土地探しから完成まで、建築家との家づくりを疑似体験

「家をつくろう展」を主催した5人の建築家「家をつくろう会議」のメンバー。左から杉浦氏、都留氏、長谷部氏、石井氏、村田氏。ちなみにグループ名になぜ“会議”がつけられているのか? 理想の家をつくるためには、施主とひとつひとつ会議をしていくように丁寧に向き合いたい、そんな建築家の方々の気持ちの表れだ「家をつくろう展」を主催した5人の建築家「家をつくろう会議」のメンバー。左から杉浦氏、都留氏、長谷部氏、石井氏、村田氏。ちなみにグループ名になぜ“会議”がつけられているのか? 理想の家をつくるためには、施主とひとつひとつ会議をしていくように丁寧に向き合いたい、そんな建築家の方々の気持ちの表れだ

7月3日~5日の3日間、東京文京区の文京シビックセンターで『家をつくろう展 4』なるものが開催された。これは、5人の建築家が企画をしたシリーズ展の第4弾。土地探しから完成まで建築家との家づくりを疑似体験できる試みだ。

4回目となる今回は、目玉企画として「サザエさんの家」を建築家が建て替えたらどうなるか? 1/20の模型と図面も展示されているという。

果たして建築家の手によると、昭和の木造建築がどのように生まれ変わるのか? 建築家との家づくりにはどんな醍醐味があるのか?

ちょっと風変わりな展示会の様子をレポートしよう。

建築家は自分の価値観を押し付ける、は間違い

お話をうかがった長谷部 勉氏。一級建築士であり建築事務所「H.A.S.Market」の代表取締役。現在、東洋大学非常勤講師として後進の育成にもあたっているお話をうかがった長谷部 勉氏。一級建築士であり建築事務所「H.A.S.Market」の代表取締役。現在、東洋大学非常勤講師として後進の育成にもあたっている

この展示会を主催しているのは、一般住宅を手がける5人の建築家たちだ。もともと、住宅のデザイン方法論を記した書籍『新しい住宅デザイン図鑑』発刊のために集められたメンバーだという。たまたま5人が同世代だったこともあり、まだまだ知られていない建築家との家づくりの楽しさを伝えたいと「家をつくろう会議」を結成。昨年から、『家をつくろう展』を開催しているという。

展示会を行うようになったきっかけを、メンバーの一人、一級建築士・東洋大学非常勤講師の長谷部 勉氏が次のように説明してくれた。

「まだまだ日本では、“家は買うもの”“ハウスメーカーの展示場に行って選ぶもの”という認識が多いと思うのです。でも選んで買う家に暮らしを合わせるのではなく、暮らしにあわせて“家をつくる”ことができれば、もっとその方の人生が豊かになるはずです。
その“家づくり”の専門家として建築家がいるのですが、どうも建築家というと自分の価値観や美意識を押し付けてくる、なんとなく敷居が高いというイメージが先行しています。でも建築家も様々です。作品として家づくりを行う作家型の人もいれば、施主さんの希望に添えるよう家づくりに関わる人々をまとめていくプロデュース型の人もいる。多くは施主さんの要望を汲み取りながら丁寧に家づくりをしています。そこを少しでも分かっていただこう、と始めたのがこの展示会のきっかけでした」

確かに、家を建てようと思っても、建築家にお願いするのは気後れする自分がいる。あまり要望を言ってはいけないのではないか? 生活者目線からは離れた作品としての家づくりになってしまうのではないか? そんな思いがあるのは確かだ。しかし、あくまでもそれはイメージにすぎず、実際には、施主の思いを汲みながら細部まで丁寧に家づくりをしてくれるという。

「建築家が建てる家というのは、個性的な仕上がりになります。でもそれは、建築家が勝手につくっているのではなく、何度も施主さんと打ち合わせを繰り返し、模型をつくって検証したりと施主さんと共に丁寧に作業を進めています。何が施主さんにとって豊かな暮らしになるのか、そのためには、もちろんコストを下げることも念頭に置きます」

驚くほどの多く打ち合わせを重ね、検証し、やっと着工に入る。しかし実際には着工してからも変更が生じる。建築家にしてみれば当たり前の家づくりの工程なのだが、そんなに丁寧につくってもらえることを私たちはイメージできていない。そこを明かすのがこの展示会なのだ。

