岩手県大船渡市「碁石地区」の復興への歩みとは

岩手県大船渡市の碁石岬から太平洋を望む岩手県大船渡市の碁石岬から太平洋を望む

災害復興まちづくり支援機構は、1995年1月に発生した阪神・淡路大震災の教訓を東京で役立てることを考えて、2004年に設立された組織だ。弁護士や司法書士、行政書士、不動産鑑定士、土地家屋調査士、社会保険労務士、税理士など17の専門家の団体が参加し、大規模災害の緊急・応急対応や復興対策の支援にあたっている。

同支援機構では、東日本大震災から10年という節目を迎えて、これまでの被災地支援の取組みを振り返るとともに、東京における風水害対策を考える「第14回復興まちづくりシンポジウム 専門家と共に考える災害への備え」を開催。7月15日からYouTubeで配信している。本記事ではシンポジウムの内容をレポートする。これからの災害への備えを考えるきっかけとなれば幸いである。

シンポジウムの第1部では、東日本大震災で被災した岩手県大船渡市碁石地区の「復興街づくり協議会」と、災害復興まちづくり支援機構事務局次長の佐藤隆雄氏がトークセッションを行い、震災復興において、災害復興まちづくり支援機構がどのように機能したかが、被災地の目線から語られた。

佐藤隆雄氏佐藤隆雄氏

佐藤氏たちが支援活動を始めた2011年9月当時の碁石地区は、被災後「これからどうなるのか、どうすればいいのかわからず五里霧中でした」(協議会の大和田初男氏)というような状態。そうした中で、専門家団体が集まる同支援機構の活動は、「さまざまな専門家が参加されていて驚きましたし、行政との打ち合わせなどでは強力にバックアップしてもらいました」(協議会会長の大和田東江氏)と、復興に向けて地域を前進させる力になったという。

碁石地区の復興にあたっては、「協議会や行政などの皆さんと議論を重ねて、納得のうえで計画や活動を決めていきます」というのが、佐藤氏たちの基本的なスタンス。そのうえで協議会が地域全体のまちづくりのプランをとりまとめ、住宅地の高台移転や、被災した土地に憩いの場や駐車場などを設ける「浜の停車場」の整備を図ってきた。高台に移転した住宅地には、今も見学者が訪れるそうだ。大和田東江氏は「碁石地区は、やっと復興してきたと言える状態になりましたが、それには10年という時間が必要だったと改めて実感しています」と語り、同じく協議会の及川宗夫氏も「濃厚な10年でした」と振り返っていた。

災害復興まちづくり支援機構では、これらの経験を東京に生かそうと活動を行っている。

岩手県大船渡市の碁石岬から太平洋を望む左から、及川氏、大和田東江氏、大和田初男氏

独自の水害・浸水対策を進める「新小岩7丁目町会」

シンポジウムの第2部では、東京の事例に焦点を当て、「浸水対応の街づくり・新しい生活様式の中での街づくり」というタイトルでパネルディスカッションが行われた。

モデレーターの東京大学生産技術研究所教授の加藤孝明氏は、気候変動のために水害のリスクが高まっている中で、2019年に東京都葛飾区が「浸水対応型市街地構想」を策定したことを紹介。「浸水対応型街づくり」は、「逃げられる」「生き延びられる」「容易に復旧できる」がキーワードになっていると説明する。

加藤氏の話を受け、葛飾区東新小岩7丁目町会会長の中川榮久氏は、「海抜0m地帯なので、浸水すると水が引くまでに2週間程度かかるといわれています」と、地域が抱える水害リスクを明かしたうえで、地域での取組みを紹介した。

自宅に残された人のために、町会でゴムボートを3艇購入するとともに、食料を配給する訓練も行っているそうだ。また、各家庭に「現代ののろし」と呼ぶ紅白の旗を配り、支援などが必要な場合には赤旗を、そうでないときは白旗を掲げることを決めている。さらに「小学生とその親を対象に、各小学校のプールでゴムボートを体験する出前授業も10年近く続けています」と中川氏。町会独自で避難と生活の支援を準備している。

