250世帯もある豊田市萩野地区で、なぜ移住促進を?
山村へ移住をして20年以上という“移住のベテラン”が移住促進に取り組んでいると聞き、愛知県豊田市の萩野地区を訪れた。迎えてくれたのは、萩野地区の活性化を目指すNPO法人『結の家』の山本薫久さんと島好常さん。まずは2人に移住したきっかけを聞いてみた。
「夫婦2人とも田舎育ちなので、田舎で一級建築士としての仕事と子育てをしたいと思い、数年かけて東海3県を巡りました。山と川がきれいなこの地に決めたのは、まあ直感ですね(笑)」(島さん)
「小学校の教員をしていたのですが、同じく田舎暮らしがしたくて。近くにある段戸裏谷原生林が好きで通っていたので、この辺の雰囲気は知っていました。僕も勘で気に入り、仕事を辞めて移住したんです」(山本さん)
20年前は移住に関する情報がなく、直感で決めたという2人。島さんは1995年に移住し、子どもを通じて地域に溶け込んでいったという。その2年後に山本さんが移住し、島さんに家の設計も依頼した。近所の人が野菜を分けてくれるなど、萩野地区は移住者を温かく迎え入れてくれたそうだ。
そんな移住の大先輩が、なぜ移住促進に乗りだしたのか?それは萩野小学校の児童数の激減がきっかけだった。「萩野地区には250世帯ありますが、小学校の全校生徒は24人になり、みんな危機感を持っています。そこで幅広い世代が楽しく活躍できる地域を目指すために、若い移住者と地域の橋渡しをする『結の家』を立ち上げました」(山本さん)
移住成功のポイントは「仲間をつくることです」と2人は笑顔で話す。自身の経験を生かして、閉鎖的になりがちな山村でどのように仲間の輪を広げているのか、豊田市の山村にどうやって子育て世代の移住者を呼び込んでいるのか、活動内容を伺った。
ポイントは「チームでやる」「NPOでやる」「やりたいことをやる」
2019年3月にスタートしたNPO『結の家』の前身は、行政主導の「萩野将来計画策定プロジェクト」。昔ながらの自治区で新しい取組みを始めるには難しさがあるため、最初は行政の支援を受け、その後有志がプロジェクトを継続して『結の家』を立ち上げた。
活動を継続するための、1つ目のポイントが「チームでやる」。
スローライフの普及や森林保護活動を行う山本さん、移住者の相談サポートを行う島さん、萩野で生まれ育った大工の棟梁、河合定泉さんの3人が軸となっている。
「我々は “3バカトリオ”と呼ばれています(笑)。スーパーボランティアが1人で引っ張る地域もありますが、僕たちはチームで各々の得意分野を発揮しようと考えました。仲間がいれば地域からの孤立も防げます」(島さん)
2つ目のポイントは「NPOでやる」。
「自治会の慣習や役職をなくすのではなく、NPOという別の組織にして『やりたい人が自主的に集まる』というシステムにしました」(山本さん)
山本さんは今年自治会の副区長となり、学校や地域にしっかり貢献している。地域に信頼されることで、『結の家』は自由に活動でき、協力してもらえるのだという。
3つ目は「やりたいことをやる」。
『結の家』は、「地域の人がやりたいことをできる場」「移住者を迎える仲間づくりの場」という2つの交流の場を活動テーマにしている。だから誰かがこれをやりたいと言えば、すぐプロジェクトになる。「ワイワイ楽しければ人が集まるし、地域の人の眠れる才能が目覚めたりします。組織や担当をつくらず、各々がやりたいことをゆるくつなげていくのが『結の家』の理想ですね」(島さん)
移住者が〇人増という数値目標ではなく、移住者と地域住民が真の仲間となり、地域が元気になること。これが『結の家』の最終目標なのだ。
移住希望者と地域がDIYで交流「トンカン木工塾」
『結の家』では「地域交流と、移住希望者の仲間づくりの場」として、4月から「トンカン木工塾」をスタートした。子育て世代の移住希望者から「古民家をDIYして住んでみたい」「小屋をつくりたい」という声があり、手仕事を求めていることを知って木工に着目したという。「カンナやゲンノウの使い方を知るだけでは面白くないので、自治区長に紹介してもらった空き家をDIYし、テラス付きの『結の家工房』をつくるという目標を立てました」と山本さんは話す。
毎月1回、移住を希望する4家族とその友人が集まり、棟梁の河合さんから道具の使い方を習って、結の家工房のリフォームに着手している。技術の習得だけでなく「交流の時間」を大切にしているのが結の家流。初回は自治区長が案内する散歩会を開き、清流のほとりや森の中へ分け入って、萩野地区の自然を満喫した。
「区長が幼い頃に遊んだ記憶を語りながら散歩することで、区長の人となりも分かるし、豊かな自然に愛着が湧きます。参加者からは『森や川でこうやって過ごしたい』というアイデアが飛び出して、区長は喜んでいました。移住者は"新しい観点"を持っているので、山村に新しい風をもたらしてくれる存在なんです」(島さん)
今後は、農山村づくりのブレーンを招いた交流会、地域の人とのバーベキューも予定していて、移住希望者と地域の人々とのパイプ役を果たしていくそう。「移住した当初はやっぱり寂しかったんですよ」と笑う2人。だんだん仲間が増えることで安心感が芽生えたといい、その経験が原動力になっている。移住希望者にとっても、先輩の存在は心強いはずだ。
「田舎の土地を、切り売りしたくない」
移住促進といえば、家や土地を紹介する「空き家バンク」が定番だが、『結の家』では不動産情報をオープンにしていない。萩野地区への移住を考えているなら、まずはNPO『結の家』を窓口にしてほしいというスタンスだ。
「以前、行政主導で区画販売を行ったところ、買い手がつきませんでした。そこで“広い土地に畑や果樹園などの共有エリアをつくり、お隣の移住者とシェアしながら暮らすプラン”を描いたら、1人2人と手を挙げてくれたのです。僕たちは田舎の土地を区画で切り売りをするのではなく、移住希望者の望む暮らしをかたちにしたいと思っています」(島さん)
「別荘のように自分の家に閉じこもるよりも、萩野の山や田んぼ、そして人とうまく調和して田舎暮らしを存分に楽しんでほしい!というのが僕たちの願いですから」(山本さん)
トンカン木工塾や田んぼプロジェクトでまずは仲間づくりを進め、移住を決めた人には土地や家探しのサポートを行い、移住後もプロジェクトで盛り上げていく。移住促進としては遠回りのようだが、移住のアンマッチを防ぎ、地区の文化や景観を守ることにもつながっている。またこの活動自体を、平均年齢65歳の“3バカトリオ”がとても楽しんでいるのが印象的だ。「楽しい!ワクワク!」は山村に若い世代を集める最高の求心力になると思う。
取材協力/NPO法人『結の家』
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