年間入園者数300万人から165万人に。いま再び回復しているわけは?

愛知県名古屋市にある「星ヶ丘の街づくり」について前回、【名古屋の“住みたい街”ランキング上位の「星ヶ丘」はどんな街?星が丘テラスを手がかりに探ってみた】の記事で取り上げたが、星が丘テラスだけでなく同じ地区にある東山動植物園でも、地域活性化の取り組みが行われている。

星が丘テラスから300mほど南に行くと「東山動植物園」の星が丘門がある。東山動植物園は、名古屋市千種区の都市公園・東山公園内にある市営動植物園。1937年3月に開園し、今年(2014年)で78年目という長い歴史を持つ、名古屋市民はじめ中部圏に住む人々にとってなじみ深い憩いの場だ。

同園のここ数年の入園者数を見ると、次のようになっている。

2005年度[約165万人] 2006年度[約202万人] 2007年度[約231万人]
2008年度[約220万人] 2009年度[約228万人] 2010年度[約218万人]
2011年度[約202万人] 2012年度[約207万人] 2013年度[約222万人]

これ以前の1960年代後半には年間300万人を超える人が訪れていたが、2005年度には最盛期の約半数にまで落ち込んでいる。名古屋市有数のレジャー施設だけに入園者数の減少は、まちのにぎわいにも少なからず影響を与えただろうと想像する。

だが、2006年度には落ち込みが回復し、その後は大きく変動することなく毎年一定の入園者数を保っている。この回復の背景には、2010年より実施している「東山動植物園再生プラン」が大きく関係していると思われる。その取り組みについて名古屋市緑政土木局 東山総合公園の鈴木さんと瀬戸さんに話を伺った。

※東山再生プランについて(名古屋市ホームページ内)
http://www.city.nagoya.jp/shisei/category/53-3-12-0-0-0-0-0-0-0.html

名古屋市緑政土木局 東山総合公園 再生整備課 再生整備係長 鈴木昌哉さん(左)と管理課 業務係 瀬戸耕二さん(右)。      部署の違うお二人だが話し中は息がぴったり合っていた。職員同士の連携の良さも取り組みの効果だろうか名古屋市緑政土木局 東山総合公園 再生整備課 再生整備係長 鈴木昌哉さん(左)と管理課 業務係 瀬戸耕二さん(右)。      部署の違うお二人だが話し中は息がぴったり合っていた。職員同士の連携の良さも取り組みの効果だろうか

森づくりとまちの活性化をめざす「東山動植物園再生プラン」

まず、東山動植物園の再生プランとはどういったものなのだろうか?

「東山動植物園再生プランは、2006年にできた東山再生プランの“基本構想”をもとに“新基本計画”として策定したもので、2010年5月から長期プロジェクトとして実施しています。再生プランの目的は“なごや東山の森”を生かした動植物園の運営と、まちの活性化。東山動植物園を中心に平和公園や東山公園など約400ヘクタールの“東山の森”が広がっており、開園100周年にあたる2036年を目指して、動植物園の再生を軸に森づくり・まちづくりを進めているところです」(鈴木さん)

基本構想をもとにできた同プラン。千種区東部に広がる約400ヘクタールの東山の森を生かし、地域グループや市民それぞれが“再生”に向けた活動を行っている。動植物園では“地域連携”をしつつ「レクリエーション」「環境教育」「種の保存」「調査・研究」という4つの社会的役割からまちづくり・森づくりに関与しているという。

具体的に言うと、たとえば、4つの役割の中の1つである「環境教育」という点では、環境保全に向けた実践的な行動として、動植物に興味を持ってもらえるような多彩なプログラムを実施している。また、市民参加型の「名古屋メダカ里親プロジェクト」を実施したりして、まちの活性化にも一役買っている。

2013年には広さ3,350m2の新アジアゾウ舎「ゾージアム」がオープンした。園内の展示施設のなかには、ホッキョクグマのエサピッチャーやキリンのツリカゴなど、動物園サポーターや応援募金によって設置された設備も多く見られる2013年には広さ3,350m2の新アジアゾウ舎「ゾージアム」がオープンした。園内の展示施設のなかには、ホッキョクグマのエサピッチャーやキリンのツリカゴなど、動物園サポーターや応援募金によって設置された設備も多く見られる

行政、企業、学校、個人、それぞれの立場でそれぞれができることを

「名古屋メダカ里親プロジェクト」は、市民が里親となって絶滅危惧種の“名古屋メダカ(ニホンメダカ)を1年間育成し繁殖させ、動物園に返還するというもの。今年で開催5回目を迎え、毎年定員を上回る応募があるそうで、市民の環境教育に対する関心の高さがうかがえる。

また同園は、千種区民を中心に結成された“なごや東山の森づくりの会”とパートナーシップを築き、平和公園南側に設置した「里山の家」を拠点に、炭焼き体験や畑作業などの協働活動も行っている。

