自宅を強引に売却させられるトラブル頻発
2021年6月24日、独立行政法人国民生活センター(以下、国民生活センター)が「高齢者の自宅の売却トラブルに注意」と題する情報を掲載した。それによると、高齢者宅を訪れて強引な勧誘などによって自宅を売却する契約を結ばされるトラブルが頻発しているという。これまでも消費者の自宅を訪問し、消費者の意思を無視して不用品や和服を買い取ると言いながら、貴金属類を強引に安価で買取る「押し買い」は悪徳商法のひとつとして知られていたが、それが住宅にまで及んでいるというわけである。
消費者庁の「消費者意識基本調査(2012年度)」によると、従来の押し買いも60歳以上の女性が狙われる傾向にあったが、住宅に関しても60代以上が3分の2を占めており、そのうち、70歳以上の相談割合が半数以上。明らかに高齢者を狙う犯罪であることが分かる。
具体的にはどのような相談が寄せられているか。国民生活センターでは以下のような事例を紹介している。
・長時間の勧誘を受け、説明もなく書面も渡されないまま強引に売却契約をさせられた
・有利な話があると長時間勧誘され売却と賃貸借の契約をさせられた
・強引に安価な売却契約をさせられ、解約には高額な解約料がかかると言われた
・嘘の説明を信じて、自宅の売却と賃貸借の契約をしてしまった
・自宅の売却をしたようだが覚えておらず、住むところがないため解約したい
・売却後、住宅のシロアリ駆除費用の負担を求められた
・登記情報を参考にしたという売却の勧誘はがきが来て迷惑だ
長時間居座って強引に迫るというやり方は、投資用マンションの販売勧誘と同じ手口。投資用マンションの場合は20代の若い人が狙われるが、自宅の押し買いは高齢者。対象は異なるが、しつこく買え、売れと迫る輩が増えているのである。
国民生活センター 訪問購入
http://www.kokusen.go.jp/soudan_topics/data/doorstep_purchase.html
自宅売却はクーリング・オフできない!
ここで大きな問題は自宅を不動産会社に売却した場合はクーリング・オフができないという点。クーリング・オフを定めた特定商取引法には不動産の取引は含まれていないため、土地や建物の売買や賃貸等の宅地建物取引でのクーリング・オフは宅地建物取引業法(以下、宅建業法)が定めるところによって行われる。
その宅建業法ではクーリング・オフの要件を厳密に定めており、「宅地建物取引業者が自ら売主のとき」でないと適用はされない。ところが押し買いの場合には宅地建物取引業者は売主ではなく、買主の立場になる。つまり、「宅建業法でいうクーリング・オフ制度は適用されない、クーリング・オフできない」ということになると宅建マイスター・フェローである永幸不動産株式会社の森下智樹氏。
安価に売ってしまった、売りたくないのに売ってしまった、住む場所が無くなったという場合でもクーリング・オフはできない。本人が困るのはもちろん、家族がいる場合にはさらに問題である。法律制定時には押し買いは想定されていなかったのだろう、高齢者が騙されて自宅を売却した場合でも、契約は成立してしまう。解約という手はあるが、それに対して違約金が請求された事例もある。契約してしまったら最後、消費者が不利な立場に陥ることはほぼ間違いないのだ。
こうした事態を防ぐためには他の押し買いでもそうだが、まずは自宅に相手を入れないことである。相談事例を見ると突然の電話、来訪などがきっかけとなっており、特に高齢者はわざわざ来てもらったのに悪いという意識が働き、つい相手を自宅に招じ入れ、話を聞いてしまうようだが、その気持ちは忘れたほうがよい。入り込んだら最後、朝早くから夜遅くまで居座り、恫喝まがいに売却を勧める人たちもいるのだ。
もし、高齢の親や親族等で一人暮らしをしている人がいるなら注意を呼びかけ、不動産会社からの電話、来訪があった場合には連絡するように伝えておこう。そして連絡があったら、可能な限り同席する、あるいは来訪者と電話でもよいので話をすること。誰かが同席する、介入することで事態を防げるかもしれないのである。
悪質な勧誘は宅建業法違反
また、2011年の宅建業法改正で悪質な勧誘行為は禁止されており、それを知っておくことも役に立つと森下氏。
「もともとは投資用マンションの悪質な勧誘行為を禁止するためのものですが、押し買い時にも役に立ちます。具体的には以下の3つの項目があり、これに抵触するような勧誘があった場合には宅建業法に違反していることを指摘、自治体の宅地建物取引業者を指導する担当に連絡するという手が考えられます」
禁止されている事項は以下の3点。
