日本におけるQRコード決済の先駆け
コロナ禍で急速に利用が広がったキャッシュレス決済。中でもスマートフォンを使ったQRコード決済の普及はめざましい。PayPayが誕生した2018年は「QRコード決済元年」と呼ばれているが、今回紹介する「さるぼぼコイン」は2017年12月からサービスを開始。日本におけるQRコード決済の先駆けと言っても過言ではない。
飛騨信用組合 経営企画部 岡本竜太さん。以前は中小企業の経営支援や人材育成プログラムなどに携わっていた岡本さんは、Uターンで飛騨信用組合に転職。入社時すでにさるぼぼコインの運営は始まっており「面白いことをする金融機関だ!」と感銘を受け転職を決めたのだそう地域通貨の成功例としても取り上げられることの多い「さるぼぼコイン」は、岐阜県飛騨地域(高山市・飛騨市・白川村の2市1村)のみで利用できる。飛騨地域の基幹産業といえば観光。多くの観光客がこの地域を訪れてお金を使うが、このお金を地域外に流出させず地域内で循環させる…それがさるぼぼコインの狙いだ。
2021年8月末現在、ユーザー数は2万2,000人。加盟店舗数は約1,630店。累計決済額は42億円に達し、当初の想定よりも早くこの金額に到達しているという。
なぜこれほどまでに地域に根付くことができたのか、また現状や今後の展望などについて、飛騨信用組合 経営企画部(※)岡本竜太さんにお話を聞いた。(※2021年9月取材時)
“信用組合”だからこそできた、大手との違い
さるぼぼコインは、飛騨信用組合が発行する電子地域通貨。大手キャッシュレス決済サービスとは違い、“信用組合”だからこそできたことがある。
信用組合は、地域に住む事業者や個人が組合員となり、組合員の出資金や預金により、信用組合は事業者へ融資を行う。地域貢献を目的とした“非営利”の金融機関だからこそ、目先の利益を追う必要がなく、地域の利益を優先して事業を展開することができるのだ。前例のないQRコード決済に積極的に取り組めたのも、信用組合だからこそと言える。
また2017年の「さるぼぼコイン」スタート時には、他社のQRコード決済はまだほとんどなかった。そんな中、各店舗にQRコード決済の導入を勧め、ユーザーにアプリの利用を勧めなければならなかったのだから、相当の苦労だったことは容易に想像できる。
しかしそれも地域の人たちとアナログなコミュニケーションが取れる体制のある信用組合だからこそ、きめ細やかな対応ができた。キャッシュレス決済に抵抗のある事業者や利用者にも直接説明することで「さるぼぼコイン」の普及につながったのだ。
スーパーなど市内数ヶ所にチャージ機が設置されている他、全国のセブン銀行ATMでもチャージ可能。また飛騨信用組合の口座と紐づけてスマートフォンからいつでもチャージすることもできる。さらに高齢者に配慮し、飛騨信用組合の窓口で対面でチャージができるのも特徴的ださるぼぼコインの利用方法はとてもシンプルだ。ユーザーがスマートフォンにアプリをダウンロードし、1円=1さるぼぼコインとしてチャージ。加盟店で利用する際は、スマートフォンでQRコードを読み込んで支払うという流れ。
難しい操作ではないのだが、アプリを使ったことがない世代にとっては抵抗があるだろう。特に高齢者にとってはハードルが高いが、飛騨信用組合の窓口や営業マンが丁寧にレクチャーし、今では当たり前に「毎日のお買い物はさるぼぼコインで」というご家庭も多いそうだ。
地域通貨だからこそできる付加価値
「さるぼぼコイン」を利用すると地域内でお金が循環するということは、ユーザーにとっても簡単に理解できる。しかし地域のためになる”以外の“付加価値がなければ利用しないという人も相当数いるだろう。
さるぼぼコインのわかりやすいメリットは、チャージ金額の1%がプレミアムポイントとして付与されること。買い物や飲食だけでなく、市県民税や水道料金、国民健康保険料などの支払いも可能なので、特に家計を管理する主婦層は、さるぼぼコインを積極的に利用しポイントを獲得している。
ただポイント還元だけであれば、潤沢な資本がある大手と勝負できないだろう。「さるぼぼコイン」だからという付加価値が必要なのだ。
地域通貨は自治体との連携が取りやすいということも大きな付加価値と言える。さるぼぼコインの加盟店は、基本的に地元に本社がある企業や個人店など、地元の店舗だ。例えば自治体が消費喚起キャンペーンを行う際も、さるぼぼコインと連携すれば確実に地元にお金が落ちることが担保されるのだ。過去には商店街のキャンペーンやGo Toトラベルキャンペーンと合わせて実施したこともあり、今後もさるぼぼコインユーザーにとって嬉しいキャンペーンが期待できそうだ。
決済機能だけではなく情報インフラとしての価値もある。さるぼぼコインのアプリ経由で自治体の情報を発信しているのだ。自然豊かなこの地域では、災害情報や通行止めなどの情報は必要不可欠。さらには「熊の出没情報」なども、位置情報を利用しそのエリアの人に向けて発信しているそうだ。情報発信プラットフォームとしても、今後新たな面白い展開があるかもしれない。
サイト「さるぼぼコインタウン」にも注目したい。さるぼぼコインでなければ購入できないという裏メニューが揃っているのだ。
例えば「業者間でしか出回らない飛騨牛の希少部位を売ります」「酒蔵でしか飲めない幻の純米大吟醸」「ディープ飛騨スポット情報教えます」など、飛騨地域の“少しマニアック”な商品や体験が並ぶ。「さるぼぼコインタウン」で、今まで知らなかった飛騨地域に出会うことができる。
現在は飛騨地域でコミュニケーションを促進するものも多いが、「コロナ禍であることをふまえ、離れた場所からも購入できるとっておきの商品を増やしていきたい」と岡本さん。今後のラインナップも楽しみだ。
「さるぼぼコイン」の課題と今後の展望
まもなく4年目に突入する「さるぼぼコイン」。全国的にも地域通貨の成功例として注目されているが、課題もあるそうだ。
「さるぼぼコインはCtoBだけでなく、BtoB送金も可能です。例えば飲食店が食材を仕入れる際、卸業者にさるぼぼコインで支払うこともできます。さるぼぼコインのままBtoB送金することで安い手数料で取引ができますが、この事業者間取引が当初の想定より伸びていません。その理由はいくつかあるのですが、例えば、流通の上流になるとコインが大量に貯まってしまうんです。地域外から仕入れなければならない業者は、必然的に日本円に換金しなければなりませんが、換金手数料がかかってしまうため、積極的なさるぼぼコインでの取引が普及しないということがあるのです」と岡本さん。
今後はいかに地域通貨のまま地域内で循環させられるかが課題であり、解決策を模索しているそうだ。そのひとつとして期待されているのが、厚生労働省が動きだしているデジタル給与払いである。
今まで日本各地で生まれた地域通貨も、その多くが消滅している。利用者を増やすことができた「さるぼぼコイン」は稀有な存在だが、今回取材をして、運用しているのが地域密着の飛騨信用組合であることは大きな成功のカギであったように思う。また地元のユーザーのみならず、地域外の私たちも「さるぼぼコイン」を使いたくなる工夫もあった。
電子地域通貨において注目を浴びる「さるぼぼコイン」。今後の取り組みやコンテンツにも期待したい。
※QRコードは(株)デンソーウェーブの登録商標です
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