葛飾区、東京都、そして国が取り組んでいる水害対策

続いて、葛飾区都市整備部長の情野正彦氏は、「浸水対応型拠点建築物」の建設を進めていることを紹介した。浸水対応型拠点建築物とは、太陽光発電と蓄電池システム、非常用電源設備、外階段など設置した水害時の避難や支援の拠点となる施設だ。葛飾区では、小中学校の校舎を建て替える際に、浸水対応型にしていく方針になっている。情野氏によると、商業施設や集合住宅といった民間の施設も、浸水対応型へと誘導することが次なる課題だというが、「必要な支援や助成を考えています」(情野氏)と、行政としてバックアップしていく意向であることを明かした。併せて、避難場所や支援の拠点として機能する「拠点高台」も、区内の公園などに整備する取組みを進めているそうだ。

こうした葛飾区の取組みを含めて、東京都では「高台まちづくり」を国とともに進めていると、東京都都市整備局市街地整備部長の朝山勉氏は説明する。公園や高規格堤防の整備、再開発事業に合わせて、命を守り、最低限の生活を確保できる高台をつくるもので、「すでに亀戸・大島・小松川地区などでは、高規格堤防の整備に合わせて高台も整備しています」と朝山氏。現在、葛飾区をはじめ荒川沿いの7区に10のモデル地区を設けている。

一方、国では「流域治水のプロジェクトを速やかに進めるために、特定都市河川浸水被害対策法、河川法、下水道法など9つの法律を改正しました」と、国土交通省都市局都市安全課長の美濃部雄人氏。流水治水のプロジェクトには、洪水調節のための利水ダムの活用、流域における雨水の貯留保全区域の創設、避難拠点の整備、防災集団移転事業、浸水を受け流す浸水被害防止区域の創設などがあるとのことだ。

左から、中川氏、情野氏、朝山氏左から、中川氏、情野氏、朝山氏
左から、中川氏、情野氏、朝山氏左から、中林氏、末原氏、美濃部氏

東京に求められる地震と水害の両方に備える防災対策

「私たちは、もともとは首都直下型地震に備えることをテーマにした団体でしたが、近年は大規模な水害が増え、その被災者に寄り添うことも必要と考え、2015年の関東・東北豪雨の際に、茨城県常総市で多士業合同相談会を行いました」と述べたのは、災害復興まちづくり支援機構事務局員の末原伸隆氏。

大規模災害では、被災者は複数の問題を同時に抱えてしまうことがあるので、さまざまな専門家がワンストップで相談に応じる合同説明会は、こうした問題の解決に有効に働くという。震災と水害は同じ自然災害ではあるものの、支援のあり方は異なる。葛飾区も東京都も、復旧・復興マニュアルは震災を想定したものであり、水害からの復興マニュアルはなく、その解決が課題であるとと、情野氏と朝山氏は口をそろえる。

同支援機構の代表委員である中林一樹氏は、「地震対策は防災の基本ですが、東京は水害にも弱い都市です。東京には地震も水害も迫っていて、複合災害の時代を迎えているといえるでしょう」と話し、これからは地震と水害の両方に備える防災対策を用意するとともに、復興についても、災害が起きる前から考える「事前復興」が求められると訴えた。

東日本大震災から10年がたち、ようやく復興を実感できるという被災地の声を聞くことができたのに、東京を襲うかもしれない水害や浸水への備えや、復旧・復興への対策はどうかと問いかけられ、何とも落ち着かない思いにさせられたシンポジウムだった。

シンポジウムの中での、「災害復興において、事前に考えたり、使ったりした政策は実際にも活用できるので、さまざまなアイデアを考えることが復興の力になります」(加藤氏)、「被災者の復興を、行政がすべてやってくれることはあり得ず、被災者自身の自助・共助が必要です。特に大都市では一人ひとりが、自分事として取り組まなければなりません」(中林氏)といった話は、ぜひ覚えておきたい意見だった。


第14回復興まちづくりシンポジウム 専門家と共に考える災害への備え(YouTube)
https://youtu.be/1qTtRU-kjNU

地震と水害の両方に備える防災対策が求められている地震と水害の両方に備える防災対策が求められている