・勧誘に先立って宅地建物取引業者の商号又は名称、勧誘を行う者の氏名、勧誘をする目的である旨を告げずに、勧誘を行うことを禁止
・相手方が契約を締結しない旨の意思(勧誘を引き続き受けることを希望しない旨の意思を含む。)を表示したにもかかわらず、勧誘を継続することを禁止
・迷惑を覚えさせるような時間の電話または訪問による勧誘を禁止
ただ、こうした法があることを知っていても、わが家に居座る悪意のある複数人と対するのは至難。できるだけ、自宅に入れる以前の段階で拒絶するようにしたい。
国土交通省 悪質な勧誘行為の禁止
https://www.mlit.go.jp/totikensangyo/const/sosei_const_fr3_000014.html
水回り修理の高額請求も
住宅を巡るトラブルとしては、水回り修理の高額請求も多発している。在宅する時間が増えたことでトイレなど水回りの利用回数も増加、故障自体が増えており、それに付け込んで数十万円など高額な請求をする例が後を絶たないのである。国民生活センターへの相談は、2020年度から2021年度で自治体によって差はあるものの、前年度比2倍、3倍となっており、新聞、雑誌やWebメディアでもしばしば取り上げられている。
手口としては無料で見積もりとあるにも関わらず、実は有料だったり、見積もりを出さないままに工事を開始、終了した後で高額の請求をする、工事の最中に追加工事があるとしてどんどん金額が上がるなど。相談のうち、半数以上がネット広告から修理を依頼しており、検索で上位に出てくる事業者のうちには悪徳な事業者も少なからず含まれていることもあるようだ。ついでに言えば、水道修理会社、悪徳と検索をすると、実際には高額請求をしている会社が「悪徳事業者の見分け方」を記事としていることなどもあり、モノを見る目が試されそうである。
夜中にトイレが詰まった場合など修理に急を要することから慌ててしまい、とりあえず検索で出てきた会社に連絡してしまうのだろうが、トラブルを避けるためにはそこで少し冷静になる必要がある。賃貸住宅であれば管理会社にまず連絡、そこから水道修理会社を紹介してもらう手があるはず。一社だけではなく、複数社に聞いてみるというやり方もあろう。各自治体の水道局指定工事店を選ぶようにすることも考えられる。
東京都の場合には、都内で給水・排水・空調関係の管工事業を営む個人事業主や中小企業で結成された組合である東京都管工事工業協同組合が総合設備メンテナンスを受け付けており、ホームページ内には応急処置の方法紹介なども。神戸市では市が開設した水道修繕受付センターがある。
幸い、水回りの修理については特定商取引法上の訪問販売に当たる可能性があるため、8日以内なら無条件で契約を解除できるクーリング・オフ制度を利用できる。もし、支払ってしまった場合でも減額、返還交渉は可能なので、泣き寝入りせず、消費者ホットライン(局番無しの188)に連絡してみよう。
「水道修繕受付センター【神戸市開設】」
https://kobe-wb.jp/kosyou-trouble-ijikanri/chuui/
東京都管工事工業協同組合
https://tokan.or.jp/
火災保険利用、点検商法にもご用心
住宅を巡ってのトラブルでは火災保険の請求も挙げられる。さまざまな手口はあるが、国民生活センターへの相談としては工務店などが主に高齢者宅を狙って「保険金が出るから工事をしましょう」と持ちかけるものがある。経年劣化による損害は保険の対象外で、保険金が支払われないにも関わらず、工事を行って工事費を消費者に支払わせるのである。
また、最初から工事をするつもりのない事業者が保険金がもらえるからと不動産所有者に持ち掛けるものもあり、支払われた保険金のうちの一定額を事業者が受け取る、保険金が受け取れなくても一定額の支払いを求めるなどいくつかのバリエーションがある。
もちろん、善意から台風などで壊れた部分を保険金で直せることを教えてくれる場合もあるが、高齢者宅に突然事業者が訪問するパターンではかなりの部分が怪しいようである。災害後の修理やリフォームは以前から付き合いのある工務店あるいは友人、知人などから紹介してもらった工務店など信頼できる相手と行うのが賢明だろう。
火災保険の請求を含まない訪問販売によるリフォーム工事のトラブルや、点検を口実にした工事の契約トラブル(点検商法)も増加している。家にいる時間が長くなると、それを狙う人が多々出てくる。売りに来るものは買わないようにしたほうが無難なのかもしれない。
国民生活センター 訪問販売によるリフォーム工事・点検商法
http://www.kokusen.go.jp/soudan_topics/data/reformtenken.html