実は施主に寄り添ってくれる、建築家との家づくり

斜面に建つ桜を望む家の模型。土地購入から建築家に相談したことで実現した家。日本では南向き信仰が広がっているが、実は北側に庭があるのは、樹木が輝いて見えるなどメリットも多いという斜面に建つ桜を望む家の模型。土地購入から建築家に相談したことで実現した家。日本では南向き信仰が広がっているが、実は北側に庭があるのは、樹木が輝いて見えるなどメリットも多いという

会場では、まず建築家との家づくりのプロセスがパネル展示されていた。「1.土地を決める→2.要望を伝える→3.プランを練る→4.詳細を決める→5.工事が始まる→6.生活が始まる」の流れが実際に使われる模型などと共に見ることができた。

これを見ていくと、長谷部氏が先ほどから “建築家が丁寧に家をつくっている”と言うのも頷ける。例えば、「土地を決める」というのは、建築家は関与してくれないと思っていたが、どんどん相談したほうが魅力的な家づくりができるそうだ。

「パネルで紹介している例は、土地購入から建築家に相談して購入費用を抑え、さらに個性的な家を完成した例です。検討していた分割地の分割方法を変えてもらい、格安の斜面地を購入することで1,000万円ほどのコスト削減をしました。そのほかにも、この土地の北側には立派な桜の木があったのですが、一般的には敬遠される北側開口のメリットを最大限に引き出す設計で桜を望む見事な家が完成しました」

そのほかにも、「要望を伝える」展示では、実際の施主から提出されたメモ用紙が貼られていたりする。みると、とても簡潔なもの。こんなメモ書きで要望が伝えられるのだろうかと思うが、そこは建築家が小さな要望を見逃さず、何度もヒアリングを繰り返し、イメージをつくりあげてくれるという。

「プランを練る」段階では、基本設計を数度繰り返し、模型も複数作られ、丁寧にプラン固めをしている様子が時系列で紹介されていた。その後の素材選びにしてもデザイン性はもちろんのこと、耐久性や施工性、価格に至るまで綿密に選ばれていく様子が分かる。

最後には、完成した家での暮らす様子も紹介されていて、施主の方から建築家に宛てられた手紙を読むと一緒につくりあげた家に暮らせる喜びと感謝の思いにほっこりさせられる。

建築家との家づくりは、施主に寄り添ってくれて、わくわくできるものだというのが伝わってくる展示内容だった。

「縁側とちゃぶ台」を未来につなぐ「新・サザエさんの家」

さて、忘れてはいけないのが、今回の目玉企画、「サザエさんの家」の建て替えだ。会場中央に「家をつくろう会議」のメンバー5人で喧々諤々プランを練った1/20模型が展示されている。なぜ、「サザエさんの家」をテーマに選んだのか? 長谷部氏に聞くと「生活者目線のアプローチがしたかったから」だという答えがかえってきた。

「単に建築の技術やデザインを展示するのではなく、興味をもって見てもらえるものにしたかったので、アニメの世界の家づくりを企画しました。それこそ『ゴルゴ13』『進撃の巨人』なども候補に挙がりましたが、最後には『サザエさん』に落ち着きました。日本人なら誰もが知っているアニメであること、外国人にもよく知られているアニメであること、そして典型的な昭和の多世帯を象徴する住宅であることなどが理由です。昭和の典型的な木造建築の家を今建て替えるとしたらどのような提案ができるのかを表現したかったのです」

原作に出てくるサザエさんの家は5DKの平屋。台所と居間に客間、波平とフネの部屋、マスオとサザエさんとタラちゃんの部屋、カツオとワカメの部屋といった間取り。この建て替えプランを5人の建築家が挑んでいる。また、建て替えプランをつくるにあたっては、5人そろってサザエさんの町、世田谷の桜新町に下見に行ったほどの力の入れようだ。「家は、家だけを切り離して考えることはできない。街並みや、イメージ、空気感まですべてが家づくりとは無関係ではない」という5人の信念からだ。

結果、誕生したのは、2階建ての新居。以下の間取りを採用しながら、ポイントとしては「縁側」を生かしたつくりだ。どの部屋も角にはなく、周り全体には必ず縁側のような余白のある空間でつながれている。

