生前整理は、よりよく生きるためのもの
老後に向けて身辺の整理をしたい、家の中にあふれるものを片付けて、シンプルに暮らしたいと考えている人は多く、「終活」は すっかり当たり前のものになったようだ。そのような思いを抱かせるほど講座は盛況で、会場は中高年を中心とした受講者でほぼ満員だった。東京都多摩消費生活センターが主催する、終活をテーマとした消費生活講座「知ってトクする暮らしの連続講座」を取材した。
しかし、講師の幸せ住空間セラピスト、古堅純子氏は、「生前整理」について「死後の準備として行うものではありません。よりよく生きるために行うもので、あくまで今が大切なのです」と言う。生前整理とは「生=生きるために、前=前向きに、整=整えて叶える、理=理想の暮らし」であり、並び替えると「前向きに生きるために、整えて叶える理想の暮らし」となる。つまり、好きなことや、やりたいことができる理想の暮らしのための生前整理であり、「片付けることは目的ではなく、手段にすぎません」と、強調。「だから、片付けることに苦しむぐらいなら、むしろ片付けないほうがいいと思います」と話し、無理をすると、片付ける意欲そのものを失うと注意を促している。
片付けは場所と時間を区切って行いたい
古堅氏が講座のタイトルに「定年前に始める」とつけたのは、生前整理への理解を男性に促したいからだ。今回の講座は受講者の約3割が男性で、古堅氏は「比較的関心が高いですね」と評価していたが、「現状では男性の理解はまだまだ」と言う。また、定年後に始めたのでは体力的に厳しくなるので、「取りかかるならなるべく早く」と、古堅氏は呼びかけている。そのうえで「家の片付けは思った以上に体力を要するので、女性の場合は、ひとりで片付けようと考えないで、夫や家族と一緒に、あるいはご近所を巻き込んでするようにしてください」とアドバイスする。
片付けるにあたって、一気にやろうと張り切ると、たいていは体力的にも時間的にも続かなくなり、「結局は、始める前よりひどい状態でそのままになっているということがよくありますから」と古堅氏は笑い、場所と時間を区切って始めることを勧めている。「この机の引き出しを2時間で片付ける、といった程度から始めるのがいいですね」と古堅氏は言う。
処分に悩むものは、取りあえず残すこと!
さらに古堅氏は、特にこだわりのないものから片付けることも勧めている。というのは、「片付けることは捨てること」と捉えがちで、そうなると思い出のあるもの、気になるもの、好きなものなどは片付けられなくなるからだ。
「子どもが使っていたものは、子どもがいくつになっても残しておきたいものですし、戦争や災害を体験した人は食品をなかなか処分できなくなるようです。寒い地域の家庭では、どうしても布団類が多くなりますね」と古堅氏は話し、そうしたものを、無理に捨てると後悔や罪悪感が残るだけなので、処分するかどうか迷うものは、取りあえずは残すようにアドバイスする。「片付けが進むと、必要なものは自然に見分けがつくようになりますから、それからどうするかを決めても遅くありません」。思い出の品などは納得して処分することが重要だ。
「スタメン」「控え」「二軍」「戦力外」とは?
具体的な片付けの方法として、古堅氏が提案するのは「4つのステップ」だ。たとえば、机の引き出しを片付ける予定なら、引き出しの中のものをすべて出して、その全容を確認するのが、ステップ1なる。ステップ2では、出したものを「今使うもの」と、1年以内に使わないであろう「今すぐ使わないもの」に分類。さらに「今使うもの」を、プロ野球のように「スタメン」「控え」「二軍」に分ける。「スタメン」はふだんからよく使う使用頻度の高いもの、「控え」はたまに使うもの、「二軍」は年に1回程度のものとなる。「今すぐ使わないもの」は「戦力外」ということになるだろう。
ステップ3では、「スタメン」を「ゴールデンゾーン」に収納する。ゴールデンゾーンとは、立った状態で腰から頭までの間で、楽に物を出し入れできる位置だ。「控え」は「スタメン」に準じる位置に、そして「二軍」はゴールデンゾーンを外れた場所に収納する。かがんだり、背伸びしたりしないと出し入れができない場所になる。そして、「今すぐ使わないもの」はダンボール箱に入れて、邪魔にならない場所に置くようにする。
ステップ4では、「今すぐ使わないもの」を1年後に見直し、その間にダンボール箱から全く取り出さなかったら、そのまま処分するか、手放して誰かに引き取ってもらう。ここで注意したいのは、ダンボール箱に入れると、それで片付いたと安心して、見直しを怠ってしまうこと。古堅氏は「ダンボール箱がモンスターのように増殖することになりかねません」と忠告している。
使ってわかる、意外に少ない本当に必要なもの
「私自身は物を捨てたくないので、気に入ったものや必要と思ったものを吟味して買うようにしています。4人家族のわが家にあるものの量はそれほど多くないのですが、それでも6,000点はあると思います。わが家でもそれだけあるのだから、ここにいる人の中には10,000点以上お持ちの方もいらっしゃると思います。皆さんも捨てることに罪悪感を覚えるなら、物は使うためにあるのですから、まずは使ってみましょう。いい食器だからとしまい込んだりしないで、日々の生活の中で使うわけです。そうすると、よく使うものは意外に少ないとわかるはずです」
本当に必要なものやお気に入りのものに囲まれて、心豊かに暮らすために生前整理をと呼びかける古堅氏。「生前整理で室内がすっきりすれば、心も変わります」と言う古堅氏に、うなずく受講者が多い講座会場だった。
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