どこにも所属しない風変わりなまちづくり団体

今回お訪ねした熱田区の観光情報の発信拠点「宮の駅交流サロン」。築90年の古民家で、宮の渡し公園からほど近い場所にある。写真右が宮宿会会長の鈴木さん、左が川口さん今回お訪ねした熱田区の観光情報の発信拠点「宮の駅交流サロン」。築90年の古民家で、宮の渡し公園からほど近い場所にある。写真右が宮宿会会長の鈴木さん、左が川口さん

名古屋市熱田区が全国的にどれくらい認知されているかわからないが、約1900年の歴史を誇り、名古屋屈指の観光名所として知られる「熱田神宮」がある熱田区といえば、おわかりいただけると思う。

その熱田区に「あつた宮宿会(みやしゅくかい)」という風変わりなまちづくり団体がある。どう変わっているかというと、完全な有志メンバーによって構成されているという点だ。行政関係の団体でもなければ第三セクターでもなく、商店街でもなければ、現役を引退した世代による奉仕団体でもない。まちづくりや地域おこしのために何かしたい! という志を持つ30~40代の働き盛りの人たちによって構成されている会なのである。

本題に入る前に、あつた宮宿会の基本情報を紹介しておこう。

【設  立】2014年4月21日
【会  長】(2015年4月現在)鈴木淑久 氏(あつた蓬莱軒代表取締役社長)
【メンバー】(2015年4月現在)〈会員〉約40名、〈宮宿会をもりあげる会〉約20名
【活動組織】歴史文化委員会、未来計画委員会、事業計画委員会、広報委員会、親睦委員会
【活動実績】あったか!あつた魅力発見市(宮の浜市)、各種講演、地域イベントほか

なぜ、あつた宮宿会が結成されたのか、どんな目的でどんな活動をしているのか、発起人であるNPO法人堀川まちネットの川口正秀さんと、現在の会長である鈴木さんに話しを伺った。

今までなかった老舗同士の連携

あつた宮宿会結成の発端は2013年10月までさかのぼる。

特定非営利活動法人・歴史の道東海道宿駅会議というNPO法人が、地域活性化を主目的に、年に1回「東海道シンポジウム」という市民主体イベントを開催している。東海道五十七次のいずれかの宿場が毎年持ち回りで開催地になるのだが、2013年の開催地が名古屋市熱田区の宮宿だった。

そのとき世話人を務めたのが川口さんと、熱田区芸能連盟代表の草薙典龍(くさなぎてんりゅう)さん。その二人が、熱田区の老舗名店の若手後継者たちに「イベントを手伝ってほしい」と呼びかけ、彼らがその呼びかけに応じたことが、あつた宮宿会の起源となった。

「東海道シンポジウムが終わったあと、せっかくこうして集まったのだから熱田を元気にする会を作りたいという話になったんです。みんな“熱田は良いところなはずなのに、なぜか活気が足りない……”という思いを抱いていました。でも、何をどうすればいいのかわからなかったんです。だから宮宿会結成の話が出たときは、絶対やろう! とみんなで大いに盛り上がりました」(鈴木さん)

「宮きしめん、あつた蓬莱軒、きよめ餅総本家(菓子)、妙香園、亀屋芳広(菓子)、大矢蒲鉾商店(かまぼこ製造)という老舗名店が一緒に地域振興をするというのは、今までなかったことです。ですから、とても珍しい会であると同時に多くの可能性を秘めた会だと思います」(川口さん)

あつた宮宿会発足記念イベント「熱田のにぎわい知ろ宮(みゃ)~か」の様子。<br />熱田区にキャンパスがある名古屋学院大学の講堂でキックオフシンポジウムが開催されたあつた宮宿会発足記念イベント「熱田のにぎわい知ろ宮(みゃ)~か」の様子。
熱田区にキャンパスがある名古屋学院大学の講堂でキックオフシンポジウムが開催された

結成後初のビッグイベント「宮の浜市」

宮宿会結成から約1年が過ぎ、現在の会員数は結成当初のほぼ倍に増えている。会員の顔ぶれもさまざまで、鈴木さんのように熱田区で長年商売を営んでいる人をはじめ、会社員や大学職員、文化人などのほか、なかには「定例会議」を見学して入会を切望した、名古屋市外に住む会員もいる。

定例会議というのは、宮宿会が月に1回開催している会議のこと。会員は働き盛りの現役世代ばかりなため、会議は仕事が終わった夜に開催しているそうだが、毎回地域おこしについての熱い議論が交わされているという。

定例会議以外にも、会全体でイベントを企画・運営したり、地域や大学などから依頼を受けて会員個々に講演会などを行ったりと、精力的に活動している。なかでも宮宿会の大きな実績となったイベントといえば、2014年11月に熱田区で開催された“あったか!あつた魅力発見市”での「宮の浜市」だ。

魅力発見市は、熱田区内の4エリア(宮の渡し・白鳥庭園・日比野・金山南)でマルシェを同時開催するというイベントで、宮宿会が取り組んだ「宮の浜市」は宮の渡し公園に出店した。

