追い風が吹く建築業界。でも職人がいない!!
2020年の東京五輪がもう目前に迫っている。
2027年の開業を目指すリニア新幹線の建設、アベノミクスによる公共事業の復調も続き、建築業界にとっては追い風が吹いている。しかし、喜んでばかりいられない。建設業界は長く続く深刻な人手不足に頭を悩ませている。
今年1月に厚生労働省が発表した労働市場分析レポートによると、求人倍率の高い職業は、「保安の職業(5.95倍)」についで「建築・土木・測量技術者(5.04倍)」と、特に高い値となっている。建設業界に職を求める人が減っているのも、大きな要因だとしている。
2013年からは、関係省庁である国土交通省と厚生労働省がタッグを組み、建設業界の人手不足をなんとかしようと改善に乗り出していた。昨年4月に発表された「建設業の人材確保・育成策」のとりまとめによると、2010年には331万人だった建設業分の労働者数は、2014年には341万人と10万人増加。また、若年労働者の割合の増加も見られたという結果に。とはいえ3年未満で離職する人も多く、人材不足解消には程遠い。
こうした中、独自のシステムで若手大工を育てている会社があるという。愛知県北名古屋市にある株式会社新和建設だ。
このシステム「大工育成ビジネスモデル~素材のわかる匠の技 伝承ビジネスメソッド」が2015年グッドデザイン賞を受賞したと聞き、お話をうかがった。
創業から47年、自社大工を育て続け、現在までに育てた大工棟梁は100人超、親子二代大工は現在在籍しているだけでも10組以上いるという同社。キツイ仕事内容と閉鎖的な師弟制度のイメージが根強く残ってしまった職人の世界において、なぜ大工が育っているのか。「大工育成ビジネスモデル」とは、いったいどんなものなのか―。
話を聞いてまず驚いたのは、大工年齢構成である。グラフを見てもらうとわかるように、年齢分布をみると全国平均では60代の大工が最も多いのに対して、新和建設は30代が最も多くなっている。10代20代の若手大工も全国と比べると圧倒的に多いのがわかる。若手が育たないといわれている建築業界において、これはとても珍しいことではないだろうか。同社によると毎年計画的に採用・研修をし、大工育成ビジネスモデルに従って大工が育つ環境づくりを徹底的に行っているからだという。
食事つきの寮、訓練校で匠の技術を学べる「大工育成ビジネスモデル」で若手を育てる
「大工育成ビジネスモデル~素材のわかる匠の技 伝承ビジネスメソッド」を簡単にまとめると
【入社→現場研修→管理者養成学校→各棟梁へ配属・最初の2年間は並行して建築大工訓練校へ入学】
ここまで6年間の大工研修の過程を社員として教育。
その後は、大工棟梁または職人として独立するというシステム。
最も大きな特長としては、入社から6年間は社員として大工を育てあげるという点だろう。
会長、副会長、社長と、みな大工あがりの新和建設。いい家を造るにはいい職人が欠かせないという想いのもと、創業当初から会長(当時の社長)の家に見習い大工を住まわせ、“同じ釜の飯”を食べて育ててきた。その形を発展させ、25年ほど前から3食付きの寮を完備。入社した研修生は寮生活を送りながら、6年間同じ棟梁の元で教育・訓練を受ける仕組みを作った。
また、研修期間6年のうち最初の2年は給与を得ながら建築大工訓練校へ通い、じっくりと日本伝統の木工技術を学ぶ。木材を機械により事前にカットしておくプレカット技術の進化により、大工の腕の見せ所でもあった“刻み”と呼ばれる作業などは、現在ほとんど行われなくなった。しかし、同社のような木造在来工法の家づくりにおいては、伝統的な手技の技術を伝承していくことは不可欠なことであり、建築業界にとっても大切なこと。訓練校では手仕事による木工技術を若者に伝えることで、素材の使い方や手技の美しさといった美意識まで育てていくのだという。
「“技術は見て盗め”と言われた時代はもう古い。それでは若手は育たないし、業界の進歩もない」という同社の想いが詰まった手厚い教育と育てる環境があってこそ、若い大工が育つのだろう。