大学や企業との連携が、同園の課題を解決した事例もある。星が丘門からつながるトンネルをぬけると植物園に入れるのだが、門の存在があまり知られておらず、利用者が少ないという課題を抱えていた。

「その状況を打破すべく、星が丘商店街と地域の大学と当園で4回ほど検討会を行いました。まずはトンネルの改修からということで、学生アイデアコンテストを行って学生さんの提案を取り入れ、工事は地元の建設会社のご厚意で技術提供していただきました。検討会の内容などは東山再生フォーラムを開催し、地域の方々に公表しました」(鈴木さん)

うす暗いと敬遠されていたトンネルは魅力的な空間となり、人の行き来が徐々に増えつつある。こうした1つ1つの取り組みが、まちのにぎわいづくりに貢献していると言っていいだろう。

星が丘門からつながるトンネル内部の夜間の様子。星が丘門入園者数は2011年度 約11万5千人、2012年度 約12万9千人と、増加傾向にある。「地下鉄車内の案内放送に『植物園に行かれる方は次の星ヶ丘でお降りください』のひと言を加えたことも、功を奏しているかもしれません』と瀬戸さん星が丘門からつながるトンネル内部の夜間の様子。星が丘門入園者数は2011年度 約11万5千人、2012年度 約12万9千人と、増加傾向にある。「地下鉄車内の案内放送に『植物園に行かれる方は次の星ヶ丘でお降りください』のひと言を加えたことも、功を奏しているかもしれません』と瀬戸さん

行政に新しい風が吹く? 民間の知恵を取り入れて愛される動植物園に

さまざまな関係者と連携して取り組みを続けるうちに、職員の意識にも変化が生まれているという。

「再生プランを通じて東山ファンを増やしていきたいんです。ファンが増えれば東山動植物園の取り組みに興味を持つ人も増え、新たな連携が生まれ、知恵を貸してくれる人が増える。地域の人と当園が一緒になって良い動植物園、良いまちをつくっていくというのが私たちの理想です。職員も『愛される動植物園』をキャッチフレーズに、気持ちを1つにして地域に根差した動植物園をつくろうと頑張っているんです」(瀬戸さん)

同園では2013年から民間とタイアップしてブランディングも行っており、公式マスコット「ズーボ」や公式ロゴマークを誕生させている。役所にありがちなお堅いイメージとは程遠い、柔軟で遊び心あふれるこうした取り組みの話を聞くと市民はワクワクさせられ、思わず応援したくなってしまう。

「今、動植物を守るということが大変な作業になっています。私たちが努力して守らなければならないんですが、行政だけでできることは限られているので、皆さんの協力が必要なんです。地域の方々と一緒に動植物を守り、地域が誇れる動植物園になることを目指していきたいです」(鈴木さん)

2013年には東山動植物園初の紅葉ライトアップを行い、来場者アンケートでは好評だったとか。森の中の動植物園だけに四季折々の景色を楽しむことができ、年間パスポートを利用して季節ごとに訪れる人もいるという2013年には東山動植物園初の紅葉ライトアップを行い、来場者アンケートでは好評だったとか。森の中の動植物園だけに四季折々の景色を楽しむことができ、年間パスポートを利用して季節ごとに訪れる人もいるという

100年後のまち、100年後の東山動植物園に向かって

入園者数の増加など再生プランの効果を実感しているのでは? とお二人に尋ねると、「ようやく進み始めたという感覚です」との応え。

「スタート当初は施設の整備を重点的に行ってきて、昨年からブランディングなどソフト面の取り組みを始めたので、4年目を迎えてやっと軌道に乗り始めたという感じ。5年目には事業の見直しがあるので、次の5年をどう進めるかが非常に重要だと思います」(鈴木さん)

「入園者数などは客観的な効果として見ますが、それ以上に、新しくなった当園を訪れたお客様が喜んでくださる姿を見たり、嬉しい言葉をいただいたりすることのほうが、より効果を実感できます」(瀬戸さん)

展示施設以外にトイレや休憩所、飲食施設の整備にも力を入れたという。以前訪れたことがあるが、その当時よりも確かに見違えるほどきれいで快適な空間になっている。

「お客様の声に耳を傾け、努力を積み重ねることで、どんどん楽しい施設ができていくのかなと思います。100周年までに再生プランを完了し、次の100年間に東山動植物園が良い施設として残り、このまちが豊かになってくれたらいいですね」(鈴木さん・瀬戸さん)

東山動植物園の森づくり・まちづくり活動は、100年先の未来に希望を感じさせてくれる。

取材協力/東山動植物園
http://www.higashiyama.city.nagoya.jp/

東山動植物園の正門前。周辺には緑が広がっており、まさに“まちなかの憩いの森”。将来、リニア新幹線が開通すれば、上野動物園と東山動植物園の日帰り観光を楽しめるようになるかもしれない東山動植物園の正門前。周辺には緑が広がっており、まさに“まちなかの憩いの森”。将来、リニア新幹線が開通すれば、上野動物園と東山動植物園の日帰り観光を楽しめるようになるかもしれない