コロナ禍で販売戦略の変化を迫られたマンション業界
2020年4月、コロナ禍の自粛モードは緊急事態宣言の発出により一気に加速した。マンション販売の現場も例外ではなく、デベロッパー各社はモデルルームなど販売拠点を閉鎖。不動産経済研究所によると、首都圏での新築マンション発売戸数は4月が前年同月比51.7%減の686戸、5月が前年同月比82.2%減の393戸と、市場は停滞した。
緊急事態宣言解除後は、「完全予約制」として案内する組数を制限するなど感染防止対策を講じたうえで、順次モデルルームでの営業活動を再開。市場も急回復を見せ、最終的な2020年1年間の発売戸数は前年比12.8%減の2万7,228戸(首都圏)となった。
この間、消費者の動きにも変化があった。
「事前に情報を収集し、見学する物件の数を絞って検討される方が増えました」
こう語るのは、「リビオ」シリーズを展開する日鉄興和不動産株式会社の野邊裕樹氏。多くのモデルルームが完全予約制となったことで気軽な見学がしづらくなったこと、極力、人との接触回数を減らそうという意識が広がったことが背景にある。
「これまでは、ホームページで一部の情報だけを公開し、来場いただいて初めてすべての情報をお渡ししていました。『来たらよいことがありますよ』という手法です。しかし、それでは来場先として選ばれなくなりました」(野邊氏、以下同)
購入検討者が自宅で情報を収集する段階で、豊富な情報を提供することが、来場先として選ばれるために必要となったのだ。コロナ禍で、これまでとは180度異なる販売戦略が求められている。
「リモート販売」など、DX(デジタル・トランスフォーメーション)が加速
大手デベロッパー各社の動きはどうか。住友不動産は、希望すれば見学から引き渡しまでを完全非対面で完結することのできる「リモート・マンション販売」を、2020年6月に全国すべての物件で開始。これを皮切りに、同年夏までに野村不動産、三菱地所レジデンスも契約書類を電子化するなど非対面の契約に対応。三井不動産レジデンシャル、東急不動産といった大手各社もオンライン相談等の選択肢を用意した。
しかし、それでも大手各社は発売戸数をおおむね大きく減らした。2020年の実績を事業者別に見ると、前年に首都圏での発売戸数が1位だった住友不動産は、38.8%減。同2位の野村不動産は13.3%減。同3位の三菱地所レジデンスが40.5%減という結果である(ちなみに4位の三井不動産レジデンシャルは、14.0%の増加となっている)。(不動産経済研究所「首都圏マンション市場動向2020年(年間のまとめ)」より)
そんな中、注目したいのが2019年発売戸数6位の日鉄興和不動産だ。順位こそ2020年も6位だが、前年比は101%と微増。上位各社が発売戸数を落とす中で健闘を見せている。
今回、同社住宅事業本部販売統括部の野邊裕樹氏に、好調の要因を聞いてみた。
オンラインで完結。相性がよいのは単身世帯
日鉄興和不動産では、コロナ禍以前から、営業活動の効率化に向けたシステムを導入するなど、DX(デジタル・トランスフォーメーション)を進めていた。そのため、緊急事態宣言の発出時も、スムーズにオンライン商談やVR内覧の手立てを整えられたそうだ。
実際、東京・銀座の程近く「リビオレゾン入船」(分譲戸数36戸)の販売では、「過半のお客さまがオンラインで接客を受け、中には非対面で契約まで至ったケースもあります」と野邊氏。
同物件は最小33.04m2の1LDK、大きいプランでも45.34m2の2LDKと、コンパクトタイプのマンションだ。もともとDINKs世帯や、少しゆとりのある空間を求める単身世帯をターゲットとしていた物件であったが、コロナ禍で単身世帯からの需要が大きく増えた。
株式会社リクルート住まいカンパニーの調査では、リモートワーク実施者のうち約半数が、コロナ禍終息以降もテレワークを行う場合の間取り変更を希望しており、なかでも「仕事専用の小さな独立空間が欲しい」と答えた割合が最も高い。つまり、単身のリモートワーカーがプラス1部屋を求めるようになり、コンパクトマンションのターゲットが拡大したのだ。さらに、4月から住宅ローン減税の対象も拡大。50m2以上から40m2以上に面積要件が緩和され、これらのコンパクトマンションも対象に含まれたことも追い風となった。
マンションは一般的に「高い買い物」である。夫婦や家族で購入する場合は、複数人で情報を共有しながら検討を重ねることになる。仮にインターネット上で検討から購入まで完結できたとしても、「全員そろってモデルルームに行ったほうが、話が早い」となりそうだが、それが一人となると、スマホの小さな画面で、スキマ時間を活用して情報収集を行い、自分さえ納得すれば購入できる。単身世帯をターゲットにしたコンパクトマンションは、モデルルームに来場せず、インターネット上で完結する購入手段と相性がよいのだ。
