まちづくりを考えるきっかけと人材育成を目指した取り組み
7月18日(土)、7月19日(日)の2日間、公立中学の生徒が、まちづくりを考えるための面白いワークショップが開催された。
現在、たまプラーザ駅北側地区(横浜市青葉区美しが丘1・2・3丁目)では、次世代郊外まちづくりプロジェクトが進められている。横浜市と東京急行電鉄株式会社(以下、東急電鉄)が主導をし、産・学・官・民の連携・協働でまちづくりに取り組むものだ。
今回のワークショップは、そこから生まれた「地域連携プログラム」の一環。美しが丘中学校の1・2年生が、美しが丘を起点に様々なアートプロジェクトを行う「AOBA+ART」と連携し、たまプラーザのまちづくりに携わってきた多様な年代の方々にインタビューを行うもの。次世代のまちづくりを子供たちに考えてもらうきっかけづくりと、次世代のまちづくりを担う人材育成を目指すのが目的だという。
こうした連携プロジェクトで、公立の学校が民間企業を含めコラボしているのは珍しい。どういったシナジー効果が出るのだろうか? ワークショップを取材してきた。
緯度経度の座標から、人々の街への思いを探る
「街のはなし」は、次世代郊外まちづくりの住民創発プロジェクトの支援により2014年「AOBA+ART」により発刊された。地域の人々の街の「好きな場所」を、緯度経度の座標、インタビューエッセイ、写真の構成でまとめた冊子。谷川恭子氏が取材を行っているワークショップ会場となっていたのは、たまプラーザにある東急電鉄アライエセンター。リビングでは子供たちが車座になってまちの人に話を聞いていた。
子供たちのリードをしてインタビューを進めるのは、アーティストの谷山恭子氏だ。谷山氏は、場所の歴史や特徴を生かした空間的な作品をつくるアーティスト。昨年、「AOBA+ART」と協力し『街のはなし』という冊子をつくった。それは、5歳から80歳代の地域住民11人に話を聞き、それぞれの好きな場所を緯度経度のクロスポイントで炙り出しながら街の記憶を表現するというもの。
「街全体の歴史を学ぶ方法もありますが、個人史のレイヤーを重ねて見ていくことでその街のリアルな歴史が見えてくると思うのです。そこに緯度経度というクロスポイントを入れることで、世界共通の座標ができます。どの緯度と経度にも誰かの記憶がやどっている。自分のクロスポイントはどこなのか? 引き寄せて考えることができるようになると思うのです」(谷山氏)
『街のはなし』自体も次世代郊外まちづくりの住民創発プロジェクトの支援で誕生している。今回のワークショップのインタビュー内容も『街のはなし』第二弾として発表される予定だ。
一方、中学生の子供たちは、夏休みの宿題として1年生が現在の街についてレポートする「わがまち新聞」2年生が街の未来像を考える「明日のわがまち新聞」をつくることが課題となっている。全員参加ではないがこのワークショップに参加した子供たちは、インタビュー内容を新聞づくりに活かすことができる仕掛けだ。
最終的には、未来のまちづくりに向けた発表会を実施
2014年に行われた「美しが丘中学」での発表会の様子。当時の3年生が半年間学習した「次世代まちづくり」について発表したもの。計27班に分かれて、まちづくりのアイデアを1分ずつプレゼンテーションしている
出展:次世代郊外まちづくりHP(http://jisedaikogai.jp/report/26/)実は今回子供たちが参加するこうしたワークショップが実現しているのは、横浜市立美しが丘中学校の鬼木 勝教諭が東急電鉄側に1本の電話を入れたことが始まりだそうだ。
「昔から学校では地域学習に力を入れてきました。ただ、街の話を教員が授業で聞かせたところで面白くありません。地元の方の話の方が断然リアルです。そんなことを思っていた時に、新聞で我が校がモデル地区に含まれる「次世代郊外まちづくり」が動いていることを見つけたのです。すぐに東急さんに電話を入れて、地域学習の一環として、中学生が自分の街を考える取り組みが何かできないか、と相談をさせていただきました」(鬼木教諭)
