あたたかくて美味しいご飯を提供する
「安心して、あたたかいご飯を食べられることって、とても大切なことだと思うんです」
認定NPO法人Homedoor(以下、Homedoor)事務局の谷野ちひろさんは微笑みながらそう話す。「食×就労体験×交流」をテーマにしたカフェ「おかえりキッチン」が、2021年6月、大阪・天神橋筋六丁目にオープンした。
テラス席を抜けて中に入ると、木目調のカウンターが迎えてくれる店内は、ちょうどいいサイズの空間。2階の14席あるテーブル席では、友人とでもひとりでも利用しやすいつくりだ。メニューには、プレートやお手製トマトカレー、ケーキセットなどが揃っている。一見、ゆっくりできる居心地のいいカフェなのだが、おかえりキッチンには、その他にもいくつもの機能が兼ね備わっている。
運営を行うHomedoorは、ホームレス状態の人や生活困窮者を対象に、仕事や宿泊施設の提供や相談事業を行っている。事務所兼Homedoorの就労者向け宿泊施設「アンドセンター」の隣に、おかえりキッチンを設けた。カフェが生まれた背景には、Homedoorが続けてきた11年の活動の中で、見えてきたいくつかの問題がある。
継続的なフォローをするための仕組み
「おかえりキッチンの1つの目的は、あたたかい食事の提供です。Homedoorに初めて相談に来られる方は、心身ともに疲れています。まずは健康的であたたかい食事を取って、一息ついていただきたいという思いがあります」
これまでにも、お弁当やパンなど、食品企業の製造工程で発生する規格外食品を提供するフードバンクという形で、ホームレス状態の方に提供していた。定期的に相談者やスタッフで食事を作り食卓を囲むイベントを行ったときに、相談者から「みんなで食べるご飯はおいしいね。」という声が上がったという。こうした経験を元に、食事を提供する場所の必要性に気づいたのだそう。
2つ目の目的には、就労支援が挙げられる。
「近年、20代の相談が急激に増え、相談者の平均年齢も現在40.1歳と、若年化している状況です。就労しやすい層が増えています。働く前のトレーニングや助走段階として、この場所が就労体験の場になればと考えました。具体的には、オープン前後の清掃や食材の下ごしらえなどを任せています」
Homedoorに来た相談者も、面と向かってかしこまった状態では相談員と話しづらいという場合もある。作業をしながら、またはカウンター越しで食事をしながらなど、カジュアルな状況だと本音で話しやすくなり、今後についても考えやすくなるのだそう。さらに、宿泊した方やHomedoorを通して就労した方に、計6食分の食事券「おかえりチケット」を渡している。これは、相談者が無事に自立した後でも、いつでも気軽に戻ってきてこられる仕組みを作るためだ。
「相談者の方に対して、私たちが継続的なフォローをするための場所でもあります。実は、Homedoorを出た後、再度訪れることに抵抗がある方が多いんです。一度見送ってもらったのに、戻ることに気兼ねしてしまうんでしょうね。でもこのチケットがあれば、気軽に帰ってくることができるきっかけになる。たった1人で悩まないでほしいです」
地域や企業とゆるやかな交流を生む場所に
「3つ目には、地域に開かれた場所にしたいという目的があります。ホームレスの問題はそのイメージから、関わりにくい印象を与えてしまうこともあります。おかえりキッチンを介して、地域の人との距離感を埋められたらと考えています。この辺りにはカフェが少ないので、地域の人たちにとって気軽に使える場所になってもらえたらなと。ついでに、Homedoorの活動や存在について、気軽に知ってもらえたらより嬉しいですね」
Homedoorは、「ホームレス状態を生み出さない日本」を目指している。世の中の多くの人にホームレスという状態やリアルな状況を知ってもらうことや、他人事ではないという意識を持ってもらうことも、この理念を達成するために必要な行動なのかもしれない。
Homedoorやおかえりキッチンの活動に共感し、資金面での援助をする企業も増えている。実際、社会貢献に力を入れている株式会社セールスフォース・ドットコムによる寄付をきっかけに、学びを深めるイベントや社会貢献に関連したワークショップなど、今後はこの場をイベントスペースとして活用する企画も生まれようとしている。
また、「おかえりサポーター」という、おかえりキッチンの運営を誰でも寄付で応援できる仕組みもある。おかえりキッチンの1ヶ月の運営に必要な50万円を、月額1,000円×500口で募るというものだ。自分事として、社会貢献活動とこれまでにない関わり方ができるのは面白い仕掛けだ。
「おかえりサポーター」問合せ先:http://www.okaerikitchen.homedoor.org/donate/
アフターコロナの生活困窮者支援を改めて考える
コロナ禍である2020年度の生活困窮者からの相談者数は、前年度比約1.5倍と急増した。相談の数は、1ヶ月で100人前後あるときもある。大阪府以外からの問合せも多く、中には、遠方からヒッチハイクや自転車で訪れたという人もいる。20代の若年層も増えており、連絡のきっかけは、ネットカフェに貼ったポスターやネット経由が多いそうだ。
「Homedoorを訪ねてくる理由はさまざまです。仕事が急になくなって、非正規雇用のため会社の寮を出なければならない、家賃が払えなくなったとか。実家や家族にも頼れない状態だったり、家族がいないという人も多いです。コロナ禍により、非正規雇用の方の雇用の不安定さに加え、家族がセーフティネットになり得ない人たちが、より顕在化したのではないかと考えています」
サードプレイスという言葉もあるが、おかえりキッチンは、まさに不安を抱える人たちにとってのひとつのプレイスになり得るのではないだろうか。
「安心してご飯を食べられる場所があるということ。戻れる場所があるということ。おかえりキッチンが目指すのは、食事を通して心と体をあたためられる場所です。いつでも、『おかえりなさい』というスタンスでお迎えしていますよ」
おかえりキッチン
http://www.okaerikitchen.homedoor.org/
公開日:









