まさか…に備えて知っておきたい住まいの財産分与
今回お話をうかがった形部恒税理士。「離婚による財産分与は様々なケースがあり、当人が無自覚のまま納税義務を怠ってしまうこともあります。財産分与をおこなった場合も、分与を受けた場合も、税務相談会等でご自身のケースを税理士に相談をしていただきたいですね」夫婦共有の大切な財産であるはずの住まいが、ある日『離婚協議の重荷』になってしまう・・・
入籍や住まい購入の際には「まさか、自分たちが離婚するとは」夢にも思わないが、数年後、十数年後にその「まさか」が降りかかってくることもある(これは筆者の体験談でもある)。
【マンションが離婚協議の重荷に?!】シリーズ2回目の今回は、離婚によって『住まい』を財産分与する場合の注意点を、形部恒税理士事務所(愛知県名古屋市)の形部税理士に聞いた。
■【マンションが離婚協議の重荷に?!①】弁護士に聞く、離婚トラブル回避の住宅購入術
“一般常識的に考えて妥当な慰謝料”は、すべて『非課税』となるが…
「離婚によって相手方から慰謝料を受けとった場合は、基本的にすべて『非課税』となります。
なぜなら、その慰謝料は相手方から『贈与』を受けたものではなく、夫婦の財産関係の清算や、離婚後の生活保障のための『財産分与請求権』に基づいて、給付を受けたものとみなされるからです」と形部税理士。
ただし、すべてが『非課税』とされるのではなく、一部例外もあるという。
「例えば、分与された慰謝料の額が、婚姻中の夫婦の協力によって得た財産の額、および、その他事情を考慮してもあまりに多すぎる場合は、その“多すぎる部分”に対して『贈与税』が発生します。また、明らかに『贈与税』『相続税』の納税を免れることを目的として離婚をしたと認められる場合には、離婚によって分与された財産すべてに『贈与税』が発生します」(形部税理士談)。
つまり、一般常識的に考えて“あまりにも不可解”な離婚による財産分与については、税務署の調査対象となるようだ。では、分与する財産が『金銭』ではなく『住まい』などの不動産だった場合はどうなるのだろうか?
土地・建物での『財産分与』は要注意、与えた側に『所得税』が発生!
「仮に、夫側に離婚原因があり、妻が慰謝料や子どもの養育費に相当するものとして『住まい』という不動産をもらったとしても、財産分与を受けた妻に対して『贈与税』が課税されることはありません。
ただし、ここで気をつけたいのは、財産分与をおこなった夫に対して『所得税』が発生してしまう点です。
妻に対して支払わなくてはならない『慰謝料』という夫の債務を、『土地・建物』という不動産で代物弁済したと判断されるためで、実際には『住まい』を売却していなくても、税法上では“夫が妻に対して住まいを売却した”とみなされます。財産分与時の土地・建物の時価で『譲渡所得』が発生したと判断されて、その時価に対して『所得税』の支払い義務が発生するのです」(形部税理士談)。
ちなみに、『住まい(居住用財産)』を売却した場合は、所有期間の長短に関係なく譲渡所得から最高3,000万円まで控除が受けられる『居住用財産を譲渡した場合の特別控除の特例』があるのだが、この特例には“売手と買手の関係が、親子や夫婦など特別な間柄でないこと”という適用要件が掲げられている。
もちろん、離婚が成立した後で元夫と元妻の間で売買契約を結べば、この特別控除の特例を受けることができるものの、夫婦間で離婚協議が泥沼化し両者の信頼関係が崩壊している場合には、いくら「離婚した後で家を譲るから・・・」と夫が説得しても、なかなか妻は承諾しないだろう。
※ただし、土地・建物の譲渡を受けた後ですぐに除籍するなど、確実に『離婚による財産分与』として認められる場合は、この特例が受けられる事例もある。
住宅ローン完済後の『所有権の移転登記』にも注意が必要!
「先ほどの事例で、妻に対する慰謝料として『土地・建物』を財産分与した夫に対し『所得税』が発生するとお話しましたが、夫が住宅ローンを継続して払い続けている場合は、事情が少し変わってきます。
住宅ローン継続中は、ローンの借り入れ額よりも対象物件の時価のほうが低い『オーバーローン』となって『譲渡損失』が発生する場合が多いため、『譲渡所得』(『所得税』の支払い義務)は発生しないことが考えられます。さらに、その損失を翌年以降に繰り越す場合や、マイホームを買い替えた場合など、一定の要件に当てはまる場合には、他の所得から控除することができるなどの特例があります。但し、いずれにしても『確定申告』の必要があります」と形部税理士。
また、夫が住宅ローンを支払い続ける場合は、妻側にも注意が必要だ。
前回の【マンションが離婚協議の重荷に?!①】でもご紹介したとおり、継続中の住宅ローンの債務者が夫となっている場合には、いくら離婚協議で妻が『住まい』の財産分与を受ける約束をしていても、該当する物件の『所有権』を譲り受けることは、手続き上難しくなる。
離婚から数年が経ったあと、住宅ローン完済後に晴れて『所有権の移転登記』をおこなうことができるようになるが、その際、税務署に対して『所有権の移転理由=離婚による財産分与であること』を明確に説明できないと、元夫から土地・建物の贈与を受けたとみなされ、妻に『贈与税』の支払い義務が発生する可能性があるという。
「悪意のない事例であればまず認められるとは思いますが、万一のために財産分与について記載した『公正証書』を作成しておくと、税務署に対しての証拠書類となるため安心です」(形部税理士談)。
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こうして専門家の話を聞いてみると、“やっぱり離婚は面倒くさいことばかり”という結論になってしまうのだが、次回【マンションが離婚協議の重荷に?!③】では、さらにややこしそうな『不動産の所有権移転登記』についてレポートする。
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