《1階》
・波平とフネの部屋 1室
・マスオとサザエさんの部屋 1室
・リビング、キッチン、バス・トイレ

《2階》
・カツオとワカメの部屋(仕切ることも可能)
・タラちゃんの部屋
・1階の屋根を生かしたデッキ

「5人で白熱した意見を交わしながら、やっと決まったコンセプトが“縁側とちゃぶ台”でした。昭和の木造建築の中で、我々が未来に残していきたいものだったのです。そして、縁側をキーにして、壁による分離ではなく、ゆるやかに内・外・中間がつながる空間を目指しました」

模型では、2階建てといっても平屋の印象が残されていて1階の屋根の大部分が広いデッキになっている。ここは子供たちの遊び場であり、外階段で接続されているため“直接中島くんが遊びにくる”といったことも可能だ。ちゃぶ台をモチーフにした大きなテーブルもあって、晴れた日には子供たちがここで宿題もできるのだろう。もちろん、カツオは宿題などしないと思われるが……。

「1階には、これまでの細長い縁側も健在ですが、2階のデッキもいわば縁側です。サザエさんでは、お隣の伊佐坂さんなどが普通に庭から縁側にいる波平さんに話かけたりしていますよね。コミュニケーションの場としても優秀な、日本独自の不思議な空間「縁側」を現代的に残そうとした結果、こうした形になりました」

ゆるやかにつながるプライベートと共有の空間、広い2階のデッキは、子供たちにとってのコミュニケーションの場。おしゃれな家に生まれ変わったにも関わらず、仲のよい大家族の象徴であるサザエさん家の良さがしっかりと感じられる家だ。こんな新居なら、サザエさんたちもきっと大満足で暮らしているのではないだろうか。

(1)建て替えられた「サザエさんの家」の全体像。まわりをぐるりと縁側が取り囲みゆるやかに空間がつながる。(2)1階の旧来通りの縁側では波平さんとマスオさんが仲良く囲碁を。(3)2階のデッキにはちゃぶ台をモチーフにしたテーブルも。(4)模型ではデッキのテーブルが外せて中が覗ける。1階には正真正銘のちゃぶ台が置かれている(1)建て替えられた「サザエさんの家」の全体像。まわりをぐるりと縁側が取り囲みゆるやかに空間がつながる。(2)1階の旧来通りの縁側では波平さんとマスオさんが仲良く囲碁を。(3)2階のデッキにはちゃぶ台をモチーフにしたテーブルも。(4)模型ではデッキのテーブルが外せて中が覗ける。1階には正真正銘のちゃぶ台が置かれている

建築家を身近に感じる

「家をつくろう会議」メンバーそれぞれの事例がズラリ。それぞれの個性がよく分かり、見ているだけで楽しめる。しかし、これだけ個性の異なるメンバーが1つの家を設計したのだから、議論がヒートアップしたことも頷ける「家をつくろう会議」メンバーそれぞれの事例がズラリ。それぞれの個性がよく分かり、見ているだけで楽しめる。しかし、これだけ個性の異なるメンバーが1つの家を設計したのだから、議論がヒートアップしたことも頷ける

会場には、5人の建築家の方々の作品もパネル展示されていた。

和モダンというのだろうか、陰影の効いたデザインを得意とする石井秀樹氏。自らプロデューサータイプと語る、かつては在籍した事務所で家具デザインから都市計画まで手がけた長谷部 勉氏。大手ゼネコンに在籍していたことからコストコントロールに長け、斬新な外観の住宅を手がける杉浦 充氏。シンプルなデザインを基本にしつつ、緑と建物の調和を図る村田 淳氏。そして紅一点、日本の代表的な建築事務所を経験しモダンなデザインを得意とする都留理子氏。

技術的なことやデザインのテクニックなどまったく分からないのだが、眺めているだけで「こんな家に住めたら……」と夢が膨らむ。

“敷居が高いもの”とされる建築家との家づくりを、身近に感じられる展示会。今後も継続して開催されるということなので、その際にはぜひ立ち寄って、家づくりの面白さを感じてみてほしい。

2015年 08月01日 10時32分