石には力があると感じた幼少期

石一筋にやってきたと笑う二枝氏。印象的だったのは健康を追求していくと家に至るという言葉。家は人がもっとも長い時間を過ごす空間である、そこが健康に良い場所でなければいけない。当然だが、忘れられがちでもあるのではなかろうか石一筋にやってきたと笑う二枝氏。印象的だったのは健康を追求していくと家に至るという言葉。家は人がもっとも長い時間を過ごす空間である、そこが健康に良い場所でなければいけない。当然だが、忘れられがちでもあるのではなかろうか

エアコンを一切設置していないホテル「グレートモーニング」があるのは福岡市の繁華街中洲川端駅から歩いて5分ほどの場所。郊外の、風が通り抜けるような場所ならいざ知らず、こんなビルが建ち並ぶ都心部でエアコン無しが可能かと思えるような立地である。

しかも、この「光冷暖」のシステムを開発したのは建築にも、住宅設備にも無縁の、元々は健康や美容に関する事業を展開する会社である。さらに、しかもを付け加えると、そもそも住宅設備を開発するつもりはなく、石にこだわり続けていたら、できてしまったというのである。いったい、どういうことか。

光冷暖を開発したKFT株式会社の二枝たかはる氏は日本唯一の国営炭鉱があった志免町(鉱山自体は志免町のみならず、他2町にまたがる)の出身。生まれた時にはすでに閉山していたものの、ボタ山(ボタと呼ばれる捨石の集積場)があり、そこで石を拾うのが日常だったという。「外見は同じように見えるものの、割ってみると燃える石、燃えない石があり、私はそれを見分けるのがうまかった。その頃から石には力があると思って育ちました」。

長じて6人の子どもを持つが、うち3人に喘息、アトピーがあり、二枝氏は効能があると聞いた温泉水を試し、やがてはその販売を手掛けるようになる。そのうち、温泉水の効能は水ではなく、温水が接する石にあるのではないかと考えるようになり、2002年以降、岩盤浴店を展開するように。今では一般的になったが、当時は秋田県の玉川温泉に自然の岩盤浴がある程度。美容と健康に良いと爆発的にヒットするのだが、急激に人気が出たことから衛生面で問題のある事業者もあり、それが社会問題化。2008年には事業縮小を余儀なくされることとなる。

冷房にも遠赤外線を使えるのではという気づき

だが、これが光冷暖開発への端緒となる。岩盤浴は熱せられた石が発する遠赤外線で身体を温めるもの。遠赤外線自体は人間の身体も含め、すべての物質が放射しており、同時に金属を除くほとんどの物質が吸収もしている。そのうちでも天然鉱物であるセラミックスは多くの遠赤外線を放射している。雑駁な言い方をすると、熱を伝える力が強いということになる。二枝氏はセラミックスの持つその性格を考え、何度となく岩盤浴の浴室を改良し続けていた。

「始めた当初からより低い温度で汗がかけるようにと研究を続けていました。温度が低ければ低いほど呼吸が楽で、身体に負担がかからないからです。そこで床だけではなく、壁、天井にも同じ石を使うことを考えたのですが、ある夏、そうして作った、営業していない浴室に入ってみるとまるで洞窟の中のようにひんやりと冷たい。どうしたのだろう?と思ったことがきっかけになりました」。

エアコンの効いたロビーですらむっとする時期だった。それなのに熱源を切った、エアコンのない岩盤浴浴室が涼しい不思議。だが、冷静に考えてみると不思議ではない。熱は高いところから低いところに移動するものなのである。石の床は冷えていく際に空気の温度だけではなく、天井、壁、人体の熱を奪う。その結果、洞窟のようにひんやりと感じる。浴室内ではそんな現象が起こっていたのだろう。

光冷暖の仕組み。建物内部全体を使って熱を移動させるという光冷暖の仕組み。建物内部全体を使って熱を移動させるという

室内全体を空調システムにするという発想

では、これを住宅の冷暖房に使うとしたらどうなるか。二枝氏は当時、遠赤外線研究の第一人者であった日本軽金属総合研究所の高田紘一氏の協力を仰ぐなどして研究を続け、セラミックを塗った格子状のラジエーター、同種のセラミックを使った漆喰や壁紙、塗料などの床・壁材をセットで使う方法に至る。

ラジエーターの中に温水、冷水を循環させることで室内の温度をコントロールする冷暖房機自体は1990年代からあった。ラジエーター内の温水、冷水と室温の温度差がある場合、熱は室内の温度を均質にしようと移動する。その結果、室内の天井、床などがラジエーターと同じ温度となり、それが室内全体に冷暖房効果を生じさせるというものだ。

だが、光冷暖はそれに加え、壁や床をある意味、冷暖房調節装置の一部として考えたもので、セラミックの効果もあり、従来のものよりも健康性を重視したのが特徴。室内全体を空調システムとしていると言えば良いだろうか。従前のものが各室にラジエーターを置く必要があったとすると、75m2程度の気密性の高いマンションであれば1台で済むという。当然、電力の消費量も少なくて済む。今回のホテルでいえばエアコン利用時と比べ、8割ほどはマイナスになるとか(※建物の構造、断熱、遮熱により異なる)。

