“手刻み”で検索し、オダ工務店を発見

お施主のSさん。木や漆喰など自然の素材で造る家に魅力を感じるというので理由を伺ったところ「たぶん『チルチンびと』という雑誌を読んでしまったから(木組みの家マニアになった)でしょうね」と苦笑(?)していたお施主のSさん。木や漆喰など自然の素材で造る家に魅力を感じるというので理由を伺ったところ「たぶん『チルチンびと』という雑誌を読んでしまったから(木組みの家マニアになった)でしょうね」と苦笑(?)していた

梅雨が明けたある日、1通のメールが届いた。

“近々、建舞(建前、棟上げとも言う)や左官の中塗り作業などマニア必見の作業が始まりますので、ご興味がありましたらお気軽に見学してください”

前回【工務店って何だろう? “木組みの家マニア”に愛される愛知三河のオダ工務店】で紹介した小田さんからである。もちろん興味シンシンなので、木組みの家を造る現場に密着させていただくことにした。施主のSさんもご協力くださるとのことで、お言葉に甘えて話しを伺った。
まず、なぜ木組みの家を建てようと思ったのか。

「父親が大工だったので、昔ながらの家を建てたいという気持ちがあったんです。最初はハウスメーカーなどにも何件か足を運んで話を聞いたんですが、どうも私の希望に合うところがなくて……」

Sさんの希望というのは?

「土壁の家にしたかったんですが、それをやると高くなるとか、うちではできないとか言われてしまって。手刻みで造ってもらいたいという希望もあったので、なかなか納得できるところが見つからなかったんです。結局、家を建てようと思ってから着工の日を迎えるまでに6年ぐらい経ってしまいました」

そんなSさんがオダ工務店と出合ったのは今から4年ほど前のこと。

「昔ながらの工法で建ててくれるところを探そうとインターネットで“手刻み”で検索したら、たまたまオダ工務店が見つかったんです」

構造見学と小田さんの人柄で決定

運命の工務店と出合うことができたSさんだが、家を建てるといえば一生に一度の大きな買い物。一世一代の決断をするとき、本当にこの工務店でいいのだろうか……? という不安や迷いはなかったのだろうか。

「いいえ、ぜんぜん。オダ工務店は実際の建築現場を見学させてくれるので、6軒ぐらい見学したんです。2、3軒構造を見せてもらった時点で、ここに任せよう、と決めました。それに小田(貴之)さんの人柄もいいですしね」

工務店選びでは窓口になる人の人柄も重要だという。

「小田さんは場の空気をホワッとさせてくれるというか、安心させてくれる雰囲気がありますし、家についての説明も丁寧にしてくれるんです」

家造りの技術だけでなく、施主の想いをきちんと汲み取ることができるかどうかも工務店に求められる要素というわけだ。そういえば、先日、小田さんに話を伺ったとき「お客様もマニアックな方が多い」と言っていたが、Sさんは今回木組みの家を建てるにあたって特別にオーダーしたことはあるのだろうか。

「吹き抜けと薪ストーブです。太陽の光がたくさん入る温かい家にしたかったものですから。吹き抜けだと夜は冷えるんですが、昼はとても温かいんですよ。薪ストーブは、最初はどうしようか悩んだんですけどね……」

夏は流れる汗をぬぐいながら、冬はかじかむ手をさすりながら、1年中、木組みの家を造る職人たち夏は流れる汗をぬぐいながら、冬はかじかむ手をさすりながら、1年中、木組みの家を造る職人たち

こだわりのオーダーメード薪ストーブ

薪ストーブも手造りにこだわったそうで、昔ながらの鍛冶屋「杉浦熔接」でのオーダーメード。

「リビングの真ん中に大きな薪ストーブを置く予定です。幅1メートル奥行60センチで、薪ストーブ界では最大級なんです。クッキング機能付きのものなのでピザを焼いたりもできるんですよ。小田さんにお願いしたのは、煙突は曲げずにまっすぐ突き抜けるように外に出してほしいということ。曲げると燃焼効率が落ちるらしいんです。だからまっすぐ煙突を立ててもらって、かつ、家の間取りにも問題ないようにしていただきました」

図面の前で腕まくりをして気合いを入れる小田さんの姿が見えるようだ。設計面でどんな苦労があったか小田さんに尋ねてみた。

「苦労というほどでもないですが、見せ方の部分で工夫しました。階段とストーブが至近距離になりますし、しかも吹き抜けなので少し悩みましたが、私よりも、図面を実際の形にする親方のほうが大変だったかもしれません。階段が通常の形状とは違ったので。薪ストーブに関しては、煙突から木材までどれくらい離すかなど、図面を付け合わせながら杉浦熔接の杉浦さんと何度か打合せしました」

さらに、小田さんからSさんに関するこんな情報も伺っている。

「Sさんは職人の手仕事にとても理解のある方なんです。素材に対するこだわりも強く、今建てている家はメイドイン三河です。三河産の木材で、屋根瓦も三州瓦ですので、将来メンテナンスが必要になったとき、いつでも地元の職人の手で改修することができます」