大工のバイブル! 400ページにもわたる品質基準書と徹底した品質管理で及第点を超えるレベルを習得できる
家づくりの現場では、タブレット端末を使って確認作業。造作の収まり、筋交い、金物など、細かい点も品質基準に明記されているので、これをもとに現場実習を積めば、研修終了時には及第点を超える技能が身につくというわけだ建築大工学校で学びながら、研修生は入社当初から一人の棟梁について家づくりの現場で技術と知識、経験を身に着ける。その指標となるのが“大工のバイブル”とまで言われる品質基準書だ。
ただ大工を育てるといっても、何を基準に育てればいいのか―。棟梁によって技量の良し悪しがあったり、指導の仕方が違ったり出来栄えが違っていては質のいい家づくりとは言えない。質のバラツキをなくし、一定以上の技量が身についているかどうかしっかりとわかるシステムとして、まずは“教科書”作りが必要と、品質基準書を作り上げた。
木の扱い、納め方、精度など400ページにわたる品質基準を作り、工事の各段階において専任検査員によりチェックが行われる。釘打ちの間隔やビスの間違いなど細部まで適合しているかどうか確認するのだという。こうした徹底した管理体制により、6年間の研修終了時には及第点を超える技術レベルが習得できる育成システムとなっている。
品質管理チェックで不適合箇所が少なかった上位の大工棟梁は、隔月行われる大工会議において表彰され、賞品がもらえるという特典も。研修生だけでなく、大工棟梁にとっても技術を向上させ、モチベーションをあげる仕組みとなっているようだ。
品質基準は隔月で更新され、iPadを用いて現場ですぐに確認できるようになっているのも今の時代に乗っ取ったやり方。内容を紙面だけでなくデジタル化しているので、現場で調べたいことをキーワードで検索することも可能だ。迷ってもすぐに検索すればいいのだ。モバイルの扱いに慣れている若手にとっても、これは最強の道具だろう。
愛社精神を生むのがこの育成モデルのもう一つの特長
木工技術の工業化や大工の高齢化の流れの中で、危機に立たされている匠の技の伝承。これをシステムに取り込み、学ぶ時間を作ったとして評価された「大工育成ビジネスモデル」。グッドデザイン賞を受賞した理由として、研修生の給与・賞与システムを可視化し、社員として研修するスタンスが挙げられている。研修生名と日当が記載された番付表をもとに、棟梁同士で人員を貸し借りする仕組みもあり、さらには、自社の大工だけでなく業界全体を担う次世代の大工育成のために、このメソッドを広く公開しているのも業界全体の底上げを図り、若手を育てるシステムとして高い評価を受けた。
6年間の研修期間を経て、7年目のお礼奉公を終えると同時に独立することになるが、新和建設への専属を義務付けてはいない。
しかし、6年間寮に入り仲間と共に学び、一人前の棟梁となった大工は帰属意識と愛社精神にあふれているという。同社が開催する「棟梁会」や学びの会などでは、情報と技術の共有化など交流も活発だ。こうした愛社精神を生むのがこの育成モデルのもう一つの特長かもしれない。
今年は女性大工も誕生!
冒頭に書いた、国交省・厚労省の「建設業の人材確保・育成策」のとりまとめでは、
1:魅力ある職場づくり
2:人材確保施策
3:人材育成施策
の3つの視点でさらに対策を進めるとある。
この3点を視野にいれた新和建設の「大工育成ビジネスモデル」は、業界の成功例として注目を集め、全国各地から見学に訪れる同業者も多い。
3K(きつい・汚い・危険)業界と言われ、マイナスイメージが根強く残る建築業界ではあるが、こうした取り組みで明るい兆しも見えてきている。今年度、同社には女性の大工研修生が入社した。こうした女性の大工希望も年々増加しているという。
部材や道具はどんどん進化し、便利になっている。しかし、工業化できない手仕事の技術は家づくりにおいては欠かせないものだ。
独自の育成システムを作り、男女問わず雇用の機会を設け、時間をかけて職人を育てるという企業の姿勢が、質のいい家づくりや建築産業の未来を変えていくのだと感じた。
株式会社新和建設
http://www.sinwanet.co.jp/





