課題もあるが魅力もあるまち、あすか野
生駒山地を挟んで大阪府、矢田丘陵を挟んで奈良市などと隣り合う奈良県生駒市は高度経済成長期以降、大阪のベッドタウンとして発展してきた。1960年代の生駒台に始まり、数々の住宅団地が造られてきたが、あすか野は1975年から入居が始まった面積91ha、総世帯数約1,950の、市内でも大きな住宅団地のひとつ。
高齢化率は40%を超えており、人口減少、商店街の衰退、買い物難民の出現などといった課題はほかの団地同様に抱えてはいるが、一方で9割ほどと高い自治会加入率を誇り、従来から自治会などの活動が活発な地域でもある。日本が成長している時代に造られたまちだけに、公園、桜並木のある緑道の豊かさに代表される住環境の良さは最近の新しいまちでは見られないもの。そのためもあってか、地区内のあすか野小学校は人気が高く、児童数は県内トップ。課題はあるが、それ以上に魅力もあるまちというわけである。
生駒市が、従来の市一律のまちづくりから生活圏を中心としたまちづくりへと転換するため、地域の資源や課題を知り、まちづくりを実践するモデル地区としてあすか野を選んだのはこうした背景から。課題はあっても、それに危機感を持ち、動く人がいるのではないかと考えたのだろう。2018年、市は地域に働きかけ、「あすか野ミライ会議」(以下、ミライ会議)なるプロジェクトを始動させることになった。
暮らしを楽しくする5つのアイデア
プロジェクト開始にあたり、市は自治会では人集めはしなくてよいと伝えた。自治会活動がしっかり行われている地域だけに、自治会が声をかければ人は多く集まるだろう。だが、それでは従来の活動の延長になってしまう。それよりはこれまで自治会活動には関与してこなかった、でも、地域でやりたいことがある人に集まってほしい。そこで市の担当者は地域サークルに説明に回ったり、幼稚園のお迎えのママさんたちに声をかけたり、週末に地元の居酒屋に突撃したりと、あの手この手で人を勧誘して回ったという。
そして迎えた2018年9月のキックオフミーティングには20代から70代までの36人が参加。デメリットも含めた地域特性、将来予測を共有したうえで、あすか野で好きなところ、惜しい点を列挙、暮らしを楽しくするアイデアシートを作成した。
続いてはここで出たアイデアに対して「いいね」「協力したい」と思うものを地域住民が投票するアイデア総選挙が行われ、5つのアイデアを選考。その後、3回の住民ワークショップを経て、実現を目指していくことに。
2019年3月に行われた発表会で公表されたのは「商店街マルシェ」「子どもと大人の学び舎」「あすか野桜まつり」「あすか野スターダスト計画」「あすか野断捨離日もってってマーケット」という5つ。マルシェ、学び舎、桜まつりは説明不要だろうが、念のため、それ以外を説明すると「スターダスト計画」は夜空に浮かぶ星と人工衛星の観察会、「もってってマーケット」は毎月20日に自宅の不要品を玄関先に出すことでリサイクルを図ろうというもの。並べてみるとバリエーションがあり、いずれも面白そうである。
住民主導でアイデアを次々実現へ
市の呼びかけによる取り組みは発表会で終わったが、考えてきたアイデアを実現させようと地元の人たちは動き始めた。
2019年4月からはミライ会議のメンバーを中心に月に1回集まり、定期的にミライ会議を継続。申し込み不要で誰でも参加でき、途中参加・退出もありという緩いやり方ながら、2020年のコロナ禍にあっても継続、休止したのは1回だけだという。
アイデアを形にもしてきた。2019年には商店街マルシェの代わりに流しそうめん、夏には星空観察会、もってってマーケットも行われた。2020年には桜まつり、さらにあすか野小学校での放課後教室「まなびぃや」が定期的に開催されるようになり、11月には地元の学生たちの手によって「あすか野deマルシェ」も行われた。
このうち、注目したいのは「まなびぃや」。これはアイデアのひとつであった「子どもと大人の学び舎」を実現したもの。ミライ会議があすか野小学校で開催されていたため、メンバーの飯田正昭さんが学びの場づくりに関心を持っていることを同校校長が知っており、地域住民で放課後教室を運営してもらえないかと依頼がきたのである。3月に依頼を受けて実際の教室は7月からスタート。毎月ひとつのテーマを2回開催しているというが、申し込み初日に20人ほどの枠が埋まる人気ぶりだ。
