食からベーカリー、タイ料理に鉄板焼き、トルコ料理とワールドワイドなメニューを出す店舗が並んでおり、初めて訪れた人はどれにしようか悩んでしまいそうだ。
店舗として使われているコンテナは同社が保有しているもの。一部は京都で使われていたものを持ってきた。2018年に京都駅近くの崇仁新町という屋台街を記事で取り上げたことがあったが、その時に使われていたコンテナである。
「コンテナは内部を直せばずっと使えます。ある場所での事業が終了したら次の場所に移動するという形で材を無駄にすることなく使い続けられる点がこの場所のテーマのひとつであるサスティナブルに合致しています」
中古家具を使ったサスティナブルな空間
サスティナブルという点では使われている家具類にも注目したい。椅子、テーブルともにすべてバラバラな品で、これは中古品を購入、自分たちで直したものだという。だが、逆にそれがラフな空間に映え、寛いだ雰囲気を醸し出している。オープンな空間にはぴかぴかで全部お揃いという品は似合わないのかもしれない。
客席は1階の各店の前のほか、オープンテラスになった2階にも用意されている。オープンな席はコロナ禍で安心感があるのだろう、人気だという。取材で訪れたのはすでにランチタイムの終わった時間だったが、飲み物を片手にパソコンを広げる人が何人も。天気の良い日なら青空の下での仕事も快適だ。
ただし、これから冬場になってくると辛いかもしれませんと篠部氏。
「オープンな空間は雨の日や冬場には人出が鈍ります。でも、それを分かっていてこうした施設を作ったのですから、問題だと深刻に考えてしまうのではなく、その不利をどう楽しむか。昨年はこたつ席を作り、面白がっていただきましたが、今年はどんな提案をするか。それを考えることで自分たちも、施設も成長すると考えています」
新旧の人たちの中和剤、潤滑油に
不利なことがあった場合、たいていの人は凹んでしまい、そこで考えを止めてしまいがちだ。だが、そのマイナスをどうプラスに転じられるかを考えることはどんな仕事でも大事。まちや賑わい作りでも同じで、不利も含めて面白がることは新たな発見や思いがけないニーズを生む。その点で面白い話を聞いた。開業時、敷地内の空いていた場所にドッグランを作ったというのだ。
「コロナ禍なので会員のみが利用できるなど制限の多いドッグランでしたが、この地域にはこれまで類似の施設が無かったためか、非常に人気が高く、短期間で犬を介したコミュニティが出来上がっていました。再開発に伴い、敷地が使えなくなったので10月10日に終了したのですが、利用者が集まってちょっとしたパーティーが開かれたほど。
地元の人はドッグランにニーズがあるとは思っていなかったと思いますが、外からの、何かここで面白いことができないかという目がそこに気づいた。まちや賑わい作りにはこうした外からの目も必要なのだろうと思います」
コンテナという仮設に近い形態ではあるものの、現在の予定では8~10年、ここで営業を続けることになるとか。幸い、リスタート後すぐにテレビ番組で取り上げられ、一気に来訪者が増えた。これまで長らくクローズドしていたため、どんな場所なのかが知られておらず、それが理由で来訪に二の足を踏んでいた人が、テレビで場所を知り、それならと訪れるようになったのだ。
近隣の人を中心に老若男女、単身者、家族連れなど幅広い人たちが集まってきており、1階は犬もOKなので犬連れの人たちも多数。幸先の良いリスタートになったが、真価が問われるのはこれから。篠部氏はこの場の目指すものを中和剤、潤滑油という言葉で表現したが、開発で入り交じる新旧の人たちが自然に繋がれるよう良い中和剤、潤滑油になっていただきたいものである。
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