さすが! オダ工務店を選ぶだけあって、Sさんもなかなかのマニアックぶりだ。

作業中の厳しい表情とは打って変わって、お弁当を食べるときはみんな笑顔(左側)。この日は別の施主さんが建築現場の見学に訪れていた(右側)。オダ工務店では随時、構造見学会や完成見学会を行っている作業中の厳しい表情とは打って変わって、お弁当を食べるときはみんな笑顔(左側)。この日は別の施主さんが建築現場の見学に訪れていた(右側)。オダ工務店では随時、構造見学会や完成見学会を行っている

東三河に伝わる「餅まき」の儀式

さて、朝7:30から始まったこの日の作業。10:00頃には屋根の中桁が上がり、12:00過ぎにはSさんからのおこころざしの弁当を食べながら職人さんたちはしばし休憩。午後からは、ころびを直したり(柱のゆがみをミリ単位で調整する作業)、仮り筋交いを打ったり、込栓を打ったりという細かい作業が着々と進む。そして17:30頃、現場の作業がすべて終わったあと、筆者も初めて立ち合わせていただく「餅まき(餅投げとも言う)」が始まった。

餅まきは建舞の際に災いを払うために行われる儀式で、建物の上から紅白の餅や小銭をまき、集まった方々に持ち帰ってもらう。遠州(静岡県西部)に伝わる風習だそうで、愛知県では遠州に近い東三河地域でこの餅まきが行われてきたというが、最近ではめったに見られない珍しい行事となっている。貴重な場に居合わせることができ、まさに幸運。

今回の餅まきのために用意されていたのは紅白の餅、お菓子、半紙に包んだ小銭。小銭を用意するかどうかは地域によって異なるそうだが、もろもろの準備は、小田さんが自宅を上棟したときの経験をSさんにお伝えしたという。

Sさんのご家族と小田さんが建物に上がり、Sさんの「餅まきを始めます!」の合図で紅白の餅やお菓子が一斉に宙に舞った。ご近所の方々が大勢このお祝いの儀式に参加し、珍しい体験に子どもたちは歓声を挙げていた。

「庭でサツマイモを育てて、子どもと一緒に芋掘りをして、薪ストーブで焼き芋パーティーをしたい」と話していたSさん。近所の子どもたちが嬉しそうに餅やお菓子を抱える姿を見ていたら、Sさんが思い描く以上の、この家での楽しい生活が未来にあるように感じられた。

屋根の棟に祭られているのは、お払いなどに用いる祭具「御幣(ごへい)」(左上)。半紙に包まれた小銭(右上)。ご近所との交流はこの餅まきから始まるのかもしれない(左下)。子どもたちが持参した袋や容器には餅やお菓子がいっぱい!屋根の棟に祭られているのは、お払いなどに用いる祭具「御幣(ごへい)」(左上)。半紙に包まれた小銭(右上)。ご近所との交流はこの餅まきから始まるのかもしれない(左下)。子どもたちが持参した袋や容器には餅やお菓子がいっぱい!

家は何本もの柱が支え合って建っている

餅まきの儀式がつつがなく終わり、職人さんたちの片付けも済んだ頃、親方(小田紀充さん)をつかまえて尋ねてみた。

吹き抜けと薪ストーブの造りは大変でしたか?

「別に大変てことはないよ。ただ、常にやらんことをやるから仕事が1つ複雑になるだけで、できんことじゃない。お客さんの想いがあるから、うちらがその想いを叶えてあげたい。お客さんが木を刻んで造れるんだったら、きっと自分で造ると思う。これだけの家を造ろうっていう人たちだからね。だけどお客さんにはできないから、うちらが手伝いさせてもらっとるんだよね」

いろんな人の想いが1つになって1軒の家ができているんですね。

「そうだねぇ。その想いの中には、木の想いもあるよなぁ」と親方。木は70~80年程で成長が止まるという。50年以上の木なら家造りに使うことができるが、オダ工務店ではほとんど70年以上の木を使っているそうだ。

「80年も100年も立っとる木は、そりゃあいろんなことに遭っとる。80年立っとる木なんて、伊勢湾台風にも遭っとるわけだから、かなり苦労して立っとるんだよ」

すぐ目の前にある、組まれたばかりの木から漂ってくる香りとともに聞く親方の言葉の重みを、文字ではとても伝えきることができない。

「1本の柱じゃ家は建っとらんで、何本かで支え合わな」

技術だけでなく親方の想いが、これから育っていく職人たちに受け継がれることを願っている。

※次回は、漆喰の壁を塗る左官職人の作業現場に密着する予定。


■関連リンク
杉浦溶接『鉄の仕事屋』  http://www.katch.ne.jp/~showsuke/index.html

木を刻み、木を削り、木と人を継いでいる“職人の背中”木を刻み、木を削り、木と人を継いでいる“職人の背中”

2014年 08月06日 11時23分