多様な人が関わる放課後教室「まなびぃや」
「これまでに開催したのはオセロ、ダブルダッチ、絵手紙に囲碁教室、昔遊び、年賀状作りなど。ダブルダッチは大学生スタッフに友人を呼んできてもらい、囲碁教室では地元の囲碁クラブに、昔遊びでは老人会に協力を依頼。最初は尻込みされましたが、やってみて面白かったと。いろいろな人を巻き込み、子どもと多世代が触れ合える学びの場をつくっていければと思っています」と飯田さん。
飯田さん自身、まなびぃやを始めて今の若いお父さん、お母さんが考えていることが分かるようになったとも。「自分たちの子どもの頃と比べると今の子どもたちが礼儀正しく、聞き分けが良いことにビックリします」。登下校の見守り活動でも子どもたちと接しているミライ会議メンバーの多田正夫さんも「昔は子どもと年長者の間にはずいぶんと距離があったものですが、今は違いますね」と若い世代との交流、発見を楽しそうに語る。
既存の地域の集まりではどうしても年齢、経験などによるヒエラルキーが生まれがちだが、ミライ会議は自分の「やりたい」を中心に人が集まっており、そうした上下関係がないのだろう。イベント時も、取材時も、全員が実に楽しそうだったのが印象的だった。
今後はまなびぃやとは別に桜の観察、手入れをする放課後学級のチームをつくる予定があるほか、2021年4月からは月に2回、テーマを決めない居場所づくりも計画している。昔から元気で活発な高齢者が多いというあすか野だが、そのパワーも上手に生かせればまちは面白くなるのである。
大学生が奔走、まちの人も驚く賑やかなイベントに
2020年11月15日に開催され、その集客ぶりから地元ではいまだ熱気の冷めやらぬ「あすか野deマルシェ」も挙げておこう。
「あすか野は関西圏の大学に通いやすいため、地元には大学生が多数います。でも多くの人はあすか野には何もないと思っていて、市外まで行ってしまう。私はあすか野には人が集まるポテンシャルはあると思うし、それを見せたかった。そこで、現在はATMだけが置かれている南都銀行の支店長に自分たちの企画をプレゼンしたところ、1日だけなら使っていいということに。最初は南都銀行のみで考えていたイベントが、開催3週間前に商店街を挙げてのマルシェに発展し、やることが倍々以上に増えました。しかも卒論提出、バイトなどと時期が重なって最後のほうは泣きながら準備をしていました」と中心となった梶井晴加さん。
最初に店主に声をかけに行った時の「そんなん、やる意味ある?」との冷たい言葉が、400人以上が集まる成功に「1回では終わらせたくないね」との評価に代わり、4回生の梶井さん、一緒にコアメンバーとして苦労した成戸洸介さんは現在、後継者への引き継ぎの道を模索し始めている。商店街はすでに団体としてはなくなっているが、イベントに参加した企画力、集客力の高い店もあり、梶井さんの示したまちのポテンシャルを信じることができれば新しい展開があり得るかもしれない。
行政の蒔いた種が市民の力で成長し、花を咲かせるまでになったわけだが、ひとつ大事なことは、行政はただ種を蒔いただけではないということ。ミライ会議の人集めもそうだが、活動のアドバイス、人の紹介などを積極的に行っており、住民主導の取り組みになってからも職員はプライベートで会議、イベントに参加するなど、金銭面以外の支援を行っている。
行政の役割を助成と考える人もいるが、本来の役割は伴走しながらの支援。住民の「やりたい」を適切に応援できれば、まちに動く人が生まれる。あすか野では住民、支援者がともに揃ったということだろうか。高齢化は進むものの、人口の流入も見られるというあすか野のこれからが楽しみである。
あすか野ミライ会議
https://www.city.ikoma.lg.jp/vod/0000014708.html
あすか野小学校放課後教室「まなびぃや」
https://www.city.ikoma.lg.jp/0000022822.html
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