藁(わら)の家造りのもう一つの魅力とは
海外では「ストローベイル・ハウス」と呼ばれている「藁(わら)の家」。建物の主たる部分は、木と藁と土で出来ているこの住宅を、スローデザイン研究会・代表の大岩剛一氏が日本で研究と設計活動をはじめて十数年、じわりじわりとその存在感を示しはじめている。
木と藁と土という自然素材で覆われ、いつかは大地に還すことができる住宅が、自然派思考のユーザーに支持されている。
ただ、この藁の家の魅力は単に環境に優しいということだけではない。注目すべき理由がもう一つある。
それは、建てようとしている自分の家の一部を「ワークショップ」で造るということだ。【ストローベイル・ハウス①】で紹介したように、木材で柱や梁といった家の躯体部分を組み立て、外周壁に沿って藁のブロックを積み上げ、その表面に土を塗り込み約60cmの厚みをもつ壁に仕上げていく。この藁を積み上げ、土を塗るという工程のほとんどを、ワークショップで集まったボランティアの素人集団が行うのだ。もちろん土壁の調合や最後の壁の仕上げはプロが対応するが、それ以外は専門家の指導のもとワークショップで施工する。いわゆる、プロと素人の共同作業なのだ。
近年、このワークショップの取り組みに賛同する人から「藁の家を建てたい」「藁の家造りのワークショップに参加したい」という問合せが増えているという。
その日、初めて顔を合わすメンバーが家を造る
このワークショップは施主が小規模の事務局をつくり、施主の家族、親戚はもちろん、友人、知人、近所の方々への呼びかけや、近くの店舗にビラを置かせてもらったり、インターネットで告知するなどの方法で、率先して参加者を募り実施する。
藁のブロックを積み上げ、土を塗り込むための期間は、建物の規模にもよるが数日間から数週間設けられており、参加希望者は、どの日に参加したいのか事前に申込みをする。ワークショップへの参加は、数時間だけでも、1日だけでも、期間中すべて参加でも構わない、大人から子どもまでの参加が可能だ。
要するに、藁の家造りには顔見知りをはじめ、まったく面識の無い人たちも参加するというわけだ。数年前に竣工した個人住宅、滋賀県の「琵琶湖の家」や京都府の「美山の家」では、延べ100~200人ほどが参加した。
わざわざ福岡県から子ども2人を連れて家族で参加した人もいるという。ボランティアだから交通費、宿泊費などはもちろん自前だ。他にも「今日は自分の誕生日なんです。こんな誕生日があってもいいかなと思って」と仙台から女性が1人で参加していたり、単純に「藁と土に触れてみたかったから」という人もいれば、若いカップルがキャーキャーとはしゃぎながら土を塗り込んでいたりする。なかなか溶け込めない若者がいると、周囲が声をかけて「よしっ!藁の壁めがけて、思いっきり泥団子を投げてみろ」と言って一緒に泥団子を投げたりする。
こうして、その日初めて顔を合わせた人々が、一軒の住宅の完成を目指して一緒になって汗を流し、笑い声が絶えないというのだから凄い。
藁の家を建てて実際に住んでいる方に聞いてみた「本当はどうなの?」
2004年に竣工したという京都府の「美山の家」。その施主である青山さんに、現在までの住み心地について聞くことができた。
京都府の美山町は豊かな自然に囲まれた里山ということもあり、自然に優しい住宅にしたかったという青山夫妻。エコに関するたくさんの住宅情報を集め見学していたという。そのとき、ストローベイル・ハウスを見つけ「これだ!」と直感。湿気が溜まりやすい地域なので、一般的な住宅では無理だと考えていた。そのため調湿性や断熱効果に優れた藁の家は魅力だったのだ。