「普通の住宅を使ってデータを取り、これまでよりも少ないエネルギーで快適に過ごせることを検証した上で、日本国内で特許6件を取得、周辺特許17件を出願中で、世界への展開も考え、アメリカ、カナダや韓国、中国その他世界15の国と地域で特許を取得、42ヶ国で申請中です。日本での発売は2011年。初年度は3件だけでしたが、2年目には30件と徐々に増加、今は年間300件、2019年1月末現在では1,293件を手がけています」。

2014年には地球温暖化防止活動の技術開発・製品化部門で環境大臣賞も受賞している。

学校の体育館、バスセンターの待合室、クリニックの診察室、一般の住宅と幅広い場所で利用されている学校の体育館、バスセンターの待合室、クリニックの診察室、一般の住宅と幅広い場所で利用されている

メリットもあれば、価格その他のデメリットも

エアコンと違い、空気を対流させないので室内は無風状態。風を嫌がるエアコン嫌いの人でも使え、埃が舞うことがないため、室内は清潔に保たれる。2019年春から九州大学病院の手術待合室に導入されるなど医療施設での導入が多いのはそのためだろう。ペットを飼っていたり、アレルギーのある人がいる家にもお勧めだ。

また、室内に温度差が生じないため、どこにいても快適に過ごせ、ヒートショックの心配がない。足元が冷えて困ることもなくなり、暑がりと寒がりのカップルが室温を巡って喧嘩をすることも無くなる。消費電力が少ないのは前述の通りだし、CO2もほとんど出さないなど、メリットも多いが、もちろん、デメリットがないわけではない。

まず、効果が建物の断熱性能に左右されるという点。いくら光冷暖が効率的だといっても隙間だらけの家では十分な効果は発揮できない。建物の質があってこその光冷暖というわけで、ホテルでは外断熱工法を用い、室内ではカーテンにもセラミックを含有させているという。

もうひとつ、大きいのは価格。新築時であれば壁、床その他はどちらにしても施工するものであり、その分はさほどかからないが、ラジエーターの設置分が高くなる。目安は70~80m2のマンションで200~250万円、2階建ての一戸建てで300~350万円くらい。リフォームであればそれに壁、天井などのリフォームが加わり、プラス100万円くらいというから、初期費用だけで考えるとエアコンよりははるかにかかる。

また、その仕組みから分かる通り、一気に室内を冷やしたり、温めたりもできない。エアコンのように切ったり、付けたりしながら使うものではなく、24時間付けたままでじんわりと室温をコントロールするものなのである。急冷好きの人には向かないわけだ。

ホテル宿泊後に自宅に導入する人も

実際にホテルに宿泊させていただいた。最初の印象はとにかく静かだということ。テレビを付けるなどしなければ室内は無音なのである。いつも、何かしらの音に囲まれているからだろう、脳が休まる感じとでも言えば良いだろうか、実にリラックスする。

そして室温。面白いことに建物内では暑さ、寒さというものをそもそも全く意識しなかった。春先、秋口など年に何日か、暑くもなく、寒くもない、快適な日があるが、そんな日のように体に負担がなく、楽な感じなのである。

宿泊者の中には私以上にメリットを感じる人達も多いようで、何度か泊まりに来た挙げ句、我が家にも施工してほしいという人がすでに何人もいると聞いた。しかも、人前で声を出す仕事をしている方々や体が資本のスポーツ選手など、一般の人以上に健康に留意する人が大半という。中にはスモッグが問題となっている母国で熱源となる石炭の消費を減らすために光冷暖を活用できないかという相談もあるそうで、ホテルの海外進出以外にもこの技術が世界で使われる日は近そうである。

また、今春には光冷暖を組み込んだ住宅も発売される予定。これまではシステムだけが提携工務店向けに販売されてきたが、最初から一体になった住宅であればより導入が進むのではなかろうか。ホテルも今後日本のみならず、世界で展開していく予定だそうで、普及に従って価格がもっと安くなってくれればうれしいところである。

ちなみにホテル名のグレートモーニングはお分かりだと思うが、清々しい朝の目覚めを意味する。泊まった翌朝、ベッドの中で伸びをした感覚は確かにそれ。すっきり目覚めた後の朝食(なんと、部屋まで運んできていただける!)も美味しく、徐々に予約が取りにくくなっているのも理解できた。健康的な環境を求める人が増えているのである。

左上は客室(左下)内のラジエーター、右上は廊下にあるもの。ホテル内の家具は竹製でロビーには地元の名産品・博多織を利用したソファなども左上は客室(左下)内のラジエーター、右上は廊下にあるもの。ホテル内の家具は竹製でロビーには地元の名産品・博多織を利用したソファなども

2019年 03月18日 11時05分