「蓬莱軒さんは特製の豚汁、亀屋芳広さんは特製のおしるこ、きよめ餅さんは妙香園さんとコラボして抹茶入りのきよめ餅を提供しました。普段お店では売っていない、当日しか味わえないメニューを味わえるとお客様に好評でした。老舗が集まってこんなことをするのは珍しいでしょう。互いに刺激し合いながら地域貢献に取り組む、それができてしまうのが宮宿会の魅力ですね」(川口さん)

毎月行われている会員による定例会議。<br />正規会員とは別に「宮宿会を盛り上げる会」というサポート会もあり、300円で誰でもサポートメンバーになれる。<br />盛り上げる会に入会すると、正規会員が催すイベントに参加できる特典がある毎月行われている会員による定例会議。
正規会員とは別に「宮宿会を盛り上げる会」というサポート会もあり、300円で誰でもサポートメンバーになれる。
盛り上げる会に入会すると、正規会員が催すイベントに参加できる特典がある

行政や地域との連携も着々

また、このイベントでは熱田区役所まちづくり推進室との連携も大きな力となった。

「まちづくり推進室の方には循環バスを走らせてもらったり、宮の渡し公園の使用許可を受けるときに相談に乗ってもらったりして、その後のまちづくり活動にもつながる良い関係を築くことができました」(川口さん)

2014年の、あったか!あつた魅力発見市の来場者数は約2万人、「宮の浜市」は2,000人の人出で賑わった。宮宿会が手掛けた初のビッグイベントは大成功を収めたと言っていいだろう。同イベントは2015年も開催する予定で、もちろん宮宿会の宮の浜市も出店する。

また、ほかにも2015年秋に、熱田神宮で朝市のようなイベントを開催する予定だという。将来的には昔ながらの一日参りや十五日参りを復活させたい! という宮宿会メンバーたちの熱い思いがあるようだ。

若さあふれるメンバー構成や、積極的かつ柔軟性に富んだ活動内容が注目を集め、地元のメディアで宮宿会が紹介される機会が増えてきている。それがまた話題を呼び、地域団体や大学などから個々の会員に講演依頼が舞い込むことも多くなっているそうだ。だが、宮宿会の一番の目的は、まちづくりや地域おこしよりも次の世代を育てることだという。

「この会の特長は、活動している主力メンバーが若手でありながら、その若手メンバーたちがすでに次の世代を育てようという感覚を持っていることです。次の世代に結実させてもらうために、今は自分たちが精一杯種をまこう! という思いが伝わり希望を感じます」(川口さん)

2014年の「宮の浜市」の様子。会場となった宮の渡し公園は七里の渡し公園とも言われ、江戸時代に旧東海道・桑名までの海路の船着き場として栄えた場所2014年の「宮の浜市」の様子。会場となった宮の渡し公園は七里の渡し公園とも言われ、江戸時代に旧東海道・桑名までの海路の船着き場として栄えた場所

熱田っ子に熱田をもっと好きになってもらおう!

あつた宮宿会のロゴ。描かれている絵にはそれぞれ意味があるあつた宮宿会のロゴ。描かれている絵にはそれぞれ意味がある

あつた宮宿会結成と同時に会長となった鈴木さんだが、「早めに会長を退いて30代の人にバトンタッチしたほうがいい」と今の思いを語る。そんな鈴木さんに、これから宮宿会でどんな活動をしていきたいか尋ねてみた。

「理想は、宮の浜市のようなイベントを毎月開催することですね。熱田がいつも人で賑わっていてほしいんです。あと、今はまだ夢の段階ですが、熱田に関わる歴史の絵本を作って幼稚園や保育園に配れたらいいな、というようなことも考えています」

次の世代どころか、次の次ぐらいの世代にまで思いを馳せた夢のある構想だ。さらに、地域の外から熱田にやってくる人を想定したプランも思い描く。

「転勤などで熱田に引っ越してきて、長くこの地に住むようになった方もおられると思います。ですから、子供さんは熱田っ子だけど親御さんは熱田をよく知らない、ということもあるかもしれません。熱田をよく知らない方にも熱田に興味を持ってもらえるように、地域のコミュニティ単位で講演を開催したり交流の場を設けたりということも、これから宮宿会で取り組んでいけたらいいですね」

熱田区は名古屋市16区中2番目に面積が小さく、人口や世帯数が名古屋市で最も少ない区である。その一方で、国道19号線や国道1号線といった幹線道路が走り、名古屋の主要鉄道である地下鉄・JR・名鉄がすべて乗り入れ、観光名所として人気の熱田神宮があり、知名度の高い老舗名店も数多い。つまり、いい要素をたくさん持っている区でもあるのだ。

そうした地域資源を生かして、あつた宮宿会がこれからどんな独創性に富んだ活動を展開していくのか、期待を込めて注目し続けていきたい。

【取材協力】
■あつた宮宿会

【関連リンク】
■NPO法人 堀川まちネット
http://horikawamachi.net/



■特定非営利活動法人 歴史の道東海道宿駅会議

http://www.tokaido.or.jp/diary/index.html