実際、その効果は想像以上だという。大岩氏も言っていたように、この住宅にはエアコンは無く、薪ストーブがあるだけだ。酷暑が続いた2013年の夏でさえエアコンのない環境で快適に暮らせた。この住宅が最もその威力を発揮するのは、氷点下まで気温が下がり一晩で40〜50cmも雪が積もる冬だという。朝食の支度を済ませてから薪ストーブを入れても充分間に合うほど暖かく、リビング、主寝室、キッチンなどの住空間が、このストーブ1台で暖まる。火を落としても蓄熱性があるためしばらくは冷めない。また、今まで感じていた湿気による住環境の不快さもほぼ解消され、住みやすくなったという。
「結(ゆい)」という古き良き時代の文化が蘇るワークショップ
プロの指導があるとはいえ、ワークショップで素人が自分達の念願のマイホームを造ることに抵抗はなかったのだろうか?そのことについても青山さんに伺ってみた。
大岩氏にストローベイル・ハウスの建築について相談をしたとき、その説明を聞いて「おもしろそう!」と思ったそうだ。「ワークショップの参加者を募るのは、思ったより大変でしたが、やって良かったと思います。人の家なのにみんな一生懸命作業をしてくれて、熱心な方ばかりで予定していた日数より早く作業を終えることができたんです。若い方が頑張って作業してくれているのを見て、これからの日本も、まだまだ捨てたもんじゃないと思いました。とても有り難かったですね。今でも参加してくれた方の名前はメモして保管してあるんですよ。それがキッカケで交流が生まれた方もいますし、手紙をもらったり数年ぶりに『その後、家がどうなったかなと思って』と言って、ふらっと遊びに来てくれる方がいたりして、あれから何年も経つのに嬉しいですよね。家造りがこんなにも人とのつながりを深めるものだとは、思っていませんでした」と話す。
京都府の美山町あたりでは、かつて住民同士で色んなことを協力し助け合って生活する「結(ゆい)」と呼ばれる文化があった。田畑の作物の収穫時期や家造りでさえも、手があいている人がいれば手伝いに行ったとか。そんな結の文化もすっかり姿を消した今、近所の方々にワークショップへの呼びかけをした際、「懐かしいことしてるね、昔はみんなこうして手伝ったんだよ」と言われたそうだ。
家に対する価値観を変えた「ストローベイル・ハウス」
青山さんは、家造りにここまで関われると思っていなかったと話す。一般的な住宅は間取りの相談ぐらいで、あとは完成を待つだけになり、自分たちが家造りに関わることは無い。そのため完成してしまうと壁の中がどうなっているのか、どんな素材を使っているのかといったことが分かりづらい。でも、このストローベイル・ハウスは使っている素材も自然のもので健康にも良いし、どのように建てられたのかを自分の目で見て確認できている。家のことで分からないことがなく、自分でメンテナンスをすることもできる。ワークショップを含め、この家造りを通じて、家に対する価値観が変わったと話す。
「家は本来長い時間をかけ、自然や地域から多くのものを学んで、親から子、孫の代へと受け継ぎながらゆっくりかたちづくっていく場でした。住が衣・食と並ぶ文化の柱と言われるのは、住まいとの関わりの中で培われた、この暮らしのかたち、暮らしの知恵のためなんです」と大岩氏は語る。
「ところが今や住宅はお金を出して買うものといった感覚が当たり前になって、計画、着工から完成、修繕まですべて専門家まかせ。家を建てたい人は専門家にイメージを伝え、お金さえ払えば住宅という商品を手に入れることができる。家が単なる消費の対象になって、家と家族の結びつきも希薄になっているんですよね」と嘆いていた。
そして最後に「藁の家造りには、家とは、住とは何かという問いに対する答えがあるような気がするんですよ。建て主と参加者がこの体験で得たものは計り知れません。さまざまな意識をもって集まってきた人たちと一緒に素材に触れ、汗を流す。共同作業の楽しさ、喜びを知った時、大人も子供も目の色が変わります。藁の家のワークショップは、人と人のつながりを生み、できたものへの愛着を育み、もの造りの喜びを知る上で大きな意味があるんです」と話してくれた。
取材協力:スローデザイン研究会
http://www.slowdesign.net/