実は日鉄興和不動産は、供給した1戸当たりの専有面積(※)が2019年から2020年にかけて大幅に小さくなっている。つまり、コンパクトマンションを多く売り出したということだ。このような動向は発売戸数上位各社のうち、日鉄興和不動産だけであり、コロナ禍での需要の変化に対応した供給を行えたことも発売戸数好調の要因といえそうだ。
※不動産経済研究所の調べによる発売戸数と供給専有面積を基に、編集部にて算出
不安を持ち帰ることなく解消できる、VRモデルルーム
日鉄興和不動産では、販売のさまざまな場面のDXに着手している。モデルルームの新しい形の実験として、2021年2月には「リビオレゾン横濱関内」「リビオレゾン横濱大通り公園」の販売拠点である「横濱ギャラリー」と、「リビオレゾン松戸ステーションプレミア」の販売拠点である「松戸ギャラリー」に、「体験型VRモデルルーム」を設置した。
「従来のマンションギャラリーでは、複数のプランがある場合でも、すべてのモデルルームは用意できていませんでした。お客さまには平面の間取り図をお渡しして、そこから想像してもらうしかありませんでした」
この課題の解決に向け、「体験型VRモデルルーム」は大きく2つの機能を備える。
1つ目は「VR内覧システム」だ。これは、間取りを3Dモデルで立体化し、手元のPCやスマートフォンで、あたかも部屋の中にいるかのような視点で部屋の中を見て回ることができる機能である。家具の配置など、多彩なインテリアのシミュレーションも可能。さらに、この映像をモデルルーム内「PLANNING ROOM」の壁面に投影することで、視界に広がる内装の雰囲気などを体験できる。大画面を家族と一緒に見ながら、家具のレイアウトなどを話し合い、生活のイメージを共有することが可能なのだ。なお、このシステムは物件の公式サイト(限定サイト)にも備わっており、自宅で検討する際にも見ることができる。
もうひとつの機能が、「プロジェクションマッピング」である。先ほどの「PLANNING ROOM」の、今度は床面に投影する。床面には、実寸大で部屋の輪郭が映し出され、その中に必要な家具などを配することができる。
実際に投影していただいたが、歩いてみたり、座ってみたりすると「思ったよりも広い」とか「ここは人がすれ違うには少し狭い」とか、間取り図や3D画像だけでは分かりづらかった、実際の空間の広さが体感できた。
従来のモデルルームだと、固定して設置されたソファやテーブルに座って体感することになるが、ここでは自身が思い描く配置をすぐに反映し、都度、確認ができるのだ。
「これらをモデルルームで体感されたお客さまからは、『生活のイメージがしやすい』という声を多くいただいております」と野邊氏。体験してみて、納得である。
投影する住戸のタイプも手元の操作ひとつで変えることができる。すべての間取りタイプを体験できるのも、従来のモデルルームにはなかったものだ。
複数のプランがあるマンションでも、モデルルームは敷地や設置費用の関係上、代表的な間取りに絞って設置するのが一般的。他の間取りを検討する場合には、間取り図を見ながら想像するしかなかったが、ここではその必要はない。
「コロナ禍なので、1組当たりのモデルルームでの滞在時間が長くなることは避けています。しかし再来率は、従来の2倍近くになっています」
確かに、本来ならモデルルームで似た間取りを体感して、家に帰って平面の間取り図とにらめっこしながら想像を膨らませる作業が、ここに来場すれば目の前で繰り広げられる。コロナ禍でなければ、当然滞在時間も長くなっていただろう。モデルルームにいるだけで、検討が進んでいくのである。
マンション販売のさらなるDXに期待
「リモート販売センター」を運営する住友不動産は、2011年から物件別に設置していたモデルルームを1ヶ所に集約した「総合マンションギャラリー」を展開している。そこでは、多くの物件に共通で備わる機能を展示・体験できるが、物件ごとの比較は模型や映像を使うケースが多い。
仮にそこに、今回日鉄興和不動産のマンションギャラリーで導入された2つの機能が備われば、集約したモデルルームでも、十分な体験ができると、今回の取材を通して思った。
今後の展開に向け、良い点も改善点も含めた知見を得るためのトライアルとして実施したという日鉄興和不動産の体験型VRモデルルーム。今後、ここで得た知見を生かし、消費者にとってよりよい購入体験をつくり上げていくことだろう。日鉄興和不動産による、マンション販売のさらなるDXに期待したい。