その後、横浜市と東急電鉄の協力のもと、美しが丘中学では当時の3年生を対象に、まちづくりについての講義や都市デザイン研究の専門家 東京理科大学の伊藤香織准教授による「シビック プライドについて」など、有識者の講義が行われた。
3年生が卒業する3月には、これまでの講義の成果として「自分たちが地域にできることは何か」を提案する発表会を開催。大人顔負けの「高齢化や環境問題への取り組み」「商店街の活性化策」「環境美化方策」などが提案され、資金源の確保など有識者から飛ぶ鋭い質問にも堂々と具体策を答えていたという。
「固定観念にとらわれない子供たちの発想は、目を見張るものがあります。こうした有識者や地域の方々との接点は、子供たちに自分の“まち”を認識させると同時に、想像以上に子供たちには未来を見据え表現する力があることを実感しました」(鬼木教諭)
この時の3年生は、受験も控える中、どうしても準備期間が足りず駆け足での地域学習を行ったというが、現在の1年生、2年生は少し余裕をもって取り組めているという。そのステップとして、今回のインタビューもある。「わがまち新聞」をつくりながら、今後は、まちづくりを考える発表会も行っていく予定だ。
教科書からは学べない、街への思いを育てる
今回、このワークショップで街の歴史を語ってくれたのは8人。たまプラーザの開発時を知る東急電鉄のOBから、商店街の会長、小学校の設計なども手がける建築家、カフェのオーナーや元パイロットのお父さまに、80代のご婦人など職業も年代も幅広い方が集っている。
東急電鉄のOBの方は、それこそブルドーザーで山を切り拓いた時代を知る方だ。どんな思いでこのまちがつくられたのか、それをつぶさに子供たちに伝えたという。ちょうど、取材に訪れた時には、建築家の方がこの街から見える富士見のポイントを子供たちに教えていた。元パイロットの方は現役時代、操縦手順の確認をするのに公園が格好の練習場であったことなどを聞かせていた。
それぞれの思い出の場所を谷川氏がすぐにgoogle Mapから緯度と経度を割り出していく。子供たちからは、「街から富士山を眺める。そんなことをしたことがなかった。実際に見てみるのが楽しみだ」そんな声も聞かれた。後日、子供たちは実際にその場所を訪れてみるのだという。人々の思い出の場所に立ったとき、子供たちは何を思うのだろうか。誰かの思い出を通してみる風景に何を感じ、自分のものとするのだろうか。できることなら子供たちの書いた「わがまち新聞」を見てみたい。
子供たちはまちづくりのパートナー
上段左から、東急電鉄 岡本氏、「AOBA+ART」藤井氏、アーティストの谷川氏、美しが丘中学校 鬼木教諭、住民で元パイロット 藤井氏、「AOBA+ART」山崎氏。その前に座るのは美しが丘中学校の生徒たち次世代郊外まちづくりの企画運営を担当する東急電鉄 岡本洋子氏は、「子供たちもまちづくりを考える一員、大切なパートナー」だと言い切る。
「これまでの“まちづくり”というのは、山を切り開いたり、ニュータウンをつくったりと一から始めることも多くありました。しかし、これからの時代は“既存のまち”をいかに再構築していくかが“まちづくり”になっていくはずです。そしてこれからの時代を担うのは子供たちです。様々な活動をする中で子供たちの意識がとても高いことにも気づかされました。今後も街を大切にする思いを世代から世代につなぎながらプロジェクトを進めていきたいと思います」(岡本氏)
産・学・官・民の連携で進められる「たまプラーザ」の次世代郊外まちづくりプロジェクト。公立中学がこうした企業や民間団体と連携していくのは珍しいが、教育の現場としても、まちづくりの現場としても、双方にメリットのあるものだろう。今後こうした取り組みは広がっていってほしい、そう思えるワークショップだった。
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